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第四章
南漁港と北貿易港 2
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やはり道は南から北へと真っ直ぐで、どう考えても、このまま進んで港の北側に出られない道理はなさそうだ。
しかし、10分ほども歩いて、北と南の港の境界辺りまで来たときに、その理由がわかった。
壁である。高さ3mばかりの石の壁が、北と南を隔てるように、港の防波堤からずっと町を横断していた。
しかも壁の上には鉄条網付きの物々しさ。
「なんだこりゃ?」
どう見ても、この壁には意味がない。それどころか町を分断することで、人の流れも物流も阻害する、明らかに邪魔なだけの存在である。
颯真はいったん肩のアデリーを近くの荷馬車の荷台に降ろし、ジャンプして壁に取り付いてみた。
どうにか壁の上に上体を這い上げて向こう側を見ると、たいしてこちら側と代わり映えしない、普通に港の風景だった。
どう見比べても、壁の有用性を見出せない。
「まあ、このシービスタも歴史ある町だから、過去にいろいろあってさ」
レリルの話の要約すると、昔ながらの南の漁港と、近年発達してきた北の貿易港では、それぞれそこを利用する住民たちとの間で、かなり仲が悪いらしい。
仲の悪さが高じるあまり、ついには大層な壁まで作ってお互いを拒絶するに至ってしまったのだとか。
「馬っ鹿みてえな話だな」
「だよねー。私たちもそこを苦慮して、お互いが歩み寄れるようにいろいろしてはいるんだけど、なかなか」
「ふーん、大変そうだな。まあ、頑張れ」
颯真にしてみれば、所詮は他人事。興味以上のものは湧かない。
あっさりと壁に関心を無くし、アデリーを再び肩車しようとしたのだが――肝心なその幼女の姿がない。
というか、さっき降ろした荷馬車ごといなくなっていた。
「おや? アデリーが馬車ごと消えた?」
「消えるわけないでしょ!? きっと馬車が移動したんだよ! すみませーん!」
レリルが近くの住人らしき老婆を捉まえて訊ねると、その人物は颯真たちが来た道――その遥か向こう側を指差した。
そこには、遠ざかって豆粒ほどの大きさになった馬車と、その荷台で手を振るアデリーの姿が確かに見えた。
「あああー! どーしよー!」
レリルが白金色の髪を振り乱し、顔色を変えて頭を抱えている。
「ありゃあ、隣町行きの運行馬車さね。着くまでは停まらないよ」
老婆がのんびりと言っていた。
「隣町ってことは、少なくとも2日後まではノンストップってことじゃないのー! たたた、大変だぁー!」
運行馬車とは魚などの生鮮物資を早急に運ぶため、御者は数人が入れ替わりで行ない、荷を引く馬には治癒魔術をかけ続けて不眠不休で強制酷使させるという専用馬車だ。
(お、脳内さん情報、久しぶり)
「馬、どこかで馬は借りれない!? 屋敷に取りに帰って――間に合うわけない!」
レリルはひとりあたふたしている。
刻一刻と遠ざかる馬車は、もうまともに見えないほど離れてしまった。
並みの馬では、今すぐに追いかけたとしても、追いつくかどうかは微妙なところだ。
「ま、しゃあねーか……」
颯真は頭を掻き、近くの建物の物陰に潜り込んだ。
「なにやってんの、颯真! って、あれ?」
次に陰から出てきたのは、見事な翡翠のたてがみを持った雄々しき白馬であった。
「ひひぃぃぃん!」(乗れ、レリル!)
もちろん、颯真の擬態である。
角なしタイプの一角獣馬――もはや、ただの獣馬か。
「え、なに? どっから出てきたの、この馬?」
戸惑うレリルに痺れを切らし、颯真は蹄で地面に『シカ』と書いた。
「シカ? って、鹿? ええ!? 馬に鹿で馬鹿? 馬に馬鹿にされたの、私?」
よく気づいたな。
颯真がにやりと笑うと、さすがのレリルも気づいたようだった。
「あ! これって颯真の変身!? なんだ早く言ってよね!」
後は理解も早く、レリルは颯真に飛び乗った。
「ぶぃひん!」(飛ばすぞ!)
角はなくても魔獣一角獣馬の脚力は健在だ。
颯真はレリルを載せたまま疾風と化し、驚く南の住人を飛び越えて、あっさりと馬車まで追いついたのだった。
しかし、10分ほども歩いて、北と南の港の境界辺りまで来たときに、その理由がわかった。
壁である。高さ3mばかりの石の壁が、北と南を隔てるように、港の防波堤からずっと町を横断していた。
しかも壁の上には鉄条網付きの物々しさ。
「なんだこりゃ?」
どう見ても、この壁には意味がない。それどころか町を分断することで、人の流れも物流も阻害する、明らかに邪魔なだけの存在である。
颯真はいったん肩のアデリーを近くの荷馬車の荷台に降ろし、ジャンプして壁に取り付いてみた。
どうにか壁の上に上体を這い上げて向こう側を見ると、たいしてこちら側と代わり映えしない、普通に港の風景だった。
どう見比べても、壁の有用性を見出せない。
「まあ、このシービスタも歴史ある町だから、過去にいろいろあってさ」
レリルの話の要約すると、昔ながらの南の漁港と、近年発達してきた北の貿易港では、それぞれそこを利用する住民たちとの間で、かなり仲が悪いらしい。
仲の悪さが高じるあまり、ついには大層な壁まで作ってお互いを拒絶するに至ってしまったのだとか。
「馬っ鹿みてえな話だな」
「だよねー。私たちもそこを苦慮して、お互いが歩み寄れるようにいろいろしてはいるんだけど、なかなか」
「ふーん、大変そうだな。まあ、頑張れ」
颯真にしてみれば、所詮は他人事。興味以上のものは湧かない。
あっさりと壁に関心を無くし、アデリーを再び肩車しようとしたのだが――肝心なその幼女の姿がない。
というか、さっき降ろした荷馬車ごといなくなっていた。
「おや? アデリーが馬車ごと消えた?」
「消えるわけないでしょ!? きっと馬車が移動したんだよ! すみませーん!」
レリルが近くの住人らしき老婆を捉まえて訊ねると、その人物は颯真たちが来た道――その遥か向こう側を指差した。
そこには、遠ざかって豆粒ほどの大きさになった馬車と、その荷台で手を振るアデリーの姿が確かに見えた。
「あああー! どーしよー!」
レリルが白金色の髪を振り乱し、顔色を変えて頭を抱えている。
「ありゃあ、隣町行きの運行馬車さね。着くまでは停まらないよ」
老婆がのんびりと言っていた。
「隣町ってことは、少なくとも2日後まではノンストップってことじゃないのー! たたた、大変だぁー!」
運行馬車とは魚などの生鮮物資を早急に運ぶため、御者は数人が入れ替わりで行ない、荷を引く馬には治癒魔術をかけ続けて不眠不休で強制酷使させるという専用馬車だ。
(お、脳内さん情報、久しぶり)
「馬、どこかで馬は借りれない!? 屋敷に取りに帰って――間に合うわけない!」
レリルはひとりあたふたしている。
刻一刻と遠ざかる馬車は、もうまともに見えないほど離れてしまった。
並みの馬では、今すぐに追いかけたとしても、追いつくかどうかは微妙なところだ。
「ま、しゃあねーか……」
颯真は頭を掻き、近くの建物の物陰に潜り込んだ。
「なにやってんの、颯真! って、あれ?」
次に陰から出てきたのは、見事な翡翠のたてがみを持った雄々しき白馬であった。
「ひひぃぃぃん!」(乗れ、レリル!)
もちろん、颯真の擬態である。
角なしタイプの一角獣馬――もはや、ただの獣馬か。
「え、なに? どっから出てきたの、この馬?」
戸惑うレリルに痺れを切らし、颯真は蹄で地面に『シカ』と書いた。
「シカ? って、鹿? ええ!? 馬に鹿で馬鹿? 馬に馬鹿にされたの、私?」
よく気づいたな。
颯真がにやりと笑うと、さすがのレリルも気づいたようだった。
「あ! これって颯真の変身!? なんだ早く言ってよね!」
後は理解も早く、レリルは颯真に飛び乗った。
「ぶぃひん!」(飛ばすぞ!)
角はなくても魔獣一角獣馬の脚力は健在だ。
颯真はレリルを載せたまま疾風と化し、驚く南の住人を飛び越えて、あっさりと馬車まで追いついたのだった。
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