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大雨 11 予備調査・豚達の王

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「SCキットだよっ!買った奴らの名簿があるんだろう?。」
「つけあがるなよ。貴様、何様のつもりだ。デカなんて犬の糞以下だ。」
 悲鳴混じりに吠えている痩せた親父の腕を捻りあげる。俺の腕力は科特課医療チームによって強化されている。
    このまま続ければ脱臼ぐらいはするだろうが知ったことではない。

「訴えてやるぞ!」
 親父の目尻には苦痛の為の涙が滲んでいる。
    闇の性転換キットSC、つまり癒着性人工皮膚とホルモン増加プラント、及び促進剤と人体モデルテンプレートを「変態」に売りつけるような人間に、情けなどかけてやる必要はまったくない。

「訴える?ほほう、誰にだ。俺は犬の糞以下だがデカじゃない。しがない只の探偵だから法の縛りに効き目はない。おまけに今回は、今のあんたが頭に思い浮かべている遥か上のお偉いさん達の命令で動いてんだ。それとも俺がデカじゃなかったら、どこかの地下警備保障にでも言いつけるか?どっちが強いかな?やれるものならやってみろ。ああ!」

    今や、警察はアケローンにおいて誰にも当てにされず、当然執行されるべき権力さえ満足に行使できない程落ちぶれてしまっていたが、それでも裏の世界では地上警察の密偵が少数ながらこの世界に紛れ込んでいて、彼らは法の名のもとに、自分の私腹を肥やさんと「理不尽な悪行」に及んでいるという。
   しかもそれは表面上、罪に問われる事はない。
   つまり多くの地上の密偵達は、今日もアケローンの何処かで、その特権を使い甘い汁を吸い続けているのだと、チンケな悪党共はそう思い込んでいる。

 …しかし、それはマチガイだ。
    その噂はアケローン内で表面化しない巨大組織同士の潰し合いを、奴ら自らが誤魔化す為に捏造したものだ。
『我々がアンタのしまに手を出したんじゃない。やったのは地上から紛れ込んだ奴らだ。』って訳だ。
    --そして、俺はその陰謀論めいたデマを再利用する。

「うっ嘘をつけ!お前、名前は?貴様の首、吹っ飛ばしてやる。」
    親父はまだ俺が密偵を帯びた悪徳警官だと思っている。
「ざけんな。さっき言っただろう。探偵だよ。俺のあだ名はマッキントッシュ…地上の毒リンゴだ、よく覚えておけ。」
   親父は、この俺をどう相手をしていいのか分からず混乱してるようだった。

    俺はアケローン到着後、直ぐにIt'sへ潜入しても良かったが、そうはしなかった。
   転んでも只では起きないと心に決めたからには、"それなりの準備"をしなくてはならない。
   しばらくはこの年がら年中、冷蔵庫の中に入っているような気候のアケローンで、好きにやるつもりでいた。

    第一、ムラマツは外星人の情報を集めろと俺に命令したのだ。
  アケローンが外星人に埋め尽くされているならいざ知らず、そうでないならこっそりと外星人と裏で繋がっている地球人が必ずいる筈だ。
    そいつらを見つける。その裏取りをする。これだって立派な情報収集だ。
    しかもその情報は後々、俺自身の役に立つ。

   …………………………………………………………………………
 

 僕の身体はどうなってしまったんだろう。胸が出っ張り始め、最近は乳首がシャツに擦れただけでおちんちんが勃起する事がある。あまり早く白いドロドロを自分で出すのは良くないんだ。僕は何回もそれが出来るけれど、それだって限度がある。

 お姉さんは、僕のドロドロを自分の顔にかけられるのが大好きだ。
 お姉さんは僕のドロドロを、とっても綺麗な自分の顔全体に引き延ばしては、白目を剥いて何度も失神する。僕は、お姉さんが何度もそれを求めるから、僕のが品切れにならないようにしなくちゃいけないんだ。

   だから僕は、お姉さんのお尻の穴に突っ込む時は、三回の内、二回は偽物の吃驚するような大きなおちんちんを腰に付けて使う。
 そうするとお姉さんは、最初の内、シーツに顔を擦り付ける様にして泣いているけど、最後にはまるで映画に出てくる狼見たいな遠吠えをする。
    、、それで僕はお姉さんがとっても怖くなるんだ。

    …………………………………………………………………………

 親父が"指した"のは、多数にのぼるSCキット購入者の内、五人だけだった。
    俺が「ザコはいらない。力のあるやつだけ」に絞れと命じたからだ。
    五人なら容疑者に「直」に当たっても何とかこなせる人数だ。派手に動いて俺の素性が外星人に気取られては、最悪の事態になる。

 外星人との接触者……いくらアケローンといえどそうはいない筈だ。
    それに彼らと直に当たるその際は、捜査だけではなく、SCの被害者も救出するつもりでいた。
   今の俺は一種のスーパーヒーローモドキだ。それくらいはしたって罰は当たらない。

 しかし、5人の中には結構厄介な相手が二人混じっていた。
    一人は若手の代議士の秘書の知人、もう一人は大手企業の顧問格の番頭だ。
   どちらも地上世界でそれなりに名が通っている。
   この二人が直接、自分の為にSCキットに手を出しているのならなんとかなるが、、、。
   彼らが単なる"御主人様"の使い走りだったら、政治的隠蔽だの圧力だのといった大事に発展する可能性がある。

 まあそれはもっと後の話で、対処は「上」のやる事だ。
   その時、「上」が警察の権威回復を取るか、保身を取るか、俺の知った事ではない。
   科特課のムラマツが、この件に噛めば、断固、外星人に通じた人間を処断するだろうが。

    ………………………………………………………………

『予想通り、こいつが出てきたか。』
 いかにもやり手といった眼光を放ち、甘さの中にも苦みを感じさせる美貌の青年代議士ディモスの写真を人差し指でパチンと弾いてから、俺はすっかり冷めてしまった何杯目かのコーヒーを飲み干し上着を肩にかけた。

   アケローンの安宿を出かける間際に、鏡の前で最後にしたのは、左耳に付けてあるピアス状の録画装置の装着具合の確認だ。
   それは流星の形をしていて子供ぽかったが、大の大人が付けるなら返って洒落て見える代物だった。

     ……………………………………………………………………………

 今日は、お姉さんは僕を可愛がってくれるのだろうか、それとも虐めるのだろうか。いや違った。今日はお兄さんが久しぶりに僕の相談にのってくれる日だ。今日は勇気を出して聞いて見るんだ。本当に「世界」が、僕たちのシェルターを除いて死んでしまったのか?

 だっていつも僕の面倒を見てくれるヴェクターさんは、時々、僕たちの住んでいるシェルターとは違う匂いをさせる時があるんだ。
    確かに僕は身体が弱いからシェルターの中でさえも、この部屋から出れないさ。それは僕とヴェクターさん達との違いだし、それに僕は沢山眠らないといけないから何時も頭がボーッとしてるけど、、。 
    それでも僕はまだ外の「世界」があるような気がするんだ。

    …………………………………………………………………………

 襲撃されている!この俺が!
    荒事と言えば、良くて格好をつけたがるチンピラをさばく程度が関の山の探偵が、今「銃撃」を受けているのだ。

 一度目の奴らの銃撃から辛うじて逃れる事が出来たのは、俺の種馬改造の副産物である運動機能増大のお陰だった。
   科特が、ペニス周りと消化器系の改造のついでに、アケローンから俺の体を回収する際に便利になるようにと、俺を超人モドキにしてくれていたのだ。
  まああくまで、モドキ程度の能力だが。

 この銃撃はアキュバン特殊建築設計施工事務所からの帰り、地下駐車所に開いたエレベーターのドアから脚を一歩踏み出した瞬間から始まった。
 俺の足下に激しくのたうち回る肉塊があった。
   それは下半身を何物かに3分の1程食いちぎられた野良猫だった。
   アケローンには色々な生き物が棲息しているのだ。
   エレベーターは地下駐車場の奥まった部分にある。
    何ものかに襲われた猫が己の片足と太股の一部を捨てて、この場所に逃げ込んで来たのだ。

 猫の状態を見定めようとして身を屈めた瞬間、エレベーターの金属製の壁が3度ボスンという音を立てた。

    俺は、猫が目指して行き着けなかった避難場所代わりの暗がりが沢山ある方向に走り出した。
 アドレナリンが体内で沸騰している。
    恐怖ではなかった、純粋に興奮していたのだ。
    この感覚は探偵家業で、数回微かに味わった事がある。
    しかしこれ程とは、、、興奮に酩酊しそうだった。

 脇の下に吊した科特課配給の平べったい自動拳銃を抜き出して、壁に自分の身体を押しつける。
    自動拳銃の銃把の感触に安堵を覚える。この感じはおっ立ったあれを握っているのと同じだと思った。
    途端、目の前の壁が炸裂して破片が顔面を刺した。

 息を大きく吸い込んで止める。
    プールに飛び込むのと同じだ。
     一端、足が地面を離れたら、水面に激突するまで後戻りは出来ない。
 俺は、頭の中で意味のないカウントダウンを3から始めて、遮蔽物になっていた壁から身を乗り出した。

    …………………………………………………………………………

 「で、どうしたんだ、坊主。何か俺に言いたい事があるんだろう?」
 お兄さんが優雅に長い脚を組み替えながら言った。
    僕は外に出れないのを補う為に、沢山の映画を見たけど、お兄さんはどの男優にも負けないぐらいハンサムだ。

「世界は滅びたって本当?それに僕の身体はどうなっているの。もうあんなのを着るのはいやなんだ。、、僕は、僕は、本当はあのお姉さんが嫌いなんだ。」
 お姉さんが強要する、身をカチンカチンに固めてしまいそうな革の服や、ゴムの服、大きな偽物のおちんちん。口を開いたままにさせる口輪が嫌だ。
 僕は、僕が泣いているのが判った。僕の中の感情が、やっと今の僕に追いついてきたんだ。

「男は泣かないもんだぞ。」
「嘘だよ。僕が見てる映画に出てくる人たちは、みんな、泣きたい時は泣いていいって言うよ。」
「それは映画だからさ。現実では男は泣いちゃいけないんだ。」
「だって、現実って言っても、この世界で生き残っているのは、お兄さんとお姉さんとヴェクターさんだけなんでしょう?それなら泣いたっていいじゃない。」
 僕は拗ねたように上目遣いで言ってみた。こんな風な表情を造るとお兄さんは途端に甘くなる。

「お前に泣いちゃいけないと言ったのは、お前に強くなって欲しいからだよ。それよりどうして、世界が滅びていないんじゃないかと考え始めたんだ。あれほど何度も説明してやったじゃないか。」
「ヴェクターさんもお兄さんも、見るたびに服が替わるじゃないか。」

「おいおいまってくれよ。お前、私たちがどれぐらい服を持っているのか知っているのかい。お前は、このシェルターの中の隔離病室から出れないから、ここの大きさが想像も付かないだろうけれど、ここは何千人という人が何年も何年も生活出来る規模なんだよ。そこに私たちはたった4人で暮らしているんだ。服だって食べ物だってここに蓄えられているものなら山のように使えるんだよ。」

「そうじゃないんだよ。僕の言ってるのは、なんて言ったらいいのかな。そうだ、流行。流行なんだよ。僕と随分長い時間一緒にいるヴェクターさんの服に、その流行を感じるなんておかしいよ。」

    …………………………………………………………………………

 そんなに深く調べる必要はなかった。
   この地底ブロックで、一人の人間を数年にわたって監禁できる場所、そしてあの五人の容疑者が出入り出来る場所。

   今、俺が潜入してるブロックは、二つのゴミ溜めを抱えている。
     クエンクという名の人造排水運河を挟んで政治家や資産家どもが住む高級住宅街(本来はシェルターだ)と、昼と夜の二つの顔を持つ歓楽街を中心としたスラムだ。

 スラムでは厳密な意味で人々のプライバシーは保障されない。
    非干渉と無関心とは違う。
    俺が見て来たブロックのスラムの住人は常にお互いを監視し合っている。
    そうでなければ色々な意味で生き延びることが出来ないからだ。
 だから一人の人間を長期間、監禁しそれを秘密に保つことはスラム外の人間に対しては可能だが、スラム内では絶対に不可能だ。

   そして俺のスラムに向けたアンテナには「営利誘拐」「人身売買」は引っかかっても、長期に渡る「人さらい」はまったく引っかかってこない。

    当然、捜査対象は「川向こう」に絞られる。
 俺がディモスと関係ありとみて探りを入れていたアキュバン特殊建築設計施工事務所は、個人用シェルターの施工を請け負う会社だ。
    スラムの住人が自分のねぐらに超高級なシェルターを設置するだろうか?
 そして俺がそのアキュバンの周辺をつつきはじめた途端にこの反応だ。

     こんな世の中でも、普通に殺し屋を差し向けられる人間はそれほど多くはいまい。
     しかも俺は地上政府の人間である事をわざと匂わせてあるのだ。
 そうか、ディモスよ。
     駆け出しのお前には、事が露見してしまってから、それを揉み消すだけのアケローンにおける政治力がまだないと言うことだな。

 墓穴を掘ったな。
    、、いや掘られたのは俺の方か。
    、、弾はもう予備の弾倉一つしか残っていない。

    威嚇ではない本当の近距離の銃撃戦は初めてだった。
   ビビっているわけじゃない。
 銃を人に向けて撃つ快感を制御できないのだ。
    死に直面した恐怖の裏返しの快感、それが問題だった。

   冷静になれ。
   照星を的に合わせる、そして引き金を確実に引き絞る。
   それだけの事だ。俺ならやれる。
   俺は殺しの雨のマッキントッシュ探偵だ。どんな土砂降りでも生き残って来た。

     …………………………………………………………………………

「坊ちゃんもうお止めになったらどうです。あの子はもう薄々気づき初めています。」
 執事のメイ・ヴェクターが、メイク中のディモスの背に話しかける。
   幅広く筋肉質なくせに、形がやさしい艶やかな白い背中だった。

「これから美味しくなるのよ。手放せないわ。」
「政治家にとってゴシップは致命的です。坊ちゃんは今、大事な時です。あの子の始末は私がしますから、、。せめて今日は早い目に切り上げて下さい。地上では運河祭でのスピーチがあります。そのう、なんと申しますか、あの後の貴方様は何か様子が変です。ご自分ではお気づきではないのでしょう?そんな事を繰り返すと政敵に勘づかれます。」

 確かに事が終わった後のディモスからは、その身体がいくら「男」に戻っても「雌」のオーラのようなものが強烈に立ちのぼっていた。
    見るものが見れば判る。
   メイはディモスのその期間がどんどん長くなっている事も気になっていた。

「横取りする気。忘れたの?あなたが私をこの道に引きずり込んだんじゃないの。悪い人ね。」
    メイは、振り返って宛然とほほえむディモスから恥じた様に視線をそらす。
 男の身体にヘヤースタイル、そしてきつく勃起したペニス。 

    だがその顔は「絶世の美女」という冠に値する。 
   それはまるで誰かから切り取ってきた仮面のようにさえ見える。メイはその顔を見つめ続ける事に苦痛を感じていた。
 遙か昔、自らが使える主人の一人息子の美貌の中に感じた欲望が、今も彼を責め続けているのだ。

「あっちの方は順調に進んでいるの?私の方のルートでもいいのよ。刑事一人ぐらい押しつぶすのに大した苦労はいらないわ。」
 光沢のある口紅を塗った唇がヌメヌメと独立した生き物のように動く。これが聴衆を魅了する若き政治家の同じ唇とはとても思えない。 

「それはいけません。私の、、息子の方なら、万が一事が公になっても、あなたに累が及ぶことがないのですから。」
 メイは二人の若者を導いた事になる、ひとりはゲイ、もう一人は「組織」の幹部。
    メイは、我ながら立派な導師振りだと皮肉な思いでいた。

「感謝してるわメイ。でもここから先は出ていって。、、ね。」
 金髪のセミロングのウィッグを付け終えたディモスが、メイの頬に軽いキスをする。

    メイは後ろ手でディモスの部屋のドアを閉めながら、、、、、今日、ディモスの「儀式」が済み次第、あのIt'sから「買い取った」子を殺してしまおうと決心した。

  ……………………………………………………………………………

 まだ幼いが、その分、綺麗で強靱なペニスを吸ってやると「僕」の描いたような美しい眉が歪む。
    この熱くて薄い身体は、あの時の僕と同じなのだろうと私は思う。いろんな意味で「僕」はあの頃の僕と似ている。

 愛し方を知らない親と、愛され方を知らない子ども。

「僕」はメイの説明によると誘拐したのではなく「買った」と同じなのだそうだ。
  しかも「僕」を売った人間は決して生活に困窮していた訳ではなかったと言う。 

 幼児虐待の衝動の恐怖から逃れる為に自分の子どもを「誘拐」してもらう人間がこの世にはいるのですよ!とメイは心底驚いたように説明していた。
 だが私にはその気持ちがわかった。親と子、両方ともにだ。

「うぅ。お姉さんきつく噛まないで。」
 私は返事をする変わりに、赤く塗った唇を歪ませて嗤ってみせる。
    私の大好きな、鏡の前で何度も練習した、とびっきりの悪女の表情。

「坊や、、。恨まないでね。みんなこのおちんちんが悪いのよ。」
 「僕」のペニスの鈴口に舌を差し込んでやる。
   益々怒張が強くなる。肌理の細かい肌、薄い腹の向こうには張りのある乳房があり私の愛撫を待っている。

 最高よ、メイ。あなたの私に対するSCキットの使いこなしは芸術的だわ。
 もし私の時代にSCキットがあったら、、、。
    メイと父親の顔が重なり、そして私の妄想は膨らみ、「加虐」へと登り詰め始める。

    ……………………………………………………………………………

 メイはディモスを玄関まで送り届けると、その足で屋敷内のシェルターに戻った。 
   シェルターのドアを開場する時、メイの網膜のスキャンがキィ代わりになる。

 登録者はディモスとメイだけだ。メイはその事を思うと胸が苦しくなる。
    たとえばもし本当にシェルターにメイとディモスだけが入らねばならないとしたら、「あの関係」は再び回復するのだろうか?

 それとも、二人という密室の中で、メイはディモスによって断罪されるのだろうか。今、このドアの向こうには、新たな生け贄がいる。
  「それ」はメイのものではないが、ディモスが「それ」を欲したから、メイが「それ」を調達したのだ。

 贖罪の為?誰が何の為に。全ては、歪んだ肉欲の連鎖なのだろうか、、。

 ドアが開いた、シェルターの機密性から生じる気圧の差によって空気が動いた。あの子やディモスが使う香水の匂いや、先ほどまで繰り広げられていた肉欲の匂いが微かに感じられる。

 メイはそれらに自分が年甲斐もなく興奮している事に驚いていた。
   あの子をこれから始末する、そんな思いがメイの精神の変調を促進しているのだ。
「生命」の発する信号に過敏になっている。

「ヴェクターさん?珍しいですね。あなたはお姉さんが僕の所に来る日は、絶対に顔を見せないのに、、。」
 紗の降りたベッドの向こうから、あの子の掠れた声がする。
    SCキットのせいもあるのだろうが極め付きの淫靡な声に成長している。

 一体この子は「何」になろうとしているのだろう。メイはそこまで考えて微かに首を振った。
    空調設備の中に微かに仕込んである催淫剤の影響だろう。
 この子は、これからも「何」にもなれはしない。 
    この子が今からなれるのは「死体」だけだ、、。

「いや、ディモス様に君の様子が心配だからと言われておってな。君は、今の生活に疑問を抱いておるそうだが。」
 あの子が、紗をすり抜けるようにしてベッドから降りて私の前に立った。

 素肌の上に透けるような白いネグリジェを着ていた。その上からでも、胸と股間の相反する膨らみがはっきりと見えた。
 この子には幼い頃のディモスの面影はない。私が愛したのは少年ディモスだ。
    断じて「買い取った」子ではない。

 少年はすらりと、薄いが引き締まった筋肉の付いた腕をのばし、私の両肩に手を置いた。少年の、天使と娼婦が混じり合ったような顔が真正面に来る。

「この部屋から、外に連れ出して。」
 その声を聞いて、私は再び、私のディモスに対する罪の深さを思い出した。
    初めは私との関係に怯えていた幼いディモス、そのディモスが暫くして、彼の方から私を誘惑するようになったのだ。その時、私は悔いた。

「駄目だ。君は自分が病気だということを忘れたのかね。」
「嘘。僕が病気なら、お姉さんはなぜあんな激しいことを僕にするの?どうしてお兄さんや、ヴェクターさんは病気の僕の事をほっておくの。」
 少年が私にしがみついてくる。ふりほどこうとしたが、私はそれを止めた。

    少年は思ったより力が強かった。もし私が全力を出してもこの少年をふりほどけなかったら、たちまち立場は逆転してしまう。
   そうなったらこの子を始末するどころではなくなってしまう。

 私は少年をふりほどく代わりにその形の良い頭を優しく抱いてやった。少年の驚くほど熱い吐息が私の首筋にかかる。

「外に連れ出してくれたら僕を抱いてもいいよ。」
   少年の手が私の股間をまさぐっていた。
 私は少年の命ずるままにシェルターを出た。まるで飼い主に引きずられる老齢の犬だ。
   首輪は私の枯れた筈の肉欲の器官、引き綱は少年の手だ。
    私は見せ餌のような欲望に、鼻先を引きずられている、、。

    ………………………………………………………………………………………

「よう、いい格好だな……。」
「貴様!一体どうやって、ここに来れた!?」
    俺の姿を認めたヴェクターが、少年の横から慌てて立ち上がる。

「どうやって?て言う程の警備体制じゃなかったぜ。兎に角、服装を整えてくれよ。見ちゃいられない…。」
   俺は銃で塞がっていない方の右手の指先で、流星のイヤリングをちょんちょんと突付いた。
「いや、見てるか…。」

   それがどんなに惨めで無惨な事柄でも、自分が見たもの聞いたもの知ったもの、それらを全て記録する。
   それこそが、探偵家業の基本だった。



  


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