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第一部
10 生死
しおりを挟む一昨日までは天気が良かったのに、今日は大雪だった。
昨日と今日とで一気に雪が30センチも積もった。
僕が家の前の雪かきして家に入ると、お母さんが苛立っていた。
お姉ちゃんが珍しくお母さんにぶたれて泣いていた。
「どうしたの? お母さん」
「咲姫が面倒なことばっかり言うから」
「スマホ買ってって言っただけだもん! 友達は皆持ってるのに、私だけ持ってないんだよ!? お母さんが買ってくれないなら、私伯父さんが言ってた人の養女になる!」
「あんたって子はっ!!」
お母さんは怒ってお姉ちゃんをぶったり、蹴ったりした。
「わぁあああああんっ!!」
「うるせぇええええ! 黙れ黙れ黙れぇええっ!!」
お母さんがキレてグラスを投げつけて、それが壁に当たってパリンと割れた。
「お前らもう勝手にしろっ!」
お母さんはさんざん部屋の物をあちこち放り投げて自分の部屋に篭ってしまった。
たぶん寝てるんだろう。お母さんはいつも激しく怒ったあとは疲れて寝てる。
お姉ちゃんはまだ怒ってた。
「私、伯父さんに電話掛ける。養女にしたいって言ってた人と会ってみる」
「それはダメだよ! 止めたほうがいいよ!」
僕は家の電話から、伯父さんちに電話しようとしたお姉ちゃんを止めた。
お姉ちゃんは伯父さんと伯母さんがお姉ちゃんを500万円で売ろうとしてる事を知らない。
「何であんた、私の邪魔すんのよ!? そんなに私がお金持ちの子になるのが厭なの!? お姉ちゃんの幸せを願うのが普通でしょ!? あんた最低だよ!」
「今電話しても伯父さんは来れないよ。外を見て? また雪、降ってきたから。こんな雪の中、車を運転するのは大変だよ。事故っちゃうかも知れない」
「本当だ。凄い雪……これじゃあ無理かぁ」
僕はお母さんが割ったグラスを箒で片付けたあと掃除機で吸った。たぶんこれで大丈夫だと思うけど、一応靴下を履くことにした。
他にもお母さんが投げ散らかした物を元の位置に戻した。
お姉ちゃんは伯父さんに連絡するのを諦めたみたいで自分の部屋で宿題をすると行ってしまった。
居間にはにっこが籠で寝てて、お昼のお薬をあげるのを忘れてた。
「にっこ~ごめん、お薬上げるの忘れてたね」
「……」
いつもはにゃ~って言うのににっこは返事をしなかった。
「……にっこ?」
にっこの返事は無くて、触ってみた。温かい。生きてる。
だけど、死にそうだった。
どうしよう!? 僕は慌てて上着を着て、にっこをハーフケットでぐるぐる巻きにして抱っこした。長靴を履いて菱田さんの所に駆け込んだ。
病院の玄関のドアが開いてない。僕は叫んだ。
「菱田さん! 開けて! お願い! 助けて!」
凄い勢いで玄関のドアが開いた。
「入れ! 急げ!」
菱田さんは僕からにっこを取り上げるように抱きかかえると、すぐに診察室に入った。
僕も追って診察室に入った。
ぐったりしてるにっこに聴診器を当てたあと、にっこの目を開いて見た。
そして僕に言った。
「もう、……ダメだ」
「えっ!? ……嘘っ!? やっと最近元気になってきたと思ってたのに……そんな」
「ここんとこ冷え込んだし、肺炎がぶり返したっぽい」
菱田さんは体温計を持って来てワセリンを塗ったあと、にっこのお尻の穴に入れた。
「えっ!? そんな所に入れるの!?」
「猫の体温はここで測ると正しく測れる。耳とか別の所でも測れるけどな」
ピーと音が鳴って体温計を引き抜いた。
「やっぱ熱あるな……。桂斗、どうする? にっこを最後まで病気と戦わせるか? それとも安楽死させるか? 考えろ、お前が御主人様なんだから」
「そんな……にっこを死なせるなんて出来ないよ……」
「じゃあ、最後まで病気と戦わせるでいいんだな?」
僕はにっこを見た。凄く苦しそうだ。意識もあるのかどうかも分からない。
「にっこはいつまでこんな感じなの?」
「おい、それはいつ死ぬのか聞いてるのと一緒だぞ? 動物は生きてる限り生きる。誰にも殺されなけりゃな。苦しくても最後まで病気と闘って死ぬ。普通はそうだ。安楽死なんてのは人間のエゴだ。だが、楽に死ねる。苦しまなくていい。要は自然に任せるか、人間の手で死なせるかだ」
「僕には決めれないよ……」
「しっかりしろ! お前が飼い主なんだぞ!? お前の方針で俺の治療が変わるんだ! 男ならさっさと決めろ!」
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