巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

文字の大きさ
上 下
158 / 164
第10章 消えた賢者

冒険者パーティ『白き砲弾』

しおりを挟む
 通路の暗がりから出た矢先に、近くにいた酒瓶を手にした男性の顔が、不意にこちらを向きました。

 恰幅がよく、いかにも冒険者さん然とした格好の方ですね。
 無精髭のせいで三十代ほどに見えますが、実際はもっとお若いのかもしれません。
 口臭どころかすでに全身が酒臭く、上着もだらしなくはだけており、だいぶアルコールが入っているようですね。

「これはどうも。こんばんは」

 つい今しがたここにやってきたばかりというような、ごくさりげないふうを装ったつもりなのですが……なんでしょう、物凄く凝視されているような気がします。

「……そりゃあないだろ」

 なにがです?

 あまり初対面の挨拶としては適さないような言葉を返されてしまいました。
 もしや、危惧したとおりに変化の指輪の効果が表れていないとかでしょうか。

 ですが、それにしては相手の反応がちょっとおかしいですね。
 仮に普段の私のままだったとしましても、見た目や格好は冒険者っぽくはないかもしれませんが、このような奇異に見られるほどではないと思うのですが。はて。

「どうです、楽しんでおられますか?」

 ここで変に動揺しては、怪しまれてしまいます。
 とりあえず、当たり障りのない会話をしてみることにしました。

 しかし、それでも返答はなく、代わりにジロジロと無遠慮な視線に晒されました。
 そして、真顔で一言。

「いやあ……ないわ」

 だから、なにがです?

「……ま、世の中にゃあ、いろんな変わった奴がいるからなぁ。俺様的にはなしだが、あんた的にはありなんだろーさ。この俺様は、そんな些細なことで他人を馬鹿にするほど狭量じゃないからよ、安心しな兄弟!」

 一転して陽気に肩を組まれました。
 その台詞自体がすでに、いろいろとご無礼な気がしないでもないですが。

 どうも、酔っ払っているだけの言動でもないようです。
 もしかして、変化の指輪は効いていて、その結果、私のことがとんでもない姿に見えているとかでしょうか。
 うーん、それはそれで目立ってしまい、困るのですが……

 さりとて、一度こうして姿を晒してしまったからには、今さら引っ込むのも不自然ですよね。
 要は、正体が隠せればいいわけですから、後は野となれ山となれの精神で、突き進んでしまいましょう。

「それはそれは。ありがとうございます」

「がっはっはっ、おもしれー奴だな! とにかく、こんな隅っこに突っ立ってないで、せっかくのタダ酒なんだぜ、呑まなきゃ損ってなもんだ。よっしゃ、こっち来て飲もうぜ兄弟!」

 肩を組まれたまま、会場の中央のほうになかば強引に連れて行かれました。

 大声で鼻歌まじりに練り歩く男性ですが、周りもずいぶんと賑やかなので、特に目立ってなさそうなのが幸いです。
 
 向かった先はテーブル席のひとつで、すでにふたり組の先客がおり、横並びに座ってこちらに背を向けていました。
 いずれも女性のようですね。

「おい、戻ったぞー!」

 男性の声に反応して、ふたりがほぼ同時に振り返りました。
 気軽に声をかけているあたり、お連れの方々なのでしょう。
 この船に乗っているということはこのおふたりも冒険者で、おそらく同じ冒険者パーティのメンバーといったところでしょうか。

 最初に目があったのは、幼い感じがする黒髪の女の子でした。
 幼いとはいいましても、冒険者登録規定の十四歳以上なのでしょうが、あどけない表情と無造作にまとめた癖っ毛で、より幼く見えるのかもしれません。

「…………」

 果実水らしきコップを飲む手を止めて、食い入るように見つめられます。
 ちょっと猫背ということもあり、どことなく猫っぽい雰囲気の子です。

「変な格好」

 うん、ズバリ直球ですね。

「あ~? どなたかにゃ~?」

 そのお隣では、もうひとりの女性が半分テーブルに寝そべりながら、エールのジョッキを傾けていました。

(おお……)

 こちらはなんと猫っぽいというよりもそのまんま猫な方で、いわゆる猫の獣人さんでした。
 獣人さんの年は見た目でわかりかねますが、少なくとももうひとりの女の子よりひと回りは年上でしょう。

 すっかり酔いが回っているのか、女獣人さんは眠たげに体毛に覆われた目の周りをくしくしと手の甲で擦っていました。
 そして、半開きの眼で私を一瞥してから、もう一度、確かめるように目を拭ったあと――

「おかしな奴、発見~! にゃはは~!」

 指を差されて大笑いされました。

 そうですか、眠気を吹き飛ばすほどのインパクトでしたか。

 皆が皆、初対面でこんな反応とは、今の私ってどんな姿に見えているというのでしょうね。
 なにやら、知るのが怖くなってきました。

「ねえ」

 女の子が、男性の服の裾をクイクイと引っ張りました。

「なんだよ? あ、そっか。このへんてこな兄弟はな……」

 へんてこなは余計です。

「えっ~と、誰だっけか? がっはっはっ!」

 そういえば、お互いに自己紹介がまだでしたね。
 うっかりしていました。

「はじめまして。タクミと申します。よろしくお願いします」

 名乗ってしまってから、はたと気づきましたが……本名はまずかったですかね。
 せっかく、古代遺物アーティファクトを使ってまで正体を隠していたのですから、偽名を使うべきだったかもしれません。
 ついつい、ぺらっと出てしまいました。

 下手に偽名を使っても、呼ばれて自然に反応できるか自信がありませんし、”タクミ”なんてよくある名前ですから、まあ大丈夫でしょう。

「よっしゃ、今度は俺様たちの番だな!? 行くぞ、おめーら!」

 いきなり男性が叫んで、テーブルに跳び上がりました。

「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ!」

 なんて大声を張り上げるものですから、さすがに会場の喧騒が止み、言葉通りに周囲の注目が集まります。

「新進気鋭、目下売出し中の冒険者パーティ『白き砲弾』! なにを隠そう、この俺様がリーダーにして、人呼んで”屈強の斧使い”――リック!」

 リックさんですね。
 狭いテーブルの上で、ばばーんとダイナミックなポーズを取っています。

「こっちが”闇の女豹”の異名を持つ――カイリ!」

「にゃはは~! カイリよ~ん。黒毛猫の獣人だよ~」

 猫なんですね。
 なのに女豹。奥が深い。

 カイリさんは身軽に空中で回転し、リックさんと同じくテーブルに乗っかってポーズを取りました。
 戦隊ものよろしく、背後で爆発でも起きそうな勢いですね。

「そして、”華麗なる流脚”――クゥ!」

「…………」

 クゥさんだけはそれに参加せずに、とことこと私のもとまで歩いてきて、

「わたし、クゥ。よろしく。あっちのふたりが恥ずかしくてごめんなさい」

 と、深々と謝られてしまいました。

「クゥさんですね。これはどうもご丁寧に」

 うん、とてもいい子ですね。

「あっ! こら、クゥ! おめーも参加しろって、いつも言ってるだろ!? 三人揃わねーと、バランスがだなあ!」

「知らない、馬鹿!」

「にゃはは~! リック怒られてやんの~。クゥちゃん、きっびし~」

「あ~も~、カイリもだから! ふたりとも、さっさと降りて! 恥ずかしいんだから、もー!」

 『白き砲弾』でしたか。生憎とその名を耳にしたことはありませんが、冒険者パーティを組んでいるだけあって、独特の一体感といいますか、熟れた空気がありますね。

しおりを挟む
感想 3,313

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。