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第五章 ◆ 本道
第七節 ◇ 鯱
しおりを挟む思い出の『象徴』をひと通り巡ったあと、紙飛行機は、ボクたちをこの世界のどこかへと連れていった。
「向こうに何かあるわ。」
ヒマワリが指しているほうに目を向けると、空間にぽっかりと浮かぶ、丸い穴のようなものが見えた。
「湖のようだな。」
「けっこう大きいのかな。」
「比べるものがないから分からないけど、そんな気がするわね。」
紙飛行機は、どうやら向こうに見える湖に向かっているらしい。深い青色をしている。
「手紙がないから、『象徴』じゃないってことだよね。」
「おそらくそうだろうな。」
紙飛行機は、湖に向かってまっすぐ飛んでいく。深い青色をした湖は、遠くからだと穏やかな湖に見えていた。しかし近づくにつれ、轟音がボクたちの耳を支配していった。音の振動で紙飛行機が揺れる。
「この音、何!」
「渦だ!」
轟音を立てて巻く渦は、湖の真ん中に一つ、それを取り囲むように六つの渦がある。紙飛行機は、真ん中の渦に向かっていた。
「ねえ、ちょっと。この飛行機、どこに降りるつもりなのかしら……。」
七つの渦は湖全部を占めていて、ヒマワリの言うとおり、飛行機の降りられるような場所なんてどこにもない。湖そのものだって空間にぽかんと浮いているだけだから、湖のそばに紙飛行機が降りられそうな場所も見当たらない。
ボクたちの心配をよそに、紙飛行機は、真ん中の渦を見下ろせるところで浮かんだまま動かなくなった。不思議なことに、遠くまで聞こえていた轟音は全く聞こえなくなった。
「どうしたのかな。」
「ここが目的の場所なのかしら。」
トキワは、ボクとヒマワリの言葉を受けて、翼を大きく広げた。
「私がこのあたりを見てこよう。何か見つかるかもしれない。」
「席から離れるな。」
威圧感のある低い声が、ボクたちの近くから聞こえた。トキワは、翼を畳んで座り直した。
「その紙飛行機は、席に着いていないと飛ばない仕組みになっている。ひとりでも離れると落下するぞ。」
声は、紙飛行機のすぐそばから聞こえる。声のするほうをじっと見ると、シャチが渦と渦の間から顔を出した。瞳は金色で、その視線は刺すようにするどい。
「君はいったい誰だ。」
「俺はシャチだ。門番をしている。」
門番だというシャチは、ボクたちをサッと見回すと、何かを考えるようにスッと目を閉じた。そしてすぐに目を開けてボクを見た。
「出口を探す者なら、印を持っているはずだ。」
「シルシ?」
「そうだ。それを持っていない者には、出口を教えることはできない。」
「もしかして、これかな。」
ボクはウエストポーチから真珠貝を取り出してシャチに見せると、不器用に微笑んだ。
「印に間違いない。よく手に入れたな。」
さて、とシャチは話し始めた。
「ここから出口まで行けるのだが、出口を開くのにやるべきことがあと二つある。」
シャチは、スッと右のひれを水面に出した。
「向こうに太陽の『象徴』がある。そこに真珠貝をはめこむんだ。行けば分かる。それが終わったら、もう一度ここに来い。」
そう言うと、シャチは、激しく渦巻く水の中へと消えていった。
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