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第二章 ◆ 本道
第七節 ◇ 積木
しおりを挟むノコギリを過ぎて間もなく、ボクはヒラヒラと落ちてくる封筒を見つけた。
「今回はボクが取る!」
ダッシュで近づきジャンプすると、両手で封筒を捕まえた。トキワと出会う前のボクの身長では、こんなことはできなかった。ボクは、大きくなったことが嬉しくてたまらなかった。
「今度は、どんな『象徴』かな。」
ボクはトキワの顔を見て微笑むと、いつものようにそっと封を切った。
┏━━━━━━━━━━━━━━┓
『脆く強いカタチ』
大切なカタチは脆く崩れやすい。
しかし
計り知れない強さも持っている。
┗━━━━━━━━━━━━━━┛
「今回は長めの文章だね。」
ボクは、肩の上でくつろいでいるトキワに目を向けた。しかしトキワは、考え込んでいるようだった。
「この『象徴』なら、心当たりがある。」
トキワはボクをちらりと見て、肩から飛び立ち左に大きく弧を描くと白い空間に消えていった。優雅な飛翔に見とれていたボクは、我に返ってトキワの消えた方角に向かって慌てて走りだした。
「どういうこと? 一体どうなってるの?」
トキワを見失った辺りに差し掛かると、積み木のお城がコンクリートの道の裏側に逆さまに聳え立っているのが、遠くから見えた。
土台は水色、その両脇には、向かって右側に建物部分が緑色で屋根はピンクの小さな塔が、向かって左側に建物部分が黄色で屋根はオレンジ色の大きな塔がある。
道路の裏側で当たり前の顔をして聳え立っているカラフルな積み木のお城に、ボクは違和感を覚えた。
そもそも、逆さまの建物を『聳え立つ』なんて言えるのだろうか。この世界にマトモな物は存在しないのだから気にすることではないと、トキワなら言うかもしれない。そうだとしても、道の裏側に下に向かって聳え立つ『逆さまのお城』なんてあんまりだ。
ボクは、走るスピードを落としながら『象徴』に近づくと、ちょうど積み木のお城の真上にあたる場所で、トキワがボクを待っていた。
「このお城、逆さまだね。」
トキワは、ボクを見ると少しだけ困った顔をした。
「逆さまにそびえ立っている理由については全く想像もつかないが、『象徴』の意味は理解できる。」
ボクは、積み木のお城に視線を戻した。
「どうして、積み木のお城なのかな。」
トキワは、ボクを肩越しに見て微笑んだ。
「それについては、手紙に書いてある通りだ。」
ポケットの手紙を取り出して読み返した。なるほどそういうことかと、ボクは納得した。
「絶妙なバランスで積み上げられたお城は、ほんの少しバランスを崩しただけで、すぐ倒れてしまう、脆く儚いものだ。大切なものも、それと同じだ。すぐ隣にあるのに『それ』に気がつかない。絶妙なバランスの上に成り立っているのにいい加減に扱ってしまい、崩壊する。そして、そうなってしまってから、本当は大切だったことにようやく気がつく。……愚かなものだ。」
トキワの美しく煌めくエメラルドグリーンの瞳はボクを見ていない。その瞳にボクの姿は映っているけれど、トキワが見ているのは、はるか遠く、どこか別の世界だ。もしかしたら、この世界に来る前の『ボク』と出会った世界なのかもしれない。
「だが、たとえ崩壊したとしても、それぞれの言葉に耳を傾け、尊重し、理解し合うことで新たな城を築くことができる。それが『家族』の本来の姿なのだ。」
閃光が走り赤い服を着た白い髭のおじいさんの姿が、ボクの脳裏に焼き付いた。ボクの心の奥にある扉の中の記憶のようだが、過去のものなのかそれとも――、
「なあ、君。少し、休まないか。」
ボクはうなずいて、トキワの隣に腰を下ろした。
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