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第一部
27 僕も菱田さん
しおりを挟む「どうした桂斗? 顔が赤いぞ?」
「……だって、菱田さんは僕を好きだから、キスしたくてお礼にベロチューしてくれって言ったんでしょ? ……それって特別に僕が好きってことだよね? 違うの?」
「……違わないな」
「えへへ、うれしい」
「うっ、こんにゃろっ!」
菱田さんが僕をぎゅっと抱きしめた。僕も腕を伸ばしてぎゅっとした。
僕の体にまた菱田さんの硬いのが当たった。
前に好きな人と一緒にいるとそうなると菱田さんが言ってた。
ここがこうなるのは菱田さんが僕と一緒にいるからなんだと思った。
菱田さんを布団の中から見上げると顔が真っ赤になっていた。
「こ、これはっ、そのっ、……」
「僕の事が好きだからなるんでしょ?」
「そ、……そうだけど、暫くしたら収まるから」
「うん」
僕がまたぎゅっとすると菱田さんは困った顔をした。
「あんまりくっつかれると収まらない、桂斗」
「あ、ごめんなさい」
「……新しい家には桂斗の部屋もあるから、こんな風に俺と寝なくてもいい」
「えっ、僕、菱田さんと一緒がいいなぁ。凄く落ち着くんだもん」
「……!! もう寝よう、桂斗」
「うん、おやすみなさい菱田さん」
「おやすみ」
僕と菱田さんはくっついて寝た。
それから3週間、僕は菱田さんと暮らした。
日中は獣医として仕事をして、夕方の5時には病院を閉めて二人の時間を過ごしてくれた。僕は菱田さんにひらがなや足し算を教えて貰った。
夜寝るときには絵本を読んでくれた。
絵本の中では、僕はハッピーエンドになる物語が好きだ。
だからそういうのを選んで読んで貰ってる。
『そして二人は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし』で終わる話。
僕と菱田さんもそういう風に終わりたい。
僕がうとうとすると菱田さんは絵本を閉じた。
そしてぎゅっと僕を抱きしめて寝る。
僕の体はすっぽりと菱田さんの胸の中に収まる。
菱田さんの心臓の音も聞こえて、僕の心臓の音と重なり合う。
それが妙に落ち着いて、心が安らいだ。
でも、こんな幸せ、いつまで続くんだろう?
誰かが僕の幸せを壊しに来るんじゃないかと、夜中に目覚める時がある。
今が幸せであればあるほど、その恐怖は大きい。
今まで幸せだと感じた事が無かったから、それを失うことが怖いなんて思ってもみなかった。
明日は引越しの日だった。
菱田さんがダイニングテーブルで僕に大事な話しがあると真面目な顔で言った。
「何ですか? 大事な話しって?」
「4人で暮らすって言っただろ? ちなみに書類上は、俺はもう桂斗の父親になってる。でだな……」
「はい?」
「俺の事はお父さんと呼びなさい」
「えっ……」
「俺だって『お父さん』だなんて呼ばれたく無いんだよ、だけど、世間体があるからお父さんて呼ばれないとまずいんだ。『菱田さん』じゃな……」
「菱田さんはお父さんじゃないのに……」
「人前でだけ『お父さん』て呼んでくれればいい。二人の時は『遼』って呼んでくれ。いつまでも菱田さんはおかしいだろ? 桂斗だってもう菱田桂斗なんだから」
「あ、そっか」
僕ももう菱田さんだった。言われるまで気がついてなかった。
「でも、僕が遼って名前呼び捨てにしてもいいの?」
「桂斗にだから呼ばれたいんだよ。ほら、呼んでみ?」
「えっ、……りょ、……遼?」
僕が遼の名前を呼ぶと凄く機嫌の良さそうな顔になった。
そして、身を乗り出して、ぺろっと僕の唇を舐めた。
「やっぱ、桂斗に名前で呼ばれるのは嬉しい」
「……こっちに頭出して」
テーブルを挟んで対面で座ってた遼が、僕に向かって頭を垂れる。
僕はその頭を撫でた。
「よしよし」
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