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第9章 訓練兵と神隠し
賢者の失踪
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その後、井芹くんとは食堂を出てから別れました。
例の核なみの爆弾発言でしたが、井芹くんもそれ以上のことは詳しくは知らないそうです。
なんでも情報源はシロンさんらしく、この50年の間にもたまに会う機会はあったそうで、その際に口を滑らしたとかなんとか。
井芹くんは秘密主義的なことがありますからね。
言い分を鵜呑みにするわけでもありませんが、彼には彼なりの考えもあるのでしょうし、なにより頑固ですからね。無理に訊き出すのは不可能でしょう。
それにしても、井芹くんとシロンさんの会合……
方や生ける伝説のSSランク冒険者の『剣聖』と、方や知られざる魔王の側近脅威度Sランクと恐れられる『魔将』が一堂に会するという、文字面としては物々しい限りなのですが、見かけちびっこふたり組がお茶しているほのぼの光景に思えなくもありません。
あのふたりで、会話って弾むのですかね。想像も付きません。
井芹くんはお墓参りもかねて、毎年この時期にはミラドナル地方を訪れているそうです。
この食堂以外にも、馴染みの場所がいくつかあるらしく、これから一週間ほどかけて回ってみるのだとか。
女王様からの依頼で、井芹くんはエイキの躾役――もとい、お目付け役をしていたはずです。
王都からミラドナル地方までの片道に、およそ10日ほど。滞在期間に往復の日数を加算しますと、一ヶ月弱は王都を離れる計算になります。
そんなに王都を留守にしていいのか訊ねますと、
「馬鹿弟子を御するのに適任者を見つけてな。そやつに手綱は預けてきた。なに、一月程度なら問題なかろう」
などと、意味深な台詞を返されました。
良く言うと自由奔放、悪く言うと放蕩無頼のエイキを御するなど、どのような方なのでしょうかね。
エイキには井芹くんでさえ手を焼くほどですから、並大抵の人物ではなさそうです。
「それに、儂が女王とともにアンカーレン訪問で留守にしていた間に、タンジ殿が失踪していてな。城内も慌ただしく煩わしかったのでな、ちょうどよかったということもある」
そう言い残していました。
私がアンジーくんのことで王都を飛び出してから、すでに2ヶ月あまり。
あのときは、王都に着くなり取って返したわけですから、実質的にはそれ以上になるでしょうか。
王都奪還後、王都の皆さんとともに復興作業に勤しんだのも、今となってはいい思い出ですね。
なにやら、ずいぶんと懐かしい気がします。
あれから、より復興は進んだのでしょうか。そのうちにまた、顔を出したいところです。
タンジさん……どこのどなたか存じませんが、失踪とは穏やかではありませんね。
城内が慌ただしいほどとは、国の重鎮さんでしょうか。物騒なことです。
なんにせよ、私は顔が広くありませんし、王城内に限定では知人も数えるほどしかいません。
国の主立った方となりますと、ベアトリー女王に、娘さんのシシリア王女、その幼馴染のクリスくん。重鎮ではありませんが、親衛隊の騎士のフウカさんにライカさん。
あとは、三英雄に名を連ねる『勇者』のエイキに『賢者』のケンジャンくらいですか。
皆さん、お元気にされてますかね。
不本意な再会ながら、女王様とフウカさんライカさんにはアンカーレン事変で出会いましたが、その後の後遺症もなく、よりいっそうの政務や任務に励んでいると風の噂で聞き及んでいます。
王女様とクリスくんは、先月に古都レニンバルで別れたのが最後でしたね。
別れ際まであれだけお元気そうでしたので、若く情熱的なふたりに心配など無用でしょう。
エイキは相変わらずでいつも通りのエイキでしたし……そう考えますと、ケンジャンが一番ご無沙汰ですね。
いつものように王城の一室で、食欲の赴くままに太っているのでしょうか。ふふ。
「どうせ、行く宛もない根無し草ですから、一度王都に戻ってみるのもいいかもしれませんね」
『神』だの『魔王』だのは、しばらく脇に置いておきましょう。
驚愕の真実が発覚したからいって、内容が内容、しかもおいそれと誰に相談できるわけもない身の上ですし。
いえ、ただひとりいるとすれば。
相談相手として、ケンジャンは適任かもしれませんね。
彼はもともと私と同じ日本の出。気心も知れていますし、なぜか尊大ふうに振る舞いたがるものの、王都防衛でもわかるように根は善人です。私が騙った『神の使徒』の件についても、特に興味以上のものはなさそうでした。
良くも悪くもゲームの延長上としてこの異世界を捉えている節がありますから、意外に客観的な第三者としてのアドバイスをもらえるかもしれませんね。
そんなことを考えながら、私は王都へ足を向けることにしました。
急ぐ旅でもありませんから、今回もまた、のんびり徒歩旅で構わないでしょう。
――失踪したタンジさんとやらが、ケンジャンであることを思い出し、サイドマシーンもかくやの猛ダッシュで王都に駈け戻ることになったのは、その後すぐのことでした。
例の核なみの爆弾発言でしたが、井芹くんもそれ以上のことは詳しくは知らないそうです。
なんでも情報源はシロンさんらしく、この50年の間にもたまに会う機会はあったそうで、その際に口を滑らしたとかなんとか。
井芹くんは秘密主義的なことがありますからね。
言い分を鵜呑みにするわけでもありませんが、彼には彼なりの考えもあるのでしょうし、なにより頑固ですからね。無理に訊き出すのは不可能でしょう。
それにしても、井芹くんとシロンさんの会合……
方や生ける伝説のSSランク冒険者の『剣聖』と、方や知られざる魔王の側近脅威度Sランクと恐れられる『魔将』が一堂に会するという、文字面としては物々しい限りなのですが、見かけちびっこふたり組がお茶しているほのぼの光景に思えなくもありません。
あのふたりで、会話って弾むのですかね。想像も付きません。
井芹くんはお墓参りもかねて、毎年この時期にはミラドナル地方を訪れているそうです。
この食堂以外にも、馴染みの場所がいくつかあるらしく、これから一週間ほどかけて回ってみるのだとか。
女王様からの依頼で、井芹くんはエイキの躾役――もとい、お目付け役をしていたはずです。
王都からミラドナル地方までの片道に、およそ10日ほど。滞在期間に往復の日数を加算しますと、一ヶ月弱は王都を離れる計算になります。
そんなに王都を留守にしていいのか訊ねますと、
「馬鹿弟子を御するのに適任者を見つけてな。そやつに手綱は預けてきた。なに、一月程度なら問題なかろう」
などと、意味深な台詞を返されました。
良く言うと自由奔放、悪く言うと放蕩無頼のエイキを御するなど、どのような方なのでしょうかね。
エイキには井芹くんでさえ手を焼くほどですから、並大抵の人物ではなさそうです。
「それに、儂が女王とともにアンカーレン訪問で留守にしていた間に、タンジ殿が失踪していてな。城内も慌ただしく煩わしかったのでな、ちょうどよかったということもある」
そう言い残していました。
私がアンジーくんのことで王都を飛び出してから、すでに2ヶ月あまり。
あのときは、王都に着くなり取って返したわけですから、実質的にはそれ以上になるでしょうか。
王都奪還後、王都の皆さんとともに復興作業に勤しんだのも、今となってはいい思い出ですね。
なにやら、ずいぶんと懐かしい気がします。
あれから、より復興は進んだのでしょうか。そのうちにまた、顔を出したいところです。
タンジさん……どこのどなたか存じませんが、失踪とは穏やかではありませんね。
城内が慌ただしいほどとは、国の重鎮さんでしょうか。物騒なことです。
なんにせよ、私は顔が広くありませんし、王城内に限定では知人も数えるほどしかいません。
国の主立った方となりますと、ベアトリー女王に、娘さんのシシリア王女、その幼馴染のクリスくん。重鎮ではありませんが、親衛隊の騎士のフウカさんにライカさん。
あとは、三英雄に名を連ねる『勇者』のエイキに『賢者』のケンジャンくらいですか。
皆さん、お元気にされてますかね。
不本意な再会ながら、女王様とフウカさんライカさんにはアンカーレン事変で出会いましたが、その後の後遺症もなく、よりいっそうの政務や任務に励んでいると風の噂で聞き及んでいます。
王女様とクリスくんは、先月に古都レニンバルで別れたのが最後でしたね。
別れ際まであれだけお元気そうでしたので、若く情熱的なふたりに心配など無用でしょう。
エイキは相変わらずでいつも通りのエイキでしたし……そう考えますと、ケンジャンが一番ご無沙汰ですね。
いつものように王城の一室で、食欲の赴くままに太っているのでしょうか。ふふ。
「どうせ、行く宛もない根無し草ですから、一度王都に戻ってみるのもいいかもしれませんね」
『神』だの『魔王』だのは、しばらく脇に置いておきましょう。
驚愕の真実が発覚したからいって、内容が内容、しかもおいそれと誰に相談できるわけもない身の上ですし。
いえ、ただひとりいるとすれば。
相談相手として、ケンジャンは適任かもしれませんね。
彼はもともと私と同じ日本の出。気心も知れていますし、なぜか尊大ふうに振る舞いたがるものの、王都防衛でもわかるように根は善人です。私が騙った『神の使徒』の件についても、特に興味以上のものはなさそうでした。
良くも悪くもゲームの延長上としてこの異世界を捉えている節がありますから、意外に客観的な第三者としてのアドバイスをもらえるかもしれませんね。
そんなことを考えながら、私は王都へ足を向けることにしました。
急ぐ旅でもありませんから、今回もまた、のんびり徒歩旅で構わないでしょう。
――失踪したタンジさんとやらが、ケンジャンであることを思い出し、サイドマシーンもかくやの猛ダッシュで王都に駈け戻ることになったのは、その後すぐのことでした。
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