49 / 94
49 突然の別れ
しおりを挟む
やっと5年生になった。
あと1年間で侯爵様との愛人契約も終わる。そう思ったら何だか少し寂しくなった。
セドリックも4年生になり、身長は225センチでストップした。
にしても、でかくなり過ぎて家ではよく頭をぶつけている。
もうちょっと天井の高い所に引っ越そうかどうか悩む所だけど……あんまりお金は使いたくない。セドリックが卒業して就職したら引っ越そうかな?
二人で働けばそこそこの家が買えそうだと思う。この小さな家は誰かに貸し出して賃貸にすれば収入に繋がる。僕はお金を貯めることにした。
そして5年生になって2日目の授業中に、療養所から学校に通信連絡があった。
母上の病状が思わしくないとのことだった。
僕とセドリックは急いで召喚獣を出して母上の元へ向かった。
行くのに二日掛かるので、途中で野宿した。南の方なのに、夜は寒かった。
テントも何も張ってない。外で寝るだけの野宿。
僕の隣でセドリックが焚き火を見ていた。
「寝ないの?」
「消えちゃうとモンスターとか来るでしょ?」
「そういう時は太目のでかい木を足しておくんだよ」
僕は近くにあった拾っておいた太目の薪を、3本ほど火に焼べた。
持って来たブランケットは荷物にならないように薄めのにした。
おかげで寒い。
「セドリック、こっちに来て。お前がいないと寒い」
「……!!」
弟は僕の隣に来て、自分が持って来た大き目のブランケットを僕にも掛けた。そして自然に腕枕をする。僕はセドリックの胸の中にすっぽり納まっていた。
「凄いお前、どきどきしてる」
「兄さんとくっついてる時はいつもだよ」
「お前あったかい。やっぱ成りはでかくても子供だから、体温高いのか」
「違うと思う……。単に筋肉量が多いからじゃ」
「どうせ、僕は貧弱だよ。筋肉なんてちょっとしかないよ」
「ちょっとと言うか、全然無いよね」
僕はセドリックを見上げた。薄青い瞳が僕を見て潤んでいる。
何だか泣きそうな顔だ。
「こんなに、近いのに。息が掛かるくらい近いのに……」
そう言って弟の唇が近くに迫ってきて、その雰囲気に流されそうになった。
僕は弟の唇に指先を当てた。
「ダメだ……」
今しちゃったら、絶対舌を入れられる。そうしたら、またなし崩し的に爛れた関係になりそうで怖かった。
「うん」
納得したセドリックの言葉に寂しさを覚えながらも、僕はセドリックの腕枕でその胸に顔を埋めて眠った。
次の日の昼の刻過ぎくらいに、療養所に着いた。
母上の病室に行くと、母上は眠っていた。苦しさを和らげるために、いつもの睡眠薬を使っていると言われた。もう、ガリガリに細くなっていて、食事も取れないとメイキス先生は言っていた。なのでチューブで口に液体栄養を飲ませていると言われた。なるほど、母上の口に付いてるこのチューブは食事用なのか。
僕は母上の手を握った。何の反応も無い、少し冷えた手。
涙が出そうだった。
夜にメイキス先生が僕とセドリックが泊まれるように病室を一つ貸してくれた。
セドリックがでかすぎるので、病人用の寝台を3つくっつけて、二人で寝てくれと言われた。寝台3つくっつけてもセドリックの足がちょっとはみ出ていた。
「ははっ」
「兄さん、俺がいるからね? 辛かったら寄っ掛かっていいんだよ?」
「僕は平気だよ。お前みたいな……子供に頼れないよ」
「強がらなくていいから、俺の前でだけは……強がらないで」
僕は眠った。
夜中看護師さんに叩き起こされた。
「急変です!! お母様が急変です!! 至急病室へ!」
看護師は慌てた様子で母上の病室に走って行った。僕らもその後を追った。
母上は眠ったままなのに身体が恐ろしいくらいがくんがくんと動いていた。
その様子が恐ろしくて……驚いた。
「どうして? こんなに身体が暴れてるんです!? ……本人は眠っているようなのに!?」
「最後に身体に残っていた魔力が出て行く瞬間だ! 寝台から落ちないように押さえてやってくれ!」
僕とセドリックは母上を押さえた。瞳を閉じたまま、これから切り裂かれようとする魚の様にビチビチと跳ね動くその身体。僕は見てるのが辛かった。
暫く僕とセドリック、メイキス先生で母上を押さえていると、カクンと母上の身体は布団に沈んだ。
魔力が全て出て行って、母上は静かになった。
それは母上の死を意味していた。
「……ご臨終です。お母様は天国への長い旅路に出られました」
死の宣告の言葉に僕は膝をついた。母上の手を握りしめて泣いた。
メイキス先生と看護師は病室を出て行った。
「母上……、母上……っ!!」
叫んでも母上はもう戻っては来ない。分かってるのに涙が止まらなかった。
「何で? ……大事な物がみんな……みんな、僕の手のひらから零れて行く……。何で? 何でなんだよおおおおっ!!」
「兄さん……!!」
後ろからセドリックに抱きしめられた。
僕が振り向くとセドリックも泣いていた。
「俺がいるから……、俺が兄さんを守るから!!」
「うっ、うううっ、うぁああああああっ!!」
僕はセドリックの胸の中で、声を上げて慟哭した。
あと1年間で侯爵様との愛人契約も終わる。そう思ったら何だか少し寂しくなった。
セドリックも4年生になり、身長は225センチでストップした。
にしても、でかくなり過ぎて家ではよく頭をぶつけている。
もうちょっと天井の高い所に引っ越そうかどうか悩む所だけど……あんまりお金は使いたくない。セドリックが卒業して就職したら引っ越そうかな?
二人で働けばそこそこの家が買えそうだと思う。この小さな家は誰かに貸し出して賃貸にすれば収入に繋がる。僕はお金を貯めることにした。
そして5年生になって2日目の授業中に、療養所から学校に通信連絡があった。
母上の病状が思わしくないとのことだった。
僕とセドリックは急いで召喚獣を出して母上の元へ向かった。
行くのに二日掛かるので、途中で野宿した。南の方なのに、夜は寒かった。
テントも何も張ってない。外で寝るだけの野宿。
僕の隣でセドリックが焚き火を見ていた。
「寝ないの?」
「消えちゃうとモンスターとか来るでしょ?」
「そういう時は太目のでかい木を足しておくんだよ」
僕は近くにあった拾っておいた太目の薪を、3本ほど火に焼べた。
持って来たブランケットは荷物にならないように薄めのにした。
おかげで寒い。
「セドリック、こっちに来て。お前がいないと寒い」
「……!!」
弟は僕の隣に来て、自分が持って来た大き目のブランケットを僕にも掛けた。そして自然に腕枕をする。僕はセドリックの胸の中にすっぽり納まっていた。
「凄いお前、どきどきしてる」
「兄さんとくっついてる時はいつもだよ」
「お前あったかい。やっぱ成りはでかくても子供だから、体温高いのか」
「違うと思う……。単に筋肉量が多いからじゃ」
「どうせ、僕は貧弱だよ。筋肉なんてちょっとしかないよ」
「ちょっとと言うか、全然無いよね」
僕はセドリックを見上げた。薄青い瞳が僕を見て潤んでいる。
何だか泣きそうな顔だ。
「こんなに、近いのに。息が掛かるくらい近いのに……」
そう言って弟の唇が近くに迫ってきて、その雰囲気に流されそうになった。
僕は弟の唇に指先を当てた。
「ダメだ……」
今しちゃったら、絶対舌を入れられる。そうしたら、またなし崩し的に爛れた関係になりそうで怖かった。
「うん」
納得したセドリックの言葉に寂しさを覚えながらも、僕はセドリックの腕枕でその胸に顔を埋めて眠った。
次の日の昼の刻過ぎくらいに、療養所に着いた。
母上の病室に行くと、母上は眠っていた。苦しさを和らげるために、いつもの睡眠薬を使っていると言われた。もう、ガリガリに細くなっていて、食事も取れないとメイキス先生は言っていた。なのでチューブで口に液体栄養を飲ませていると言われた。なるほど、母上の口に付いてるこのチューブは食事用なのか。
僕は母上の手を握った。何の反応も無い、少し冷えた手。
涙が出そうだった。
夜にメイキス先生が僕とセドリックが泊まれるように病室を一つ貸してくれた。
セドリックがでかすぎるので、病人用の寝台を3つくっつけて、二人で寝てくれと言われた。寝台3つくっつけてもセドリックの足がちょっとはみ出ていた。
「ははっ」
「兄さん、俺がいるからね? 辛かったら寄っ掛かっていいんだよ?」
「僕は平気だよ。お前みたいな……子供に頼れないよ」
「強がらなくていいから、俺の前でだけは……強がらないで」
僕は眠った。
夜中看護師さんに叩き起こされた。
「急変です!! お母様が急変です!! 至急病室へ!」
看護師は慌てた様子で母上の病室に走って行った。僕らもその後を追った。
母上は眠ったままなのに身体が恐ろしいくらいがくんがくんと動いていた。
その様子が恐ろしくて……驚いた。
「どうして? こんなに身体が暴れてるんです!? ……本人は眠っているようなのに!?」
「最後に身体に残っていた魔力が出て行く瞬間だ! 寝台から落ちないように押さえてやってくれ!」
僕とセドリックは母上を押さえた。瞳を閉じたまま、これから切り裂かれようとする魚の様にビチビチと跳ね動くその身体。僕は見てるのが辛かった。
暫く僕とセドリック、メイキス先生で母上を押さえていると、カクンと母上の身体は布団に沈んだ。
魔力が全て出て行って、母上は静かになった。
それは母上の死を意味していた。
「……ご臨終です。お母様は天国への長い旅路に出られました」
死の宣告の言葉に僕は膝をついた。母上の手を握りしめて泣いた。
メイキス先生と看護師は病室を出て行った。
「母上……、母上……っ!!」
叫んでも母上はもう戻っては来ない。分かってるのに涙が止まらなかった。
「何で? ……大事な物がみんな……みんな、僕の手のひらから零れて行く……。何で? 何でなんだよおおおおっ!!」
「兄さん……!!」
後ろからセドリックに抱きしめられた。
僕が振り向くとセドリックも泣いていた。
「俺がいるから……、俺が兄さんを守るから!!」
「うっ、うううっ、うぁああああああっ!!」
僕はセドリックの胸の中で、声を上げて慟哭した。
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
眠れぬ夜の召喚先は王子のベッドの中でした……抱き枕の俺は、今日も彼に愛されてます。
櫻坂 真紀
BL
眠れぬ夜、突然眩しい光に吸い込まれた俺。
次に目を開けたら、そこは誰かのベッドの上で……っていうか、男の腕の中!?
俺を抱き締めていた彼は、この国の王子だと名乗る。
そんな彼の願いは……俺に、夜の相手をして欲しい、というもので──?
【全10話で完結です。R18のお話には※を付けてます。】
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
明日は大事なプレゼンがあるのに異世界転生ってマジですか?
葛城 惶
BL
海藤斎(かいどう いつき)、女、独身。年齢 アラフォー。趣味 仕事。某コンサルティング会社 課長代理。
次のプレゼンで成功すれば、念願の課長の椅子に座れる......はずだったのに前夜に急性心筋梗塞、つまりは過労死。
気がついてみたら、ラノベも真っ青な異世界に転生していた。
しかも男に......。
男ぉ?やったじゃん!これでもうバカにされないっ......て思ったら、男しかいないじゃんよ。チェッ!しかも尻尾ついてるし...。
私、もしかして猫?最高やん。
まぁいいや。仕事くださ~い!
エッ?嫁に行け?......ウソやろ~!
このお話は、ワーカホリックなアラフォー干物女が、いきなり尻尾のついた男しかいない異世界に転生して、男同士なのに婚姻を迫られてわちゃわちゃする、しょうもないコメディです
作中に風巻ユウ様著「モンスターだってBL したいんです!」
https://estar.jp/novels/25700494の超可愛いキャラ、聖樹たんが遊びに来て下さってます(*^^*)
ユウさま、ありがとうございます~♥
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります
かとらり。
BL
前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。
勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。
風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。
どうやらその子どもは勇者の子供らしく…
悠遠の誓い
angel
BL
幼馴染の正太朗と海瑠(かいる)は高校1年生。
超絶ハーフイケメンの海瑠は初めて出会った幼稚園の頃からずっと平凡な正太朗のことを愛し続けている。
ほのぼの日常から運命に巻き込まれていく二人のラブラブで時にシリアスな日々をお楽しみください。
前作「転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった」を先に読んでいただいたほうがわかりやすいかもしれません。(読まなくても問題なく読んでいただけると思います)
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる