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61 照合結果のその後のこと

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 次の日僕は学校を遅刻した。早くエルズバーグさんに叔父さんが使ったグラスを持って行きたかったからだ。新聞社に行ってから学校へ行くと言ったら、弟までついてくると言った。心配だからと言われたけど、単に学校をサボリたいだけじゃ?
もちろん却下した。

「お前はちゃんと学校に行ってろ」





 エルズバーグさんにグラスを渡して学校へ行くと、ビクトルに話しかけられた。

「ルイスが遅刻なんて珍しいね、どうしたの?」
「叔父さんが飲んだグラス、ゲットできたんだ」
「じゃあ……カップとの照合が出来るんだね?」
「うん」
「いつぐらいに結果出るんだ?」
「それがさぁ、調べるスキルを持った人が忙しくて、三月は掛かるらしいんだ」
「意外と時間掛かるんだな?」
「うん」

 ビクトルが不意に言った。

「ねぇ、もし照合結果で叔父さんの唾液がダイアンさんの事件現場のカップのと一緒だって出たらさ、ルイスは叔父さんをどうするの?」
「え? そりゃ、証拠を突きつけて自白させるよ?」
「自白しなかったらは? だって、唾液が一緒だとしても犯人と言える確固たる証拠じゃないよね? それに自白したとしても、そのあとは?」
「……まだそこまで考えて無かった」
「ちゃんと考えた方がいいよ。いくら酷い叔父さんと言っても、血の繋がった身内だし、叔父さんが直接君のお父上を殺したわけじゃないんだから。番所の奴らがきちんと調べ上げなかったから……あんな事になったんだ。僕なら国を相手取って裁定に挑むね」
「……ビクトル、そうだよな、いくら金にだらしなくて悪人と言えど、僕の血の繋がった叔父さんだもんね……ちゃんと考えるよ。アドバイスくれてありがとう」
「うん」

 ビクトルには『ちゃんと考える』とまともな事を言ったけど、僕の心の中は結構冷めてた。ビクトルの『いくら酷いと言っても血の繋がった身内』という考え方は性善説に基づいている。だからか違和感が酷かった。
世の中には本当に善の欠片も心の中に無い奴がいるのを、まだビクトルは知らない。それだけ幸せに生きて来たってことだ。
僕が思うに、叔父さんは善の欠片も心の中に無い人だ。だから人を殺して借金を踏み倒した挙句、それを実の兄のせいにして自分は罪を逃れた。
ダイアンさんを殺したのは、多分僕の調査を邪魔したんだと思うけど、二人殺したあと会っても、後悔した様子なんて全然見えなかった。

 あの人は人を殺す事を何とも思っちゃいない。
そんな人をただ『血が繋がってる』ってだけで許したり、優しくしたりなんか出来るわけない。
まだ叔父さんが犯人て決まったわけじゃないけど……。
でも、もう叔父さん以外の容疑者は全て疑いが消えた。
僕のリストにはおじさんしか残ってなかった。

 言語学の授業が始まって、僕は身が入らなかった。
たとえ唾液が一緒だとしても、それが即証拠にはならないからだ。
そんな事は僕にも分かっていた。





 週末になり、侯爵様の屋敷に行った。

 叔父さんが僕の家に来た時に、僕に侯爵様の何を話すなと言っていたのか聞いたら、『言っちまったら金にならねぇだろうがっ!』とだけしか言わなくて、何も聞けなかった。
侯爵様は一体何のネタで脅されてるんだ?
凄く気になって、閨事が終わってまったりしていたけど、聞いてみることにした。

「ねぇ、フォルカー」
「ん?」
「僕、終春節の時に夜中に喉が渇いて食堂に行ったんだ。……その時にフォルカーと叔父さんが話してるのを聞いた。叔父さんに脅されて、お金を取られてたでしょ? 僕に何かを秘密にしたくて。フォルカーは何を秘密にしてたの? 僕に言ったら、叔父さんからもう脅されても平気じゃない?」

 侯爵様は酷く狼狽えていた。

「そ、それは……」
「僕には……言えない事なの?」
「……今は。でも、いずれ君に言わなければいけない時が来る。……その時は必ず君に言う」
「……分かった。僕はフォルカーの言う事を信じる」
「……」

 黙っていた侯爵様は少し悲しげに見えた。
その表情を見て、僕は言ってはいけない事を言ってしまったんだと理解した。
叔父さんが握っている侯爵様の秘密は、とても重要な事なんじゃないかと思った。

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