幻界戦姫

忘草飛鳥

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29、虐殺

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 キララ川を越えてそのまま南進した。私はけっこうお喋りな人間だから、ペチャクチャ喋りながら飛行したのだけど、マルカはよく出来た人間で、そんな私のお喋りにも気軽に付き合ってくれて、時折私の冗談に合わせてクスクス笑い声を立ててくれた。
 川を越えて30分ほど進んだところで徐々にだけど、アークが出現し出した。先の私の発言を尊重してくれたマルカは自分は闘わず私のサポートに回ってくれて、私にメインの戦闘をさせてくれた。
 恐らく武器が優秀だったのだろうけど、戦闘は余裕だった。色々な機械の敵が出て来たけど、どれも一撃で粉砕できて、戦闘慣れしているというのもあって、これが私に強烈な自信を与えてくれた。
 ステータス画面を開いてみたらレベルが予想よりも高い20レベルだったから、これにも気分を良くしてマルカにこんな軽口を叩いたりした。
「どう? 私強くない? 絶対ギガ・アークとかも余裕だって」
 バカみたいな発言だけど、こういう気分が昂っている時は浮かれたことの一つや二つも言ってしまうもので、こういう性格をしているから一度人生を破綻させているのだけど、どうも根本的なことは治らないみたいで、性懲りもなく幼稚な発言をしてしまうのだった。
 ただマルカは私よりも精神が成熟している人間だったから、こういう私の発言を受けてもイヤな顔一つせず、
「うん、ツバシは強いと思う。戦闘に慣れるのも早いし、元々闘う才能もあるんだと思う。頼もしい味方」
 と言ってくれて、私の士気を大いに引き上げてくれた。こういう時にたしなめられたりすると、私はたしなめられた分だけやる気を失くすから、マルカはその点私という人間をよく分かっているみたいだった。
 そんな調子で一時間ほど飛行したのだけど、ある時いきなりマルカの顔色が変わって私が声をかけても何も言わなくなった時があった。不審に思ったから、
「どうしたの?」
 とマルカの方を見てみると、マルカは怒りとか憎しみとかそんな感じのマイナスの感情が交ざり合ったような顔をして、
「ツバシ、ツバシって今までの人生で何かひどいもの見たことある?」
 とそのようなことを聞いてきた。どうしてそんなことを聞かれるのか分からなかったけど、
「ひどいもの?」
 と反復したあとに、
「いや、特にはないよ。強いて言うなら、小学生の時車にひかれる猫を見たことがあるくらいかな」
 とそう言った。それを聞き、
「そう」
 と返して一時黙ったマルカだったけど、しばらくしてから、
「もしかしたら、これから何かひどいものを見るかもしれないから心の準備をしておいて。あと、もしひどいものを見たとしてもそれに負けちゃダメ。そこで憎しみが生じたとしても、それに負けるんじゃなくて、それをバネに強くなろう、強くなってもっと色々なものを守れるようになろうって思うの。いきなりは厳しいかもしれないけど、その考えは頭に入れておいて」
 とそう言った。何かずっと恐い顔だったから、
「何かあったの?」
 と聞いてみると、
「ツバシにはまだ分からないかもしれないけど、風に運ばれて血と何かが焼けるニオイがするの。あと、大分遠方のネストの村がある辺りから煙が上がってる。多分ギガ・アークのしわざ」
 とマルカにそう言われた。
「それってつまりどういうこと? もしかして戦闘中っていうこと?」
「多分違うと思う。もう戦闘は終わってるの。じゃなかったら、こんなにひどいニオイするわけない」
「え、じゃあ」
 と私が言ったところでマルカが軽く頷いた。
「みんな殺されてる」
 それを聞いて思ったのが、
「そんな、まさか」
 ということだった。
 ゲームの世界でそんな殺戮みたいなことが起こるとは思えなかったから、変な冗談でも聞いている気分だった。
 確かにゲームによってはそういう陰惨なものが出る物もあるだろうけど、少なくとも私の持っているゲーム観は子どもが楽しんで遊ぶ夢のあるものというもので、間違っても殺し殺されという生々しいものが出現するものではなかった。
 だからどうしても、マルカが言ったことをうまく理解できないでいた。
 それから15分ほど飛行してネストの村に来着した。
 そこで私達が見たものは、焼けただれた死体や倒壊した家屋で、来る途中から変なニオイがしたり、黒ずんだ景色が見えていたから地獄の入り口に立ったような気分にはなっていたのだけど、こうして村の入り口に下り立って始めて、目の前に地獄絵図が広がっているのだということを思い知らされた。
 呆然と目の前の情景を見て立ち尽くす。とてもここでは言えないような無残な殺され方をした人達を見て頭が真っ白になった私とは対照的に、マルカは村の入り口に下り立つとすぐに中まで入って行って生存者の確認をし始めた。でも戻って来て言うことには、
「ダメだった、生存者は誰もいない」
 とのことで、口を開けてバカみたいな顔をしている私と違って、冷静かつ状況に合わせた合理的な行動を取っていた。
 視線を移して全身ケロイドみたいになっている子どもの死体を見ているところでゲロを吐いた。そんな私の背中を、
「大丈夫?」
 とマルカはさすってくれて、そのまま私が泣き出すと、
「ツバシは優しいから」
 とそんな慰めの言葉をかけてくれた。
 もう何が何だか分からなかった。
 最後にバカなことをしたとは言うものの、私は向こうの世界でずっと平和に生きてきた。
 手足が千切れていたる所に飛び散っている光景も、人なのか何なのかよく分からない肉の塊が路上にグチャッとなっている様子も見ることがなかった。
 細部を言えばもっとおぞましいものがあったけど、一つだけ言えるのは、この虐殺を行ったイオタとかいうクソ野郎は恐ろしく残忍で、殺しを楽しむ癖があるということだった。そうでなければ、こんなにひどい殺され方をした惨殺体が路上に転がるわけがなかった。
「私が甘かった」
 そう言った私は、もう今いる所はゲームの世界だという考えを捨てることにした。私の認識は甘く、ここをどこかのテーマパークと勘違いしている節があった。
 そしてもう一つ決めたことがあった。それはイオタとかいうクソ野郎を私がこの手で必ず倒すということで、その際はカケラも残らないほどの打撃を与え、この世界から消滅させてやるつもりだった。
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