屑星の英雄はランプを擦る/対抗狙撃戦

二市アキラ(フタツシ アキラ)

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エピローグ

【 ランプを擦れ 】

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    地上では相変わらず電磁嵐が吹き荒れていたが、久しぶりにマグリブの空間は人の体温で温かくなっていた。
    マイムがロックロウにビタリと身体を寄せて来る。
    ロックロウも最初はこの少年の距離感にたじろいたものだが、今は自然に受け止めている。
    それがリトルジーニーの自然な成長過程の結果なのだと理解しているからだ。
   リトルジーニーは知識だけは豊富だが人間としての生活体験が殆どなく、人との接し方では少年というより幼児に等しいのだ。

「で結局、メダルカラーの秘密ってなんだったの?」
「マイムは陸戦用旗艦のグランドアークの事知ってるかい? 」

「ああ、大戦用に建造されたビッグマシーンだよね。帰還したらコロニー壁の外側にドッキングして係留される奴だね。予定ではあとに3回出番があるってセンターが広報してたけど、一回、大規模昆爬討伐に出かけただけで、もう動いていない。あの馬鹿でかいのを動かせるゴールドメダルジェネラルが栄誉の死をとげたから、次の担い手が育つまでコロニーの拡張領土として転用するって、軍が言ってた。」

「あれだよ。リ・バグダード戦で起こった出来事だった。俺たち平の兵士達は、普段、昆爬達と事を構えないリ・バグダード地帯になぜ軍を進めるのか不思議でいた。しかもグランドアークを投入してだ。近くに護ってやらなきゃならん中小コロニーがあるわけでも、純度の高いエネルギー鉱脈があるわけでもない場所だったからな。ただ昆爬達がわんさか棲息してるのだけは先遣隊の報告で解ってはいたんだ。」

「ふーん、何でそんな所に軍は攻め入ったの?エバーグリーンの中の人たちの中にだって、昆爬との無益な衝突は避けるべきって主張する人は結構大勢いるよ。」

「まあ本当の所は分からんが、情報通の奴は、リ・バグダードのずっと向こう側にもう一つ、エバーグリーンに匹敵するようなコロニーがあるからなんじゃないかと言ってたな。昆爬達の大棲息地帯であると云う事は、同時に電子嵐がまだましな地帯、というかそこへの最短ルートでもあるんだよ。」

「新しいコロニーを見つけてどうするのさ?」
「まぁやれるなら、ぶん取る。無理なら交易をする、そんな感じだろう。地道にコロニーを拡大拡充するよりその方がずっと速い。」

「……………………。」

「それでロックもリ・バグダードに行ったんだね。」

「当然駆り出されたさ。昆爬殺しの為にな。グランドアークを旗艦にした大軍団だった。
でもコロニー内では余り騒がれてなかった筈だと思うよ。具体的な規模は伏せられていた筈だ。」

「なんとなくその理由はわかるよ。でどうなったの?早く教えて!」

「そこには、とてつもなく大きな昆爬を中心にあらゆるタイプの昆爬がわんさと揃ってた。まあ奴らの本当の棲家なんだから当たり前だな。で作戦も何も無い正面衝突になった。俺たちも最初はグランドアークに期待してたんだ。グランドアークの主砲はとんでもなく大きくてどんな巨大な昆爬でもその装甲をぶち抜けそうに見えたからな。所が、その最大級昆爬達が急に地面に潜り込み始めた。」

「それってどんな姿をしてたの?」

「マイムは母星の蠍って昆虫を知ってるだろ?あれによく似てる。蠍が潜り込み始めた最中でも当然、他の昆爬達との戦いは続いていた。そっちでも俺たちは既に苦戦していた。なんとなく普段と様子が違ったんだよ。フェアリーの数が段違いだっんだ。最近になって俺は思うんだが、昆爬達の司令塔はフェアリー達が作り上げるネットワーク思考みたいなものなんじゃないのかな。俺たちはどうしても働き蜂と女王蜂みたいな関係を想像してしまうけど、その逆さ。物事を主体的に考えるのはフェアリーでその数が多くなる程、考える事が緻密になる。どでかいのは下僕というか、元から余り思考能力がなくて反射神経の塊みたいなな。」

    二人の側にいたフライディが『その可能性は大いにありますね。人間は自分たちの文化や世界観が全てだと思っているから、まったくの新知性との出会いでは間違いを起こしやすい。逆に言えば他知性から地球を観察したら、動物より植物生命の方が尊いと見なされる事もあり得るかもしれませんね』と突然喋り始めた。

「なんだコイツ暫く見ない内に随分喋るようになったな。第一、俺は今、地球の話なんかしてないぞ。」
「コイツって言わない!居間のフライディはグレーテルキューブに繋いであるんだよ。」
     ロックロウは驚いたようにレトロな工作用ロボットを見た。

「あっ、ああ…わかった。…それで、昆爬の話だったな…。突然、地面に潜り込んだ筈の巨大蠍達が地中からこうグバーって感じで起き上がったんた。そして次にオッポの先っちよをぐっと曲げてグランドアークに向けたんだよ。」

「何でも溶かす例の奴で攻撃して来たんだね!」

「そうだな。、でも規模や強さが今までのと全然違った。見てる俺たちがそれだけで肝を冷やしたぐらいだ。」

「………。」

「あれほど頑丈に見えたグランドアークの艦橋に穴が空いた。でそこに大量のフェアリーが突入して行った。」

「俺は直ぐにそれが組み立てられた作戦だって思った。でも少し迷ったんだ。実際方、俺たち狙撃兵チームはそれどころじゃなく、目の前の昆爬との戦いに振り回されていたからな。」

「でもロックはグランドアークを助けに行ったんでしよ?それで勲章を貰った!」

「まあそう云う事になるかな。実際には、グランドアークが停止したら、軍は総崩れ、いや俺たちは全滅すると思ったんだ。だから俺は持ち場を離れてグランドアークに走って行った。後は何時もやってる大型昆爬狩りと一緒さ。ワイヤー付きのフックを撃ち込んで、自分の身体を引き上げる。いつもなら昆爬の呼吸穴辺りに行くんだが、そん時は艦橋に開けられた穴を目指して行った。耐酸性の野戦複がボロボロになったが、なんとか中に入り込めた。」

「………。」

「中は地獄絵図だった。艦の中にいてなんの装備もしていない上級士官たちがフェアリー相手に勝てる筈はないからな。俺はライフルを機銃モードにして撃ちまくった。あいつらは飛べる代わりに装甲が少し柔らかいんだよ。その代わりそこいら中の計器がぶっ壊れていったが、そんなの言ってられない。で気がついたらフェアリーを全部撃ち落としてた……。」

「凄いね。」

「凄いと言われる事なのかどうか、判らんよ。それに何人かの士官たちも、飾りみたいな拳銃で戦ってたしな。あれは勇気とか活躍とか、そんな類のもんじゃなかった。でも問題は、それで終わらなかった。」

「ゼネラルの死だね。」
   フライディが全てを見通したように言った。

「…そうだ。最悪な事に将軍のゴールドメダルのコネクターが妙な具合に外れてた。ちゃんと解除されてりゃ、もしかして再起動があり得たのかも知れない。グランドアークが完全に止まってしまっんだ。」

「他に、士官たちの中にメダル保持者はいなかったの?」

「ゴールドはいなかった…とされてるな。で、俺は一か八か、俺のブロンズを繋いだ。再起動さえすればいいんだ。後は残った士官たちでなんとかすると思ったのさ。とにかく放っておけば、グランドアークどころか、仲間が全員やられる流れだった…。 」

「でグランドアークは動いたんだね?」

「ああそう云う事だ。それから後のゴタゴタをマイムは知ってるだろ?」

「…後の事はそれに限らず、フライディに色々と教えて貰ったよ。なんだか悔しいよ。ロックはもっと英雄なのに…。」

「英雄か、俺はそんな風に考えた事は一度もない。それどころか未だにあの出来事が何だったのか良く整理が出来ないんだよ、マイム。」

「いやグランドアークの出来事だけじゃなくて他の事もだよ。……スネーククロスは人を殺したが俺は昆爬を殺して来た。そこに違いはない。全部、仕方がなかったで済ませるつもりはないんだ。」

「仕方がないと、被せていうつもりはありませんが、その時、貴方には他の選択肢がなかったのでしょう?ロックロウ?」
     フライディが極めて人間的な口調で喋った。

     ロックロウはじっとフライディの頭部を見つめた。
    そこには半球状の透明カプセルの中にデコラティブな数個の電球が瞬いている。
    そして頭部と胸部の境目辺りから伸びているケーブルはグレーテルキューブレプリカに接続されていた。

「……まさか、お前がランプなのか?マイムがランプなんじゃないのか?」

「何?ロック?ランプってなんの話してるの?」

「いや、いいさ。分からなくていい。今はな。…それにどっちにしてもお前たちは俺のランプなんだし。さっ、この話はもういいだろ。今度は旅のプランを練ろうや、マイム。心配するな、俺がお前たちの望むどこへでも連れて行ってやるよ。」

    ロックロウにはフライディがマイムと共に頷いたように見えた。


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