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第一部
16 年が明けた
しおりを挟む年末は菱田さんがずっと僕のうちにいた。
お母さんはかきいれ時だからと行って、夜のお仕事を頑張っていた。
菱田さんは病院はお休みと言っていたけど、たまにいとこの白木さんの仕事も手伝ってて、それで夜中に出かけることもあった。
菱田さんのいとこの白木さんは『ヤクザ』という職業の人らしい。
お母さんがそれを聞いて驚いてた。ヤクザって何だろう?
菱田さんは病院はお休みにして僕の家にいたけど、お母さんは仕事だったから夜はいなかった。
お姉ちゃんがお風呂に入ると内緒の話も出来る。
僕は菱田さんに聞いた。
「本当にお母さんと結婚するの? 女の人は嫌いなのに?」
菱田さんが胡坐を掻いてて僕に手を伸ばしたから、その膝に勝手に乗った。
「お前に言っても分からないかも知れないけどさ、俺、桂斗と一緒にいたいんだ」
「……えっ?」
「だけど、子供のお前と赤の他人の俺が一緒にいられるわけないだろ?」
「……うん」
「手っ取り早く親父になっちまった方が良いって考えた。そしたら伯父さんからもお前の事守れるし」
「……何でそんなに菱田さんは僕のことを気に掛けてくれるの?」
僕が後ろを向いて菱田さんを見上げると、菱田さんの顔が微妙に赤くなっていた。
「はぁ~、お前がせめて中学生くらいだったらなぁ……」
「えっ?」
「いや、いいんだ、こっちの話。俺はお前のにっこで、お前は俺のご主人様なんだから、ご主人様の事を気に掛けて何が悪い? きっとにっこも気に掛けてるさ。今も生きてたら、きっとあのクソな伯父さんから桂斗を守ろうとしてるはずだ」
「そっか」
僕はぐるっと体の向きを変えて菱田さんにぺったり抱きついた。
「どうした? 甘えたくなったか?」
「うん」
「よしよし」
菱田さんは僕をぎゅっとして背中をぽんぽん叩いてくれた。
年が明けて、菱田さんとお母さんとお姉ちゃんと僕とで神社に初詣に行った。
まるで本当の家族みたいだった。
菱田さんがいるとお母さんもお姉ちゃんも僕に優しい。
僕も菱田さんがいつも近くにいるのが嬉しい。この前も抱っこしてぎゅっとしてくれた。伯父さんみたいに何かするわけじゃない。ぎゅっとしてぽんぽんするだけだ。
それが凄く心地いい。
家に帰ると少しして伯父さん夫婦がまた来た。
新年の挨拶に来たと言うから、お母さんも家に上げないわけにはいかない。
「明けましておめでとう」
伯父さんと伯母さんが言って僕達も言った。
「「「「明けましておめでとうございます」」」」
伯父さんはさっそくお年玉をお姉ちゃんと僕にくれた。
僕のには5千円が入ってた。紙のお金は大金だ。僕はすぐにお母さんに渡した。
「桂斗、それはお前が貰ったんだから、お前の金だぞ? いらないなら貯金しろ」
菱田さんがそう言ってお母さんからそのお金を取って僕に渡した。
お母さんには代わりにほっぺにキスをしていた。
こんなに一杯貰っても使い道が無いから、菱田さんの言った通り貯金しよう。
お姉ちゃんには1万円が入ってた。それでスマホを買うって騒いでた。
そして、伯父さんはまた僕に泊まりにおいでと誘った。
そんな伯父さんを菱田さんは睨んだ。
菱田さんの話によれば、伯父さんがぼくにいたずらしてるのは、菱田さんにはもうばれてる。なのにそうやって言って来てるから、菱田さんも呆れてる。
「桂斗がダメだったら、咲姫が来ないか? スマホは1万じゃ買えないぞ? 来るなら月々の支払いもしてやるぞ?」
「兄さん、それは悪いわ?」
「うちは子供もいないし、金も掛からないから全然問題無いさ。どうだ? 咲姫」
「う~ん……じゃあ、行く~」
「わ~咲姫ちゃんが来てくれるなんて、伯母さん嬉しいなぁ! じゃ、行こ行こ」
「お姉ちゃん……」
お姉ちゃんはあっさりスマホの使用料金に釣られて、伯父さんの家に行ってしまった。
その後、菱田さんとお母さんはお酒を飲んで、お母さんが先に寝た後、玄関のドアを叩く音で目覚めた。
「おい! 遼!」
この声は白木さんだ。どうしたんだろう。
僕は起きて玄関のドアを開けた。
「遼は?」
「呼んでくるから、ちょっとお待ちください」
僕はお母さんの部屋に入る時、緊張した。前に二人で裸で何かやっているのを見た時、見ちゃいけない物を見たような気がして、また二人とも裸だったら厭だなと思ったからだ。
でも、白木さんも来てるし、早く菱田さんを呼ばないと。僕は襖の端の木の部分をノックした。
「菱田さん、白木さんが呼んでるよ」
そう言いながら襖を開けた。菱田さんの隣でお母さんはぐっすり眠ってて、菱田さんは僕の声で起きた。
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