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3巻
3-3
しおりを挟む「唯一の懸念は、忌まわしき教会か……さすがに乞われて恩赦した者を、大々的に賞金首として指名手配したとなると、また鬱陶しく喚いてくるやもしれん。厄介な」
「それについても、ご報告がございます。冒険者ギルドの通信経由の速報ゆえ、まだ未確認ではありますが……あの大司教が先日、失脚したそうです」
「なんと、あの妖怪爺ぃがか!?」
「はい。心神喪失状態だとか。情報の精度としては非常に高いかと。さらに、冒険者ギルドに潜入させている密偵からの報告では、ギルドもかの者を血眼になって捜しているそうです。表向きの理由は、有能な新人のスカウトとなっているようですが、高ランク冒険者が動いているという情報からも、それだけではないかと」
「いいぞっ! 実にいいではないか!! なんという吉報だ!」
したり顔で神の名を持ち出しては、なにかと国政に口を挟んでくる大神官。何十年もその地位でのさばってきた奴が突然の失脚となれば、現状、教会はまともに機能していないはず。もとより、あの大神官以外に、教会で発言力を持つ者は皆無に等しい。
そして、三英雄の件で少しは意趣返しできたが、年々幅を利かせてくる冒険者ギルド。あまつさえ近年は、国を相手取り、冒険者の活動を優遇する意見陳述や要望嘆願までしてくる始末。生意気なことこの上ない。
「彼奴めを公開処刑にでもすれば、わしの溜飲も下がる。余計な懸念も払拭される。身を挺して助けたつもりの者が処断されたとなれば、『聖女』もわしに逆らった愚かさを知るだろう。ギルドも身内にするつもりだった者を目の前で掻っ攫われて、いい赤っ恥だ。国家への謀反の疑いありとして、罪を捏造してなすりつけるのもよいな。くっくっくっ」
メタボーニは暗い笑みを浮かべて、ぶつぶつと独白する。
「よい! これはよいっ! 一石二鳥どころの騒ぎではないぞ!? これこそ、神の思し召しというものに違いあるまい! 今こそ好機。憂いを除くのに早いに越したことはない。手配の件、早急に準備せよ!」
「はっ。かしこまりました」
即日、顔写真とともに、手配書が国内に配布された。
王都から遠く離れたかの地、ノラードの町にその手配書が届くのは、当の本人がその町を訪問する、わずか一日前のことだった。
◇◇◇
さて、こうして投獄されてしまったわけですが。
処刑のために王都に連行されるということは、逆説的には王都までの安全は保障されているわけですよね。でしたら、今すぐに無理に脱獄する必要はありませんね。
そもそも、井芹くんの話が正しいのでしたら、この身で危険になることのほうが難しそうな気がします。
先ほど役人さんたちの話をこっそり耳にしたところでは、護送は明日の午後からだそうです。それまでいかにして暇を潰すべきか、そこが現状の問題点でしょう。
「おい、新入り!」
おや?
声につられて振り向きますと、牢屋の奥の暗がりに、誰かいるみたいですね。
「てめえ、新入りのくせにこの俺様に挨拶もなしたぁ、いい度胸じゃねえか! ああ!?」
気づきませんでしたが、どうやら先客のようです。
じゃらじゃらと足枷の鎖を鳴らしつつ、巨体を揺らして近寄ってきたのは、いかつい髭面の男性でした。三十代半ばくらいに見えます。すごい迫力ですね。
身の丈二メートルほどはあるのではないでしょうか。直立すると頭が天井に届きそうです。
「これはどうも申し遅れました。私は、タクミと申します」
「遅えんだよ!」
いきなり顔面を殴られてしまいました。乱暴ですね。
「いぃ――痛ってぇー!?」
相手さんが、拳を押さえて飛び上がります。ついでに、飛び上がった拍子に天井で頭をぶつけ、今度はそちらの痛みをこらえて蹲っています。上へ下へと忙しないですね。
井芹くんの話では、私は金剛石――ダイヤモンドよりも固いそうですので、そんなものを思い切り殴っては無理もないかもしれません。
ちなみに、私はちっとも痛くありませんが。
「それで、あなたはどちら様で?」
「平然と返してくるんじゃねー!」
そういわれましても。
「ちっ、新入りいびりもダセエしな。これぐらいで勘弁してやらあ」
どれぐらいだったのかはわかりませんが、もう満足されたみたいです。
でしたら、最初からやらないほうがよかったのでは、という言葉を呑み込みます。
平和的に会話ができるのなら、それが一番ですよね。
「んで、おめえ、どんな罪でとっ捕まったんだ? ひょろそうななりだから、つまんねーことだろうなあ。コソ泥か? 食い逃げでもしたか? ぐははっ!」
隣にどすんと腰を下ろし、背中をばんばん叩かれます。
「国家反逆罪らしいです」
「……意外にヘビーな罪名が出てきたな、おい」
そういわれましても。
「まあいい。てめえが知っているかどうかは知らんが、こういった場所では、立場の上下ははっきりさせとかんといかん。もちろん、新入りのてめえが下で、俺様が上だ。下は上に絶対服従だ、いいな? まずは金だ。ここを使わせてやるショバ代をよこしな! 他にはそうだな……後で出される晩飯も献上してもらおうか?」
「すみませんが、ご遠慮します」
初対面の方に対して、そのように従う必要性を感じません。理不尽もいいところです。
それよりも、ファルティマの都を出てから丸二日、乗合馬車の運行時間の関係上、昼夜を問わず馬車の上でした。
このノラードの町では、久しぶりにベッドで寝られると喜んでいたのですが、こんな事態になってしまうとは。
しかしながら、贅沢も言ってられませんね。平らな床で横になれるだけ、いくらかマシというものでしょう。
正直なところ、こうしている今も、眠くて眠くてたまりません。
「そういうわけで、私は少し休ませてもらいますね」
「そういうわけで、じゃねえー! 舐めやがって!」
馬鹿にしたつもりはないのですが……ただ単に、異様に眠たいだけです。
仰向けに横たわったところに、馬乗りされます。いわゆる、マウントポジションというやつでしょうか。
「がははっ! これで寝られるもんなら、寝てみろってんだ――よっ!」
丸太のような腕が振り上げられて、岩石のような大きな拳で、鼻っ面を思い切り殴られます。
「くっ、痛つつ――だがなんの、まだまだいくぜえ!? おらおらおらおら――!」
息つく間のない怒涛の連打です。
「では、お言葉に甘えまして……お休みなさい」
「平然と寝に入ってんじゃねー!」
そういわれましても。
一応は思ってみますが、眠気には勝てません。特に私は、若返ってから睡眠欲には抗いがたくなっているもので。
リズミカルな殴打の音がさらなる眠気を誘い、私は意識を手放しました。
◇◇◇
「……うう~ん!」
大きく伸びをします。気疲れしていたのでしょう、実に清々しい目覚めです。
体感的には、四~五時間ほど熟睡したでしょうか。
この牢屋は地下牢となっており、外界と繋がる唯一の窓は、鉄格子の外側にある天窓だけです。
通気用らしく、とても小さい上に、角度的にもわずかに光が差し込む程度のため、そこから正確な時刻はわかりません。
ですが、腹具合からして、夕刻前くらいではないでしょうか。
「あ、おはようございます。先ほどは失礼しました」
辺りを見渡しますと、牢屋の隅で先客さんが体育座りをしていました。
どこか青ざめて、しょんぼりされていますね。
「こっちこそ、たいへん失礼いたしやした。無礼をお許しくだせえ」
なぜかいきなり深々と土下座されました。
私が寝ている間に、なにがあったというのでしょう。
「おや? 手が痣だらけですね……」
青黒く腫れ上がり、血も滲み、なんとも痛そうです。
「いやっ、はは! お気になさらずに!」
急いで両手を背後に隠しましたが……もしかして、これ、私のせいでしょうか。
自業自得ではあるのでしょうけれど、こうして私が関係したことで痛々しい怪我をしたとあっては、どうにも気の毒になってきます。
とりあえず、治療くらいはしておきましょう。
……とはいえ、ここは牢屋の中。まともな治療用具があるわけありません。
〈万物創生〉で創ったとしても、私の手を離れるとすぐに消えてしまいますからね。効果があるかは微妙なところです。
「薬は……持たれてないですよね? 癒しの魔法とかは使えないのですか?」
「神聖魔法ですかい……? いえ……」
なんでしょう。さらに気落ちした様子ですね。神聖魔法になにか苦い思い出でもあるのでしょうか。
ん? 神聖魔法……ですか。
そういえば、神聖魔法ってどうなのでしょう。
あの魔法は神様と契約して使うわけですよね。そして、その神様が多分私なわけで……その理屈では、私自身も神聖魔法が使えることになりませんか?
「なんでしたっけ。呪文ではなく――祈り? 癒しの神聖魔法で唱える祈りの言葉などは知りませんか?」
「……言葉だけなら知っていやすがね。そんなことを聞いてどうするってんです? 〝我が神よ願い奉る。大いなる癒しの光を与え給え〟。で、続けて最後に〝ヒーリング〟って感じですかね」
訊ねておいてなんですが、よく知っていましたね、あなた。
信心や神聖などとは無縁そうな風体ですが。もしかして、神聖魔法とは割とメジャーなのでしょうか。
それはさておき。
文言で考えますと――私にお願いします、私から私に癒しを与えてください――なんて、おかしな内容になってしまいますね。
この部分って必要なくないですか? 最後の〝ヒーリング〟だけで事足りるのでは?
とりあえず、物は試しです。やってみましょう。
「ヒーリング」
手をかざして唱えますと、淡い光が私の手を覆い、それが次第に先客さんの両手に移ります。
「お? おおっ!?」
「ほう、なるほど……」
みるみる内に傷が癒えていきます。
ぶっつけ本番でしたが、上手くいったようですね。
ほんのわずかな時間で、鬱血や裂傷はきれいさっぱりなくなっていました。
あらためて、魔法とは便利で素晴らしいものですね。日本のお医者さんにも教えてあげたいくらいです。
「今の回復速度――もしや、ハイヒーリング!? あんた、高位の神官様だったんですかいっ!?」
「いえ、違いますが? 神官などの神職にはありませんよ?」
神様らしいですので。
職業、神様。まあ、略して神職といえなくも?
「するってえと、神官でもないのに神聖魔法を? しかも、神聖魔法で無詠唱って――そりゃあいったい!?」
ずいぶんと驚いていますね。なにかまずかったのでしょうか。
これまで無頓着でしたが、神様とは縁遠そうな人でもこの驚きようです。時と場合と相手によっては、もっと大事になりそうですね。
やはり、私が神様であるらしいことは、内緒にしておいたほうが無難でしょう。力をひけらかしても、いいことなさげですしね。その逆は大いにありそうですが。
これからは注意することにしましょう。
「いろいろとコツがありまして」
「コツ、ですかい? そんなもんが!?」
いきなり両手を握り締められて、大きな図体で身を乗り出してきます。
興奮している……いえ、焦っているのでしょうか。先ほどまでとは違い、なにやら必死そうな面持ちです。
困りましたね。あまり詮索されたくはないのですが。
「おいっ! 貴様ら、なにを騒いでいる!!」
ちょうど、といいますか、いいタイミングで看守の方が姿を見せました。
どうやら、食事の時間のようですね。粗末なトレイをふたつ持って、階段を下りてきました。
鉄格子の戸口から差し出されたトレイを前に、手を合わせます。
メニューは薄いスープと、硬いパンです。
無償提供ですから、文句は言ってられませんね。
食事中は監視されていましたので、ふたり仲良く無言で食事を終えます。
事務的にトレイを回収して、看守さんは去っていきました。
先ほどのひと眠りで、頭もすっきりとしていますし、お腹も一応は膨れました。
では、そろそろ。
「いくつか訊いてもよろしいですか?」
「へいっ!? あ、なんですかい?」
静かなので食休み中かと思いきや、なにやら考え事をされていたようですね。邪魔をして悪いことをしました。
「この町に、冒険者ギルドはありますか?」
「ギルドなら、町の西側にありやすが……」
それは都合がいいですね。
「あなたは牢屋暮らしは長いのですか?」
「え、あ、へえ。長いつっても三日ほどですが」
「でしたら、看守の方の行動パターンはわかりますか? 具体的には、見回りの間隔についてなのですが」
「晩飯が終わったら、見回りはありやせん。次は明日の朝飯のときですね。それがなにか?」
これまた好都合ですね。
ここは地下牢、頑丈な鉄格子の扉は施錠中。階段の上にも外鍵付きの扉もあるようですし、見回りはせずとも充分との判断なのでしょう。
そもそも、ここは本格的な牢獄ではなく、いわゆる留置場のような場所みたいですしね。
明日にはこの町を去るらしいので、次回はいつ冒険者ギルドのある町に寄れるかわかりません。今のうちに、用件は済ませておきたいところです。
「ちょっと出てきます。一時間ほどで戻りますので」
「へ? へえ……出る?」
鉄格子に近づきます。
看守さんの持つ牢の鍵を見ていたら、それを創生すればよかったので手っ取り早かったのですが、見逃してしまったものは仕方ありません。
「よっと」
「っ!!」
くにっと鉄格子を曲げて、牢の外へと抜け出ます。
そういえば、この世界の物は、やけに柔らかかったり脆かったりすると思っていたのですが、単に私の力が強いだけだったのですね。思い込みというものは、怖いですね。
「あっと、念のために戻しておいたほうがよさそうですね」
「っ!?」
広げた鉄格子を、同じ要領で元に戻します。
……若干、歪んでいる気もしますが、ぱっと見では大丈夫でしょう。
次は天窓ですね。
真下から見上げますと、窓というよりはただの縦穴です。ご丁寧に、こちらにも地上付近に鉄格子が嵌めてあります。当たり前かもしれませんが。
天井までは二メートル強、天窓というか穴の長さは約三メートル。地上の鉄格子までは、合計で距離五メートルほどといったところでしょうか。
「ほいっと」
「っ!?」
一息にジャンプして、鉄格子に飛びつきます。後は牢屋のときと同じく格子をくにっと曲げて、空いた隙間から逆上がりする要領で爪先から身を捻じ込んで外に出ました。
こうした軽業師的な身軽な動きも、エルフの里でハディエットさんたちから見よう見まねで学び、ずいぶんと得意になったものです。いまや、密かな自慢だったりします。ふふふ。
どうやら、出た先は役人さんたちの詰所の裏手のようですね。雑草が伸び放題の空き地で、目立たない場所でなによりです。
外は夕暮れ時。あまり留守にして、職務に忠実な役人さんたちにご迷惑をかけてもいけませんね。
「えー……たしか、町の西側でしたね。西、西と……こっちですかね?」
私は冒険者ギルドへ向けて、歩き出しました。
◇◇◇
来訪早々、いきなりお縄になってしまって知らなかったのですが、このノラードはそれなりに賑わっている町のようですね。
夕暮れではありますが、まだまだ人通りが途切れる様子もなさそうです。むしろ、これから夜の町に繰り出そうとしているところでしょうか。
冒険者ギルドに顔を出すつもりなのですが、なにせ今の私は投獄中の身、あまり人目につくのはよろしくありません。
賞金首として指名手配中で顔写真が出回っているからには、最低限顔は隠す必要があるでしょう。
道行く人には、冒険者さんらしき方々も、ちらほら見受けられます。
中には全身重装備で、ご立派な兜をすっぽり被っている方もいます。ああいうの、よさげですよね。あれでしたら、初見で正体を見破れる人はいなそうです。
といいましても、普段着に兜だけ被るのは、さすがに不格好でしょう。鎧も一緒なら均整が取れるかもしれませんが、着慣れていない金属の塊を纏った状態で満足に歩けるのか、そっちのほうが疑問です。
変装の定番、目出し帽ではいかにも怪しいですよね。覆面を被っている人も見当たりません。どうしましょう。
う~ん。でしたら……そうですね、ここは仮面あたりが無難でしょうか。金属製の仮面でしたら、防具として冒険者さんがつけていてもおかしくはないと思います。
縁日のお面のように、顔の表面だけを覆うものですと、不意な弾みで外れる恐れがありますから、頭部をすっぽりと覆うようなフルフェイスタイプがいいですね。
冒険者さんの兜ほどゴテゴテしておらず、そこはかとなくスタイリッシュで――突飛なデザインは逆に目立ってしまいますので、異世界でも共通してありそうなデザインで……
あ。そうそう、あれなんてどうでしょうかね。幼い頃にテレビで見かけたあれ。あれでしたら、すべての条件を満たしていそうです。
『――――、クリエイトします』
創生した仮面を被ってみます。
うん、元々の形状が同じなだけに、頭部にジャストフィットです。なかなかいい感じですね。
色だけが派手な気もしますが、冒険者さんの中には、こういった色を好んで全身を包む方もいるようですから、まあ大丈夫でしょう。
指名手配対策も準備万端ですので、意気揚々と冒険者ギルドへ向かいます。
周囲には、明らかに冒険者然とした方々も歩いていますから、目的地は同じでしょう。しれっと後ろについて同行します。
しばらく歩いていますと、冒険者さんたちは次々にとある建物に呑み込まれていきました。
予想は的中したようです。ここがノラードの町の冒険者ギルドで合っているみたいですね。
両開きの扉を押し開けますと、むわっとした熱気と、アルコール臭と複雑に混ざった料理の匂いが溢れてきました。これまでの冒険者ギルドがそうであったように、やはりここも酒場を兼用しているようですね。
たくさんのテーブル席は、ほぼ満席状態です。大勢の方々が酒瓶と料理を手にして、いい感じにでき上がっています。
ノラードの冒険者ギルドは、かなり繁盛していますね。以前に訪れた港町アダラスタの冒険者ギルドとは大違いですよ。
私が入店した途端、物珍しそうな多くの視線を感じましたが、喧騒に呑まれてすぐ消えました。
どうやら、この仮面のチョイスで正解だったようです。
「さて。受付カウンターはどこでしょうね……?」
これまで、いくつかのギルドを訪れた経験ですと……ああ、ありましたね。
奥まった位置にあるカウンターに足を向けます。冒険者さん数人が列を作って並んでいるところからも、こちらで間違いないでしょう。
このカウンターでは依頼結果の報告や、報酬の受け取りをしているみたいですね。時折、歓声が上がってはランクがどうとか聞こえてきます。
なるほど、冒険者ギルドの本来の役割とは、こういった感じのものなのですね。私も将来は、『青狼のたてがみ』のみなさんと、このように一喜一憂するのでしょうか。
三十分ほど待ち、ようやく順番が回ってきましたので、カウンターの前に進み出ます。
「どうも、お世話になります」
「はい、本日はどのような――っ」
机上で書類整理をしていた受付のお嬢さんが視線を上げ、私と顔が合った瞬間、息を呑んだのがわかりました。
「あ、いえ、失礼いたしました。なかなか独創的な装備をされてるんですね」
にっこりと笑顔を向けられます。
「恐縮です」
こちらもにっこり笑い返しましたが、あいにく仮面のせいで伝わらなかったようです。
声もドスが利いたようにくぐもってしまい、逆に引きつった顔で身を引かれてしまいました。
「用件でしたね。他の町にいる冒険者パーティさん宛に、伝言のお願いとかできますか?」
「え、ええ。冒険者ギルドの支部か支所がある場所でしたら、通信によって可能です」
それはよかった。
これで、わざわざ牢を抜け出してまで、冒険者ギルドに足を運んだ甲斐がありましたね。
やはり、現状をきちんと『青狼のたてがみ』のみなさんに伝えておきませんと、義理に欠けるというものでしょう。
「ラレントの冒険者ギルドの『青狼のたてがみ』さん宛でお願いします」
「かしこまりました。では、ギルドカードの提示をお願いいたします」
え? カードが必要なのですか?
ギルドカードといいますと、以前にカレッツさんに見せてもらった、あのカードのことですよね。
参りました。いまだ冒険者ではない私は、そのようなものを持ち合わせているはずがありません。
「……申し訳ありません。私は冒険者登録とやらがまだでして、そのカードを持っていないのですが……どうしたらよいですか?」
「あら、そうなのですか? でしたら、今から冒険者登録なさいますか?」
ここで勝手に冒険者登録をするのも、ラレントで待っていてくれているみなさんに申し訳ないですね。
「登録なしでは駄目なのでしょうか……?」
「そうですね。通信の利用は、冒険者の方に限られております。ですが、手紙の輸送でしたら、定期便の荷物とともに承っていますよ。料金は銀貨一枚です。もちろん、通信に比べて日数がかかることだけはご了承ください」
「ええ、構いません。是非それでお願いします」
「はい。では、そちらのテーブルでお手紙をご用意ください」
便箋と封筒を受け取ります。
「どうもご丁寧に」
これで連絡はなんとかなりそうですね。
それにしても手紙ですか……筆不精になって久しく、手書きの手紙など随分とご無沙汰ですね。今年の年賀状以来でしょうか。
その年賀状もほぼ印刷で、二~三行書き加える程度でしたから、本格的な文章だと十年以上ぶりですね。さて、どのような書き出しにしましょうか。
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