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第一部
2 菱田さん
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月曜日。
お母さんはいつも夜遅くまで仕事をしている。だから朝は寝てる。
小学校3年生のお姉ちゃんは、ご飯にトマトケチャップを掛けて食べた後、自分で髪を二つにわけて縛って学校に行った。
「桂斗も早く保育園に行きな!」
お姉ちゃんに言われたけど、保育園はお弁当が必要だった。
寝ているお母さんの所に行って、起こして言う。
「お母さん、起きて、お弁当無いと保育園に行けない……」
「うるさいわね! こっちは朝まで仕事だってのに! 寝かせなさいよ!」
「お弁当……」
「作るの面倒だから、今日は保育園になんて行かなくていいわよ!」
「……」
僕はお姉ちゃんの真似をして、ご飯にトマトケチャップを掛けて食べた。
その後にっこと遊ぼうと思ったけど、にっこがいない。
また外に出掛けたんだ。
にっこはよく外に散歩しに行く。
僕は家の裏庭を突っ切った所にある公園に行ってみた。にっこはよくここで日向ぼっこをしてる。
でもいたのは白衣を着たおじさんだけだった。ベンチでコーヒーを飲んでいる。
「おい、お前、何でここにいる? 子供はこの時間は幼稚園か保育園の時間だろうが? 親はどうした?」
そのおじさんは髪の後ろの方をゴムで縛っていて、髭がいっぱい生えてて目つきが凄く悪かった。見た目が怖い。
「えっ、お、お母さんは寝てます。お弁当が無くてそれで、今日は行かなくてもいいって……」
「……お前、泉さんとこの子か?」
「……はい。泉桂斗です。6歳です。おじさん、お母さんを知ってるの?」
「近所だからな。ほらそこ、公園の横すぐが俺んち。動物病院やってる」
「先生なんだ? だから白いの着てるんだ?」
「そそ、獣医。泉さんちは女の子二人いたのか、娘一人だと思ってた」
「僕は……女の子じゃないです。男です」
「男!? ……えらい可愛いな……髪、親に染められたのか?」
「そめられたって何?」
僕はおじさんの言ってる意味が分かってなかった。
じっとおじさんを見つめると言った。
「あ……、もしかして、生まれつきなのか」
んん? 生まれつき? 何の事だろ?
おじさんはベンチの隣の席をぽんぽんと叩いた。
「ここに来いや。ジュース買ってやる。オレンジでいいか?」
「いいの?」
「まぁ、近所のよしみ?」
おじさんは、ベンチの後ろにある自動販売機でオレンジジュースを買って僕にくれた。
「……弁当を作って貰った日しか保育園に行ってないのか?」
「お弁当は作って貰った事無いです。ただ、パン買うお金とかくれる。そういう時は保育園に行けるけど、先生達はいい顔しない」
「なんで?」
「僕が買ってきたパンでお昼を済ませると、忙しいお母さん達が真似するからって園長先生が言ってた」
「ああ、なるほど、しかし時代錯誤な保育園だな? 保育園なら働くお母さん達ばかりだろうに、弁当作って来いとか。せめて業者の弁当屋も頼めるようにして、親や子供に選ばせれるようにすればいいのにな?」
「それいいね、僕は毎日お弁当屋さんになりそうだけど……」
「それでも、そうすれば何の気兼ねもせず毎日行けるだろう?」
「うん。……ねぇ、おじさん、何て言うの?」
「俺は菱田遼。まだ28歳でおじさんじゃねぇ。おじさんて呼ぶな」
「じゃあ、何て呼べばいいの?」
「菱田さん、もしくは遼さん」
「じゃあ菱田さんて呼ぶ」
「ああ」
「ぶみゃぁ~~~」
にっこのだみ声が聞こえて、とことこと菱田さんの所に来て、菱田さんの足に自分の体を擦り付けてた。
「にっこ、今日はどこに行ってたの? ちょっと汚れてるよ?」
「どうせ、そこの砂場でごろごろしてたんだろ? こいつお前のとこの猫だったのか。うちによく餌貰いに来てたから野良猫かと思ってた」
「お母さんがちゃんとにっこの餌くれないから……ある時はちゃんと僕が上げてるんだよ?」
「去勢もしてねぇな。まぁ、歯見る限りもう結構な年齢だからな……今からしてもな……」
「去勢って何?」
「子供作れないようにすることさ」
「それすると子供出来ないの?」
「ああ」
「じゃあ何でお母さんは去勢しないんだろう」
「何だ仔猫でも生まれたか?」
「仔猫もだけど、人間も去勢出来たら欲しくない子供なんて……生まれないんでしょ?」
「待て、桂斗何の事言ってる……?」
「僕の猫の事とお母さんの事。お母さんは僕なんか『欲しくなかった』って言ってたから。……仔猫も生まれたけど、殺しちゃった。最初から生まれないように出来るなら、わざわざ殺さなくてもいいのに」
「……そうだな」
菱田さんは凄く苦そうな顔をしてコーヒーを飲んでいた。
お母さんはいつも夜遅くまで仕事をしている。だから朝は寝てる。
小学校3年生のお姉ちゃんは、ご飯にトマトケチャップを掛けて食べた後、自分で髪を二つにわけて縛って学校に行った。
「桂斗も早く保育園に行きな!」
お姉ちゃんに言われたけど、保育園はお弁当が必要だった。
寝ているお母さんの所に行って、起こして言う。
「お母さん、起きて、お弁当無いと保育園に行けない……」
「うるさいわね! こっちは朝まで仕事だってのに! 寝かせなさいよ!」
「お弁当……」
「作るの面倒だから、今日は保育園になんて行かなくていいわよ!」
「……」
僕はお姉ちゃんの真似をして、ご飯にトマトケチャップを掛けて食べた。
その後にっこと遊ぼうと思ったけど、にっこがいない。
また外に出掛けたんだ。
にっこはよく外に散歩しに行く。
僕は家の裏庭を突っ切った所にある公園に行ってみた。にっこはよくここで日向ぼっこをしてる。
でもいたのは白衣を着たおじさんだけだった。ベンチでコーヒーを飲んでいる。
「おい、お前、何でここにいる? 子供はこの時間は幼稚園か保育園の時間だろうが? 親はどうした?」
そのおじさんは髪の後ろの方をゴムで縛っていて、髭がいっぱい生えてて目つきが凄く悪かった。見た目が怖い。
「えっ、お、お母さんは寝てます。お弁当が無くてそれで、今日は行かなくてもいいって……」
「……お前、泉さんとこの子か?」
「……はい。泉桂斗です。6歳です。おじさん、お母さんを知ってるの?」
「近所だからな。ほらそこ、公園の横すぐが俺んち。動物病院やってる」
「先生なんだ? だから白いの着てるんだ?」
「そそ、獣医。泉さんちは女の子二人いたのか、娘一人だと思ってた」
「僕は……女の子じゃないです。男です」
「男!? ……えらい可愛いな……髪、親に染められたのか?」
「そめられたって何?」
僕はおじさんの言ってる意味が分かってなかった。
じっとおじさんを見つめると言った。
「あ……、もしかして、生まれつきなのか」
んん? 生まれつき? 何の事だろ?
おじさんはベンチの隣の席をぽんぽんと叩いた。
「ここに来いや。ジュース買ってやる。オレンジでいいか?」
「いいの?」
「まぁ、近所のよしみ?」
おじさんは、ベンチの後ろにある自動販売機でオレンジジュースを買って僕にくれた。
「……弁当を作って貰った日しか保育園に行ってないのか?」
「お弁当は作って貰った事無いです。ただ、パン買うお金とかくれる。そういう時は保育園に行けるけど、先生達はいい顔しない」
「なんで?」
「僕が買ってきたパンでお昼を済ませると、忙しいお母さん達が真似するからって園長先生が言ってた」
「ああ、なるほど、しかし時代錯誤な保育園だな? 保育園なら働くお母さん達ばかりだろうに、弁当作って来いとか。せめて業者の弁当屋も頼めるようにして、親や子供に選ばせれるようにすればいいのにな?」
「それいいね、僕は毎日お弁当屋さんになりそうだけど……」
「それでも、そうすれば何の気兼ねもせず毎日行けるだろう?」
「うん。……ねぇ、おじさん、何て言うの?」
「俺は菱田遼。まだ28歳でおじさんじゃねぇ。おじさんて呼ぶな」
「じゃあ、何て呼べばいいの?」
「菱田さん、もしくは遼さん」
「じゃあ菱田さんて呼ぶ」
「ああ」
「ぶみゃぁ~~~」
にっこのだみ声が聞こえて、とことこと菱田さんの所に来て、菱田さんの足に自分の体を擦り付けてた。
「にっこ、今日はどこに行ってたの? ちょっと汚れてるよ?」
「どうせ、そこの砂場でごろごろしてたんだろ? こいつお前のとこの猫だったのか。うちによく餌貰いに来てたから野良猫かと思ってた」
「お母さんがちゃんとにっこの餌くれないから……ある時はちゃんと僕が上げてるんだよ?」
「去勢もしてねぇな。まぁ、歯見る限りもう結構な年齢だからな……今からしてもな……」
「去勢って何?」
「子供作れないようにすることさ」
「それすると子供出来ないの?」
「ああ」
「じゃあ何でお母さんは去勢しないんだろう」
「何だ仔猫でも生まれたか?」
「仔猫もだけど、人間も去勢出来たら欲しくない子供なんて……生まれないんでしょ?」
「待て、桂斗何の事言ってる……?」
「僕の猫の事とお母さんの事。お母さんは僕なんか『欲しくなかった』って言ってたから。……仔猫も生まれたけど、殺しちゃった。最初から生まれないように出来るなら、わざわざ殺さなくてもいいのに」
「……そうだな」
菱田さんは凄く苦そうな顔をしてコーヒーを飲んでいた。
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