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第9章 訓練兵と神隠し
魔将戦 ②
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『クレイジーソープ、クリエイトします』
創生した大量のスプレー缶を頭上から降らせます。
「がああああぁぁっ!」
これ、本来はお風呂で遊ぶ用の泡ソープを噴きつけるだけのものなのですが、やはり魔物堕ちして理性をなくした方々には動くもの=攻撃対象となるようですね。
落ちてきたスプレー缶を狂ったように迎撃しています。
おかげで、爆散した缶から噴き出した泡で、周囲はもこもことした立体的な泡だらけです。
私も、私を抑える女王様も、頭から泡を被って全身泡まみれ。
では、そろそろでしょうかね。
『反重力ベルト、クリエイトします』
お次は重力を操作して宙に浮いてみます。
足が地についていない感覚は少々落ち着かないものですが、私以上に慌てているのは女王様のほうでしょう。
私を放すまいと懸命にしがみついているのですが、なにせ全身泡まみれでツルツルなわけですから。いくら死んでも放すなと命じられていても、満足に掴めないのではしょうがありませんしね。
ウナギやドジョウを握るのと同じような要領なのでしょう、力任せにどれほど力を篭めようとも、力めば力むほどにぬめりで身体がずり落ちていってしまいます。必死な表情に反してわたわたとした動きが、ちょっとコミカルに見えなくもありません。
狙い通りではあるにしろ、女王様にそんな役回りをさせてしまって申し訳無さでいっぱいだったりしますが。
やがてそんな女王様の健闘も虚しく、その手は私から離れました。
私が上昇したのは地上からほんの数メートル程度でしたが、周囲はシロンさんの結界で薄暗闇の中ということもあり、皆さんは私の姿を完全に見失ってしまったようですね。
まあ、泡まみれで混乱している上、人には空を飛ぶという概念がないのですから、仕方ないことでしょう。
眼下では、魔物堕ちした方々の動揺する気配が伝わってくるようです。
中には、闇雲に泡の塊を攻撃している方もいるようですね。
目標を見失ってしまい、混迷の只中といったところでしょうか。つまりは、そんな皆さんを操っているシロンさんも同様ということです。
今こそ、反撃のチャンスですね。
かくいう私も視界が悪いという条件は同じなのですが、私にはまだまだ心強い味方がいますので。
『赤外線透視ゴーグル、クリエイトします』
あーんど、
『パラライザー銃、クリエイトします』
申し訳ありませんが、巻き添えを出さないためにも、お邪魔な方々にはしばし麻酔銃で眠っていてもらいましょう。
ゴーグルで闇を見透し、銃で魔堕ちした方々を頭上から狙い撃ちです。
慣れない空中移動をしながらで命中率もいまいちではありましたが、ぶっつけでもなんとかなるものですね。
(さて、シロンさんはどこでしょう?)
もはや戦況が覆ってしまったことは、シロンさんにもわかっているでしょう。
今となってはどうやってこの場から逃げおおせるか、そこに注視しているはずです。
(……見つけました!)
十メートルほど前方の、魔物堕ちした方々の陰に佇む小柄な体躯。
発見したのは私が一瞬早かったのですが、行動を起こしたのはシロンさんのほうが迅速でした。
反射的に私の視線を感じ取ったのであろうシロンさんは、即座に手近の魔物堕ちした方々を私にけしかけ、自身は反対方向へと身を翻して走り出しました。
魔物堕ちした方々を無力化するにしても、シロンさんのあの素早さでは、私がもたもたしている間に逃げおおせてしまいそうです。
適切な判断といえるでしょうが、なにせこの<万物創生>は呆れるほどのズルですからね。
『タイムストッパー、クリエイトします』
「ぽちっとな」
腕時計型のボタンを押せば、その名が示す通りに自分以外の周囲の時間が30秒停止するというとんでもアイテムです。
さすがは空想物、もはや物理法則とかまるっきり無視しまくりですね、はい。
襲いかかる魔物堕ちした方々も、逃げ出そうとするシロンさんも、肉体の躍動感そのままにすべてが止まってしまっています。なんだか不思議な感覚です。
ここまでセットで創生したからには、腕時計のトランシーバー機能を使ってお馴染みの「流○号、応答せよ、流○号」とかやってみたいところですが、やったらやったで本当に来そうなので止めておきましょう。実際、来られてもその後が困りますし。
「一時はどうなることかと思いましたが……なんとかなりましたね」
最後の締めとなる黒幕を捕らえるべく、シロンさんのもとまで空中を移動します。
眼下には、全身が漆黒に染まり、両眼が深紅に彩られた魔将と呼ばれる魔物の姿。しかし、その容貌には、仲間として過ごしたシロンさんの面影が確かにあります。
このシロンさんから、真相を聞き出さないといけないとなりますと、考えただけで憂鬱になってしまいますね。
さらに、その後のことについても。
もとはどうあれ、人類に敵対する魔物であり、女王様まで巻き込んだこの一連の事件の黒幕となれば、情状酌量の余地なしと断罪されるでしょう。
善悪で判断するならば、シロンさんの行動は明らかに悪です。それは覆しようがない事実です。
「ですが……う~ん……」
これまで魔物相手に、このような感情を抱いたことはなかったのですが、やはり情が移ってしまうと、どうしようもありませんね。
いろいろと思いを巡らせましたが、この短い時間で答えが出る問題でもありません。
そろそろ時が止まる30秒が経過しそうなので、ベルトの反重力を消して地面に降り立ちました。
「今回の件については、女王様にも相談して――べへっ!」
着地した足元の泡溜まりで滑り、我ながら見事に180度回転して顔面着地しました。
……痛くはありませんが、最後の最後でなんとも締まらないものです。
時間が止まっていて、他の人に格好悪いところを見られないで良かったですよ。まったく。
創生した大量のスプレー缶を頭上から降らせます。
「がああああぁぁっ!」
これ、本来はお風呂で遊ぶ用の泡ソープを噴きつけるだけのものなのですが、やはり魔物堕ちして理性をなくした方々には動くもの=攻撃対象となるようですね。
落ちてきたスプレー缶を狂ったように迎撃しています。
おかげで、爆散した缶から噴き出した泡で、周囲はもこもことした立体的な泡だらけです。
私も、私を抑える女王様も、頭から泡を被って全身泡まみれ。
では、そろそろでしょうかね。
『反重力ベルト、クリエイトします』
お次は重力を操作して宙に浮いてみます。
足が地についていない感覚は少々落ち着かないものですが、私以上に慌てているのは女王様のほうでしょう。
私を放すまいと懸命にしがみついているのですが、なにせ全身泡まみれでツルツルなわけですから。いくら死んでも放すなと命じられていても、満足に掴めないのではしょうがありませんしね。
ウナギやドジョウを握るのと同じような要領なのでしょう、力任せにどれほど力を篭めようとも、力めば力むほどにぬめりで身体がずり落ちていってしまいます。必死な表情に反してわたわたとした動きが、ちょっとコミカルに見えなくもありません。
狙い通りではあるにしろ、女王様にそんな役回りをさせてしまって申し訳無さでいっぱいだったりしますが。
やがてそんな女王様の健闘も虚しく、その手は私から離れました。
私が上昇したのは地上からほんの数メートル程度でしたが、周囲はシロンさんの結界で薄暗闇の中ということもあり、皆さんは私の姿を完全に見失ってしまったようですね。
まあ、泡まみれで混乱している上、人には空を飛ぶという概念がないのですから、仕方ないことでしょう。
眼下では、魔物堕ちした方々の動揺する気配が伝わってくるようです。
中には、闇雲に泡の塊を攻撃している方もいるようですね。
目標を見失ってしまい、混迷の只中といったところでしょうか。つまりは、そんな皆さんを操っているシロンさんも同様ということです。
今こそ、反撃のチャンスですね。
かくいう私も視界が悪いという条件は同じなのですが、私にはまだまだ心強い味方がいますので。
『赤外線透視ゴーグル、クリエイトします』
あーんど、
『パラライザー銃、クリエイトします』
申し訳ありませんが、巻き添えを出さないためにも、お邪魔な方々にはしばし麻酔銃で眠っていてもらいましょう。
ゴーグルで闇を見透し、銃で魔堕ちした方々を頭上から狙い撃ちです。
慣れない空中移動をしながらで命中率もいまいちではありましたが、ぶっつけでもなんとかなるものですね。
(さて、シロンさんはどこでしょう?)
もはや戦況が覆ってしまったことは、シロンさんにもわかっているでしょう。
今となってはどうやってこの場から逃げおおせるか、そこに注視しているはずです。
(……見つけました!)
十メートルほど前方の、魔物堕ちした方々の陰に佇む小柄な体躯。
発見したのは私が一瞬早かったのですが、行動を起こしたのはシロンさんのほうが迅速でした。
反射的に私の視線を感じ取ったのであろうシロンさんは、即座に手近の魔物堕ちした方々を私にけしかけ、自身は反対方向へと身を翻して走り出しました。
魔物堕ちした方々を無力化するにしても、シロンさんのあの素早さでは、私がもたもたしている間に逃げおおせてしまいそうです。
適切な判断といえるでしょうが、なにせこの<万物創生>は呆れるほどのズルですからね。
『タイムストッパー、クリエイトします』
「ぽちっとな」
腕時計型のボタンを押せば、その名が示す通りに自分以外の周囲の時間が30秒停止するというとんでもアイテムです。
さすがは空想物、もはや物理法則とかまるっきり無視しまくりですね、はい。
襲いかかる魔物堕ちした方々も、逃げ出そうとするシロンさんも、肉体の躍動感そのままにすべてが止まってしまっています。なんだか不思議な感覚です。
ここまでセットで創生したからには、腕時計のトランシーバー機能を使ってお馴染みの「流○号、応答せよ、流○号」とかやってみたいところですが、やったらやったで本当に来そうなので止めておきましょう。実際、来られてもその後が困りますし。
「一時はどうなることかと思いましたが……なんとかなりましたね」
最後の締めとなる黒幕を捕らえるべく、シロンさんのもとまで空中を移動します。
眼下には、全身が漆黒に染まり、両眼が深紅に彩られた魔将と呼ばれる魔物の姿。しかし、その容貌には、仲間として過ごしたシロンさんの面影が確かにあります。
このシロンさんから、真相を聞き出さないといけないとなりますと、考えただけで憂鬱になってしまいますね。
さらに、その後のことについても。
もとはどうあれ、人類に敵対する魔物であり、女王様まで巻き込んだこの一連の事件の黒幕となれば、情状酌量の余地なしと断罪されるでしょう。
善悪で判断するならば、シロンさんの行動は明らかに悪です。それは覆しようがない事実です。
「ですが……う~ん……」
これまで魔物相手に、このような感情を抱いたことはなかったのですが、やはり情が移ってしまうと、どうしようもありませんね。
いろいろと思いを巡らせましたが、この短い時間で答えが出る問題でもありません。
そろそろ時が止まる30秒が経過しそうなので、ベルトの反重力を消して地面に降り立ちました。
「今回の件については、女王様にも相談して――べへっ!」
着地した足元の泡溜まりで滑り、我ながら見事に180度回転して顔面着地しました。
……痛くはありませんが、最後の最後でなんとも締まらないものです。
時間が止まっていて、他の人に格好悪いところを見られないで良かったですよ。まったく。
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