55 / 69
第四章
姉妹と令嬢 1
しおりを挟む
「よかった~。どうにか追いついて」
「きゃは! そーま、お馬たん!」
颯真こと一角獣馬こと、今はただの馬は、レリルとアデリーを背に乗せ、南漁港の町中を練り歩いていた。
馬車に追い縋るため、疾風のごとき健脚で人通りも多い町中を駆け抜けたものだから、注目を浴びすぎた。
この場で擬態を即解除、というわけにもいかなさそうだったので、仕方なく普通の馬を装って人目の付かない場所まではこのままでいることにしたのだ。
幸いというか、馬を駆るのは、すでに町の有名人にして領主であるラシューレ子爵家のご令嬢。
こうして目立っていても、余計なちょっかいをかけてくる輩もいなかった。
「うーん、なかなかにいい乗り心地。颯真は馬の才能があるかも。ダメじゃない、馬にもなれるならなれると、前もって教えておいてくれないと」
レリルが陽気に首の付け根辺りをぽんぽんと叩く。
「ぶひひぃん」(なんでだよ)
ってか、馬の才能ってなんだよ。
言葉通りに乗り心地がいいのか、レリルは馬上で揺られながら、気持ち良さそうに白金色の髪を風に流し、目を細めている。
さすがは腐っても子爵令嬢、馬にも乗り慣れて見栄えがする。
しかも普段の格好が白い上下の男装と、腰に下げた刺突細剣も相まって、まるで騎乗した騎士のようにも見える。
もともとが黙っていると美形のレリルだ。行き交う若い女性が、ほうっとため息をついて見惚れるのも、わからないでもない。男装の麗人というやつか。
つい先ほどまで、両手一杯の食料を持ち、食べ物を詰め込みすぎてリスのように頬を膨らませた奴と、同一人物とは信じられない。
颯真は馬の鼻息に紛らせて嘆息した。
「ほら見て見て、颯真。道行く人たちが見惚れてるよ? 馬の颯真はすっごいきれい。白い馬体に翡翠のたてがみが映えてるし、毛並みもこんなさらっさらで。こんなきれいな馬は私も初めて。いっそ、このまま馬でいたほうがいいんじゃない?」
それはあれか。馬でないときの俺をディスっているのか?
まあ、擬態とはいえ、褒められて颯真も悪い気はしない。
お互いに同じようなことを思っていたのだから、それもまた面白いものだ。
「そーま、きれーだって。よかったね」
もうひとりの同乗者は、レリルの股の間に挟まれつつ、何故か先ほどからたてがみで三つ網を編むのにご執心だ。
たてがみだって擬態の一部で触感もある。颯真は先ほどからむずむずするのを我慢していた。
「それにしても、この子……この馬が颯真だってことをわかっているみたいね」
「ひぃん」(だな)
「ほんと、どこの子かしら? こう……喉元まで出かかっている感じなんだけど。颯真は知ってる?」
「ひぃん、ひひいぃん」(俺が知るわけないだろ)
「だよねぇ……うーん……」
それはいいですが、レリルさん。俺は今は見た目が馬なので。
真顔で馬と普通に会話するあなたは、町の住人からまた生温かい目で見られてますよ?
というか、普通に会話できるのもすごいな。
「きゃは! そーま、お馬たん!」
颯真こと一角獣馬こと、今はただの馬は、レリルとアデリーを背に乗せ、南漁港の町中を練り歩いていた。
馬車に追い縋るため、疾風のごとき健脚で人通りも多い町中を駆け抜けたものだから、注目を浴びすぎた。
この場で擬態を即解除、というわけにもいかなさそうだったので、仕方なく普通の馬を装って人目の付かない場所まではこのままでいることにしたのだ。
幸いというか、馬を駆るのは、すでに町の有名人にして領主であるラシューレ子爵家のご令嬢。
こうして目立っていても、余計なちょっかいをかけてくる輩もいなかった。
「うーん、なかなかにいい乗り心地。颯真は馬の才能があるかも。ダメじゃない、馬にもなれるならなれると、前もって教えておいてくれないと」
レリルが陽気に首の付け根辺りをぽんぽんと叩く。
「ぶひひぃん」(なんでだよ)
ってか、馬の才能ってなんだよ。
言葉通りに乗り心地がいいのか、レリルは馬上で揺られながら、気持ち良さそうに白金色の髪を風に流し、目を細めている。
さすがは腐っても子爵令嬢、馬にも乗り慣れて見栄えがする。
しかも普段の格好が白い上下の男装と、腰に下げた刺突細剣も相まって、まるで騎乗した騎士のようにも見える。
もともとが黙っていると美形のレリルだ。行き交う若い女性が、ほうっとため息をついて見惚れるのも、わからないでもない。男装の麗人というやつか。
つい先ほどまで、両手一杯の食料を持ち、食べ物を詰め込みすぎてリスのように頬を膨らませた奴と、同一人物とは信じられない。
颯真は馬の鼻息に紛らせて嘆息した。
「ほら見て見て、颯真。道行く人たちが見惚れてるよ? 馬の颯真はすっごいきれい。白い馬体に翡翠のたてがみが映えてるし、毛並みもこんなさらっさらで。こんなきれいな馬は私も初めて。いっそ、このまま馬でいたほうがいいんじゃない?」
それはあれか。馬でないときの俺をディスっているのか?
まあ、擬態とはいえ、褒められて颯真も悪い気はしない。
お互いに同じようなことを思っていたのだから、それもまた面白いものだ。
「そーま、きれーだって。よかったね」
もうひとりの同乗者は、レリルの股の間に挟まれつつ、何故か先ほどからたてがみで三つ網を編むのにご執心だ。
たてがみだって擬態の一部で触感もある。颯真は先ほどからむずむずするのを我慢していた。
「それにしても、この子……この馬が颯真だってことをわかっているみたいね」
「ひぃん」(だな)
「ほんと、どこの子かしら? こう……喉元まで出かかっている感じなんだけど。颯真は知ってる?」
「ひぃん、ひひいぃん」(俺が知るわけないだろ)
「だよねぇ……うーん……」
それはいいですが、レリルさん。俺は今は見た目が馬なので。
真顔で馬と普通に会話するあなたは、町の住人からまた生温かい目で見られてますよ?
というか、普通に会話できるのもすごいな。
1
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる