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49 突然の別れ

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 やっと5年生になった。
あと1年間で侯爵様との愛人契約も終わる。そう思ったら何だか少し寂しくなった。
セドリックも4年生になり、身長は225センチでストップした。
にしても、でかくなり過ぎて家ではよく頭をぶつけている。
もうちょっと天井の高い所に引っ越そうかどうか悩む所だけど……あんまりお金は使いたくない。セドリックが卒業して就職したら引っ越そうかな?
二人で働けばそこそこの家が買えそうだと思う。この小さな家は誰かに貸し出して賃貸にすれば収入に繋がる。僕はお金を貯めることにした。

 そして5年生になって2日目の授業中に、療養所から学校に通信連絡があった。
母上の病状が思わしくないとのことだった。
僕とセドリックは急いで召喚獣を出して母上の元へ向かった。

 行くのに二日掛かるので、途中で野宿した。南の方なのに、夜は寒かった。
テントも何も張ってない。外で寝るだけの野宿。
僕の隣でセドリックが焚き火を見ていた。

「寝ないの?」
「消えちゃうとモンスターとか来るでしょ?」
「そういう時は太目のでかい木を足しておくんだよ」

 僕は近くにあった拾っておいた太目の薪を、3本ほど火に焼べた。
持って来たブランケットは荷物にならないように薄めのにした。
おかげで寒い。

「セドリック、こっちに来て。お前がいないと寒い」
「……!!」

 弟は僕の隣に来て、自分が持って来た大き目のブランケットを僕にも掛けた。そして自然に腕枕をする。僕はセドリックの胸の中にすっぽり納まっていた。

「凄いお前、どきどきしてる」
「兄さんとくっついてる時はいつもだよ」
「お前あったかい。やっぱ成りはでかくても子供だから、体温高いのか」
「違うと思う……。単に筋肉量が多いからじゃ」
「どうせ、僕は貧弱だよ。筋肉なんてちょっとしかないよ」
「ちょっとと言うか、全然無いよね」

 僕はセドリックを見上げた。薄青い瞳が僕を見て潤んでいる。
何だか泣きそうな顔だ。

「こんなに、近いのに。息が掛かるくらい近いのに……」

 そう言って弟の唇が近くに迫ってきて、その雰囲気に流されそうになった。
僕は弟の唇に指先を当てた。

「ダメだ……」

 今しちゃったら、絶対舌を入れられる。そうしたら、またなし崩し的に爛れた関係になりそうで怖かった。

「うん」

 納得したセドリックの言葉に寂しさを覚えながらも、僕はセドリックの腕枕でその胸に顔を埋めて眠った。





 次の日の昼の刻過ぎくらいに、療養所に着いた。
母上の病室に行くと、母上は眠っていた。苦しさを和らげるために、いつもの睡眠薬を使っていると言われた。もう、ガリガリに細くなっていて、食事も取れないとメイキス先生は言っていた。なのでチューブで口に液体栄養を飲ませていると言われた。なるほど、母上の口に付いてるこのチューブは食事用なのか。
僕は母上の手を握った。何の反応も無い、少し冷えた手。
涙が出そうだった。

 夜にメイキス先生が僕とセドリックが泊まれるように病室を一つ貸してくれた。
セドリックがでかすぎるので、病人用の寝台を3つくっつけて、二人で寝てくれと言われた。寝台3つくっつけてもセドリックの足がちょっとはみ出ていた。

「ははっ」
「兄さん、俺がいるからね? 辛かったら寄っ掛かっていいんだよ?」
「僕は平気だよ。お前みたいな……子供に頼れないよ」
「強がらなくていいから、俺の前でだけは……強がらないで」

 僕は眠った。
夜中看護師さんに叩き起こされた。

「急変です!! お母様が急変です!! 至急病室へ!」

 看護師は慌てた様子で母上の病室に走って行った。僕らもその後を追った。
母上は眠ったままなのに身体が恐ろしいくらいがくんがくんと動いていた。
その様子が恐ろしくて……驚いた。

「どうして? こんなに身体が暴れてるんです!? ……本人は眠っているようなのに!?」
「最後に身体に残っていた魔力が出て行く瞬間だ! 寝台から落ちないように押さえてやってくれ!」

 僕とセドリックは母上を押さえた。瞳を閉じたまま、これから切り裂かれようとする魚の様にビチビチと跳ね動くその身体。僕は見てるのが辛かった。
暫く僕とセドリック、メイキス先生で母上を押さえていると、カクンと母上の身体は布団に沈んだ。
魔力が全て出て行って、母上は静かになった。
それは母上の死を意味していた。

「……ご臨終です。お母様は天国への長い旅路に出られました」

 死の宣告の言葉に僕は膝をついた。母上の手を握りしめて泣いた。
メイキス先生と看護師は病室を出て行った。

「母上……、母上……っ!!」

 叫んでも母上はもう戻っては来ない。分かってるのに涙が止まらなかった。

「何で? ……大事な物がみんな……みんな、僕の手のひらから零れて行く……。何で? 何でなんだよおおおおっ!!」
「兄さん……!!」

 後ろからセドリックに抱きしめられた。
僕が振り向くとセドリックも泣いていた。

「俺がいるから……、俺が兄さんを守るから!!」
「うっ、うううっ、うぁああああああっ!!」

 僕はセドリックの胸の中で、声を上げて慟哭どうこくした。

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