にっこと僕【R18】

鷹月 檻

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第一部

1 花を枯らす女【残酷描写あり】

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 僕のお母さんは綺麗な花が大好きだ。
だからか、花屋で見た綺麗な花の鉢をよく買ってくる。
だけど、お母さんは面倒臭がりで買った花に水遣りはしない。
水が無ければ花は育たない、どんどん枯れて行く。
そんな感じで、僕の家の出窓には水遣りもされず、枯れた鉢がそのまま放置されてる。その数は大小合わせて10個。

 お母さんはその枯れた花達にもう見向きもしない。
また花屋の店先で見かけた綺麗な鉢植えを買ってくる。
そしてまた枯らす。
だからうちには枯れた鉢が沢山ある。






「まったく! ここは何処だっつ~の!」

 お母さんは農道沿いの空き地に車を止めて地図を広げて見ていた。
僕は車の中で茶色い袋を持って、ただ黙って助手席に座ってた。

「みぃ~、みゃぁああ~。にゃ~」

 茶色い紙袋の中から仔猫の鳴き声が聞こえる。

 お母さんが外に出て、道を確認しに行った。
だから僕も袋を持って外に出た。
もう11月も中頃になると、外に出ると息が白い。

「桂斗! 何であんたまで外に出てくるのよ! 中に入ってな!」

 そう叫ぶお母さん。
僕は車の下に小さな鳥が入って行くのを見た。

「お母さん、車の下に……」
「早く乗りなさい!」

 お母さんは凄く怒ってた。
だから僕は急いで車に乗った。
お母さんが車を動かすと『ピギャッ』という鳥の小さな鳴き声と共に、うずらの卵を潰した様な感触が僕を襲った。

 もしかして、さっき車の下に入った小鳥が死んだのかもしれない。

 僕はそう思った。
お母さんはまた外に出て、車のタイヤを確認してから車に乗った。

「厭になるわ! 鳥轢いちゃったわよ! お陰でタイヤが汚れちゃったわ!」

 鳥を死なせてしまった事よりも、お母さんにはタイヤの汚れの方が大事だったみたいだ。

「鳥なんだから飛んで逃げりゃいいのに! 馬鹿な鳥だったのかしら? あんたと同じで!」
「みゃぁ~、にゃぁあ~」
「ああ、うるさい猫共! 早く捨てに行くわよ!」
「……」

 お母さんは車を動かして川を目指して走った。





 着いた場所は普段来ない町の外れにある大きな橋の上で、下に川が流れている。
車通りが少ない。川までの距離は橋の上から20メートル位とお母さんが言っていた。

「川も広いし深いし、高さもあるし、ここならその子達を落としたらちゃんと死ぬわよ」
「ねぇ、お母さん、本当に仔猫を殺すの? ……やめて? 殺さないで?」

 僕がそう言うと、お母さんはイライラしながら僕に言った。

「あんたがミケとにっこを拾ってこなきゃ、こんな仔猫達だって生まれなかったのよ!? うちは貧乏で、本当ならペットなんて飼う余裕なんて無いんだよ!? でも私は優しいから飼ってあげた。その仔猫を助けたいならその中から1匹選んで全て殺しな! にっこもな?」
「にっこを殺すなんて出来ないよ……」
「じゃあ、そいつらを寄越しなさい!」

 お母さんは僕から仔猫の入った紙袋をひったくるように奪って、欄干からぽいっと、袋ごと投げ捨てた。
か細くて頼りない仔猫の鳴き声が空に響いた。

「にゃぁあ~」

 バシャン!
大きな水しぶきの音がして袋は水中に沈んで行った。僕は欄干の間から仔猫たちを見つめていた。
泳ごうとしても泳げなくて沈んでいく仔猫たち。
そのまま4匹いた仔猫は皆沈んで水面に居なくなった。
あとには茶色い紙袋がぷかぷかと浮かんで、川の流れにゆっくりと流されて行った。
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