巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

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第10章 消えた賢者

船上での日々 ①

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「ここであんたに止めを刺すことになるたぁ……皮肉なもんだな、兄弟。これでも俺様ぁ、あんたのこと気に入ってたんだぜ?」

 そんな言葉とは裏腹に、私と対峙するリックさんの瞳が獰猛な色を携えていました。
 口の端に浮かぶ歪んだ笑みが、どちらが狩る側であるのかを如実に物語っているようです。

「にゃっはっは~! しょせんソロで、あたしら『白き砲弾』に敵うわけね~のだ。身のほどを知るべしってね」

 その隣に並ぶカイリさんは勝利を確信しているのか余裕綽々で、なにやら意味不明なにゃんこポーズを決めていました。
 指先を丸めてしきりに猫パンチを繰り出してくるあたり、さすがは猫の獣人さんといえるでしょう。

 じりじりと獲物を追い詰めるように、私を包囲するおふたりの威圧度が増していきます。
 この場合の獲物とは、すなわち私のことに他なりません。

「じゃあ、そろそろ――フィナーレの時間だ。だが、俺様たちも鬼じゃねえ。最後のチャンスだ、もう一度だけ考え直す猶予をやる。いいな、降参するなら今のうちだぜ? 今だったら、まだ取り返しがつくってもんだ」

 ほんのわずかでしたが、リックさんの敵意が薄らいだような気がしました。
 それは慈悲……? それとも、この状況に追い込んでしまったことに対する後悔だったのでしょうか。

「お言葉はありがたいのですが……お気遣いなく」

 ですが、私にも意地があります。
 ここでおめおめと引き下がるわけにはいきません。

 これで、最後にして唯一だった決着を避ける機会は、永遠に失われてしまいました。
 ここから先は、お互いの信念を持ってぶつかり合うしかありません。
 どちらが己のことをどれだけ信じれるか――そういった戦いになることでしょう。

 その勝敗いかんによって、どちらかに望まない運命が待ち受けていたとしても。

 おふたりの得物を掲げた腕が、ゆっくりと振り上げられました。

 私もそれに応じるべく、右手の得物を眼前に構えます。

 鬼気迫る一触即発の空気の中、時間が停止したような錯覚を受けました。
 この得物を振り下ろした瞬間――お互いの未来が決してしまうのです。

「ツーペアだぁ!」
「ブタ~」

「スリーカードです」

 テーブルに広げられた得物――トランプのカードは、紛うことなき私の勝利を告げていました。

「ふむ。私の勝ちのようですね」

「くっそー! 最後の大一番で負けた~!」

「にゃはははは~!」

 心底悔しそうに、リックさんが両腕をテーブルに打ち付けました。
 そんなリックさんを指差して、カイリさんが別の意味でテーブルを叩きながら、ものすごい大爆笑です。

「ばっか、なに笑ってんだ、カイリ! これで、今月もうすっからかんだぞ!? 第一おめー、なんでブタでそんだけ堂々と満額張ってんだよ、降りろよ!」

「にゃは~、なんとなく?」

「くうう~!」

「馬鹿ばっかで嫌になる。はあぁ~」

 お隣のテーブルでは、冷ややかな眼差しをしたクゥさんが、ストローでジュースを啜っていました。

 というわけで、なぜこうして私がカードゲームに興じているかといいますと……

 不本意ながら、船違いでこの貨物船に紛れ込むことになった日から、すでに3日が経過していました。
 閉塞された場所では行動も限られまして――とどのつまりは、暇を持て余していたわけですね、はい。

 初日の騒動でのお付き合いから、この『白き砲弾』のお三方と仲良くなりまして、船上ではもっぱら行動を共にしている次第です。

 その間、様々な情報を得ることもできました。
 ここに集められた冒険者さんたちへの依頼とは、奇しくも私と同じくトランデュートの樹海での人捜しのようでした。

 依頼をかけたのは、とある南方出身の貴族様らしく、詳細は船の終着点であるミシシップの河港町で、あらためて説明がなされるとのことです。

 最初は、その貴族様も同乗されているかと思っていたのですが、なんでも一足先に高速艇で現地に向かってしまったとか。
 そう、私も乗るはずだったあの貴族御用達という船ですね。
 高速艇の所要期間は3日だそうですので、あちらはそろそろ到着している頃合いでしょうか。

 ちなみに、こちらの貨物船では、航行予定が約6日。
 おおよそ倍の日数がかかりますが、これでも陸路より早いくらいですから、邪魔も入らずに目的地まで連れて行ってくれると思えば、ありがたいことでしょう。
 ……まあ今は、無断乗船の身ではあるのですが。

 どのみち、そのことを陳謝する必要もありますし、あわよくば、あちらの人捜しに便乗させてもらうことができませんかね。
 お互いに人出が多いに越したことはないでしょうし。
 なんて、我ながら図々しいですかね。

「どこ行くんだ、兄弟? 勝ち逃げかよ」

「いえいえ、逃げるわけでは。きりがいいみたいですし、今日はこれでお開きということで。ずっと船の中ですと気が滅入りますからね。気分転換も兼ねて、ちょっと外の風にでも当たってこようかと」

「じゃあ、わたしも行く」

 席を立った私の隣にクゥさんが素早く並びました。

「では、クゥさん、ご一緒しましょうか」

「うん」

 当初は、この私の風貌――おそらく、変化の指輪で奇天烈に見えている姿――に距離を置きがちな彼女でしたが、ここ数日を皆さんと一緒に過ごすにあたり、幸いにも慣れてくれたようです。

 今ではむしろ、他のメンバーのおふたりよりも一緒にいる時間が長いほどですね。
 『白き砲弾』のパーティ内で、最年少ながら一番しっかりしているクゥさんですから、ずぼらなリックさんやマイペースなカイリさん相手では心が休まる暇がなく、私は避難所か休憩所みたいな扱いなのでしょう。

 ただ、一緒にいても特になにをするということもなく、気がつくといなくなっていたり、と思いますとまたいつの間にか傍に寄り添っていたりもしますから、なにか気ままな仔猫っぽい感じの子です。
 以前、日本にいたときに家によく遊びに来ていた、近所の猫さんを彷彿させますね。

「タクミくんは釣り?」

「ええ。今日こそは釣果を伸ばしたいものです」

 私のほうも、孫ほども年下の子から”くん”呼びされるのも慣れましたね。
 これまでは、なかなかなかった経験です。悪くありません。

 これもまた、異世界で若返ったからこその貴重な体験でしょう。
 若返ること自体が、まずありえないほど希少だということはさておくとしまして。

 薄暗い船内から甲板に出ますと、今日も見事な快晴でした。
 水上だけに強い日差しを遮るものもなく暑いほどの陽気ですが、航行する船体に巻き上げられる水飛沫が風に混ざり、実に涼しげです。
 あとは両岸の景色でもよければ申し分ないのですが、今は渓流を通過しているところらしく、今朝からずっと代わり映えしない岸壁風景が続いていました。

 水の都カランドーレを経由してはるかトランデュートの樹海まで続く大河を、大型の貨物船はゆっくりと進んでいます。
 河の流れは穏やかですが、流れに逆らって北上していますので、船の進みも緩やかなものです。

 聞くところによりますと、この大河は上流にあたるトランデュートの樹海から流れ出で、国内の陸地を紆余曲折しながら北の城砦エキレバンの渓谷を経て、果ては港町アダラスタの海峡に至るそうです。

 無事にケンジャンと合流できたら、王都までの帰路を船旅にするのもいいかもしれませんね。
 少々、気が早いでしょうか。
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