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43、空中都市のご飯
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チーノに連れられるままニョタイモを食べられるお店で一番人気のお店に行ったのだけど、一番人気だから当然というか、行ったのがちょうどお昼時だったからタイミングが悪かったというか、私達がお店に着いた頃には人がそれはもうごった返していて、見た感じ爆弾でも投げ込まない限り1、2時間は人がはけそうになかった。店内を見回し、
「いかがする?」
と2人に聞いてみると、チーノは、
「座る場所ないんだったら作りゃいいだろ」
とかなり創造的なことを言って、店内を睥睨(へいげい)したあとに、
「あそこがいい」
とそこまでズンズン歩いて行った。
何かイヤな予感がしたけど、どうせ注意しても聞かないだろうということで、マルカと顔を見合わせヤレヤレという顔をした。
そのまま2人でチーノに付いて行くのだけど、チーノは目標にした席に着いて早々に、
「おいコラ」
と何もしていない相手にいきなり啖呵を切り、
「ここに座るからどけろ」
ととても後から来た人間とは思えない口調でそう言った。これに相手は、
「ああっ?」
と切れた。当然だった。一つのテーブルに3人で座っていたのだけど、3人とも顔の血管が切れる勢いで切れて、
「もう一回言ってみろ、この野郎っ」
と怒って立ち上がった。ただ、ここでチーノを弁護するとするなら、男3人の人相が私の世界で言うヤクザみたいに悪いというのがあった。
むしろそういう人相が悪い男を狙ってチーノはケンカを売ったみたいで、こういうところからもチーノの自分の強さに対する自信が読み取れるような気がした。
それでもここは、
「ちょっと」
と一応止めに入った。理由はお店の人達の迷惑になるからだった。でもチーノは片手を上げてそんな私を制したかと思うと、
「悪を潰す、それが善だ」
と名言っぽいことを言って挑戦的に男達の方を見た。自分からケンカを売ったんだからそれは筋違いだろうと思ったけど、この場合席をどかせることに意味があるから、どちらに正義があるかなどはどうでもいいみたいだった。
そこで店内を再度見回してみると、当然のように私達に視線が集まっていた。こんなことになるとは思わなかったから早く帰りたいと思ったけど、もう来るところまで来てしまったから容易に帰れる状況ではなかった。だからどっちかがどっちかをもうぶっ倒すしかなかったのだけど、これも案の定というか、先にチーノが仕掛けて数分のうちに相手3人を情け容赦なくボコボコにした。
もうそれはそれは見事な不条理の大勝利だった。
よく考えれば相手は人相が悪いというだけで何もしていないのだけど、その3人を正義の味方面してチーノは打ち負かし、相手はただの被害者なのにしばらく物が食えなくなるまで顔を殴って殴って更に殴って店から追い出したあと、あたかも悪を倒したヒーローのような清々しい顔をしていたから、私はそれを見てこいつ恐いなと思った。
「何見てんだ、見せもんじゃねえぞコラッ」
と他の客を一喝してこっちに向かって来る視線を力ずくでねじ伏せたチーノは、
「ま、いいから早くお前ら座れよ」
と言って強奪したばかりの血の付いたテーブルを指差してまずは自分がイスに座った。不承不承といった感じに座った私はチーノに、
「だからあんた嫌われるんじゃないの?」
と言うと、チーノはそれに、
「お前ら知らないのか? 正義っていうのはな、正しい方じゃなくて力でねじ伏せたやつのものなんだぞ」
とそう返して、そこで自信あり気にニッと笑った。
特に落ち度のない相手に一方的に絡んで血が出るくらい半殺しにしたくせに何を言うんだと思ったけど、恐らくこれこそがチーノの本質で、勇猛である代わりに傍若無人さも併せ持ってしまっているみたいだった。
「どんだけだよ」
とテーブルの上の血を掌で拭いているチーノに言うと、チーノはそれを無視して、
「さ、それより早速ニョテンモでも食べようぜ。メニューがあるからそれ見て決めるといい」
とそう言った。
脇の方に置いてあったメニューを手前まで持って来て、マルカと2人で見る。ここに来る途中チラチラ他のお客さんが食べている物を見たのだけど、ニョテンモという物はドロドロとしたスープの中に肉や魚そして野菜などを突っ込んで食べる料理のことで、私の世界で言うチーズフォンデュみたいな食べ物のことみたいだった。
実はこういう物を食べたことがなかったというだけではなく、周りの人達が食べているのを見て美味しそうだと思ったから、遂さっきチーノによる一方的な暴行があったということなどすぐ忘れて、
「楽しみだなー」
と言ってマルカと一緒にメニューを眺めた。私は単細胞だったから、美味しい物を食べられるというだけで上機嫌になるという得な性格をしていた。
「そう言えば聞き忘れたんだけど、これって割り勘なわけ?」
とメニューをめくっているとチーノがそう聞いてきたから、私達は同じタイミングで、
「そんなん当たり前でしょ」
「別に奢りでもいいわよ」
と私、マルカの順でそう言った。すると、
「お、悪いね」
と自分に都合の良い言葉だけを拾ってそう言うチーノ。そのまま片手を上げたかと思うと、
「注文決まったから来てくれー」
とそう言って店員さんを呼んだ。奢るつもりなかったし、こっちはまだ注文決まってないしで、何勝手なことやってるんだと思ったから、
「ねえ、ちょっと」
と言ったのだけど、そこでマルカに、
「まあまあ、いいじゃない」
と言われたから、まあいいかと思ったというのは嘘で、私に犠牲を強いるチーノの独走振りが許せないと思ったから、
「何て協調性がないんだ。自分がやられたらどう思うんだ?」
と聞いてみると、
「ぶっ飛ばすね」
とチーノに言われたから、
「じゃあいい」
と譲歩することにした。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
とそこで店員の人が来る。その店員の人に、
「私はBセットで。この2人は……まあ適当にライスで」
とチーノがバカみたいなことを言うから、私は思わず、
「ふざけんなコラ」
とそう言った。するとチーノ、ケラケラ笑ったあとに、
「冗談だよ、冗談」
とそう言い、
「AセットとCセットだろ。分かってるよ、それくらい。じゃあ、以上のセット3つで」
と続け、店員の人を、
「戻っていいよ」
と帰してしまった。
結果的に私達はあれだけメニューを見ておきながら、AセットCセットという面倒くさいからじゃあそれでみたいなセット料理を食べることになった。
何かちょっと納得いかない。
「いかがする?」
と2人に聞いてみると、チーノは、
「座る場所ないんだったら作りゃいいだろ」
とかなり創造的なことを言って、店内を睥睨(へいげい)したあとに、
「あそこがいい」
とそこまでズンズン歩いて行った。
何かイヤな予感がしたけど、どうせ注意しても聞かないだろうということで、マルカと顔を見合わせヤレヤレという顔をした。
そのまま2人でチーノに付いて行くのだけど、チーノは目標にした席に着いて早々に、
「おいコラ」
と何もしていない相手にいきなり啖呵を切り、
「ここに座るからどけろ」
ととても後から来た人間とは思えない口調でそう言った。これに相手は、
「ああっ?」
と切れた。当然だった。一つのテーブルに3人で座っていたのだけど、3人とも顔の血管が切れる勢いで切れて、
「もう一回言ってみろ、この野郎っ」
と怒って立ち上がった。ただ、ここでチーノを弁護するとするなら、男3人の人相が私の世界で言うヤクザみたいに悪いというのがあった。
むしろそういう人相が悪い男を狙ってチーノはケンカを売ったみたいで、こういうところからもチーノの自分の強さに対する自信が読み取れるような気がした。
それでもここは、
「ちょっと」
と一応止めに入った。理由はお店の人達の迷惑になるからだった。でもチーノは片手を上げてそんな私を制したかと思うと、
「悪を潰す、それが善だ」
と名言っぽいことを言って挑戦的に男達の方を見た。自分からケンカを売ったんだからそれは筋違いだろうと思ったけど、この場合席をどかせることに意味があるから、どちらに正義があるかなどはどうでもいいみたいだった。
そこで店内を再度見回してみると、当然のように私達に視線が集まっていた。こんなことになるとは思わなかったから早く帰りたいと思ったけど、もう来るところまで来てしまったから容易に帰れる状況ではなかった。だからどっちかがどっちかをもうぶっ倒すしかなかったのだけど、これも案の定というか、先にチーノが仕掛けて数分のうちに相手3人を情け容赦なくボコボコにした。
もうそれはそれは見事な不条理の大勝利だった。
よく考えれば相手は人相が悪いというだけで何もしていないのだけど、その3人を正義の味方面してチーノは打ち負かし、相手はただの被害者なのにしばらく物が食えなくなるまで顔を殴って殴って更に殴って店から追い出したあと、あたかも悪を倒したヒーローのような清々しい顔をしていたから、私はそれを見てこいつ恐いなと思った。
「何見てんだ、見せもんじゃねえぞコラッ」
と他の客を一喝してこっちに向かって来る視線を力ずくでねじ伏せたチーノは、
「ま、いいから早くお前ら座れよ」
と言って強奪したばかりの血の付いたテーブルを指差してまずは自分がイスに座った。不承不承といった感じに座った私はチーノに、
「だからあんた嫌われるんじゃないの?」
と言うと、チーノはそれに、
「お前ら知らないのか? 正義っていうのはな、正しい方じゃなくて力でねじ伏せたやつのものなんだぞ」
とそう返して、そこで自信あり気にニッと笑った。
特に落ち度のない相手に一方的に絡んで血が出るくらい半殺しにしたくせに何を言うんだと思ったけど、恐らくこれこそがチーノの本質で、勇猛である代わりに傍若無人さも併せ持ってしまっているみたいだった。
「どんだけだよ」
とテーブルの上の血を掌で拭いているチーノに言うと、チーノはそれを無視して、
「さ、それより早速ニョテンモでも食べようぜ。メニューがあるからそれ見て決めるといい」
とそう言った。
脇の方に置いてあったメニューを手前まで持って来て、マルカと2人で見る。ここに来る途中チラチラ他のお客さんが食べている物を見たのだけど、ニョテンモという物はドロドロとしたスープの中に肉や魚そして野菜などを突っ込んで食べる料理のことで、私の世界で言うチーズフォンデュみたいな食べ物のことみたいだった。
実はこういう物を食べたことがなかったというだけではなく、周りの人達が食べているのを見て美味しそうだと思ったから、遂さっきチーノによる一方的な暴行があったということなどすぐ忘れて、
「楽しみだなー」
と言ってマルカと一緒にメニューを眺めた。私は単細胞だったから、美味しい物を食べられるというだけで上機嫌になるという得な性格をしていた。
「そう言えば聞き忘れたんだけど、これって割り勘なわけ?」
とメニューをめくっているとチーノがそう聞いてきたから、私達は同じタイミングで、
「そんなん当たり前でしょ」
「別に奢りでもいいわよ」
と私、マルカの順でそう言った。すると、
「お、悪いね」
と自分に都合の良い言葉だけを拾ってそう言うチーノ。そのまま片手を上げたかと思うと、
「注文決まったから来てくれー」
とそう言って店員さんを呼んだ。奢るつもりなかったし、こっちはまだ注文決まってないしで、何勝手なことやってるんだと思ったから、
「ねえ、ちょっと」
と言ったのだけど、そこでマルカに、
「まあまあ、いいじゃない」
と言われたから、まあいいかと思ったというのは嘘で、私に犠牲を強いるチーノの独走振りが許せないと思ったから、
「何て協調性がないんだ。自分がやられたらどう思うんだ?」
と聞いてみると、
「ぶっ飛ばすね」
とチーノに言われたから、
「じゃあいい」
と譲歩することにした。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
とそこで店員の人が来る。その店員の人に、
「私はBセットで。この2人は……まあ適当にライスで」
とチーノがバカみたいなことを言うから、私は思わず、
「ふざけんなコラ」
とそう言った。するとチーノ、ケラケラ笑ったあとに、
「冗談だよ、冗談」
とそう言い、
「AセットとCセットだろ。分かってるよ、それくらい。じゃあ、以上のセット3つで」
と続け、店員の人を、
「戻っていいよ」
と帰してしまった。
結果的に私達はあれだけメニューを見ておきながら、AセットCセットという面倒くさいからじゃあそれでみたいなセット料理を食べることになった。
何かちょっと納得いかない。
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