スライムとして異世界召喚された訳ですが

まはぷる

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第三章

スニーキングミッション

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 颯真がどうにかこうにかマイホームに戻ってみると――そこはすっかり人間たちに占拠されていた。

 実際のところ、別に颯真の家ではなく、単に異世界に来て最初に目覚めたのがここだっただけなので、別の持ち主がいてもまったく不思議ではなかったのだが。

 颯真はフクロウ形態で偽装しつつ少し距離を置いた木の枝に留まり、塔の様子をうかがっていた。

 塔の周辺をうろついている者で、見える範囲で10人ほど。全員が、全身鎧装備の完全武装の騎士だ。

 塔の隣には、仮設の天幕まで設置してある。そこを出入りする者がさらに数人ほど。
 塔の中と行き来しているらしいので、塔にいるであろう人数も考慮すると、総勢で2~30人程度では利かないだろう。結構な大所帯である。

 鎧騎士たちが規則正しく塔の周囲を巡回しているのに対して、忙しなく動き回っている者たちは全員純白のローブを纏っている。

(なんだ、どっかで見たことあると思ったら、ネーアのお仲間さんじゃねーの)

 そういえば、宮廷魔術師はもともと闇昏き森デ・レシーナの調査にきたと言っていたことを颯真は思い出した。

 塔自体が調査目的だったのか、単なる森での調査拠点の確保か。
 どちらにせよ、先住民としては、勝手に縄張りを荒らされるのはいただけない。それになにをしているのかするつもりか、俄然興味もある。

 もう少し近づいてみようと、颯真はより塔に近い木の枝に飛び移ろうとした。

(ん?)

 羽ばたいて飛んだ空中で、なにか身体に纏わりつく感触があった。
 まるで張られた蜘蛛の巣に気づかず、顔から突っ込んでしまったような、そんな違和感。

 颯真は身体を確認したが、それらしきものはどこにもない。
 気のせいかと思い、次の枝に降り立ったとき――にわかに塔のほうが騒がしくなってきた。

 颯真のいる位置までは声は聞こえないが、白ローブ姿の魔術士が、傍の騎士に対して何かをがなり立てている。
 その魔術士が指差す方向は、真っ直ぐにフクロウこと颯真のいる位置だった。

 騎士の数人が抜剣して颯真のほうに走り出している。
 少し遅れて、3人ほどの魔術士が、颯真に向けて両手を掲げた。

(あ、なんか――やばい気がする)

 擬態したフクロウか、それともスライムの本能か。
 不意に湧き出た危険信号に、颯真は咄嗟に枝から飛び立ち、回避行動を取った。

 まさに寸前といったタイミングで、颯真の留まっていた大振りな枝が無残にも砕け散った。
 生木を粉々にするなんて、尋常な威力ではない。

 風系狙撃魔術、”空気圧縮砲エアシューティング”。
 高速で飛来する超圧縮空気の砲弾で、着弾と同時に瞬時に膨張、目標を爆砕する攻撃魔術。

 ――が、連発。

(おおぅ! これが魔法――じゃなくって魔術か!)

 脳内さんから知識として知ってはいたが、実際に目にすると、やはりテンションが上がる。
 とはいえ、のんびりと観賞している暇はない。

 矢継ぎ早に飛んでくる魔術により、移動する先から足場が砕け散っている。
 破壊痕に追い立てられながら、颯真はわたわたと逃げ出した。

(くっそー! まだ諦めないからなー! ダメって言われるほど燃えるタイプなのよね、俺!)

 颯真は無意味に熱血していた。


◇◇◇


「どうした、騒々しい」

 塔の中の一室。1日遅れでつい先程、塔に到着したばかりのカミランは、先行調査していた配下の副団長から、調査報告を受けているところだった。

 にわかに外が騒がしくなりはじめたのは、つい今しがたのことだ。

「大方、また魔獣の類でも出たのでしょう。さすがは悪名高き魔の森、護衛の騎士隊を連れてきて正解でしたな。誰ぞ! 調査団長に状況をご説明しろ!」

 副団長の指示から待つことしばらく、ノックの音が響き、伝令役の魔術士が入室してきた。

「お待たせいたしまして、申し訳ありません。ご報告いたします。魔獣と思しき高魔力生物より、度重なる襲撃を受けており、只今騎士隊と魔術士により撃退しております」

「ほう。周囲に張り巡らせたあの魔術結界を抜けてくるとは、よほど強力な魔獣のようだな。闇昏き森デ・レシーナの魔獣は、一味違うということか。よもや大規模な群れではあるまいな?」

「いえ。敵はそれぞれ異なる個体であり、単体、もしくは3~4体ほどの小集団です。こちらの被害は0ですが、なにぶん多方から断続的に侵入してこようとするため、手間取っております」

「よろしい。では、速やかに駆逐したまえ。ただし、魔術士は敵位置探査サポートの1名だけを残し、応戦は騎士隊に任せよ。我らにそのような些事にかかわる暇はない。宮廷魔術師はすべて地下の調査にあたるように」

「畏まりました。そのように伝えます」

 伝令役の魔術士は会釈し、部屋を後にした。

 それを見送ってから、副団長はため息をつく。

「おちおち調査もさせてもらえないとは、魔獣どもにも困ったものですな。昨日はそうでもなかったのですが」

「塔に満ちた魔力の影響か、もしくは我ら宮廷魔術師の魔力に惹かれているのかもしれん。単発的な魔獣ならば問題ないが、魔物の群れまで引き寄せてはさすがに厄介だ。万一に備え、緊急転移門の設置も急がせよ」

 緊急転移門とは、文字通りの緊急用の脱出装置だ。
 一定の区画にいる人員を、予め指定した場所に瞬間転移させる魔導装置で、その転移先は王都にある宮廷魔術師の宿舎ともいうべき宮殿の一画となっている。

 平民どころか貴族が聞いても驚くほどの高価な代物で、しかも使い捨て。あくまで緊急用の貴重品だ。

 しかし、それも宮廷魔術師の価値とは比較にならない。
 なにせ国内でたったの100名しかいない希少な人材。その損失は即、国の損失となる。

 今回の命令は、その100名しかいない宮廷魔術師の1割の10名が投入されている。
 それだけでもこれは異例の事態と言える。

 だからこそ、塔の調査はもとより、宮廷魔術師全員を無事に王都に帰還させるのも、調査団長を務めるカミランの重要な責務となる。

「それがよろしいでしょうな。ここより奥、闇昏き森デ・レシーナの深奥には闇の神霊デ・ラルシレの産み出した恐ろしい魔の物が跋扈しているとも聞きまする。それはさすがに伝説に過ぎないでしょうが、用心に越したことはありますまい。では、すぐに戻りまする」

 副団長は指令を伝えるため、部屋を出て行った。

 そんなやり取りを窓の外にへばりつき、じっとうかがう赤い粘体があったことには、誰も気づいていなかった。
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