幻界戦姫

忘草飛鳥

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74、終焉へ向けての物語

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 宿敵ユプシロンを倒したというのは、炎天の騎士団のみならず副首都の住民達を熱狂させた。それだけユプシロンの存在はここの住民達に恐怖を与えていたということで、もしかしたら、ユプシロンが副首都周辺の人達に与えていた恐怖指数はオメガ以上だったかもしれなかった。
 それを倒したのだから私達は当然もてはやされた。倒したのはチーノだったけど、3人で一セットと考えられていたから、私達3人が同等に英雄視された。
 毎回つとに思うのだけど、これはもう本当に気分が良いものだった。ギガ・アークを倒したあと毎回恒例の戦勝祭が副首都でも開かれたのだけど、ここでは過去最高の扱いを受けて、チーノが回復するまでの間私は称賛を浴び過ぎてまるで自分がこの世界の創造者になったような気分になった。
 その夢もすぐ醒めるのだけど、それはチーノが目を覚まして最後の旅をすることになったからではなく、マルカの魔法でも治らない傷を騎士団のミルキーさんに見てもらったからだった。
 私の脇腹のドス黒い傷を見たミルキーさんは、見た瞬間ハッとした顔をしたかと思うと、
「これはどこで出来た傷ですか?」
 とそう聞いてきた。それにユプシロンの攻撃を受けて出来た傷だという旨を伝えると、ミルキーさんは、
「ちょっと待っていて下さいね」
 と言って私の脇腹に片手を当て魔法をかけた。でもすぐに、
「やっぱり治らない」
 とそう続けた。けっこう深刻そうな顔をしていたから、
「えっと、これやばいやつですか?」
 と聞いてみると、ミルキーさんは頷いて、
「放っておいたら死に至る傷です」
 とそのようなことを言ってきた。まさかそんな深刻なものだと思わなかったから、それを聞いてしばらく黙ったあとに、
「これどうにかして治せないんですか?」
 と聞いてみた。でも私の受けた傷の治癒は難しいみたいで、
「回復魔法で治せない傷は、あとはどんなことをやっても治せないんです」
 ときっぱりとミルキーさんにはそう言われた。
 それを聞いて思ったのは、
「え? そんなに魔法って万能?」
 ということで、私はこの傷を軽く見ていたから、そう言われてまるで死の宣告を受けたような気分になった。というか実際これは死の宣告なのではないかと思った。
「ツバキさんは別の世界から来た人ですよね?」
 とミルキーさんに聞かれたから頷くと、
「多分私達とは体の組成が違う部分があるんだと思います。そうでなければ、そんな瘴気の塊が体に出来るなんてこと考えられません。あと、本当ならそれは魔法で治せるものなんです」
 とそう言われた。そのあと、
「これは他の2人にも知らせておいた方がいいと思います」
 とのことでマルカとチーノの2人が呼ばれて、その2人にミルキーさんが私の体に起こったことを説明するのだけど、2人ともそれを聞いて驚きと疑いが交ざったような顔をした。ミルキーさんが喋り終わったあと、
「え、じゃあこいつ死ぬのか?」
 とチーノが聞いたあとに、
「本当に助かる方法は他に何もないんですか?」
 とマルカもそう質問していた。それにしばらく黙っていたミルキーさんだったけど、
「もしかしたら」
 ということを言ったあとに私を見て、
「元の世界に戻れば何とかなるかもしれない」
 とそう続けた。
「そんなこと出来るんですか?」
 と私が聞くと、ミルキーさんはこう言った。
「ツバキさんはオメガを倒すためにこの世界の来たわけですよね? オメガを倒したら役目を果たしたことになるので、元の世界に戻ることが出来るかもしれません」
「そうなんですか?」
「憶測ですけど」
「私の体あとどれくらい持ちますか?」
「瘴気が強いみたいだから、多分一週間も持たないと思います」
「持たないということはつまり?」
「死ぬということです。ただ、仮に一週間持ったとしてもその間少しずつ蝕まれていくので、一週間ずっと動けるということはありません。まともに動けるのはせいぜい3日です」
「ここからオメガのいるカオスメータまであと何日で行ける?」
 と聞いたのはチーノで、それにマルカは、
「ちょうど2日くらいだと思う」
 とそう答えた。
「ならすぐそこに行ってオメガの野郎をぶっ飛ばして来りゃいいだけの話だろ。こんなことしてる場合じゃない。すぐに出発だ」
 というチーノの言葉ですぐカオスメータ行きが決まったのだけど、当事者でありながら私は、自分に起こったことをまるで別の誰かに起こったことのように感じていた。
 まだ痛みも何も感じていなかったから、それが私個人の出来事であるという認識を鈍らせていたのかもしれなかった。
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