巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

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第10章 消えた賢者

ミシシップ到着?

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 それからさらに数日が過ぎ――貨物船での船旅にもだいぶ馴染んできました。
 最初は昼夜を問わず揺れる足元に違和感を覚えたものですが、今ではほとんど気にならないくらいに慣れました。

 一日のルーチンのようなものもできてきたように思えます。
 昼前に寝覚めて起き抜けのラジオ体操から一日がはじまり、日中は天気が良ければ河に日がな一日のんびりと釣り糸を垂らし、悪ければカードゲームなどに興じ、日が落ちてからは恒例となった酒盛りで夜が更けていきます。
 そして、深夜になりますと、自室で就寝まで自由な時間を過ごし――といった感じですね。

 今夜もまた、酩酊したカイリさんと泥酔したリックさんを部屋まで送り届けて、クゥさんにお休みの挨拶を告げて別れたところです。
 いくらタダ酒とはいえ、連日酔い潰れるまで飲んでは、翌朝二日酔いを繰り返しているのですから、多少は省みてご自愛いただきたいものですね。
 それに、手遅れかもしれませんが、お子さんクゥさんの手前、少しは親の威厳を見せてはどうかと、老婆心ながら思わなくもありません。

 甲板から階下へ降りまして、船尾にある自室のほうへと向かいました。
 ちなみに自室といいましても、私が勝手にそう言っているだけでして、実はただの船倉だったりしますが。

 この貨物船は大勢の冒険者さんを安価に運ぶのが目的のようで、今回の航行では本来積載すべき貨物の類がありません。
 そのため、空っぽの船倉がいくつもあり、そのひとつを私が有効活用させてもらっているのです。

 夜更けにわざわざこんな場所に近づく人もいないでしょうが、念のために周囲を窺ってから、こっそりと船倉内に侵入しました。
 他と違って出入り口に施錠できる大きな扉がある辺り、ここは特殊な品物を載せる場所だったのかもしれませんね。
 ただし、今はなにもなく、扉の向こうには真っ暗でがらんどうな空間が広がるのみです。

 なぜ、私が人目を避けて、このような船倉で寝泊まりしているかといいますと――

 もともとこの貨物船に乗っているのは、冒険者ギルドで正規の依頼を受けた冒険者さんたちばかりです。
 冒険者さんたち全員には、事前に部屋が割り当てられていました。

 しかし、いわば私は招かねざる客。
 当然ながら専用の部屋など用意されておらず、必然的にあぶれてしまいます。
 そこで考えあぐねた末、夜中に身を隠す意味合いでも、こうして人目につかないここで過ごすことにしたわけです。

 ただ、それで助かっている面もありました。
 なにせ、ここはもとが貨物船ですから、用意された船室は客室ではなく船員さん用の仮眠場所といった様相で、室内の大半をベッドが占めた、狭苦しいカプセルホテルのような作りです。
 しかも、そのベッドも並べた木箱にぺらっぺらのシーツを被せただけの簡易品ですから、快適な寝心地とは程遠いでしょう。

 『白き砲弾』のお三方など、割り当てられた部屋が一室だけで、カイリさんとクゥさん母娘だけでベッドもギュウギュウ。挙げ句、リックさんは隅に追いやられ……シーツ一枚だけ羽織って、壁とベッドの隙間の床で寝ているそうです。
 わざわざ部屋で寝る意味があるのでしょうかね、それ。
 通路で雑魚寝したほうが、まだ広々として安眠できる気がします。

 その点、私の場合は<万物創生>スキルがありますから、このように暗く殺風景で陰気な船倉でも快適です。

『ランタン、クリエイトします』
『畳、クリエイトします』
『ちゃぶ台、クリエイトします』
『お茶、お茶請け、クリエイトします』
『発電機、テレビデオ、クリエイトします』
『布団、クリエイトします』

 まず、天井から下げたランタンを灯し、光源確保。
 次に床に畳を並べて、中央にちゃぶ台を置きます。
 発電機にテレビデオを繋げ、お茶セットも完備。
 最後に、いつ眠くなっても大丈夫なように、傍らに布団を敷いて完成です。

 ひとしきりビデオ鑑賞を楽しんでから、布団に横になりました。
 私だけふかふか布団ですから、日が経つにつれ肩こりや腰痛を訴えかける他の皆さんを気の毒に思わないでもありません。

 豆電球並みに小さく抑えたランタンの灯りを見上げながら、いつしか私は眠りについたのでした。



◇◇◇◇◇



「あ、ふああぁぁ~~……はぁあ~」

 布団から身を起こして、大きく伸びをしました。

 畳に布団という組み合わせは、どうにも心身ともに安らぎますね。
 こちらの異世界ではベッドが主流ですので、私もベッド生活に慣れかけていましたが……やはり、純和風の生活はいいものです。

 日中でも陽の届かない船倉は薄暗く、時刻が把握できにくくはありますが、腹具合からしてお昼前といったところでしょうか。
 特にやることもない船旅ですから、ついついこうして心ゆくまで惰眠を貪ってしまいますね。

 まずは目覚ましを兼ねてラジオ体操を念入りに。
 身支度を整えてから、いつも通りにこっそりと船倉から出ました。

 同船している他の冒険者さんたちも私と同じようなもので、皆さん思い思いに過ごされています。
 明け方近くまで深酒して夕方まで寝ている人もいれば、規則正しい生活を心がけている方もおられます。
 まあ、目的地に着くまでの決まりごともないのですから、それは人それぞれなのですが……

「はて? おかしいですね?」

 先ほどから船内をうろついているのですが、他の方々の姿を見かけません。
 昼時のこの時間帯ですから、いつもでしたら昼食を求めて食堂に向かう幾人かと出くわしてもおかしくはないのですが、人っ子ひとり見当たりませんね。
 といいますか、一向に人の気配を感じないような……

(皆さん、甲板でしょうか?)

 連日の船旅で、飲食するとき以外は息の詰まる船内を避けて、甲板に出る方々は日に日に増えていました。
 他にも、リゲインさんたちのように鍛錬目的や、イリドニーさんのようにリゾート気分を味わうにも見晴らしのいい甲板は人気です。

 道すがら、リックさんたちの部屋にも顔を出してみましたが、不在のようでした。
 クゥさんはいつもの釣りスポットで会うことが多いですし、カイリさんはまたお気に入りのマストの上でお昼寝かもしれません。リックさんも二日酔いが酷いときには船縁でよくゲーゲーやっていましたね。

 甲板でしたら誰か見つかるかと、階段のある船首のほうに足を向けますと、ようやくひとりの方と出会いました。

 その方は船員さんで、何度か顔をお見かけしたことがあります。
 向こうも私のことは知っているでしょうが、顔を合わせた瞬間に立ち止まり、「あれ?」とばかりにおかしな表情をしていました。

 通路ですれ違ってからも何度も振り返り、どうにも怪訝そうにされています。

(なんでしょうね、今の反応は……?)

 私がというより、ここで誰かに会うのがおかしいといった雰囲気でした。

 ……なにか、嫌な予感がしないでもありませんね。
 そういえば、カランドーレを出発してから、今日で何日目になるのでしたっけ。

 1.人気のない船内。
 2.誰かいるのが不思議そうな態度の船員。

 で、私はもともと密航者のような扱いです。

 当然ながら名簿にも載っておらず、夜は船倉に隠れ住んでいたため、誰も私の所在を知らなかったでしょう。

 さて、そこから導き出される結果とは……ふむ。

 ぽくぽくぽく、ちーん。

 猛ダッシュで甲板まで駆け上がります。

 甲板に出た途端、新鮮で清々しい風が吹き抜けました。
 日中の柔らかな日差しが肌を包み、濃い緑の香気が鼻をくすぐっています。

「う~~~~ん、いい陽気でなんとも贅沢ですねえ」

 空気の籠りがちな船内にいましたから、よりいっそう鮮烈な印象を受けますね。
 起き抜けの身体に染み渡るようで、なんとも気持ちのいいものです。

 ではなく。

 よく見ますと、河の流れが昨日までとは逆ですね。
 それに、先日までずっと右手に連なっていた山脈が、今は左手にあるとはこれいかに。

 船縁から身を乗り出して船の後方を望みますと、次第に遠ざかっていく建物群を背景に、大勢の人が集まっているのが見えました。
 遠目ですが、あの集団は間違いなく、先日までこの船に同乗していた冒険者の皆さんでしょう。

 つまり、ということは……

「降ります! 降りま~す!!」

 残業帰りのサラリーマンでしたらともかく、寝過ごして乗り過ごすなど冗談ではありません。
 このままでは、カランドーレまで逆戻りではないですか!

 甲板の端から端まで使って助走しまして、とにかく河岸に向けて大ジャンプを敢行しました。
 なにせ大きな河ですから、貨物船から岸まではゆうに二百メートルほどありそうです。
 踏切の際に甲板をぶち抜いてしまい、貨物船が大きく傾いだ気がしましたが、そこは緊急事態だけにご容赦いただきたく!

 エアーウォークのような優雅さの欠片もなく、無様にばたつきながらも、どうにか河岸へ辿り着く寸前――
 水面から飛び出てきた魚魔物に、全身丸ごとぱっくんちょされちゃいました。

 別に、こんなときにまで釣りをしている暇はないのですが!

 どうにかこうにかで河岸に着きはしたものの、魔物に食いつかれるわ河に落ちるわで散々です。
 普通の魚と違いまして生臭くはならないものの、全身ずぶ濡れになってしまいましたよ。

 なんとも余計な時間を取られてしまいましたね。
 岸伝いに移動して河港に着いたときには、すでに貨物船を降りた冒険者の皆さんの姿はありませんでした。

「これはちょっと……さすがに参りましたね……」

 河港からすぐの場所には、想像よりも賑わいを見せているミシシッピの町がありました。
 とりあえず、こうして差し当たっての目的地には着いたわけですが……

 せっかく仲良くなったクゥさんたちと不本意な別れをしたこともさることながら、これではこうして同行してきた意味がありません。
 女王様が手配してくださっていた当てがどうなったかわからない今、トランデュートの樹海に向かう皆さんに便乗して足がかりにできないかと期待していたのですが……こうなってしまっては、ゼロからスタートも同じことです。

「ここにも、冒険者ギルドってあるのでしょうかね……?」

 ギルドでなにかしらの情報、もしくは協力者を期待するしかないでしょう。
 まあ、そうそう都合良くもいかないでしょうが……

 気落ちしながら町中を彷徨っていますと、唐突に背後から声をかけられました。

「あれ? そこにいるのって、もしかしてタクミん?」

 この聞き覚えのある声は――

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