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第一部
5 にっこの入院
しおりを挟む季節は過ぎて12月になった。
またいつもの如く週末に伯父さんの家に泊まりに行って、日曜日の夜に帰ってくるとにっこの様子がおかしかった。
元気が無くて、ずっと寝たきりでご飯を上げても食べない。
ご飯が食べられないならお水だけでも……と思ってスプーンで掬って口の中に少しずつ垂らした。ちゃんと舐めてた。
「お母さん、にっこの様子が変なんだけど……」
「具合悪そうね?」
「病気だと思う。明日病院に連れてっていい?」
「そんなお金無いわよ。猫を病院で診てもらうなんて、いくら掛かると思ってんのよ」
「……」
その夜、僕はにっこの事が心配で心配で堪らなかった。
朝になるとまたお母さんに言った。
「お母さん、にっこ病院に連れて行きたい」
「だから……昨日も言ったでしょ? お金が無いって! 何度もしつこいわよ!」
「僕の貯金箱に入ってるお金で診てもらう、だから、にっこは連れて行くから」
「そんなはした金で診てくれる訳無いでしょ!? 勝手にしなさい!」
お母さんは近くにあったボックスティッシュを僕に投げつけた。
それは僕の額の左に当たって、ちょっと切れて血が出た。
痛かったけど、それより早くにっこを助けたかった。
僕はにっこを抱いて菱田さんの病院に行った。菱田動物病院に入るのは初めてだった。
月曜は定休日だった。玄関に定休日の札が掛かってたけど、僕がドアを開けると開いた。
「すいません! 菱田さんいますか?」
「ん~? 桂斗?」
受付の奥から菱田さんが来た。
「菱田さん、にっこが病気で……お願い、助けて!」
「ってか、お前額、血出てるぞ……」
「僕は平気、でもにっこが……」
「金はあんのか?」
「これ……」
僕は持って来た小さいあひるの貯金箱を菱田さんにあげた。
「500円くらいしか貯まってないけど……」
「そんなはした金で足りるわけないだろうが!」
「でも、お母さんにはお金出して貰えなくて……お願い! にっこを助けて! 何でもするから!」
「ほ~、何でもするのか。じゃあ、治療が終わったらお礼をちょっと貰おうか」
「お礼?」
「ああ、お礼。たいしたことじゃない」
「僕に出来る事?」
「ああ、お前にしか出来ないな」
「分かった。だから……にっこを助けて」
「そこで待ってろ」
菱田さんはにっこを連れて診察室に行った。僕は心配だったけど、そこで待ってろと言われたし、待つことにした。
1時間位して菱田さんが出て来た。にっこはいない。
「レントゲンで見たら肺炎だった。一応血採ったから検査するけど、取り敢えず入院だな。食事も取れてないみたいだったし、今点滴させてる。見るか?」
「はい」
にっこはベットの上に置かれた籐製の籠に丸くなって寝ていて、上に点滴のパックがぶら下がってて、にっこの首にチューブが繋がっていた。
「こんな風にされて、暴れなかったんですか?」
「ぐったりしてて暴れる元気もねぇよ」
「そっか……」
「入院させるぞ? 一週間ほど様子見ないと、かなり調子悪そうだからな」
「……死なない? 大丈夫?」
「今の所半々か。飯食ってなかったから体力がねぇんだよ。点滴打ったから多少は良くなると思うが……それから薬やって様子みるしかない」
「お願い、助けて……菱田さん」
「じゃあ、お礼を頂きますか?」
菱田さんは診察室の自分の椅子に座った。
僕を連れてって目の前に立たせると両手で顔を包んで、僕の唇に自分の唇を当てた。
「菱田さん、これがお礼になるの?」
「え?」
「菱田さんも伯父さんと同じ事するんだね。でも、伯父さんとする時は舌が入って来てたけど……」
「おい、桂斗、伯父さんに他に何やられた?」
「……言っちゃだめって言われてる。他の大人には秘密だって……」
「誰にも言わないから、約束する。だから言え」
「でも……」
「伯父さんのことを言ったら、それで終わりにしてやる。金を貰う代わりに色々やって貰おうと思ってたがな」
「……本当に誰にも言わない?」
「ああ」
「伯父さんのおちんちん舐めさせられたり、僕の体舐めたり」
「尻の穴は弄られてないのか?」
「今までは舐めるだけで弄られなかったけど、昨日指を一本入れられた」
「……もう伯父さんの所に行くのは止めろ」
「……僕が断ったらお母さんの機嫌が悪くなりそうで怖いよ……」
「それでも断れ」
「分かった……次、ちゃんと言ってみる」
唇を当てた後は、伯父さんの事を話すだけで、菱田さんは僕に何もしなかった。
お金の代わりに伯父さんの事を話せってどういう意味だったんだろう?
伯父さんに誰にも話すなと言われてたことを話してしまって、少し罪悪感があった。
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