巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

文字の大きさ
上 下
128 / 164
第9章 訓練兵と神隠し

黒幕 ①

しおりを挟む
 訓練場に着いた私を出迎えたのは、地面に累々と横たわる人影と、グラウンドの隅に放置された馬車でした。

 倒れている方々の独特な鎧の形式には見覚えがあります。
 これは、女王様の親衛隊の騎士さんのものでしょう。 

 周囲には明らかに交戦したような形跡があり、その戦闘の激しさを物語っているようでした。
 いずれの方々もわずかに蠢いていますから、まだ存命しているようです。

「エリアヒール!」

 真っ先に、回復魔法をかけておきます。
 これで、当座は大丈夫でしょう。

(これはいったい……? 井芹くんはどうしたというのですか?)

 一見して、倒れている人たちの中に井芹くんはいないようですね。

 親衛隊の任務は女王様の護衛、この有様は女王様を護ろうとして交戦し、力尽き敗れたということなのでしょう。
 ならば同じ依頼を受けていた井芹くんが、この場にいないというのも妙な話です。

 井芹くんは『剣聖』。そうそう不覚を取ることもないはずです。
 もしや、襲撃者を迎撃して、戦闘の場を移したとか、そういうことでしょうか……?

 用心深く辺りを窺いましたが、襲撃者の存在は見受けられませんね。

 まずは、半壊している馬車を確認してみることにしました。

 横合いから強烈な攻撃を受けたのでしょう。大きな馬車の御者席から左前面にかけてごっそりと削り取られ、内部が剥き出しになっています。
 馬車が壊れた際に馬車馬は逃げ出してしまったのか、どこにもいません。

 微かな呻き声がした気がして、歪んで開かなくなった馬車のドアを引っぺがしますと、ソファーにぐったりと蹲るドレス姿がありました。

「! 女王様!」

 声に反応していますから意識はあるようですが、上体をうつ伏せに投げ出しているため、顔色や容体は知れません。
 しかし、先ほどの回復魔法で外傷は完治しているはずです。

「……やっぱり……来ちゃったんだ……」

 馬車に乗り込もうとしていたところを、背後からの声に呼び止められました。

 ゆっくりと振り返りますと、つい今しがたまで誰もいなかったはずですが、そこには外套の裾を風になびかせるひとりの人物が立っていました。

 馬車に踏み込みかけていた足を下ろし、私はその人物と真正面から対峙しました。

 黒い外套に小柄な体躯。
 まさに、先日から私たちが追い求めていた人物です。
 いつも目深に被られていたというフードは肌蹴て、素顔を晒していました。

「……あなたでしたか。シロンさん」

 そこに佇んでいたのはシロンさんでした。

 ここに至り、偶然にも立ち寄った……などということはないでしょう。

「一連の”神隠し”事件の黒幕が……あなただったとはびっくりしましたよ」

「ボクも……びっくりした……だって、堕としたはずのオリンが……普通に訓練に参加してたから……」

 なるほど、どうりでオリンさんがいつまで経っても帰ってこなかったわけですね。
 おそらく、あの森で別れたあと、オリンさんはすぐにシロンさんの手に落ちていたのでしょう。
 シロンさんも同じ訓練生。あの場での実地訓練に参加していたとしても不思議ではありません。

 ということは、入れ替わっていた私の正体は、最初からバレバレだったわけですね。
 むしろそのせいで、他の”神隠し”被害者と同じように、オリンさんを戻せなかったということでしょうか。

「ちなみに、シロンさん自身も魔物堕ちさせられていて、真の黒幕に操られている……なんてことはありませんよね?」

 シロンさんには魔物堕ちの特徴である黒い靄も紅い眼も認められません。
 しかしそれだけに、自意識で行動しているという表われでもあるのでしょうが。

 正直なところ、シロンさんには訓練兵の仲間としても親しみを抱いていたので、かなりショックではあります。

「……あらためて……自己紹介しておく」

 シロンさんが呟くように漏らした瞬間、ぴりっと頭痛が走りました。

 黒い光がシロンさんの華奢な身体から噴き出したかと思うと――変貌は一瞬で完了していました。

 愛くるしかった顔をはじめ、外套から覗く肌のすべてが闇の色に染まり、陽炎のように全身に黒い靄を纏っています。いつもどこか眠そうだった眼には、爛々と紅い光が瞬いていました。

 魔物堕ちのような半端な状態ではありません。
 そこにいるのは、まさに人型をした魔物そのものです。

「……魔王様が配下。魔将……ラーカンドルフ、です……よろしく」

 律儀にぺこりと頭を下げられました。

 ……よろしくされてもひじょうに困るのですが。

しおりを挟む
感想 3,313

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。