巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

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第9章 訓練兵と神隠し

鎮静化作戦 ②

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 こうして建物伝いに移動していますと、城砦内が逃げ惑う人々と応戦する兵士さんでごった返しているのがよくわかります。
 下の道路は右往左往する人の波で通れたものではありませんから、やはり移動にはエイキのように上を選択するのが正解だったみたいですね。

 この非常時に屋根から屋根へと飛び移るさまは怪しさ抜群でしょうが、この混乱の最中で誰も上空までは注意が及んでいないのが幸いしました。
 わりと苦もなく、現場へと急行できています。

 念のため、創生したサングラスと頭にはターバンと、一応は変装もしていますから、もし見つかったとしても、まず正体がバレることはないでしょう。
 サングラスは眩しさ防止を兼ねて。そして、ターバンは――サングラスといいますと、ユウちゃんかタモさん、あとは誰もが知っている人くらいですから、セオリーのようなものです。形式美は大事ですよね。

「ちょっと我慢してくださいね――ホーリーライト!」

 国軍の皆さんと、魔物堕ちした人々が衝突しているところを見つけては、こうして横槍気味に閃光魔法――浄化魔法と言ったほうがいいかもしれませんね――を辻撃ちして回っています。

 その地点の数、すでに10を超えています。
 いかに”神隠し”の被害に遭っていた人が多かったかということでしょうね。
 調査に当たっていた者として、原因を突き止められなかったことに、申し訳なさも感じます。

 今もまた、20人ほどで構成されていた魔物堕ちの方々が聖なる光で浄化されて、地面に崩れ落ちました。
 兵士さんたちのほうも、あまりの眩しさに一時的に戦意を奪われますから、停戦を促す意味でも都合がいいですね。

「すでに相手は無力化しています! 国軍の皆さんは、穏便に対処してくださいね!」

 本来でしたらじっくりと説明したいところですが、まだまだ回る場所が尽きないだけに、悠長にしている暇はありません。
 昏倒しているのがただの一般民だと知れさえすれば、粗暴に扱われることもないでしょう。
 目が眩んで蹲っている兵士さんたちに簡潔に告げて、次の場所へと移動します。

 別行動しているエイキのほうも、上手くやってくれているみたいですね。
 途中からは、兵士さんたちが明らかに正面衝突を回避してくれているさまが見受けられました。

 これはご褒美の甘味も奮発しないといけませんね。
 ここは特別に、私の密かなお気に入りの、滑らか黒糖で作る黒糖棒も振る舞っちゃいましょう。

 そのエイキとは、どうやらすれ違ってしまったようで、合流することはできませんでした。
 小一時間もしないうちに、城砦内のすべての戦闘箇所を回り終えまして、事態をほぼ鎮静化することに成功しました。

 しかし、肝心の黒幕らしき人物はどこにも見つけられませんでした。
 レナンくんを操っていたのですから、少なくともまだこの城砦内にはいるはずです。その者を捕らえずして、解決には至らないでしょう。

「もしや、女王様のところでしょうか……?」

 慰安のために訪問されている女王様一行も城砦内のどこかにいるはずですが、まだ見かけていません。

 この混乱の機に乗じて、女王様の身柄を狙ってくる可能性は十二分にあります。いえ、すでに事は行なわれているやもしれません。
 護衛にはあの『剣聖』井芹くんが付いていますから、滅多なことはないと思うのですが……なにやら、嫌な胸騒ぎはしますね。

 こんなとき、アンカーレン城砦は広大な敷地面積を持つだけに厄介です。
 大規模な襲撃騒動は収束しつつあるものの、ただでさえ混乱冷めやらぬ中ですから、情報も錯綜してなにがなにやら。人捜しも容易ではありません。

 方々を捜し回っていたところ、戦闘後の収拾に当たっている兵士さんの中に、見知った顔を見つけました。

「ハゼル副官さん!」

 屋根から目前に降り立った私に、ハゼルさんが警戒して身構えました。

「あ、そうでしたね。私です」

 もう変装の必要もなさそうでしたので、サングラスとターバンを外しますと、ハゼルさんは抜きかけた軍刀を鞘に戻しました。

「なんだ、オリン訓練兵か。このような事態の最中に、奇抜な格好は感心できんな」

「申し訳ありません、訳ありでして」

「まあいい。オリン訓練兵も無事なようでなによりだ」

「ええ、お互いさまですね」

 軽く挨拶を交わします。

 この一帯は襲撃の規模も被害も大きかったようで、防衛戦に参加したというハゼルさんも軍服のいたる箇所が切り裂かれたり破れたりしており、衝突の激しさを物語っていました。
 それでも、同行していたアジェンダさんとリリレアさん共に大事なかったそうです。

 それに、”神隠し”の調査に携わっていた皆さんは、襲い掛かってきた魔物堕ちした人々がその被害者であることを看破し、相手側の被害軽減にも努めていたそうです。さすがという他ありません。

 アジェンダさんとリリレアさんのおふたりの姿は認められませんが、今は近場で、逃げた人々の誘導や昏睡した人々の搬送手配にと、てんやわんやのようです。

 レナンくんとガルフォルンさんのことを伝えますと、冷静沈着なハゼルさんも沈痛な面持ちを浮かべていました。

「そうか、隊長までもが……よく知らせてくれた。そのふたりがいるという場所には、救護班を手配しておこう」

「助かります」

 本来なら、私が向かいたいところではありますが……まだそのときではありません。
 私情を優先するのは、すべてが解決してからのことです。

「女王陛下の居場所……? たしか、事前に南東方面の施設に入るとの報告は来ていたが……この緊急時だけに、どうだかな」

「そうですか……」

 南東ですか。
 となりますと、ここからさほど離れていないでしょうが、状況的にも信憑性はいまいちですね。
 それでも、まったく手がかりがなく闇雲に彷徨うよりはマシでしょうか。まずはそこに……

「……あれ? オリン訓練兵?」

 横合いからの素っ頓狂な声に振り向きますと、やや唖然とした様子のリリレアさんの姿がありました。

「ああ、これはリリレアさん。ご無事そうで……ん?」

「あれ? あれ?」

 なにやら私と背後とを交互に指差しています。なんでしょうね?

「どうした、リリレア隊員?」

「あ! 失礼しましたっす! あちらでの怪我人の収容作業が完了したので、報告にきたっす!」

「そうか、了解した。皆の具合はどうだった?」

「はいっす! 軽傷者は多いものの、命にかかわるような重傷者はなく――」

 と、直立不動で敬礼し、リリレアさんがいつものように生真面目に報告しつつも――なにか、ちらちらとこちらを気にされているように見えるのですが。
 いったいなんなのでしょうね、はて。

「そういえば、リリレア隊員は女王陛下の所在について、なにか情報を持ち合わせているか?」

「女王陛下、っすか? え~……遠目だったっすが、王家の紋章を掲げた馬車を見かけたような気がするっす」

「本当ですか!? どこでです!?」

 思わず、おふたりの会話に割り込んでしまいました。
 仮にも上官だけに、失礼であることは承知の上ですが、手がかりを逃すわけにはいきません。

「ここに向かう途中だったっすから、多分、南の訓練場方面かと――」

「訓練場ですね? ありがとうございます、助かります!」

 リリレアさんは、さらになにかを言いかけようとしていましたが、一方的に話を打ち切りました。
 心苦しいですが、今は緊急なので、あしからず。

 ここから南の訓練場といいますと、幸いなことに私も訓練兵として何度も訓練したよく知る場所です。
 地理もありますから、急げばものの10分程度で到着にはお釣りがくるでしょう。

 おふたりへの挨拶もそこそこに、私は訓練場へ向けて、踵を返しました。



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