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第五章
対抗戦、開始! 2
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「おっしゃー、じゃなーい!」
路上に投げ出される騎手と騎馬の群れを前に、さしものレリルも顔を青ざめさせていた。
一応は落馬した連中を踏まないように気遣い、レリルが駆る(ように見えている)颯真は、馬とは思えない巧みなステップを披露する。
少し遅れて、観客席から怒涛の歓声が沸き起こっていた。
その歓声は完全に二分されており、一方は南北含めたシービスタの住人で、落胆・悲嘆・怒号が入り混じっている。
もう一方は、他所から来訪している観客で、こちらは純粋な歓呼の声だ。
もっとも馬が人馬を跳ね飛ばすなどの非常識、部外者にはレースを盛り上げるための仕込みくらいにしか思っていないのかもしれないが。
「うむ、掴みはオッケー」
「なわけないでしょ! って、ああああ! 前、前! 颯真ー! あああああ――」
爆発的な突進に、早くも最初のカーブが目前に迫っていた。
すでにこの時点で颯真の速度はトップスピードに近い。
ただでさえ、大幅な減速が必要なところだが、颯真に速度を緩める気配は微塵もない。
このスピードでは曲がるどころか、そのままコースを隔てる壁に突貫する勢いである。
「あああああああああああ――」
颯真の馬上でレリルが手綱を握り締めながら、壊れた人形のように大口を開けてカクンカクンしていた。
すでに放心しており、魂が抜けかけている。
そんなレリルを前(上?)にしても、颯真は余裕だった。
実のところ、颯真は先に宣言していたように、曲がれないという弱点を克服していない。
まあ、そもそも曲がれないのは擬態している一角獣馬の特性のようなものだけに、一夜漬けで改善しろというほうに無理がある。
ならば、どうするか――昨晩、颯真は悩んだ。
悩んだといっても、ほんの10分ほど悩み、30分ほど試して諦めたのだから、思い悩むと表現するのは烏滸がましいかもしれないが。
それでも颯真なりに葛藤し、最終的にある答えを導き出していた。
曲がれないんだったら――
「曲がらなければいいじゃない!」
突如、颯真の馬体がジャンプし、正面の石の壁に勢いのまま突っ込んだ。
観客からすれば、度肝を抜かれる光景だっただろう。
なにせ、”走る”という行為、もしくはせいぜい”飛び越える”くらいの動作しかできない馬が、あろうことか横倒しに跳んだのだ。
まるで、ドロップキックをぶちかますように。
颯真は前後の脚を突っぱねて、見事に壁に着地する。
速度に加えた獣馬の重量で、さしもの頑丈そうな石壁も耐えきれずに蹄が半ばまでめり込むが、そんなことはお構いなしだ。
即座に脚を繰り出して、そのまま忍術紛いに壁に垂直に立って走り出す。
「ぎゃああああああ!」
その背のレリルが哀れなことになっていた。
淑女にあるまじき悲鳴を上げながら、背中から振り落とされまいと、必死に颯真の首筋にへばりついている。
それはすでに騎乗ですらなく、手綱がどうこうの問題でもない。
にわか壁走りも、次第に重力に従って降下していき、自然と颯真は地面の上へと戻った。
実際にはぶっつけ本番だったが、上手くいったものだと独りごちる。
「よっし」
「いいわけないでしょ!」
「痛っ」
かなり本気で半泣き状態のレリルに頭を叩かれた。
中身が緩衝ボディの颯真に痛覚はなかったが、反射的に声が出た。
「なんだよー? 結果オーライだろー? 観客も盛り上がってるし」
事実、会場は大いに盛り上がっていた。
レース観戦というより、アトラクション観戦のような勢いではあったが。
「ほら、映像魔導具にもレリルが映ってるぞ? もうちょっとそれっぽく毅然としてたほうがいいんじゃねえの、白・騎・士・さ・ま?」
「くぅ~! 颯真のくせに生意気なんだから!」
悪態と共に軽く殴られたが、それでもレリルは颯爽と右手を掲げて、熱狂する観客に応えていた。
これで、昨晩、無茶振りされた意趣返しはできたというものだろう。
路上に投げ出される騎手と騎馬の群れを前に、さしものレリルも顔を青ざめさせていた。
一応は落馬した連中を踏まないように気遣い、レリルが駆る(ように見えている)颯真は、馬とは思えない巧みなステップを披露する。
少し遅れて、観客席から怒涛の歓声が沸き起こっていた。
その歓声は完全に二分されており、一方は南北含めたシービスタの住人で、落胆・悲嘆・怒号が入り混じっている。
もう一方は、他所から来訪している観客で、こちらは純粋な歓呼の声だ。
もっとも馬が人馬を跳ね飛ばすなどの非常識、部外者にはレースを盛り上げるための仕込みくらいにしか思っていないのかもしれないが。
「うむ、掴みはオッケー」
「なわけないでしょ! って、ああああ! 前、前! 颯真ー! あああああ――」
爆発的な突進に、早くも最初のカーブが目前に迫っていた。
すでにこの時点で颯真の速度はトップスピードに近い。
ただでさえ、大幅な減速が必要なところだが、颯真に速度を緩める気配は微塵もない。
このスピードでは曲がるどころか、そのままコースを隔てる壁に突貫する勢いである。
「あああああああああああ――」
颯真の馬上でレリルが手綱を握り締めながら、壊れた人形のように大口を開けてカクンカクンしていた。
すでに放心しており、魂が抜けかけている。
そんなレリルを前(上?)にしても、颯真は余裕だった。
実のところ、颯真は先に宣言していたように、曲がれないという弱点を克服していない。
まあ、そもそも曲がれないのは擬態している一角獣馬の特性のようなものだけに、一夜漬けで改善しろというほうに無理がある。
ならば、どうするか――昨晩、颯真は悩んだ。
悩んだといっても、ほんの10分ほど悩み、30分ほど試して諦めたのだから、思い悩むと表現するのは烏滸がましいかもしれないが。
それでも颯真なりに葛藤し、最終的にある答えを導き出していた。
曲がれないんだったら――
「曲がらなければいいじゃない!」
突如、颯真の馬体がジャンプし、正面の石の壁に勢いのまま突っ込んだ。
観客からすれば、度肝を抜かれる光景だっただろう。
なにせ、”走る”という行為、もしくはせいぜい”飛び越える”くらいの動作しかできない馬が、あろうことか横倒しに跳んだのだ。
まるで、ドロップキックをぶちかますように。
颯真は前後の脚を突っぱねて、見事に壁に着地する。
速度に加えた獣馬の重量で、さしもの頑丈そうな石壁も耐えきれずに蹄が半ばまでめり込むが、そんなことはお構いなしだ。
即座に脚を繰り出して、そのまま忍術紛いに壁に垂直に立って走り出す。
「ぎゃああああああ!」
その背のレリルが哀れなことになっていた。
淑女にあるまじき悲鳴を上げながら、背中から振り落とされまいと、必死に颯真の首筋にへばりついている。
それはすでに騎乗ですらなく、手綱がどうこうの問題でもない。
にわか壁走りも、次第に重力に従って降下していき、自然と颯真は地面の上へと戻った。
実際にはぶっつけ本番だったが、上手くいったものだと独りごちる。
「よっし」
「いいわけないでしょ!」
「痛っ」
かなり本気で半泣き状態のレリルに頭を叩かれた。
中身が緩衝ボディの颯真に痛覚はなかったが、反射的に声が出た。
「なんだよー? 結果オーライだろー? 観客も盛り上がってるし」
事実、会場は大いに盛り上がっていた。
レース観戦というより、アトラクション観戦のような勢いではあったが。
「ほら、映像魔導具にもレリルが映ってるぞ? もうちょっとそれっぽく毅然としてたほうがいいんじゃねえの、白・騎・士・さ・ま?」
「くぅ~! 颯真のくせに生意気なんだから!」
悪態と共に軽く殴られたが、それでもレリルは颯爽と右手を掲げて、熱狂する観客に応えていた。
これで、昨晩、無茶振りされた意趣返しはできたというものだろう。
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