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第10章 消えた賢者
『紅い雷光』の”雷火”
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「どうした、騒々しい。何事だ?」
どうやら、騒ぎすぎたようですね。
いつの間にか周囲に他の冒険者さんたちが集まってきていました。
「騒がしくしてしまって、ご迷惑をおかけしました。すみませんでした」
皆さん含めまして、声をかけてきた青年に代表して謝っておきました。
なにせ、テーブルに乗って暴れたものですから、周囲には落ちた料理やこぼれたお酒が散乱しており、悲惨な有様です。
苦言を呈されるのも無理もないことでしょう。
いくらお酒の席とはいえ、あまりに羽目を外しすぎでしたね。
「酔うのがいいが、少しは節度を持つがいい。これだから、一部の粗野な者たちのせいで、冒険者が一般人から煙たがられるんだ。同一視されるこちらとしては、まったくもって迷惑なことだ」
なかなかに辛辣ですね。
そう拡大解釈されて避難されても困るのですが、目の前の惨状の手前、反論できないのが辛いところです。
「おうおう、兄ちゃんよう! こちとらこうして素直に謝っているのに、んな言い方はねえんじゃねえか? なあ、兄弟!」
テーブルから降りたリックさんが、私に肩組みして青年に詰め寄りました。
ちなみに、素直に謝って場を収めようとしたのは私だけですし、この惨状を引き起こしたのはリックさんたちなのですけれどね。
わかってます?
体格で勝るリックさんに乱暴に詰め寄られても、青年はどこ吹く風といったふうで、憤るわけでもなく悠然としていました。
まだ二十歳そこそこに見える若年ながら、よほど肝が座っているようです。
どことなく、余裕といいますか、貫禄すら窺えますね。
「…………」
青年は冷めた目でリックさんを一瞥し――隣の私にもまた、同じような視線を投げかけました。
「…………」
「……ん?」
「……………………」
いや、ちょっと、私を見つめる割合が長すぎやしませんかね?
「…………はあ」
さらに溜め息ですよ。
今さらながら、私って他人にどんなふうに映っているのですかね。
もはや戦々恐々なのですが!
「おい、聞いてんのかよ、ああっ!?」
リックさんが胸ぐらを掴もうと腕を伸ばしましたが――
青年は軽やかな身のこなしで、易々とその手を避けてしまいました。
リックさんのほうは、信じられない顔で自分の手と相手を交互に見比べています。
単に素早いというだけではなく、あの滑らかな動きでは、すり抜けたように見えたのかもしれませんね。
これはリックさんが酔っているからという以前に、ふたりの力の差なのでしょう。
この青年は雰囲気のさることながら、かなりの実力者のようですね。
「てめえも冒険者なら、名を名乗りやがれ!」
「先ほどの無意味で下品極まりない名乗り、聞こえていたよ。『白き砲弾』だったか? 聞いたこともないな。どうせ、低ランクのにわかパーティなのだろう? そんな連中と、同じ冒険者としてひと纏まりにしてほしくはないものだが……いいだろう。俺は『紅い雷光』――”雷火”のリヴェインだ」
青年が名乗りを上げた途端、周囲の冒険者さんたちがにわかにどよめきました。
リックさんも、驚いたように息を呑んでいます。
「まさか――あの!?」
……どの?
有名なのでしょうかね。
周りの反応を見る限りは、きっと有名なのでしょうが。
『紅い雷光』……どこかで聞いたことがあるようなないような?
ふむう……いけませんね、どうも忘れっぽくって。
「マジかよ……どうして、あんたみたいな有名人が、この依頼に参加して……? ってことは、あの他のメンバーもここに――」
「なに、個人的にちょっと人捜しをしていてね。パーティ名を名乗りはしたが、ご覧の通りソロ参加さ。こうした大人数対象の依頼には、内容問わずに顔を出すことにしている」
人捜しですか。私と同じですね。
リべ――リヴェ? リヴェインさん。
年代でしょうか、”ヴェ”という部分が発音しづらいですね。
いっそリゲインとかにしていただければ、覚えやすかったのですが。僕らのリゲイン。二十四時間も戦えます。
「そうだ、もし知っていたら――」
リゲインさんはいいかけて、やれやれと首を振りました。
「あんたらが知ってるわけないか……まあいい、俺は騒がしいのを好まない。騒ぐにしても程々にな」
一方的に告げてから、リゲインさんは野次馬が道を譲る中を、悠々と去っていきました。
「……けっ、ちーっとばかし名が売れてるからって、お高く止まりやがってよ! 俺様たちを馬鹿にしやがって、ムカつくぜ! なあ、兄弟!?」
「はあ、まあ……」
リックさんはどうしても私をその中に加えたいのですね。いいですけど。
聞こえない距離まで離れてから悪態をつくあたり、リックさんはわかりやすいですね。
リゲインさんがいなくなったことで野次馬たちも自然と解散して、また好き好きに飲み食いをはじめました。
私は流れのまま、当然のごとくリックさんとご一緒することになり――
席に戻りますと、カイリさんはあの騒動の中でも、テーブルの下で丸まり、ぐっすりとお休み中でした。
どうりで静かだったわけですね。
クゥさんも完全な傍観者だったようで、隅っこで椅子に腰掛けながら、新たに取ってきた料理を黙々と食べていました。
「ええい、胸糞悪い! 飲み直しだ、飲み直し!」
リックさんの自棄酒に付き合いながら、こうして船旅初日は過ぎてゆくのでした。
どうやら、騒ぎすぎたようですね。
いつの間にか周囲に他の冒険者さんたちが集まってきていました。
「騒がしくしてしまって、ご迷惑をおかけしました。すみませんでした」
皆さん含めまして、声をかけてきた青年に代表して謝っておきました。
なにせ、テーブルに乗って暴れたものですから、周囲には落ちた料理やこぼれたお酒が散乱しており、悲惨な有様です。
苦言を呈されるのも無理もないことでしょう。
いくらお酒の席とはいえ、あまりに羽目を外しすぎでしたね。
「酔うのがいいが、少しは節度を持つがいい。これだから、一部の粗野な者たちのせいで、冒険者が一般人から煙たがられるんだ。同一視されるこちらとしては、まったくもって迷惑なことだ」
なかなかに辛辣ですね。
そう拡大解釈されて避難されても困るのですが、目の前の惨状の手前、反論できないのが辛いところです。
「おうおう、兄ちゃんよう! こちとらこうして素直に謝っているのに、んな言い方はねえんじゃねえか? なあ、兄弟!」
テーブルから降りたリックさんが、私に肩組みして青年に詰め寄りました。
ちなみに、素直に謝って場を収めようとしたのは私だけですし、この惨状を引き起こしたのはリックさんたちなのですけれどね。
わかってます?
体格で勝るリックさんに乱暴に詰め寄られても、青年はどこ吹く風といったふうで、憤るわけでもなく悠然としていました。
まだ二十歳そこそこに見える若年ながら、よほど肝が座っているようです。
どことなく、余裕といいますか、貫禄すら窺えますね。
「…………」
青年は冷めた目でリックさんを一瞥し――隣の私にもまた、同じような視線を投げかけました。
「…………」
「……ん?」
「……………………」
いや、ちょっと、私を見つめる割合が長すぎやしませんかね?
「…………はあ」
さらに溜め息ですよ。
今さらながら、私って他人にどんなふうに映っているのですかね。
もはや戦々恐々なのですが!
「おい、聞いてんのかよ、ああっ!?」
リックさんが胸ぐらを掴もうと腕を伸ばしましたが――
青年は軽やかな身のこなしで、易々とその手を避けてしまいました。
リックさんのほうは、信じられない顔で自分の手と相手を交互に見比べています。
単に素早いというだけではなく、あの滑らかな動きでは、すり抜けたように見えたのかもしれませんね。
これはリックさんが酔っているからという以前に、ふたりの力の差なのでしょう。
この青年は雰囲気のさることながら、かなりの実力者のようですね。
「てめえも冒険者なら、名を名乗りやがれ!」
「先ほどの無意味で下品極まりない名乗り、聞こえていたよ。『白き砲弾』だったか? 聞いたこともないな。どうせ、低ランクのにわかパーティなのだろう? そんな連中と、同じ冒険者としてひと纏まりにしてほしくはないものだが……いいだろう。俺は『紅い雷光』――”雷火”のリヴェインだ」
青年が名乗りを上げた途端、周囲の冒険者さんたちがにわかにどよめきました。
リックさんも、驚いたように息を呑んでいます。
「まさか――あの!?」
……どの?
有名なのでしょうかね。
周りの反応を見る限りは、きっと有名なのでしょうが。
『紅い雷光』……どこかで聞いたことがあるようなないような?
ふむう……いけませんね、どうも忘れっぽくって。
「マジかよ……どうして、あんたみたいな有名人が、この依頼に参加して……? ってことは、あの他のメンバーもここに――」
「なに、個人的にちょっと人捜しをしていてね。パーティ名を名乗りはしたが、ご覧の通りソロ参加さ。こうした大人数対象の依頼には、内容問わずに顔を出すことにしている」
人捜しですか。私と同じですね。
リべ――リヴェ? リヴェインさん。
年代でしょうか、”ヴェ”という部分が発音しづらいですね。
いっそリゲインとかにしていただければ、覚えやすかったのですが。僕らのリゲイン。二十四時間も戦えます。
「そうだ、もし知っていたら――」
リゲインさんはいいかけて、やれやれと首を振りました。
「あんたらが知ってるわけないか……まあいい、俺は騒がしいのを好まない。騒ぐにしても程々にな」
一方的に告げてから、リゲインさんは野次馬が道を譲る中を、悠々と去っていきました。
「……けっ、ちーっとばかし名が売れてるからって、お高く止まりやがってよ! 俺様たちを馬鹿にしやがって、ムカつくぜ! なあ、兄弟!?」
「はあ、まあ……」
リックさんはどうしても私をその中に加えたいのですね。いいですけど。
聞こえない距離まで離れてから悪態をつくあたり、リックさんはわかりやすいですね。
リゲインさんがいなくなったことで野次馬たちも自然と解散して、また好き好きに飲み食いをはじめました。
私は流れのまま、当然のごとくリックさんとご一緒することになり――
席に戻りますと、カイリさんはあの騒動の中でも、テーブルの下で丸まり、ぐっすりとお休み中でした。
どうりで静かだったわけですね。
クゥさんも完全な傍観者だったようで、隅っこで椅子に腰掛けながら、新たに取ってきた料理を黙々と食べていました。
「ええい、胸糞悪い! 飲み直しだ、飲み直し!」
リックさんの自棄酒に付き合いながら、こうして船旅初日は過ぎてゆくのでした。
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