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第1章 嫁入りは突然に。そして新生活。
第6話 プロポーズ!?
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「な、なんだって……!?」
ライサの言葉に、ロジオンが身を乗り出して叫ぶ。何故か少し嬉しそうにも見える。
「まさかライサちゃん、本当にザックのヤツに惚れちまったのか!?」
「馬鹿、そんな訳ないだろ!? じいさんのクセに、どれだけふわっふわの頭してんだい!」
ライサが否定する間もなく、ニーナがロジオンを叱り飛ばす。その勢いに呑まれ、ライサは目をしばたたかせた。
ニーナは、全くお前さんは、と呆れた様子で呟いたあと、眉を寄せて静かな口調で告げる。
「……ライサ。うちの連中のことなら心配しないでくれよ。勝手に勘違いして、勝手に盛り上がってただけだからね」
それとも何か理由があるのかい。
ニーナの問いかけに、ライサは言葉を選びながら事情を説明し始めた。
「婚姻が無事に成立したら、宰相様か私の叔父家族を二つ上の層に住まわせてくださると。生活に困らないだけの祝い金も出るそうです。叔父は足が不自由で従姉妹は体が弱くて、私がいくら働いても生活は少しも良くならなくて……。でも私がスノーダルに嫁入りするだけで、叔父たちの生活は前よりずっと楽になります。だから、その」
これは、自分の我が儘だ。スノダールの人々を巻き込んでしまうことになるけれど。
「お願いします。嫁入りがダメなら、なんでも、どんなことでもしますから、スノダールにいさせてください」
ナターリアの身代わりを申し出た時のように、ライサは深く頭を下げた。
長い沈黙が訪れる。閉じられたガラス窓に寒風が吹き付けて、ガタガタと激しく音を鳴らした。
「なぁ」
沈黙を破り、声を上げたのはザックである。ゆっくりと立ち上がってライサの下へ近づき、力を抜くようにしてにっこりと笑った。
「ライサ、だっけ? もしかしてきみなら魔核の殻、割れるんじゃないかな」
え、と口を開き、ライサは呆然と彼の顔を見上げる。身を屈め、彼はライサの両手をそっと取った。
「やっぱり。日常的に何かを握ってる、真面目に働いている人の手だ。うん、大丈夫。ちょっとやってみてくれよ、な?」
ザックはニコニコ笑いながらライサの手を引き、先程魔核を粉々にした奥の作業場へ連れていく。
そして、あれよという間にライサは作業場で斧を握らされ、台に置かれた魔核の前に立たされた。
「ザック! 突然、何のつもりだい⁉︎」
「ライサちゃんが困ってるじゃねえか! 初めてで魔核の殻が割れるわけねえだろ?」
「まあまあ、良いじゃない、二人とも。割れなかったとしても、俺みたいに粉々にするわけじゃないんだし。ちょっとやってみてもらおうぜ」
作業場に入ってきた二人を宥め、ザックはライサに笑いかける。柔らかい笑みはライサの緊張をほぐしてくれて、目の前の状況に集中することができた。
彼の真意は不明だが、これは自分のできることを示すチャンスかもしれない。
ライサはいつも仕事の時にしているように、すぼめた口からふうと息を吐く。両足を肩幅に開いて、両手で強く柄を握った。
この感触、この斧はやはり自分が使っていたものと同じだ。斧の刃を台に当てて位置を調整する。台座は丸太で作られており、薪割り台とそっくりで感覚が掴みやすかった。
力ではなく、斧自体の重さを利用するのがコツ。
ライサは腕を振り上げ、魔核めがけて振り下ろした。
澄んだ音が耳元で弾ける。流麗な竪琴の音のようで、美しい音色だった。次いでキラキラと、ダイヤモンドダストのような細かい粒子が目の前を舞う。
失敗した。そう思ったライサの視界の端に、鮮やかな緋色の光が映る。まるで生き物のように大きく脈打ち、一度膨張した光が再び一点に集約されていく。
その身の鮮やかさを増した球体が、どこか厳かに鎮座していた。
これが、魔核。
「嘘だろ……? 一発で、殻が割れるなんて……」
ロジオンが唇を戦慄かせ、呟いた。声こそ出さないものの、ニーナも目を大きく見開いて驚いている。
「すげぇ、思った通りだ! やったな、ライサ!」
ザックが飛び上がらんばかりの勢いで叫んだ。
成功、したのだ。
ライサはどこかふわふわとした気持ちのまま、ゆっくりと顔を上げる。
温かい深紅色の瞳の中に、いつもより目を大きくした自分が映っていた。ザックがとても嬉しげな顔をして、ライサを見つめていたのである。
「ライサ……」
低い声で名を呼ばれ、ライサの片手を大きな両手がすっぽりと包み込む。手袋をつけていない彼の手は、少し汗ばみじんわりと熱を持っていた。
熱を分け与えてもらったかのように、どんどんライサの頬が赤く染まっていく。
どうしたのだろう。まるで告白でもしそうな熱っぽさ。いや、まさかこの私に対して、そんなことをする人なんているはずがない。
恥ずかしい。けれど、視線を外すことも、手を振りほどいたりすることもできない。
すっかり固まってしまったライサに、ザックはルビーのようは瞳を輝かせて告げた。
「ライサ! おれと一緒に、最強の魔法具職人になってください!」
「…………は?」
熱が一気に冷めていったライサは、眉を寄せ疑問の声を上げた。
ライサの言葉に、ロジオンが身を乗り出して叫ぶ。何故か少し嬉しそうにも見える。
「まさかライサちゃん、本当にザックのヤツに惚れちまったのか!?」
「馬鹿、そんな訳ないだろ!? じいさんのクセに、どれだけふわっふわの頭してんだい!」
ライサが否定する間もなく、ニーナがロジオンを叱り飛ばす。その勢いに呑まれ、ライサは目をしばたたかせた。
ニーナは、全くお前さんは、と呆れた様子で呟いたあと、眉を寄せて静かな口調で告げる。
「……ライサ。うちの連中のことなら心配しないでくれよ。勝手に勘違いして、勝手に盛り上がってただけだからね」
それとも何か理由があるのかい。
ニーナの問いかけに、ライサは言葉を選びながら事情を説明し始めた。
「婚姻が無事に成立したら、宰相様か私の叔父家族を二つ上の層に住まわせてくださると。生活に困らないだけの祝い金も出るそうです。叔父は足が不自由で従姉妹は体が弱くて、私がいくら働いても生活は少しも良くならなくて……。でも私がスノーダルに嫁入りするだけで、叔父たちの生活は前よりずっと楽になります。だから、その」
これは、自分の我が儘だ。スノダールの人々を巻き込んでしまうことになるけれど。
「お願いします。嫁入りがダメなら、なんでも、どんなことでもしますから、スノダールにいさせてください」
ナターリアの身代わりを申し出た時のように、ライサは深く頭を下げた。
長い沈黙が訪れる。閉じられたガラス窓に寒風が吹き付けて、ガタガタと激しく音を鳴らした。
「なぁ」
沈黙を破り、声を上げたのはザックである。ゆっくりと立ち上がってライサの下へ近づき、力を抜くようにしてにっこりと笑った。
「ライサ、だっけ? もしかしてきみなら魔核の殻、割れるんじゃないかな」
え、と口を開き、ライサは呆然と彼の顔を見上げる。身を屈め、彼はライサの両手をそっと取った。
「やっぱり。日常的に何かを握ってる、真面目に働いている人の手だ。うん、大丈夫。ちょっとやってみてくれよ、な?」
ザックはニコニコ笑いながらライサの手を引き、先程魔核を粉々にした奥の作業場へ連れていく。
そして、あれよという間にライサは作業場で斧を握らされ、台に置かれた魔核の前に立たされた。
「ザック! 突然、何のつもりだい⁉︎」
「ライサちゃんが困ってるじゃねえか! 初めてで魔核の殻が割れるわけねえだろ?」
「まあまあ、良いじゃない、二人とも。割れなかったとしても、俺みたいに粉々にするわけじゃないんだし。ちょっとやってみてもらおうぜ」
作業場に入ってきた二人を宥め、ザックはライサに笑いかける。柔らかい笑みはライサの緊張をほぐしてくれて、目の前の状況に集中することができた。
彼の真意は不明だが、これは自分のできることを示すチャンスかもしれない。
ライサはいつも仕事の時にしているように、すぼめた口からふうと息を吐く。両足を肩幅に開いて、両手で強く柄を握った。
この感触、この斧はやはり自分が使っていたものと同じだ。斧の刃を台に当てて位置を調整する。台座は丸太で作られており、薪割り台とそっくりで感覚が掴みやすかった。
力ではなく、斧自体の重さを利用するのがコツ。
ライサは腕を振り上げ、魔核めがけて振り下ろした。
澄んだ音が耳元で弾ける。流麗な竪琴の音のようで、美しい音色だった。次いでキラキラと、ダイヤモンドダストのような細かい粒子が目の前を舞う。
失敗した。そう思ったライサの視界の端に、鮮やかな緋色の光が映る。まるで生き物のように大きく脈打ち、一度膨張した光が再び一点に集約されていく。
その身の鮮やかさを増した球体が、どこか厳かに鎮座していた。
これが、魔核。
「嘘だろ……? 一発で、殻が割れるなんて……」
ロジオンが唇を戦慄かせ、呟いた。声こそ出さないものの、ニーナも目を大きく見開いて驚いている。
「すげぇ、思った通りだ! やったな、ライサ!」
ザックが飛び上がらんばかりの勢いで叫んだ。
成功、したのだ。
ライサはどこかふわふわとした気持ちのまま、ゆっくりと顔を上げる。
温かい深紅色の瞳の中に、いつもより目を大きくした自分が映っていた。ザックがとても嬉しげな顔をして、ライサを見つめていたのである。
「ライサ……」
低い声で名を呼ばれ、ライサの片手を大きな両手がすっぽりと包み込む。手袋をつけていない彼の手は、少し汗ばみじんわりと熱を持っていた。
熱を分け与えてもらったかのように、どんどんライサの頬が赤く染まっていく。
どうしたのだろう。まるで告白でもしそうな熱っぽさ。いや、まさかこの私に対して、そんなことをする人なんているはずがない。
恥ずかしい。けれど、視線を外すことも、手を振りほどいたりすることもできない。
すっかり固まってしまったライサに、ザックはルビーのようは瞳を輝かせて告げた。
「ライサ! おれと一緒に、最強の魔法具職人になってください!」
「…………は?」
熱が一気に冷めていったライサは、眉を寄せ疑問の声を上げた。
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