幻界戦姫

忘草飛鳥

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32、戦勝祭

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 そのあと私達はすぐにタウリの街まで戻り、屯所にいる責任者っぽい人にイオタを倒したということを報告した。するとその責任者っぽい人、驚きの顔をしたあとに私達にお礼を言って、
「都市令に報告をしてくるから少し待っていてほしい」
 ということを私達に言ってきた。ちなみに、都市令と言うのはタウリの街のように規模の大きな街を治める代表者のことだった。
 それにOKと頷くと、それから10分するかしないかのうちに50代くらいの男の人が大急ぎで屯所にやって来て、私達に深々と頭を下げて何度もお礼を言ってきた。
「いや、いいんですよ、別に」
 とか言いつつも、戦闘に勝った高揚感とか、この街を救った優越感とかで私はニヤニヤ笑っていたから恐らく勇者の面影はないはずだった。
 口には出さないものの私が強敵を倒した、この街を救った、と思っている私とは対照的に、何も言わず謙虚に相手の話に聞き入っているマルカの方がよっぽど救世主の貫禄があった。
 都市令の挨拶が終わったあと、すぐ宴会に移行したのだけど、ここでの私達の扱いはもうそのまま英雄のようで、事前に私達がそれぞれ光の戦姫であることや炎天の騎士団にいたということを告げたというのも良かったのか、王様にでもなったように歓待された。
 前述したように私は持ち上げられるのに弱かった。自分が主役になるのが好きで、マルカが譲ってくれたというのが大きかったけど、今回のイオタ戦で活躍したのは私だったから、もう本当に周りが引くくらい悪乗りした。
 このタウリの街には3日いたのだけど、周りの人達が私達を英雄扱いしてくれたおかげで、今までの人生で最高の3日間と言っていいくらいの気分の良い数日を過ごせた。
 マルカに散々止められていたからお酒は飲まなかったけど、称賛は麻薬みたいなもので、その称賛で私はベロンベロンになった。
 イオタを倒した2日目から街でイオタ撃滅を祝ったお祭りが開かれたというのも悪かった。
「もうそろそろ別の街へ行きましょうよ」
 と言うマルカの意見を無視して私はマルカを引き連れタウリの街へと繰り出した。
 結果どうなったのかと言うと、街を救った英雄だから当然のように歓待されて、私達の周りには人気絶頂のアイドルに人が集まるように人が群がった。
 ラピスの町でなぜか私は軽視されたけど、私はやはり光の戦姫というブランドを持った人間だった。マルカの持つ炎天の騎士だったという称号も人々から称賛されるのにふさわしいものだったけど、同等かそれ以上の稀少性を「光の戦姫」は持っていた。
 だからもうそれはそれはすごいベタ褒めストームが起こったのだけど、褒め殺しに合いデヘデヘしている私と違って、マルカは一切浮かれることがなく、何か言われても、
「いえ、そんなことないです」
 と言うだけだったから気持ち悪いくらい謙虚だった。
 そんなこんなで祭りの日から浮かれ騒いで2日経った3日目の日。王様が来た時にしか宿泊に使われないという豪華なホテルに我が儘を言って無理矢理泊まらせてもらいそこで朝を迎えた私は、目を覚まして早々に私より早く起きていたマルカにこのようなことを言われた。
「さてツバシ君、そろそろ出発の準備をしましょうか」
 祭りはまだ終わっていなかった。私はもっとこの街の主役でいたかったから、
「イヤだ」
 と言ったのだけど、マルカはそれを許さず、長々とオメガを放置することによってどういう害悪がこの世界にもたらされるのかということを私に説いた。ちなみに、言い終わるのにかかった時間が30分。
 こういう説教じみた話が嫌いだから、最後の方は適当に、
「うん、うん」
 と相槌を打つだけだったのだけど、マルカはそんな私の態度から念には念を押すべきだと思ったらしい。
「ちょっと待ってて」
 と言って一度外に出て行ったかと思うと、5分くらいしてから、
「今受付をしている女の人にこれからすぐ出発するということを告げて来たわ。すぐに都市令さんにも伝えてくれるって」
 と言って戻って来た。私はもう2、3日はここにいると思っていたから、それを聞き、
「何てことするんだっ」
 と怒ったあとに、
「お願い、あと2日だけ」
 と今度は嘆願するようにそう言った。でもマルカはそれを、
「ダメ」
 と斬り捨て、
「今すぐに出発するわよ。このまま甘い汁を吸い続けたら人としてダメになるわ。今回のことで決めたのだけど、オメガを倒すまでもう接待や歓待は受けないようにしましょう。時間をロスするし、精神が弛緩するしで何も良い事ないもの」
 と恐ろしいことを平然とした口調で言ってきた。
「そんな、あんまりだ。それじゃ、何の楽しみもないじゃないか」
 と愚痴っても、
「いい、ツバシ聞いて。旅の楽しみは贅沢をすることではなく、敵を倒すことで得られればいいの。私達にはこの世界を救うという使命があるのだから、己の身は厳しく律しなければならないわ」
 とマルカは聞かず、私を見てムンとした顔を作った。
 私は確かにこの世界の主人公たる光の戦姫だけど、実質的にこの旅の主導権を握っているのは地理に詳しく、戦闘経験も豊富なマルカだった。だからマルカがそこまで言うのなら私も従うしかなく、
「私のアソコを舐めろ」
 と言われたらビンタすればいいけど、それ以外の適切なアドバイスは、マルカの知性や論理性から出たものだから、極力素直に聞かなければならなかった。
「け、分かったよ。そこまで言うなら出発してやるよ」
 ととても主人公とは思えないような発言をして、フカフカのベッドから起き上がり、
「次の目的地はどこだよ?」
 とちょっと高圧的にマルカにそう聞いた。
「ベルモンテという所よ。ここはすごい所よ。何てったって、クロノス大陸で唯一の空中都市ですもの」
 というマルカの発言を受け、興味のある単語が聞こえてきたから、
「空中都市?」
 と聞き返した。すると、
「ええ、空中都市」
 とマルカが頷いた。何だそれすげーなと思った私は、目を輝かせながら、
「どこにあんの?」
 とそう聞いた。すると、
「ここから南西に100キロくらい移動するとオティン湖っていう巨大な湖があるの。そのど真ん中に浮かんでいるのがベルモンテという空中都市よ」
 とマルカ。私の記憶が正しければ今さっきマルカは男性器の名前をかなり発音良く口走ったはずだけど、
「え、オティンコ?」
 と私が聞いても、
「そう、オティン湖」
 と真面目な顔をして言うだけだったから、本人はどうやら男性器を連想して言ったわけではないようだった。言っている途中で吹き出せばいいのに、マルカは真面目だからそういうことをやらない。何こいつつまんねえのとそんなマルカの顔を見て思った私は心に邪なものを持った人間だった。
 それよりもこれから行くことになる空中都市のことだった。空中都市と聞いて真っ先に思い浮かべるのがやはりラピュタだったけど、まさかこの人生でそういう場所に行くことになるとは思わなかったから、ここでの英雄扱いも捨てがたかったけど、子どもが初めてゲームを買ってもらった時のようなトキメキを持って、
「行ってみたい」
 と思った。
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