3 / 32
第一章
3 再会
しおりを挟む
桜の花びらがはらりと落ちて、三月の右肩にくっついた。
頭上で揺れる枝には、鮮やかな若緑色の葉。地面の赤茶色のタイルには、薄紅色の絨毯が敷かれている。桜の時期は思っているよりもずっと短い。
新入生を対象としたオリエンテーションの後、三月は久々に会った友人と大学を歩いていた。
地元の隣県に在るこの大学は見知った顔も多く、安心感を覚える。
この大学のキャンパスは正直狭い。テニスコートやグラウンド、三つの棟に、図書館と食堂などが入った学生会館、それらがぎゅっと一ヶ所に詰め込まれている。最寄駅からバスで山道を登った先にあり、周囲を自然で囲まれた閑静な場所にあった。
しかし、実家も似たような所にあるため、三月にとっては親近感が湧く土地でもある。
今三月たちが歩いているのは、図書館前の中庭だ。等間隔で立ち並ぶ桜の木と、その下に置かれた木製のベンチ。春風が柔らかく吹き抜け、彼女たちの頬を撫でていく。
とても気持ちの良い場所だ。天気の良い日にここでランチを食べたら最高だろう。
そこは一目で、三月お気に入りの場所となってしまった。
「ねえ、これからどうする?」
そう問いかけてきたのは、高校からの同級生佐藤明美だ。大学入学を期に染めたのだという栗色の髪は、正直まだ見慣れない。しかし、高校の頃からショートカットで活発な印象を受ける明美に、その色はとても似合っていると感じた。
三月は髪を染めることなく、黒っぽい地毛を肩まで伸ばしている。なんとなく自分に明るい色は似合わないと思っていたからである。
「確か、B棟の一階にコンビニが入ってたよね。そこで何か買って、お昼にしようか」
三月は覚えたての地図を思い浮かべると、明美にそう答える。
「そうね。今日は天気も良いし、外で食べるのも楽しいかも! あ、でも今は人がいるね」
明美の声に釣られて、三月は視線を移動させる。
二つ並んだベンチ、彼女が指差した方に男性が一人腰掛けていた。
途端、三月の頭に数日前の光景が蘇ってくる。
早朝の冷たい空気に溶ける柔らかな歌声と、風になびく茶色の髪。
あの歌の青年が、目の前のベンチに腰かけていた。
「あ……」
視線を感じたのか、青年が顔を上げる。彼は目を見開き、やがて苦笑しこちらに向かって会釈した。
三月も慌てて頭を下げる。
「え、え? 三月、あの人と知り合い?」
「う、ん。知り合いって言うか……」
そう言えばあの時、逃げるように去ってしまった。人からじろじろ見られるなんてあまり気持ちの良いものじゃない。
もう少しきちんと謝った方が、良いかもしれない。
「ごめん、明美! 先にコンビニ行っててくれる? すぐ済むから」
「え? うん分かった」
友人に断ってから、三月は青年へ走り寄った。
彼は組んだ両手を膝の上に乗せ、前かがみになってベンチに腰をかけている。
近づいてきた三月に、彼は笑みを浮かべた。
「元気、みたいだね。良かった」
不意に告げられた言葉に、三月はかけるはずだった言葉を飲み込んだ。
「あ、あの、その、この前は」
「とりあえず、座る?」
彼が座っている場所をずらして、一人分の座るスペースを作ってくれる。
このままでは彼を見下ろすことになってしまうので、三月は大人しく腰かけた。
スカートの裾が青年の指にかかり、慌ててさりげなく距離をとる。
「えっと、この前は、どうも。じろじろ見てしまって、すみませんでした」
結局気のきいた言葉は何も想い浮かばず、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
「いや。こちらこそ、なんかごめん。朝からあんなところで歌ってたら、驚くよね」
「いえ、驚いたことは驚いたんですけど、そういう意味じゃなくて」
慌てて否定したものの、あなたの歌っていた歌が夢の中で聞いた歌と同じだったから驚いた、なんて言えるはずもない。
隣の青年は不思議そうに首を傾げている。年上、だろうと思うのだが、その仕草はまるで小さな子供のようだった。
異性と二人きりで話した経験などなく、緊張も相まって言葉が出てこない。
三月がしばらく黙っていると、彼がにっこり微笑んで口を開く。
「あっ、名乗り忘れてた。僕、神崎優太。いちおう文学部の二年生なんだけど……君、一年生?」
「そ、そうです。今年入学しました、中山三月と申します。よろしくお願いします。あ、私も同じ文学部です」
青年、神崎優太は自分に気を遣い、先に自己紹介をしてくれたようだ。申し訳なさを感じながらも安堵して、三月も自分の名前を告げた。
「同じ学部なんだね。こちらこそ、よろしく」
そう言って、優太はまた微笑んだ。春の日差しにも似た柔らかな雰囲気に、自然と肩の力が抜けていく。
「さっき言ったことは、あまり気にしないで下さい。とにかく、ちゃんと謝りたかっただけなので」
三月がそう言うと、彼は目を丸くして頭をかいた。
「え、わざわざ? なんだか気を遣わせたみたい」
「いいえ! 私も気にしすぎだって言われるんで、気にしないで下さい」
優太は力を抜くように笑うと、視線を上げた。
釣られて三月も空を見上げる。空の青色と雲の白色が綺麗なコントラストをつくっていた。
本当に、良い天気だ。
「僕、たまに早く目が覚めたりすると、ああやって出かけて、適当な場所でぼーっとしてるんだ。おじいさんみたいな趣味だって、いつも言われるんだけどね」
「でも、こんな天気の良い日だと、ぼーっとしたくなるのも分かります」
日差しも柔らかで、桜の木もどこか嬉しそうに見える。風で葉が擦れる音が耳を優しくくすぐった。
こうやって日中のんびりと過ごすことなんて、なかった。
こういう日もいいな。
三月がふと隣を見ると、嬉しそうに微笑む優太と目があった。瞳はやはり、綺麗な色をしている。
「そう言ってくれると嬉しいよ。僕の周り、口が悪い奴しかいないんだから」
「そう、なんですか?」
意外です、と三月が呟いたタイミングで、勢いよく肩に手が乗った。
驚いた優太と三月は、軽く悲鳴を上げる。
嘲笑うような笑い声が聞こえ、優太と三月の間を割るように誰かの顔が入ってきた。
「そんなに驚くことねぇだろ。つーか、『口が悪い奴』ってのは俺のことか、優太?」
三月の目に、明らかに染めたと分かる金髪が飛び込んでくる。ワックスか何か、整髪料独特の香りが鼻をついた。
「お前以外に誰がいるんだよ、真志」
「自覚してないわけじゃねぇけど。で、お前は珍しく女子にちょっかい出してんの?」
真志と呼ばれた男性が、こちらに顔を向けた。
顔が近い。顔立ちは整っているが、鋭い目つきと明るい髪色、左耳のピアスなどが、どうも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
優太の柔らかい雰囲気とは大違いだ。優太がふわふわなら、こちらはギラギラだ。
思わず三月は身体を強張らせる。
「真志。中山さんが嫌がってるから、離れろよ」
「あー……いかにも男慣れしてなさそうだもんなぁ」
優太は三月の表情の変化から察してくれたのだろう。しかし、真志は三月を呆れたような眼差しで眺めたまま、肩に乗せた手も離そうとしない。
なんとなく馬鹿にされているような気がして、三月は両膝の上でぐっと拳を握り、彼を睨みつけた。
「そっ、それが何か悪いんですか……っ!?」
「いや、別にぃ。まあ枯れてる優太の隣だったらお似合いかもね」
再び彼は歯を見せて笑う。やはりこれはからかわれている。早く帰りたい。
先程と違って、三月はそんなことを考え始めた。
「おーい、宮本! 飯食いに行くんじゃなかったのか?」
「真志。向こうで呼んでるの、お前の友達じゃないのか?」
優太が指差すと、真志と同じような雰囲気の男子が何人かいて、彼に向かって手を振っている。
「おっと、人気者は辛いよな。じゃあな、優太」
自分が呼ばれていると分かると、真志はパッと三月から手を離し、友人の元へ行ってしまう。
あんなに絡んでいたくせに、三月のことなどどうでも良いというような態度だ。
「なんなんですか、あの人」
つい口調が刺々しいものになってしまう。
「えっと、ごめんね。アイツ、経済学部の宮本真志って言うんだけど……」
優太は苦笑しながら、友人と馬鹿笑いをしている真志を眺めている。
彼は表情を少し曇らせながら呟く。
「優しくないけど、良い奴だよ」
「どういう、意味ですか?」
三月がそう問いかけても、優太は何も答えず無言で微笑んでいた。
頭上で揺れる枝には、鮮やかな若緑色の葉。地面の赤茶色のタイルには、薄紅色の絨毯が敷かれている。桜の時期は思っているよりもずっと短い。
新入生を対象としたオリエンテーションの後、三月は久々に会った友人と大学を歩いていた。
地元の隣県に在るこの大学は見知った顔も多く、安心感を覚える。
この大学のキャンパスは正直狭い。テニスコートやグラウンド、三つの棟に、図書館と食堂などが入った学生会館、それらがぎゅっと一ヶ所に詰め込まれている。最寄駅からバスで山道を登った先にあり、周囲を自然で囲まれた閑静な場所にあった。
しかし、実家も似たような所にあるため、三月にとっては親近感が湧く土地でもある。
今三月たちが歩いているのは、図書館前の中庭だ。等間隔で立ち並ぶ桜の木と、その下に置かれた木製のベンチ。春風が柔らかく吹き抜け、彼女たちの頬を撫でていく。
とても気持ちの良い場所だ。天気の良い日にここでランチを食べたら最高だろう。
そこは一目で、三月お気に入りの場所となってしまった。
「ねえ、これからどうする?」
そう問いかけてきたのは、高校からの同級生佐藤明美だ。大学入学を期に染めたのだという栗色の髪は、正直まだ見慣れない。しかし、高校の頃からショートカットで活発な印象を受ける明美に、その色はとても似合っていると感じた。
三月は髪を染めることなく、黒っぽい地毛を肩まで伸ばしている。なんとなく自分に明るい色は似合わないと思っていたからである。
「確か、B棟の一階にコンビニが入ってたよね。そこで何か買って、お昼にしようか」
三月は覚えたての地図を思い浮かべると、明美にそう答える。
「そうね。今日は天気も良いし、外で食べるのも楽しいかも! あ、でも今は人がいるね」
明美の声に釣られて、三月は視線を移動させる。
二つ並んだベンチ、彼女が指差した方に男性が一人腰掛けていた。
途端、三月の頭に数日前の光景が蘇ってくる。
早朝の冷たい空気に溶ける柔らかな歌声と、風になびく茶色の髪。
あの歌の青年が、目の前のベンチに腰かけていた。
「あ……」
視線を感じたのか、青年が顔を上げる。彼は目を見開き、やがて苦笑しこちらに向かって会釈した。
三月も慌てて頭を下げる。
「え、え? 三月、あの人と知り合い?」
「う、ん。知り合いって言うか……」
そう言えばあの時、逃げるように去ってしまった。人からじろじろ見られるなんてあまり気持ちの良いものじゃない。
もう少しきちんと謝った方が、良いかもしれない。
「ごめん、明美! 先にコンビニ行っててくれる? すぐ済むから」
「え? うん分かった」
友人に断ってから、三月は青年へ走り寄った。
彼は組んだ両手を膝の上に乗せ、前かがみになってベンチに腰をかけている。
近づいてきた三月に、彼は笑みを浮かべた。
「元気、みたいだね。良かった」
不意に告げられた言葉に、三月はかけるはずだった言葉を飲み込んだ。
「あ、あの、その、この前は」
「とりあえず、座る?」
彼が座っている場所をずらして、一人分の座るスペースを作ってくれる。
このままでは彼を見下ろすことになってしまうので、三月は大人しく腰かけた。
スカートの裾が青年の指にかかり、慌ててさりげなく距離をとる。
「えっと、この前は、どうも。じろじろ見てしまって、すみませんでした」
結局気のきいた言葉は何も想い浮かばず、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
「いや。こちらこそ、なんかごめん。朝からあんなところで歌ってたら、驚くよね」
「いえ、驚いたことは驚いたんですけど、そういう意味じゃなくて」
慌てて否定したものの、あなたの歌っていた歌が夢の中で聞いた歌と同じだったから驚いた、なんて言えるはずもない。
隣の青年は不思議そうに首を傾げている。年上、だろうと思うのだが、その仕草はまるで小さな子供のようだった。
異性と二人きりで話した経験などなく、緊張も相まって言葉が出てこない。
三月がしばらく黙っていると、彼がにっこり微笑んで口を開く。
「あっ、名乗り忘れてた。僕、神崎優太。いちおう文学部の二年生なんだけど……君、一年生?」
「そ、そうです。今年入学しました、中山三月と申します。よろしくお願いします。あ、私も同じ文学部です」
青年、神崎優太は自分に気を遣い、先に自己紹介をしてくれたようだ。申し訳なさを感じながらも安堵して、三月も自分の名前を告げた。
「同じ学部なんだね。こちらこそ、よろしく」
そう言って、優太はまた微笑んだ。春の日差しにも似た柔らかな雰囲気に、自然と肩の力が抜けていく。
「さっき言ったことは、あまり気にしないで下さい。とにかく、ちゃんと謝りたかっただけなので」
三月がそう言うと、彼は目を丸くして頭をかいた。
「え、わざわざ? なんだか気を遣わせたみたい」
「いいえ! 私も気にしすぎだって言われるんで、気にしないで下さい」
優太は力を抜くように笑うと、視線を上げた。
釣られて三月も空を見上げる。空の青色と雲の白色が綺麗なコントラストをつくっていた。
本当に、良い天気だ。
「僕、たまに早く目が覚めたりすると、ああやって出かけて、適当な場所でぼーっとしてるんだ。おじいさんみたいな趣味だって、いつも言われるんだけどね」
「でも、こんな天気の良い日だと、ぼーっとしたくなるのも分かります」
日差しも柔らかで、桜の木もどこか嬉しそうに見える。風で葉が擦れる音が耳を優しくくすぐった。
こうやって日中のんびりと過ごすことなんて、なかった。
こういう日もいいな。
三月がふと隣を見ると、嬉しそうに微笑む優太と目があった。瞳はやはり、綺麗な色をしている。
「そう言ってくれると嬉しいよ。僕の周り、口が悪い奴しかいないんだから」
「そう、なんですか?」
意外です、と三月が呟いたタイミングで、勢いよく肩に手が乗った。
驚いた優太と三月は、軽く悲鳴を上げる。
嘲笑うような笑い声が聞こえ、優太と三月の間を割るように誰かの顔が入ってきた。
「そんなに驚くことねぇだろ。つーか、『口が悪い奴』ってのは俺のことか、優太?」
三月の目に、明らかに染めたと分かる金髪が飛び込んでくる。ワックスか何か、整髪料独特の香りが鼻をついた。
「お前以外に誰がいるんだよ、真志」
「自覚してないわけじゃねぇけど。で、お前は珍しく女子にちょっかい出してんの?」
真志と呼ばれた男性が、こちらに顔を向けた。
顔が近い。顔立ちは整っているが、鋭い目つきと明るい髪色、左耳のピアスなどが、どうも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
優太の柔らかい雰囲気とは大違いだ。優太がふわふわなら、こちらはギラギラだ。
思わず三月は身体を強張らせる。
「真志。中山さんが嫌がってるから、離れろよ」
「あー……いかにも男慣れしてなさそうだもんなぁ」
優太は三月の表情の変化から察してくれたのだろう。しかし、真志は三月を呆れたような眼差しで眺めたまま、肩に乗せた手も離そうとしない。
なんとなく馬鹿にされているような気がして、三月は両膝の上でぐっと拳を握り、彼を睨みつけた。
「そっ、それが何か悪いんですか……っ!?」
「いや、別にぃ。まあ枯れてる優太の隣だったらお似合いかもね」
再び彼は歯を見せて笑う。やはりこれはからかわれている。早く帰りたい。
先程と違って、三月はそんなことを考え始めた。
「おーい、宮本! 飯食いに行くんじゃなかったのか?」
「真志。向こうで呼んでるの、お前の友達じゃないのか?」
優太が指差すと、真志と同じような雰囲気の男子が何人かいて、彼に向かって手を振っている。
「おっと、人気者は辛いよな。じゃあな、優太」
自分が呼ばれていると分かると、真志はパッと三月から手を離し、友人の元へ行ってしまう。
あんなに絡んでいたくせに、三月のことなどどうでも良いというような態度だ。
「なんなんですか、あの人」
つい口調が刺々しいものになってしまう。
「えっと、ごめんね。アイツ、経済学部の宮本真志って言うんだけど……」
優太は苦笑しながら、友人と馬鹿笑いをしている真志を眺めている。
彼は表情を少し曇らせながら呟く。
「優しくないけど、良い奴だよ」
「どういう、意味ですか?」
三月がそう問いかけても、優太は何も答えず無言で微笑んでいた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中

夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる