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第二章

お礼を貰いに行こう!

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「ねーねーねーねー! なに、あの魔術! まるで本物の熊みたいだった。あんなのわたし、初めて見たよ。すっごくない? ねーねー、ねーってば、ねー?」

「ねーねーねーねー、うっさいわ!」

 颯真は、両耳を押さえて叫んでいた。
 中身はスライムなので、実際に音を耳から感知しているわけではなかったが、まあ人間であった頃の名残というものだ。聞こえる音量は変わらないにせよ、気分的には和らぐ気もする。

 レリルという少女は、表情がころころと変わる娘だった。
 初対面の毅然とした印象は、さっぱりなりを潜めている。まあ、それもころころ変わる中の一面ではあったのだろうが。

 年は予想通りの16歳。元の颯真の2コ下の高1くらい。
 今ではこうして通りを並んで歩く颯真の周りを、はしゃいで纏わりついている。

 なぜ、颯真が彼女に同行しているかというと、目当てはもちろん謝礼だった。

 よくよく考えると、せっかく町へ来たものの、颯真には先立つものがない。
 身元すら証明するものもない現状、こんなことでもないと金銭を入手する機会など滅多にないだろう。

 そう考えると、この状況を作り上げてくれたあの3バカ、もといチンピラ3人組にも感謝しないといけない。
 4半殺しくらいに手加減しておいたことを、感謝と替えさせていただこう、などと颯真は勝手に結論づけて合掌した。

「んで、おまえんチ、まだ遠いの? 疲れたんだけど」

 疲れたというのは本当だ。なにせ、スライムの身体は燃費が悪い。
 今の人間形態でも、維持するには力を使う。
 ましてや、熊に偽装したときに、魔力も持っていかれた。
 道すがら、道端に生えた雑草などを踏むのを装って、足の裏から吸収しているが、てんで足りやしない。

 颯真にしてみれば、あの場でさっさと謝礼金を受け取っておさらばしたかったのだが、レリルにどうしても家へ来てほしいと懇願されたので、結局、颯真が折れた。ごり押しするレリルを説得するのがめんどくさかったから、というのが実情だが。

 かれこれ、颯真たちはもう20分くらいは歩いている。
 しかも、徐々に人気が少なくなっているので、町の中心から離れた場所に向かっているらしい。
 あれほどあった商店の類も見かけなくなり、住宅群に置き換わってきている。

 その住宅群も素通りし、レリルは鼻歌など歌いながら、軽い足取りで颯真を先導している。
 ここまで来ると、住宅の数もちらほらとなってきた。
 軒数が少なくなったというより、一軒あたりの敷地面積が広くなり、明らかに高級住宅街といった風情だ。
 それになぜか、先ほどから道の右手には、ずっと白亜の壁が続いている。

(こいつ、もしかして、ちょっといいとこのお嬢さん?)

 もともと、レリルは容姿にも振る舞いにも、どこか気品がある。服装だって町の住人と比べたら、品質が目に見えて高級っぽい。
 ふいの所作の端々からも育ちが良さそうなのは、平凡家庭出身の颯真にだって見て取れていた。

 まあなにが言いたいかというと――つまりお礼も期待できそう、ということだが。

「着いたよー」

 レリルが足を止め、振り返った。

 しかし、周囲には建物の陰はなく、相変わらずの右手には壁、左手はただの広場だ。
 いや、正しくは壁のところに門がある。ごつい鉄柵のはめ込まれた、重厚そうな両開きの門。

(ん? ってことは……今までの壁の向こう側が全部敷地とか……?)

 思い起こせば、フクロウ形態で町を見下ろしていたとき、町の端にやたらと大きな屋敷が見えた気がする。

 ってことは……

「カサルド地方が領主、ラシューレ子爵が3女のレリル・ラシューレと申します。どうぞお見知りおきを。ようこそ、当家屋敷へ。てへ」

 レリルはドレスでも着ているように短い上着の裾をちょこんと掴んで会釈し、お茶目に笑った。

 ちょっといいとこどころではなく、完璧に貴族のご令嬢でした。

 やや想定外の事態に、颯真は人間だったときの癖で、眉間を押さえて大きく嘆息していた。
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