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第四章
蛸蜘蛛桜屋敷の攻防 #14 究極の改造室
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男性の脳の中では、性的興奮と攻撃行動が密接にリンクしているそうだ。
ニューヨーク大学の研究チームが、ネズミを使った実験でこのことを明らかにした。
ネズミでの実験結果だが、人間の脳内でも同じようなことが起こっているのではないかと考えられている。
ネズミの脳内には、暴力行為の原因となる神経細胞があり、これを刺激するとすぐにネズミは攻撃的になって、オス・メス関係なく攻撃し始める。
そして、その攻撃細胞と、セックスを誘発する神経細胞には、共通点が多く見られたとのことだ。
研究チームのリーダーは「セックスと暴力行為は回路を共有している。セックスは暴力の回路への通過点のようなもので、セックスできる可能性がある異性が周りにいると、積極的に暴力行為の神経回路を封鎖しようとする」と述べている。
さらに、セックスと攻撃の神経回路が混乱してしまいそうなとき、それを制御するための細胞もありそうだとか。
この仕組みにより「欲望のままにセックスする」「欲望のままに暴力行為をしてしまう」ことを防止しているのだろう。
……だがそう云ったシステムがもとからない人間が存在するのではないか?
僕はそう思っている。
ところで、ある種の女性に対しては、男の暴力的な行動がむしろ男性的な魅力をアピールすることにつながり、かえってそんな女性の心をつかむのに有効でなくもない。
僕は、仕事上、その多くの実例を知っている。
特に「自分にはM傾向があるのかな?」と感じている女性は、こんな簡単なワナにかからないように気をつけた方が良いと思う。
奴らは、暴力や権威で女性を支配し、優しさで女性を繋ぎ止める。
消えた三姉妹に関しては、城太郎がそう云うアプローチをしたのではないだろうか?
城太郎が僕に見せたマゾ癖なぞ、自分の性欲を貪る為の捻れた、単なる見せかけにしか過ぎないのだ。
……………………………………………
私の首には、幅広の薄い革を幾重にも張り合わせた分厚いベルトが、ギチギチと巻き着けられている。
そしてその首輪の飾りバックルには金属で出来たMの文字が。
Mは私の名前、高江美賢の頭文字だ。
更に、この首輪は首の後ろにある頑丈な留め具によって固定されている。
このベルトが私の首を締め付け、首を回す事はもちろん、息をすることも困難にしており、私の息遺いを浅く短いものにしていた。
その他、身体に着けられた分厚く固い漆黒の革製コルセットは、装着時の苦しさに泣き叫ぶ私などお構いなしに思い切り締め上げられ固定されたものだ。
あれから何日経ったのかも、覚えていない。
私の体は、もう既にこのコルセットの圧力に抗うことを止め、日にわずかずつ増し締めされていくことに耐えているだけだ。
ウエストが、痩せ細った病人ほどの腰回りになって、かなりの日が経ったように思う。
首に巻かれたベルト、いや首輪だが…の喉元のMの文字の下には、容易に動く事の無さそうな金属性の輪が設けられ、そこに飾りではない頑丈な鎖がつながれている。
そしてその鎖の端は、私の右腕を絞り上げている腰に巻いてある幅広ベルトの留め具に、がっちりと留められている。
首輪とコルセット、これが私に与えられた(コックサックをのぞく)全ての「衣服」だった。
今、私は両の腕をそれぞれ「蜂の調教師(蜂女)」と称する女たちに、きつく締めあげられながら、いやいや引き摺られるように歩いている。
抵抗はしていない。
出来るとももう思っていない。
ただ体が動いてくれないのだ。
『蛸桜の実』を腹部に埋め込まれた上の長い監禁生活による衰弱に加えて、私がこれから連行されるのが、この蛸蜘蛛桜屋敷に存在する、城太郎の云う究極の改造室「ウルティメイト・チャンバー」だと聞かされた精神的な動揺が大きい。
その部屋に入れば、どんな意志堅固な人間でも一週間もすれば、従順な奴隷に改造され出てくるという。
さらに適正のある奴隷は、身体改造を施され城太郎の人間人形となる。
勿論、私は攫われて来たのだから、人形化される可能性が高い。
いや『蛸桜の実』の事を考えれば、私が身体改造を施される可能性は百パーセントに近い。
その恐怖で、私は自分の身体に残っていたなけなしの「希望」を蒸発させられてしまっていたのだ。
私は二人に、両の腕を絞り上げられながら、その部屋のなかに引きずられていく。
「ウルティメイト・チャンバー」は四方を石造りの壁で囲まれていて、石組の表面はびっしりと苔に覆われていた。
おそらく広大な蛸蜘蛛桜屋敷に設えられた地下室なのだろう。
床を踏む私の素足にはひんやりと湿った石の感触が伝わってくる。
天井には縦横にレールが何本も走っていていくつものホイスト(巻き上げ鎖付きの鉤)がそれぞれにぶらさがっている。
そして私の目を奪ったのは、天井からぶら下がっている中身のぎっしりと詰まった幾つもの黒い革袋だった。
それらは縦横に幾重にも皮帯が掛けられ、レールからぶら下がるホイストに吊られてゆらゆらとゆれている。
その一つを、黒いタイツ姿の女達が三人がかりで降ろしていた。
私を連れてきた黒光りする体表を持った蜂女達は、何も言わず黙ったまま私を引き据えてその様子を見ている。
私もそれから目を離すことが出来なかった…。
引き下ろされた物体は、その上に執拗なぐらいに幾重にも掛けられたベルトが解かれ、編み上げられた革紐が解かれていく。
やっぱり!私は総毛立った。
一気に血の気が引いていくのが判る。
革袋の中身を予想はしていたのだけれど、余りの恐ろしさに理性がそうであるという事を否定しているのだ。
編み上げられた合わせ目をすべて解かれ、おぞましい形をしたハーネス付きの装具から引き摺りだされたのは紛れもなく女性の「形」だった。
しかもそれは、この黒い革鞘から取り出されても、未だ黒い革のなかに覆われていたのだ。
革による執拗な拘束、第二の拘束の「形」は、細長い一本の密着する革袋だった。
その袋は、僅かに腕を通しているところだけが(おそらく)後ろ手に飛び出している他は、一つにつながったぴったりとした人がたの筒状になっていた。
正面は編み上げになっていて、その紐を通す穴の列は爪先から首までつづき、彼女の頭を締め付けている革製のマスクの下に消えている。
マスク?いやマスクとは言えない。
…そ…んな……
昆虫の頭部と人の頭が融合したようなキメラを形取ったそれは、彼女の顔面だけではなく、彼女の首から襟口までをすっぽりと覆い、その下の顔の形が歪んでいるのではないかと思えるほどに幾重にもベルトが巻かれ、彼女の顔を締付けているのだった。
もはやマスクなどであるはずもない。
きつすぎる怪物の顔をしたヘルメットだ、それも拷問の為の器具でしかない代物、、。
腕を締め上げている袋状の部分も後ろは編み上げにされており、その腕を痛々しいほどに歪めぴったりと身体の側面に締め付けている。
頭をすっぽりとおおう革製のヘルメットは、肩の高さまでおよんで首を締め付け、さらに彼女の体を覆う狭窄衣のそこかしこに設けられた留め具は、いくつもの革帯が繋げられていた。
女達が手早くそのヘルメットを外すと、その昆虫人間の頭の中から女性の頭部があらわれた。
何故かぽっかりと痴呆にされたかの様に開かれたままのその口から弱々しいうめきと夥しい涎が零れる。
……ああ…神様…なん…て……ことを……
私は居もしない神に祈った。
髪はべっとりとまとわりつき、頬はげっそりとこけ、顔色は蒼白というしかないくらい真っ白だ。
そして彼女の目にはまだ革製の目隠しがほどこされている。
その目隠しが外される。
彼女は加賀真梨恵ちゃんだった!
行方不明じゃなくて、やっぱり攫われてたんだ。なのに私はその犯人である城太郎の甘い言葉に騙されて彼の手の中に落ちている…。
彼女の目に当たる部分には何かしら粘着物がべっとりと張りつき、目隠しが容易にずれたりしないようになっているらしい。
「ほら!目を開けなさい」
ひときわ背の高い、蜂の調教師の長らしい女性が命じる。
長は、他の蜂女達のコスチュームと違って尻尾が生える尻の位置に、蜂の針を模した巨大なペニス模型が突き出している。
「…ぁ…は…い、ご…ひゅ…人さま…」
呂律の回らない絶え絶えの声で真梨恵ちゃんは応え、弱々しくまばたきしながら眩しそうに目をあける。
「ふふっ、良い子になったわね……。いいでしょう。さあ連れて行きなさい。」
蜂女の長は二人の戦闘員に命令する、そして、「次はこのみっともない奴隷の装具を用意なさい!」と私を指差しながらそう付け加えた。
腰が砕けるように立っていられなくなる。
足元の地面が崩れていくような気がした。
崩れ落ちそうになる私の両脇を抱える女戦闘員達がくすくす笑っている。
そして、囚われの真梨恵ちゃんが私の前を引き摺られていく。
その目が瞬間、私の目を捉える。
私に救いを求めているとも、私を哀れんでいるとも見える目だった。
すれ違いざま彼女は「運がよければ城太郎様の側女になれるわ……」呂律は回らないながらも、そんな言葉を私に投げてよこした…。
「究極の改造室」、私はその本当の意味を目のあたりにして、全身がガクガクと震え出した。
「いやあああっ!!」
腹部に埋め込まれた『蛸桜の実』の力が発動し、今の状況に共振している。
絶対に"射精しないペニス"が強く疼きながら勃起してコックサックの中で悲鳴を上げている。その正体は私のクリトリスである事は分かっている……。
どうしようもない恐怖が私を突き動かしていた。
口とペニスで悲鳴を上げ、四肢を振り回し遁れようともがく。
けれど、
「っ?!…アグゥゥッ!!」
いきなりがくんと喉元に何かをぶつけられたような痛みと力で、チェーンごと引き倒されてしまった。
喉の痛みに思わずうずくまり、激しく咳き込む。
くすくす笑う蜂女達にのしかかられ、私の自由が奪われていった。
体の後ろで手のひらが合わさるように縛られる。
足首には幅の広い硬いベルトが着けられる。
私の首元に繋がれた鎖が天井から下がるホイストに繋がれる。
息を整える事も出来ないうちに、首の後ろにも鎖が繋がれホイストに掛けられた。
ジャラジャラと音をたて二つのホイストが巻き上げられていく。
「いやぁぁ…っ!……っぐぅ!?」
僅かでも身体を動かすと息が詰まるほどの高さだ。
瞬く間に私は両手両脚の自由を奪われ、爪先立ちの身動きができない状況に追い込まれていた。
そして、「それ」が運ばれてきた。女を哀れな芋虫にしてしまう装具が、「おんな」という肉を詰め込むための革袋が……。
「それ」が私の足元に置かれると、二人の蜂女が私の体を抱えあげる。
暴れようとした途端にその二人はそのまま一歩後ろに下がった。
「…っぐゥゥ…ッ……!?」
たったそれだけの事で私の首に着けられたベルトは容赦無く食込んできて、私にそのまま暴れる続ける事を諦めさせる。
涙が私の気持ちを無視してボロボロと零れていた。
そしてもう一人の蜂女が私の脚先をその装具の中へと滑り込ませる。
「…?!」
冷たい石ばかりを踏んでいた脚には、その中は暖かかった。
けれどどんな衣服とも違うその内側の感触に、何かが肌から染み入り背骨の芯をざわりと撫で上げられたような気持ちもした。
「うっ、ううっ」
噛みしめた唇からうめきが洩れるのも止められない。
足元に蜂女達がしゃがみ込み、その紐穴に細く長い革紐を通している。
キュッキュッと革同士が擦れ合う音とともに、今までコルセットで嫌と言うほど味あわされた革独特の有無をいわせぬ圧力が、今度は足元から這い昇ってくる。
私の後ろでは私の自由を奪うためにさらなる作業が続けられていた。
指に絡み付いてくる紐の意味が、最初はなんだか判らなかった。
「ひっ!?」
その意味を知った時、私の喉が鳴らした音はそんな感じだったろう。
親指と親指、人差し指と人差し指の組み合わせで全ての指が結び合わされている。
それもそれぞれの指の付け根だけではない、おそらく指の中ほどと先端近くまで。
作業は私の上半身へと移り、私は今まで身につけていたコルセットから開放された。
「…っ…っふぅ………」
強烈な締付けから解放されて、久しぶりに肌に触れる空気は、少し冷たかった。
思わず身体が震えた。
「ふふっ。この変態。寂しいんでしょ?心配しなくても、お前の淫乱膚が満足するように、もっと凄いのを着せてあげるわ。」
「なっ!?…あぐぅぅぅぅっ!!」
蜂女の長のとんでもない台詞に抗議しようとしたが、縛られた両手が後ろへ高く持ちあげられ、喉が塞がれた。
私の腕が、この装具の唯一分離した部分へ押し込まれていく。
襟元の金具が私の首に巻かれた幅の広いベルトの金具に繋がれていく。
カチャカチャとさして大きくはないはずの金属が触れ合う音ががんがんと頭の中に響く。
…もう…逃げられない…
目の前が真っ暗になっていく。
カチンとやたら大きな音が私の運命の扉が閉ざす音のように聞こえた。
私は先刻の真梨恵ちゃんが着せられていたものと同じ装具のなかに押し込まれてしまったのだ。
私の身体は、強固な皮革の檻の中に閉じ込められてしまった……。
ニューヨーク大学の研究チームが、ネズミを使った実験でこのことを明らかにした。
ネズミでの実験結果だが、人間の脳内でも同じようなことが起こっているのではないかと考えられている。
ネズミの脳内には、暴力行為の原因となる神経細胞があり、これを刺激するとすぐにネズミは攻撃的になって、オス・メス関係なく攻撃し始める。
そして、その攻撃細胞と、セックスを誘発する神経細胞には、共通点が多く見られたとのことだ。
研究チームのリーダーは「セックスと暴力行為は回路を共有している。セックスは暴力の回路への通過点のようなもので、セックスできる可能性がある異性が周りにいると、積極的に暴力行為の神経回路を封鎖しようとする」と述べている。
さらに、セックスと攻撃の神経回路が混乱してしまいそうなとき、それを制御するための細胞もありそうだとか。
この仕組みにより「欲望のままにセックスする」「欲望のままに暴力行為をしてしまう」ことを防止しているのだろう。
……だがそう云ったシステムがもとからない人間が存在するのではないか?
僕はそう思っている。
ところで、ある種の女性に対しては、男の暴力的な行動がむしろ男性的な魅力をアピールすることにつながり、かえってそんな女性の心をつかむのに有効でなくもない。
僕は、仕事上、その多くの実例を知っている。
特に「自分にはM傾向があるのかな?」と感じている女性は、こんな簡単なワナにかからないように気をつけた方が良いと思う。
奴らは、暴力や権威で女性を支配し、優しさで女性を繋ぎ止める。
消えた三姉妹に関しては、城太郎がそう云うアプローチをしたのではないだろうか?
城太郎が僕に見せたマゾ癖なぞ、自分の性欲を貪る為の捻れた、単なる見せかけにしか過ぎないのだ。
……………………………………………
私の首には、幅広の薄い革を幾重にも張り合わせた分厚いベルトが、ギチギチと巻き着けられている。
そしてその首輪の飾りバックルには金属で出来たMの文字が。
Mは私の名前、高江美賢の頭文字だ。
更に、この首輪は首の後ろにある頑丈な留め具によって固定されている。
このベルトが私の首を締め付け、首を回す事はもちろん、息をすることも困難にしており、私の息遺いを浅く短いものにしていた。
その他、身体に着けられた分厚く固い漆黒の革製コルセットは、装着時の苦しさに泣き叫ぶ私などお構いなしに思い切り締め上げられ固定されたものだ。
あれから何日経ったのかも、覚えていない。
私の体は、もう既にこのコルセットの圧力に抗うことを止め、日にわずかずつ増し締めされていくことに耐えているだけだ。
ウエストが、痩せ細った病人ほどの腰回りになって、かなりの日が経ったように思う。
首に巻かれたベルト、いや首輪だが…の喉元のMの文字の下には、容易に動く事の無さそうな金属性の輪が設けられ、そこに飾りではない頑丈な鎖がつながれている。
そしてその鎖の端は、私の右腕を絞り上げている腰に巻いてある幅広ベルトの留め具に、がっちりと留められている。
首輪とコルセット、これが私に与えられた(コックサックをのぞく)全ての「衣服」だった。
今、私は両の腕をそれぞれ「蜂の調教師(蜂女)」と称する女たちに、きつく締めあげられながら、いやいや引き摺られるように歩いている。
抵抗はしていない。
出来るとももう思っていない。
ただ体が動いてくれないのだ。
『蛸桜の実』を腹部に埋め込まれた上の長い監禁生活による衰弱に加えて、私がこれから連行されるのが、この蛸蜘蛛桜屋敷に存在する、城太郎の云う究極の改造室「ウルティメイト・チャンバー」だと聞かされた精神的な動揺が大きい。
その部屋に入れば、どんな意志堅固な人間でも一週間もすれば、従順な奴隷に改造され出てくるという。
さらに適正のある奴隷は、身体改造を施され城太郎の人間人形となる。
勿論、私は攫われて来たのだから、人形化される可能性が高い。
いや『蛸桜の実』の事を考えれば、私が身体改造を施される可能性は百パーセントに近い。
その恐怖で、私は自分の身体に残っていたなけなしの「希望」を蒸発させられてしまっていたのだ。
私は二人に、両の腕を絞り上げられながら、その部屋のなかに引きずられていく。
「ウルティメイト・チャンバー」は四方を石造りの壁で囲まれていて、石組の表面はびっしりと苔に覆われていた。
おそらく広大な蛸蜘蛛桜屋敷に設えられた地下室なのだろう。
床を踏む私の素足にはひんやりと湿った石の感触が伝わってくる。
天井には縦横にレールが何本も走っていていくつものホイスト(巻き上げ鎖付きの鉤)がそれぞれにぶらさがっている。
そして私の目を奪ったのは、天井からぶら下がっている中身のぎっしりと詰まった幾つもの黒い革袋だった。
それらは縦横に幾重にも皮帯が掛けられ、レールからぶら下がるホイストに吊られてゆらゆらとゆれている。
その一つを、黒いタイツ姿の女達が三人がかりで降ろしていた。
私を連れてきた黒光りする体表を持った蜂女達は、何も言わず黙ったまま私を引き据えてその様子を見ている。
私もそれから目を離すことが出来なかった…。
引き下ろされた物体は、その上に執拗なぐらいに幾重にも掛けられたベルトが解かれ、編み上げられた革紐が解かれていく。
やっぱり!私は総毛立った。
一気に血の気が引いていくのが判る。
革袋の中身を予想はしていたのだけれど、余りの恐ろしさに理性がそうであるという事を否定しているのだ。
編み上げられた合わせ目をすべて解かれ、おぞましい形をしたハーネス付きの装具から引き摺りだされたのは紛れもなく女性の「形」だった。
しかもそれは、この黒い革鞘から取り出されても、未だ黒い革のなかに覆われていたのだ。
革による執拗な拘束、第二の拘束の「形」は、細長い一本の密着する革袋だった。
その袋は、僅かに腕を通しているところだけが(おそらく)後ろ手に飛び出している他は、一つにつながったぴったりとした人がたの筒状になっていた。
正面は編み上げになっていて、その紐を通す穴の列は爪先から首までつづき、彼女の頭を締め付けている革製のマスクの下に消えている。
マスク?いやマスクとは言えない。
…そ…んな……
昆虫の頭部と人の頭が融合したようなキメラを形取ったそれは、彼女の顔面だけではなく、彼女の首から襟口までをすっぽりと覆い、その下の顔の形が歪んでいるのではないかと思えるほどに幾重にもベルトが巻かれ、彼女の顔を締付けているのだった。
もはやマスクなどであるはずもない。
きつすぎる怪物の顔をしたヘルメットだ、それも拷問の為の器具でしかない代物、、。
腕を締め上げている袋状の部分も後ろは編み上げにされており、その腕を痛々しいほどに歪めぴったりと身体の側面に締め付けている。
頭をすっぽりとおおう革製のヘルメットは、肩の高さまでおよんで首を締め付け、さらに彼女の体を覆う狭窄衣のそこかしこに設けられた留め具は、いくつもの革帯が繋げられていた。
女達が手早くそのヘルメットを外すと、その昆虫人間の頭の中から女性の頭部があらわれた。
何故かぽっかりと痴呆にされたかの様に開かれたままのその口から弱々しいうめきと夥しい涎が零れる。
……ああ…神様…なん…て……ことを……
私は居もしない神に祈った。
髪はべっとりとまとわりつき、頬はげっそりとこけ、顔色は蒼白というしかないくらい真っ白だ。
そして彼女の目にはまだ革製の目隠しがほどこされている。
その目隠しが外される。
彼女は加賀真梨恵ちゃんだった!
行方不明じゃなくて、やっぱり攫われてたんだ。なのに私はその犯人である城太郎の甘い言葉に騙されて彼の手の中に落ちている…。
彼女の目に当たる部分には何かしら粘着物がべっとりと張りつき、目隠しが容易にずれたりしないようになっているらしい。
「ほら!目を開けなさい」
ひときわ背の高い、蜂の調教師の長らしい女性が命じる。
長は、他の蜂女達のコスチュームと違って尻尾が生える尻の位置に、蜂の針を模した巨大なペニス模型が突き出している。
「…ぁ…は…い、ご…ひゅ…人さま…」
呂律の回らない絶え絶えの声で真梨恵ちゃんは応え、弱々しくまばたきしながら眩しそうに目をあける。
「ふふっ、良い子になったわね……。いいでしょう。さあ連れて行きなさい。」
蜂女の長は二人の戦闘員に命令する、そして、「次はこのみっともない奴隷の装具を用意なさい!」と私を指差しながらそう付け加えた。
腰が砕けるように立っていられなくなる。
足元の地面が崩れていくような気がした。
崩れ落ちそうになる私の両脇を抱える女戦闘員達がくすくす笑っている。
そして、囚われの真梨恵ちゃんが私の前を引き摺られていく。
その目が瞬間、私の目を捉える。
私に救いを求めているとも、私を哀れんでいるとも見える目だった。
すれ違いざま彼女は「運がよければ城太郎様の側女になれるわ……」呂律は回らないながらも、そんな言葉を私に投げてよこした…。
「究極の改造室」、私はその本当の意味を目のあたりにして、全身がガクガクと震え出した。
「いやあああっ!!」
腹部に埋め込まれた『蛸桜の実』の力が発動し、今の状況に共振している。
絶対に"射精しないペニス"が強く疼きながら勃起してコックサックの中で悲鳴を上げている。その正体は私のクリトリスである事は分かっている……。
どうしようもない恐怖が私を突き動かしていた。
口とペニスで悲鳴を上げ、四肢を振り回し遁れようともがく。
けれど、
「っ?!…アグゥゥッ!!」
いきなりがくんと喉元に何かをぶつけられたような痛みと力で、チェーンごと引き倒されてしまった。
喉の痛みに思わずうずくまり、激しく咳き込む。
くすくす笑う蜂女達にのしかかられ、私の自由が奪われていった。
体の後ろで手のひらが合わさるように縛られる。
足首には幅の広い硬いベルトが着けられる。
私の首元に繋がれた鎖が天井から下がるホイストに繋がれる。
息を整える事も出来ないうちに、首の後ろにも鎖が繋がれホイストに掛けられた。
ジャラジャラと音をたて二つのホイストが巻き上げられていく。
「いやぁぁ…っ!……っぐぅ!?」
僅かでも身体を動かすと息が詰まるほどの高さだ。
瞬く間に私は両手両脚の自由を奪われ、爪先立ちの身動きができない状況に追い込まれていた。
そして、「それ」が運ばれてきた。女を哀れな芋虫にしてしまう装具が、「おんな」という肉を詰め込むための革袋が……。
「それ」が私の足元に置かれると、二人の蜂女が私の体を抱えあげる。
暴れようとした途端にその二人はそのまま一歩後ろに下がった。
「…っぐゥゥ…ッ……!?」
たったそれだけの事で私の首に着けられたベルトは容赦無く食込んできて、私にそのまま暴れる続ける事を諦めさせる。
涙が私の気持ちを無視してボロボロと零れていた。
そしてもう一人の蜂女が私の脚先をその装具の中へと滑り込ませる。
「…?!」
冷たい石ばかりを踏んでいた脚には、その中は暖かかった。
けれどどんな衣服とも違うその内側の感触に、何かが肌から染み入り背骨の芯をざわりと撫で上げられたような気持ちもした。
「うっ、ううっ」
噛みしめた唇からうめきが洩れるのも止められない。
足元に蜂女達がしゃがみ込み、その紐穴に細く長い革紐を通している。
キュッキュッと革同士が擦れ合う音とともに、今までコルセットで嫌と言うほど味あわされた革独特の有無をいわせぬ圧力が、今度は足元から這い昇ってくる。
私の後ろでは私の自由を奪うためにさらなる作業が続けられていた。
指に絡み付いてくる紐の意味が、最初はなんだか判らなかった。
「ひっ!?」
その意味を知った時、私の喉が鳴らした音はそんな感じだったろう。
親指と親指、人差し指と人差し指の組み合わせで全ての指が結び合わされている。
それもそれぞれの指の付け根だけではない、おそらく指の中ほどと先端近くまで。
作業は私の上半身へと移り、私は今まで身につけていたコルセットから開放された。
「…っ…っふぅ………」
強烈な締付けから解放されて、久しぶりに肌に触れる空気は、少し冷たかった。
思わず身体が震えた。
「ふふっ。この変態。寂しいんでしょ?心配しなくても、お前の淫乱膚が満足するように、もっと凄いのを着せてあげるわ。」
「なっ!?…あぐぅぅぅぅっ!!」
蜂女の長のとんでもない台詞に抗議しようとしたが、縛られた両手が後ろへ高く持ちあげられ、喉が塞がれた。
私の腕が、この装具の唯一分離した部分へ押し込まれていく。
襟元の金具が私の首に巻かれた幅の広いベルトの金具に繋がれていく。
カチャカチャとさして大きくはないはずの金属が触れ合う音ががんがんと頭の中に響く。
…もう…逃げられない…
目の前が真っ暗になっていく。
カチンとやたら大きな音が私の運命の扉が閉ざす音のように聞こえた。
私は先刻の真梨恵ちゃんが着せられていたものと同じ装具のなかに押し込まれてしまったのだ。
私の身体は、強固な皮革の檻の中に閉じ込められてしまった……。
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