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第9章 訓練兵と神隠し
鎮静化作戦 ①
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「これはこれは、申し訳ありませんでした。あまりの勢いで突っ込んでくるものですから、てっきり良からぬことかと。とんだ早とちりをしてしまいましたね」
「まったく……気ぃー付けろよな。アンちゃんじゃなかったら、ヨーシャしてねーよ?」
私自身、レナンくんの件で過敏になりすぎていたようですね。
非常時だけに、もっと冷静に対処すべきでした。
「して、エイキはどうしてこのような場所に? 井芹くんと一緒に女王様の警護ではなかったのですか?」
「まーよ。でも、いきなりのこの騒動でしょ。ししょーから偵察に行ってこいって追い出された。人使いが荒いっての。んで、仕方なしにそこいらをうろついてたら、魔物か人間かわかんないようなヘンテコなもんで溢れてるしよ。なにあれ、魔物にリスペクトでもしたらああなんの? わけわかんねー、ウケるよねー」
お気楽にエイキは笑っています。
あなたも以前はあんな感じになっていたと教えたいところですが、そこは言わぬが華でしょう。話が進みませんし。
「そしたら、なんかこっちのほうで光ってたから、来てみたらアンちゃんがいたってわけ。まさか、いきなし目潰しかまされるとは思わなかったけど」
「城砦内の状況はどうでした?」
「んー? 雑魚同士で苦戦してる……つーか、魔物もどきにどう手出ししたらいいか戸惑ってるって感じかな? 他の奴ら逃がすのユーセンさせてたみてーだし。もどきのほうもアタマわりぃみたいで、手当たり次第に暴れるだけって感じだったし」
やはり、先ほどのレナンくんみたいな操られ方のほうが稀だったのようですね。
おそらく魔物堕ちでは、”神隠し”の重症患者だったダンピエールさん――あの理性を失くし、凶暴性が増したようになると見るべきでしょう。
もし、理知的に組織立って行動されでもしたら厄介でしたが、それでしたら相手は単に力自慢の烏合の衆と変わりありません。
日夜、対集団戦の訓練を積んでいる国軍の兵士さんたちが、そうそう後れを取るとも思えませんね。
ならばここは、むしろ魔物堕ちした方々の身が心配です。
彼らは操られているだけで、自身に非があるわけではありません。そんなことで命を落とすなど、あってはならないことですから。
「エイキ、お願いがあります!」
私は現状を手短に説明し、協力を仰ぎました。
エイキは、かの三英雄のひとりの『勇者』。その言葉に耳を貸さない者はいないでしょう。
「エイキには各所で戦っている兵士さんたちに、相手が”神隠し”に遭ったもとは普通の人間であること――この魔物堕ちは治るものであることを伝えてほしいのです。もちろん、自衛を放棄しろとまでは言いません、率先した攻撃の自粛だけでも促してもらいたいのです。追っかけ、私がホーリーライトをかけて回って鎮静化します。それまでの時間の猶予を作ってください」
両肩を掴んで熱弁した私に、エイキは――
「えー? めんどい」
耳をほじりながら一蹴しました。
「ししょーにしろアンちゃんにしろ……どいつもこいつも、俺のことなんだと思ってんの? いーじゃんか、他人がどーなっても、自己責任だろ。俺、パシリじゃないんだぜ? ったくよー」
NOと言えない日本人、なんて以前に聞きましたが、あれはなんだったのでしょうね。
この状況下で、あっさりと拒絶できるエイキはある意味すごいですが、私だってエイキの性格くらいは把握していますよ。それくらいは想定内です。
「甘味食べ放題、でどうでしょう?」
「乗った」
即座の掌返しです。
エイキの場合は、我を貫いての発言ではなく、単にその時々の気分次第といったふうですからね。
より興味の向くほうに誘導するのが効果的です。
「やっぱ、取引ってのは等価交換が原則だよねー。んな、くそめんどーなこと、タダでやってらんないってーの。スイーツ、スイーツ♪」
……このままでは、この子が社会に出てからが若干心配ではありますが。
一度、年長者として、道徳観念や倫理観について腰を据えて話し合う必要があるかもしれませんね。
今は時間が惜しいので、またの機会にでも。
「エイキは城砦を右回りに。私は左回りで行きます。いいですね、エイキ。くれぐれも衝突を抑えるようにと伝えるんですよ? 理解してもらえるよう、きちんと説明も忘れずに」
「念を押さないでもわかってるって。俺ってば『勇者』よ? 誰でも俺の命令には従うっしょ。ラクショーよ、ラクショー!」
”命令”ではなく、せめて”指示”ですね。
重要性を本当に理解してくれてるんでしょうかね、エイキは。
なにやら途中で面倒だからと、力ずくで国軍の司令官を打ちのめして従わせたり――要は相手を身動きできなくすればいいと、真っ先に敵陣に突っ込んでいってしまうという危うさが、なきにしもあらずといった気が。
「んじゃ、また後でなー! 謝礼、忘れんなよー?」
言うが早いか、行ってしまいました……
こうして動きはじめた以上、私も躊躇している暇はありませんね。
エイキを信頼して、できることからやりましょう。
「まったく……気ぃー付けろよな。アンちゃんじゃなかったら、ヨーシャしてねーよ?」
私自身、レナンくんの件で過敏になりすぎていたようですね。
非常時だけに、もっと冷静に対処すべきでした。
「して、エイキはどうしてこのような場所に? 井芹くんと一緒に女王様の警護ではなかったのですか?」
「まーよ。でも、いきなりのこの騒動でしょ。ししょーから偵察に行ってこいって追い出された。人使いが荒いっての。んで、仕方なしにそこいらをうろついてたら、魔物か人間かわかんないようなヘンテコなもんで溢れてるしよ。なにあれ、魔物にリスペクトでもしたらああなんの? わけわかんねー、ウケるよねー」
お気楽にエイキは笑っています。
あなたも以前はあんな感じになっていたと教えたいところですが、そこは言わぬが華でしょう。話が進みませんし。
「そしたら、なんかこっちのほうで光ってたから、来てみたらアンちゃんがいたってわけ。まさか、いきなし目潰しかまされるとは思わなかったけど」
「城砦内の状況はどうでした?」
「んー? 雑魚同士で苦戦してる……つーか、魔物もどきにどう手出ししたらいいか戸惑ってるって感じかな? 他の奴ら逃がすのユーセンさせてたみてーだし。もどきのほうもアタマわりぃみたいで、手当たり次第に暴れるだけって感じだったし」
やはり、先ほどのレナンくんみたいな操られ方のほうが稀だったのようですね。
おそらく魔物堕ちでは、”神隠し”の重症患者だったダンピエールさん――あの理性を失くし、凶暴性が増したようになると見るべきでしょう。
もし、理知的に組織立って行動されでもしたら厄介でしたが、それでしたら相手は単に力自慢の烏合の衆と変わりありません。
日夜、対集団戦の訓練を積んでいる国軍の兵士さんたちが、そうそう後れを取るとも思えませんね。
ならばここは、むしろ魔物堕ちした方々の身が心配です。
彼らは操られているだけで、自身に非があるわけではありません。そんなことで命を落とすなど、あってはならないことですから。
「エイキ、お願いがあります!」
私は現状を手短に説明し、協力を仰ぎました。
エイキは、かの三英雄のひとりの『勇者』。その言葉に耳を貸さない者はいないでしょう。
「エイキには各所で戦っている兵士さんたちに、相手が”神隠し”に遭ったもとは普通の人間であること――この魔物堕ちは治るものであることを伝えてほしいのです。もちろん、自衛を放棄しろとまでは言いません、率先した攻撃の自粛だけでも促してもらいたいのです。追っかけ、私がホーリーライトをかけて回って鎮静化します。それまでの時間の猶予を作ってください」
両肩を掴んで熱弁した私に、エイキは――
「えー? めんどい」
耳をほじりながら一蹴しました。
「ししょーにしろアンちゃんにしろ……どいつもこいつも、俺のことなんだと思ってんの? いーじゃんか、他人がどーなっても、自己責任だろ。俺、パシリじゃないんだぜ? ったくよー」
NOと言えない日本人、なんて以前に聞きましたが、あれはなんだったのでしょうね。
この状況下で、あっさりと拒絶できるエイキはある意味すごいですが、私だってエイキの性格くらいは把握していますよ。それくらいは想定内です。
「甘味食べ放題、でどうでしょう?」
「乗った」
即座の掌返しです。
エイキの場合は、我を貫いての発言ではなく、単にその時々の気分次第といったふうですからね。
より興味の向くほうに誘導するのが効果的です。
「やっぱ、取引ってのは等価交換が原則だよねー。んな、くそめんどーなこと、タダでやってらんないってーの。スイーツ、スイーツ♪」
……このままでは、この子が社会に出てからが若干心配ではありますが。
一度、年長者として、道徳観念や倫理観について腰を据えて話し合う必要があるかもしれませんね。
今は時間が惜しいので、またの機会にでも。
「エイキは城砦を右回りに。私は左回りで行きます。いいですね、エイキ。くれぐれも衝突を抑えるようにと伝えるんですよ? 理解してもらえるよう、きちんと説明も忘れずに」
「念を押さないでもわかってるって。俺ってば『勇者』よ? 誰でも俺の命令には従うっしょ。ラクショーよ、ラクショー!」
”命令”ではなく、せめて”指示”ですね。
重要性を本当に理解してくれてるんでしょうかね、エイキは。
なにやら途中で面倒だからと、力ずくで国軍の司令官を打ちのめして従わせたり――要は相手を身動きできなくすればいいと、真っ先に敵陣に突っ込んでいってしまうという危うさが、なきにしもあらずといった気が。
「んじゃ、また後でなー! 謝礼、忘れんなよー?」
言うが早いか、行ってしまいました……
こうして動きはじめた以上、私も躊躇している暇はありませんね。
エイキを信頼して、できることからやりましょう。
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