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第10章 消えた賢者
新たなる船出
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ミシシップ行きの高速艇とやらの出発時刻は、三十分後とかなり早いものでした。
ちょっと早すぎる気がしないでもありませんが、さすが親切にもいち早い出発の便を押さえてくれただけのことはありますね。
……よもや、早く追い出したいから――などという意図ではありませんよね、多分。
今はもう夕刻近く。
カランドーレに入ったのがまだ昼過ぎでしたから、そう考えますと、随分長い時間を役所で費やしてしまったものです。
まあ、そのほぼ大半が、待ちぼうけを食ったわけではありますが。
時間に余裕があれば、アバントス商会のラミルドさんにご挨拶に伺いたいところでしたが、どうもそのような余裕もなさそうで残念です。
今回は、以前にも増して慌ただしい訪問となってしまいましたね。
いずれ、この水の都とも呼ばれるカランドーレには、なにかのついでではなく、観光も兼ねてゆっくりと滞在したいところです。
渡し船で連れて行ってもらった高速艇の停泊した港とは、都の西部に位置する大規模な河岸でした。
海と見紛うほどの大きな運河が眼前に広がっており、港には多くの船舶が何艘も横付けされています。
カランドーレには、こんな場所もあったのですね。
日暮れを目前に控えた河港は、夕日が赤く水面に反射して、美しいものです。
海とは違う穏やかな波打ち際に、大小の船影が浮かんでいます。
こんな時間ではありましたが、港にはまだたくさんの人たちがいまして、かなりの混みようでした。
こうしてここにいるということは、私と同じく乗船待ちなのでしょうが……その方々の物々しい格好を見ますに、どうも冒険者さんたちが大半を占めているようです。
まさか、これが全員、船の護衛だとは思えませんが……普段から、この港はこんな感じなのでしょうかね。
なにぶん、初見なだけによくわかりません。
それはさておき、あまり余所事に気を取られている場合でもありませんね。
チケットに記された出航の時刻は差し迫ってきています。
ここでもたもたして乗り遅れでもしては、洒落にもなりません。
チケットを手配してくれた女王様や役人さんにも、申し訳が立たないというものです。
私が乗るべき高速艇とは、どれになるのでしょうかね?
一艘一艘をいちいち探して回るより、いっそ誰かに訊いたほうが早いかと周囲を窺っていますと、一見して河港の関係者らしき制服姿の方を見つけました。
専属の案内人なのかもしれません。戸惑いがちな乗客を見つけては話しかけ、手早く各船への乗船案内をしているようです。
「あの、すみません。よろしいでしょうか」
「はい。なにかお困りですか?」
「トランデュートの樹海の……え~、ミシシップですか、そこ行きの船を探しているのですが。これがチケットです」
案内人の男性は、私の全身を上から下まで一瞥しますと、差し出そうとしたチケットを確認するまでもなく、傍らの列を指差しました。
「ミシシップ行きでしたら、そちらの列に並んでください。おっと、そちらのお客様、お困りですか?」
手短に告げて、慌ただしそうに次の客のところへ行ってしまいました。
さすがはプロ。
どの船がどこ行きかなど、頭に入っているのでしょう。とにかく、助かりました。
「えーと、こちらに並べばよいのですね。あ、後ろ失礼しますね」
私も列の最後尾に並びました。
見たところ、同乗予定の方々は、冒険者さんが多いようです。といいますか、冒険者さんばかりです。
しかも、数十人は軽く超えています。
冒険者だけあって、おそらく皆さんもトランデュートの樹海目当てなのでしょう。
なにか、向こうで大掛かりな依頼でもあるのかもしれませんね。
高速艇は貴族御用達とあって、よほどの高額かとも思っていましたが、こうも大勢の皆さんが気軽に利用している当たり、必ずしもそうではなさそうです。
やむを得ずとはいえ気が引けていましたが、これで少しは気が楽になりましたね。
しばらくしますと、列の人波は大型の船舶にどんどん流れ込むように入っていきました。
遅れないように、私も流れに沿って続きます。
高速艇と聞きましたが、見かけは貨物船に近い大型の船舶ですね。
このガタイで高速で運航できるのですから、異世界の造船技術も目を見張るものがありそうです。
とりあえず、無事に乗船することができました。
間に合ってなによりですよ。
船の甲板の柵に寄りかかり、これから離れゆく北の都カランドーレを眺めることにしました。
運河側から見る都というのも、なかなかに乙なものですね。
出航を知らせる鐘が鳴り、船が河岸から離れて、ゆっくりと進みはじめました。
随分とのんびりとした出足ですが、これから徐々に速度を上げていくのでしょう。なにせ、高速艇ですからね。
時を同じくして、お隣に停泊していた中型の帆船が出航していきました。
こちらはやけに高級感漂う造りの美しい白亜の船舶で、フォルムが銀河のプレ○スターを彷彿させます。
大して風もないのに帆が大きく張っているところを見ますと、風の魔法でも用いているのではないでしょうかね。
後から出港したにもかかわらず、帆船はぐんぐんと加速しまして、あっさりとこちらを追い抜いていきました。
すぐに視界の果てに消えていきます。
「高速艇を上回るスタートダッシュとは……やりますね。して、こちらはいつ加速するのでしょうか……?」
のどかに流れゆく景色を眺めつつ、しばし観覧していましたが――河の流れと同じく、いつまでも船はゆるやかな船足で進んでいくのでした。
ちょっと早すぎる気がしないでもありませんが、さすが親切にもいち早い出発の便を押さえてくれただけのことはありますね。
……よもや、早く追い出したいから――などという意図ではありませんよね、多分。
今はもう夕刻近く。
カランドーレに入ったのがまだ昼過ぎでしたから、そう考えますと、随分長い時間を役所で費やしてしまったものです。
まあ、そのほぼ大半が、待ちぼうけを食ったわけではありますが。
時間に余裕があれば、アバントス商会のラミルドさんにご挨拶に伺いたいところでしたが、どうもそのような余裕もなさそうで残念です。
今回は、以前にも増して慌ただしい訪問となってしまいましたね。
いずれ、この水の都とも呼ばれるカランドーレには、なにかのついでではなく、観光も兼ねてゆっくりと滞在したいところです。
渡し船で連れて行ってもらった高速艇の停泊した港とは、都の西部に位置する大規模な河岸でした。
海と見紛うほどの大きな運河が眼前に広がっており、港には多くの船舶が何艘も横付けされています。
カランドーレには、こんな場所もあったのですね。
日暮れを目前に控えた河港は、夕日が赤く水面に反射して、美しいものです。
海とは違う穏やかな波打ち際に、大小の船影が浮かんでいます。
こんな時間ではありましたが、港にはまだたくさんの人たちがいまして、かなりの混みようでした。
こうしてここにいるということは、私と同じく乗船待ちなのでしょうが……その方々の物々しい格好を見ますに、どうも冒険者さんたちが大半を占めているようです。
まさか、これが全員、船の護衛だとは思えませんが……普段から、この港はこんな感じなのでしょうかね。
なにぶん、初見なだけによくわかりません。
それはさておき、あまり余所事に気を取られている場合でもありませんね。
チケットに記された出航の時刻は差し迫ってきています。
ここでもたもたして乗り遅れでもしては、洒落にもなりません。
チケットを手配してくれた女王様や役人さんにも、申し訳が立たないというものです。
私が乗るべき高速艇とは、どれになるのでしょうかね?
一艘一艘をいちいち探して回るより、いっそ誰かに訊いたほうが早いかと周囲を窺っていますと、一見して河港の関係者らしき制服姿の方を見つけました。
専属の案内人なのかもしれません。戸惑いがちな乗客を見つけては話しかけ、手早く各船への乗船案内をしているようです。
「あの、すみません。よろしいでしょうか」
「はい。なにかお困りですか?」
「トランデュートの樹海の……え~、ミシシップですか、そこ行きの船を探しているのですが。これがチケットです」
案内人の男性は、私の全身を上から下まで一瞥しますと、差し出そうとしたチケットを確認するまでもなく、傍らの列を指差しました。
「ミシシップ行きでしたら、そちらの列に並んでください。おっと、そちらのお客様、お困りですか?」
手短に告げて、慌ただしそうに次の客のところへ行ってしまいました。
さすがはプロ。
どの船がどこ行きかなど、頭に入っているのでしょう。とにかく、助かりました。
「えーと、こちらに並べばよいのですね。あ、後ろ失礼しますね」
私も列の最後尾に並びました。
見たところ、同乗予定の方々は、冒険者さんが多いようです。といいますか、冒険者さんばかりです。
しかも、数十人は軽く超えています。
冒険者だけあって、おそらく皆さんもトランデュートの樹海目当てなのでしょう。
なにか、向こうで大掛かりな依頼でもあるのかもしれませんね。
高速艇は貴族御用達とあって、よほどの高額かとも思っていましたが、こうも大勢の皆さんが気軽に利用している当たり、必ずしもそうではなさそうです。
やむを得ずとはいえ気が引けていましたが、これで少しは気が楽になりましたね。
しばらくしますと、列の人波は大型の船舶にどんどん流れ込むように入っていきました。
遅れないように、私も流れに沿って続きます。
高速艇と聞きましたが、見かけは貨物船に近い大型の船舶ですね。
このガタイで高速で運航できるのですから、異世界の造船技術も目を見張るものがありそうです。
とりあえず、無事に乗船することができました。
間に合ってなによりですよ。
船の甲板の柵に寄りかかり、これから離れゆく北の都カランドーレを眺めることにしました。
運河側から見る都というのも、なかなかに乙なものですね。
出航を知らせる鐘が鳴り、船が河岸から離れて、ゆっくりと進みはじめました。
随分とのんびりとした出足ですが、これから徐々に速度を上げていくのでしょう。なにせ、高速艇ですからね。
時を同じくして、お隣に停泊していた中型の帆船が出航していきました。
こちらはやけに高級感漂う造りの美しい白亜の船舶で、フォルムが銀河のプレ○スターを彷彿させます。
大して風もないのに帆が大きく張っているところを見ますと、風の魔法でも用いているのではないでしょうかね。
後から出港したにもかかわらず、帆船はぐんぐんと加速しまして、あっさりとこちらを追い抜いていきました。
すぐに視界の果てに消えていきます。
「高速艇を上回るスタートダッシュとは……やりますね。して、こちらはいつ加速するのでしょうか……?」
のどかに流れゆく景色を眺めつつ、しばし観覧していましたが――河の流れと同じく、いつまでも船はゆるやかな船足で進んでいくのでした。
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