逆さまの迷宮

福子

文字の大きさ
上 下
33 / 53
第四章 ◆ 木道

第八節 ◇ 桜桃

しおりを挟む


 次の手紙は、ブラックホールを過ぎてすぐに、トロッコの中に落ちてきた。

「今度の『象徴シンボル』は、なんだろうね。」

 ボクは、ふたりを交互に見てから封を切り、手紙を取り出して読み上げた。


 ┏━━━━━━━━━━━┓

    『求めるもの』

     この姿は、
   夢の中で寄り添う形。

 ┗━━━━━━━━━━━┛ 


「今回の『象徴シンボル』は、形が重要なのか。」

 トキワが、うーん、と考えている。ヒマワリは、ボクの腕の中で首をかしげて考えている。そのたびにヒマワリの耳は楽しそうにゆれた。

「意味が分からないのは、あいかわらずだね。」

 でも――、と、ヒマワリは微笑んだ。

「たぶん、あれのことね。」

 前方に目を向けると、巨大な黄色いサクランボが見えた。二つのサクランボがヘタの先でくっついていて、トンネルのように線路をまたいでいる。

「『夢の中で寄り添う形』とは、二つの実がヘタでつながっている、あの形のことをさしているのだろうな。」

 トロッコは『象徴シンボル』にどんどん近づいた。

 ボクたちはその大きさに圧倒された。
 黄色い実の高さは、ボク二人分くらいありそうだ。ヘタの長さは、その何倍もある。目眩がしそうな高さだ。

 サクランボにさしかかると、ボクもトキワもヒマワリも、首がぽっきりと折れるんじゃないかと思うほどに首を後ろに曲げて、巨大なサクランボを見上げた。

 トロッコが、サクランボの下をコトンコトンと通過する。
 二本のヘタのつなぎ目が、ボクたちの頭上に見えたときだった。

「ねえ、どうしてくっついているのかしら。」

 ヒマワリの言葉を合図に、ボクたちは首をまっすぐにもどした。

「わたしたちがサクランボを思いうかべるときって、二個くっついたあの形を思いうかべるでしょう? 一個でもサクランボなのに、どうしてかしら。」

 たしかにその通りだ。サクランボと言われたら、二個くっついたあの形を思いうかべる。でも、売られているサクランボのほとんどは、つながっていない。

 ――ああ、そうか。

「二個くっついてるのがサクランボだと、思いこんでるんだ。」

 トキワが、なるほど、とつぶやいた。

「我々は、いつも誰かを求めたがる。本当はひとりでできることなのに甘えてしまうのだ。もちろん、まったく頼らないのも危険だが、全てにおいて『おんぶにだっこ』では、成長は期待できない。それでも私たちは、楽なほうに逃げたがるのだ。心も同じだ。この形でなければ何もできない、と思いこみ、現実に目を向けないことで、ある意味、自分を救っているのかもしれない。」

 そうね、と、ヒマワリは続けた。

「この『象徴シンボル』は、きっと、わたしたちの心の弱さを表してるのね。」

 どんどん遠ざかるサクランボはを見ながら、ヒマワリは、まるで誰かに届けようとしているみたいに、そっとつぶやいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

決戦の朝。

自由言論社
現代文学
こんな小説、だれも読んだことがないし書いたことがない。 これは便秘に苦しむひとりの中年男が朝の日課を果たすまでを克明に描いた魂の記録だ。 こんなの小説じゃない? いや、これこそ小説だ。 名付けて脱糞小説。 刮目せよ!

あなたの推し作家は私

石田空
現代文学
BL小説を書いて、のらりくらりと結婚の話をかわし続けている野々子。しかし周りはなにかと言ってきてうるさい。 そんな中、隣のサラリーマンの浜尾が落としたものを拾ったときに、自分の小説を見つけてしまった……。 「あ、それ。私の本です」 人間嫌いのBL小説家と、訳あり腐男子サラリーマンが、ひょんなことから一緒に同居しながら人生を見つめ直す。 *人のトラウマを刺激するシーンが予告なしに出ますので、体調が悪い方は閲覧をお控えしますようお願いします。

春愁

ひろり
現代文学
春休みを持て余している私は、偶然、路上で旅行中の由香里に出会う…というかナンパされた。 迷子になったと泣きつかれ彼女を助けたばかりに、まるで幼稚園児の休日のような退屈な時間を過ごすことに。 絵に描いたような純朴な田舎者の由香里に振り回された女子高生、私の春の出来事。 *表紙はPicrew「lococo」で作りました。 表紙背景はアイビスペイントの既存画像を使っています。 本文中のイラストはPicrew「街の女の子」で作成しました。 *** 十数年前、突然思い立ち移動中の暇つぶしに、携帯でポチポチ打ったものを某サイトにアップ、その後放置、最近見つかりまして。。。 さらに1カ月以上放置の末、勇気を振り絞って読み返しましたが、携帯ポチポチ打ってイライラして読み直すこともなくアップした文章がひどい笑笑 こんなものをよく出せたなあ、いやよく読んでくれたなあとある意味感動です。当時、読んでいただいた方一人ひとりに感謝して回りたいくらい。 若干手直ししてアップしてみる羞恥プレイです。

【R15】母と俺 介護未満

あおみなみ
現代文学
主人公の「俺」はフリーライターである。 大好きだった父親を中学生のときに失い、公務員として働き、女手一つで育ててくれた母に感謝する気持ちは、もちろんないわけではないが、良好な関係であると言い切るのは難しい、そんな間柄である。 3人兄弟の中間子。昔から母親やほかの兄弟にも軽んじられ、自己肯定感が低くなってしまった「俺」は、多少のことは右から左に受け流し、何とかやるべきことをやっていたが…。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ADHDとともに生きる

卍ェリーナジョリー
現代文学
ADHDを抱える主人公、健二が日常生活の中で直面する困難や葛藤を描いた感動の物語です。一般の会社で働く健二は、幼少期から周囲との違和感や孤独感に悩まされてきました。周りの人々が普通にこなしていることが、彼にとっては大きな壁となって立ちはだかります。 物語は、健二が職場でプレゼンを成功させるところから始まります。自信を持ち始めた彼ですが、同僚とのランチや会議の中で再び浮かび上がる不安。人との距離感や会話のリズムが掴めず、自分だけが取り残されているような感覚に苛まれます。果たして、彼はこの見えない壁を乗り越え、自分を受け入れ、周囲との関係を築いていくことができるのでしょうか? 本作は、ADHDの特性を持つ人々の心情に寄り添い、共感を呼び起こす内容となっています。時にはつらく、時には笑いを交えながら、健二の成長と友情を描くことで、読者に希望と勇気を届けます。自分を受け入れ、前に進む勇気を与えてくれるこの物語は、同じような悩みを抱えるすべての人に贈るメッセージです。 健二が歩む道のりを通して、あなたも自身の「見えない壁」を乗り越えるヒントを見つけることができるかもしれません。どうぞ、健二と共に彼の旅を体験してください。あなたもきっと、心が温まる瞬間に出会えることでしょう。

AIと十字館の殺人

八木山
ミステリー
大学生の主人公は、気付いたら見知らぬ白い部屋で目を覚ます。 死体と容疑者に事欠かない、十字の建物。 主人公は脱出し、元の生活に戻れるのか。 この小説は、生成AIの実験を兼ねた作品です。 主人公以外の登場人物の行動は事前に決められていますが、主人公の推理や情報の整理はOpenAIに判定させています。 ■登場人物 全員が窓のない建物に閉じ込められている。 棚道千波(たなみちちなみ) 20歳。大学生。 朝倉桜(あさくらさくら) 20歳。大学生。女性。文系。 赤板鷹(あかいたたか) 20歳。大学生。男性。理系。 中上美香(なかがみみか) 20歳。フリーター。女性。部屋で死亡していた。

『犯性(反省)人生 上』

シロ
エッセイ・ノンフィクション
僕は、三重県で生まれ、現在は愛知県内に住む、38歳のサラリーマンです。 僕の生まれてから、38歳になるまでの人生 『山あり谷ありの壮絶な人生』 をつづった、ほぼノンフィクションの話です。 タイトルは、『犯性(反省)人生』 貧乏生活から月収120万 性奴隷の学生時代 起業してからの地獄 訳して『犯性危』の人生を綴った作品です。 『犯罪。性。危機。』の内容です。 2話ずつ書いて、小話を間に入れますので、よろしくお願いします! ※名前バレ防止のため、一部フィクションもあります。 ※誤字脱字ばかりです。 気軽に感想やお気に入り登録も、よろしくお願いします。

処理中です...