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第二章 職人修行と令嬢襲来!?

第11話 お披露目

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「ちょうど良い。私たちは御者や他のお付きの方々と、魔法具を運ぶ時のことを相談してくるよ。繊細なものもあるからね、注意することや運び方なんかを伝えておかないと。ほら! ついでにザックも着いてきて、魔法具の扱いってもんを聞いていきな!」
「え、おれも!?」

 ニーナは職人たちと、ついでにザックを引き連れて倉を出ていく。扉がしまって喧騒が遠ざかると、タチアナとローズマリー、そしてライサの三人だけになってしまった。
 森の中にいるような、真新しい木々の香りが鼻腔をくすぐる。作った嫁入り道具に、木材が使われているからだろう。
 倉の中は癒やしの香りで満たされているにも関わらず、タチアナは苛立った様子で爪先で床を数回叩く。そして、ライサを軽く睨みつけた。

「それで、わたくしに渡したいものってなんですの?」
「お嬢様。その前に、わたくしの方からよろしいでしょうか」
 ライサが反応する前に、ローズマリーがいち早く声を発してこちらを見た。
 彼女の視線を受けたライサは頷き、しゃがみ込んで足元のトランクを開く。そして中から丁寧に布でくるまれた物を取り出した。それほど大きなものではない。両手のひらでつかんで持てるくらいの大きさだ。

「こちらが、頼まれていた品です」
「ありがとうございます」
 ライサたちのやり取りに、タチアナは訳が分からず目を白黒させている。
 ローズマリーは受け取ったものを両手で持ち、タチアナの目の前まで足を進めた。
「お嬢様。わたくしからも、お渡ししたいものがあるのです」
「貴女が?」

 頷いたローズマリーが、布の結び目を解く。布をはぎ取っていくと、ルビーのような色をした円柱状の入れ物が現れた。
 つるりとした光沢のある材質は、陶磁器のようにも見える。蓋には留め金がついており、中身を密封できる造りになっているようだ。
「これは何ですの?」

「紅茶用のキャニスターです。中にはわたくしが選んだ茶葉が入れてあります。お嬢様が昔から好んで飲んでいらっしゃったものです。細やかながらこちらを、私からの結婚祝いとしてお嬢様に差し上げたいと」
 タチアナは唇を薄く開いたまま、キャニスターを受け取った。視線を落とし、手元を呆然と見つめている。

「ライサ様たちにお願いして、密封性と防湿効果に優れた素材を使用してありますが、完璧ではありませんのでご注意を。もちろん、保管するときはしっかりと蓋を閉めてくださいませ」
「お待ちなさい! 一体、これは何ですの⁉︎ その方にお願いしたって、ローズマリーからって……どういうつもりで突然こんな」

 声を荒らげたタチアナは、瞳を潤ませて俯いた。歯を食いしばり、林檎色の頬の赤みが増している。怒りのような悲しみのような複雑な表情を浮かべていた。
 ライサは心配になってきて、おろおろと視線をさ迷わせる。
「お嬢様は」
 彼女は目を伏せて、静かな声を発した。

「我儘でお転婆で、いつまで経っても幼子のようで。こんなお嬢様が、商家の妻だなんて勤まるのだろうかと、正直今も心配でございます」
 ですが、と言葉を区切り、ローズマリーは目を丸くしているタチアナを、柔らかい眼差しで見つめた。

「身分の差など関係なく、皆に分け隔てなく接するその御心や、実は人一倍努力家なところ。それはお嬢様が持たれていた、そして磨かれてきた魅力でございます。それさえあれば、見知らぬ新たな国でも問題なくやっていけることでしょう。この贈り物は私が、お嬢様の新たな門出を祝うものでございます。この度のご結婚、誠におめでとうございます」

 タチアナは絶句して、唇を震わせた。
「いまさら……」
 細くて形の良い眉が吊り上がり、叫ぶように言葉をぶつける。

「今更、わたくしを褒めるなんてどう言うおつもりかしら⁉︎ 最後だから、優しくしておこうって、そう言うことですの⁉︎ 新たな国でも大丈夫ですって、何を根拠に! お相手がどんな人かも分からず、見知らぬ土地に一人で放り出されて、こっちは不安でどうにかなってしまいそうですのに『おめでとうございます』? こんな結婚、祝われたくなんかないですわ!」

「待ってください誤解です!」
 タチアナがキャニスターを振りかぶったのを見て、ライサは慌てて叫ぶ。
 突然の鋭い大声に驚いたのか、間一髪でタチアナの動きが止まった。

「ローズマリーさんは、そんなつもりで贈り物をしたんじゃありません。貴女の幸せを心から願って、貴女の背中を押すつもりで、その贈り物を渡すことにしたんです。嫌な意味なんて、あるはずないじゃないですか⁉︎ だって、お勉強の合間に紅茶を飲むことは、お二人にとってかけがえのない思い出だったんでしょう?」

『紅茶のキャニスターを作ってくださいますか? 茶葉が湿気に負けてしまわないように、しっかりと密封できる容器がよろしいかと。中に入れる茶葉は私が選びます。ティータイムはわたくしにとって、お嬢様と過ごした幸せな思い出の一つですから』
 そう言っていたローズマリーの瞳は、少し寂しげな温かい光を湛えていた。

 タチアナがゆっくりと視線をローズマリーに向ける。眼鏡の奥の両目が、優しくタチアナを見守っていた。
「それに、知り合って間もない私の目から見ても、タチアナ様はどこに行ったって絶対に幸せをつかめる方だと思います」
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