逆さまの迷宮

福子

文字の大きさ
上 下
40 / 53
第五章 ◆ 本道

第二節 ◇ 鳩

しおりを挟む


 まっすぐのびるコンクリートの道を少し進み、右手に宇宙の『象徴シンボル』の地球が見えたあたりで、ジグザグ道路にぶつかった。

「恐れるものの『象徴シンボル』みたいな道だね。」

「あの道よりもかどとがっているな。距離はそれほど長くないようだが、歩きにくそうだ。」

「それなら、わたしに任せて。」

 ヒマワリは、ボクの腕から下りた。そして、ジグザグ道路の手前まで移動すると、クルリと振り返ってボクたちにウインクした。

「歩きにくいなら、歩きやすくすればいいのよ。」

 えいっ! という、ヒマワリのかけ声とともに、木の道が勢いよく伸びてジグザグ道路を覆った。

「これで、まっすぐ進めるわ。」

「なかなかに強引だな。」

「いいじゃない、『象徴シンボル』じゃないみたいだし。」

 ふくれっ面をしているヒマワリを見て、トキワが笑っている。ボクは、そんなふたりを抱きしめた。

「手紙だわ。」

 道を少し進んだ先の空間を、手紙がヒラヒラと舞いながら落ちてくるのが見えた。ヒマワリは全力疾走して手紙に近づくと、見事な大ジャンプでキャッチした。

「さすが! ウサギのジャンプはすごいね。」

 ボクは、ヒマワリを抱きあげて手紙を受け取り、封を切った。トキワは、ボクの肩に乗って手紙をのぞきこんだ。


 ┏━━━━━━━━━━━┓

     『審判』

   次への鍵を運ぶのは、
   善き知らせを伝える
     平和の象徴。

 ┗━━━━━━━━━━━┛


「次への鍵、だって。」

 ボクは、手紙をポケットにしまいながら言った。

「どうして、審判、なのかしら。」

「ふたりとも、のんびりしている場合じゃないぞ。あれを見ろ。」

 トキワに言われて上を見ると、たくさんの芽が生えた雲の上に、飛行船のように丸くて、雪のように真っ白なハトがいた。

「今回は、ずいぶんと分かりやすい『象徴シンボル』じゃないか。たしかに、ハトは平和の象徴だ。」

 ハトは、ゆっくりはばたき雲の上でホバリングをしている。その足で、プレゼントボックスをしっかりとつかんでいた。

「あの箱に『次への鍵』が入っているのか。」

 ハトは、ボクの肩からトキワが飛び立つのを確認すると、どこかへ向かってバサバサと飛んでいった。

「大変!」
「追いかけるぞ!」
「トキワ! そのまま飛んで追いかけて!」
「分かった!」

 トキワは空から、ボクとヒマワリはコンクリートの道から、全力でハトを追った。
 障害物のない空間を飛ぶハトを追うのは難しいけれど、さいわい一本道だ。視界の端っこにハトをとらえながらコンクリートの道を全力疾走して、なんとかハトを追うことができた。

 小さな階段を三つ越えてカーブを右に曲がると、突き当たりに古い家がポツンと建っていた。その真上でホバリングをしていたハトは、ボクたちの姿を確認すると、持っていたプレゼントボックスをポトンと落とした。
 そして、たくさんの芽が生えた雲の上に戻っていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

真夏の温泉物語

矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

孤独な戦い(3)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

処理中です...