巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

文字の大きさ
上 下
125 / 164
第9章 訓練兵と神隠し

魔物堕ち?

しおりを挟む
 黒幕を捜すことも大事ですが、まずは城砦内の混乱をどうにかしないといけませんね。

 ひとまず、レナンくんとガルフォルンさんのふたりを、近くの物陰へと退避させました。
 ガルフォルンさんはまだ意識不明のままですし、目を覚ましたレナンくんも、とても本調子とはいえずにぐったりしています。

「レナンくんはここで待っていてください。私は野暮用を済ませてきますから」

「タクミさん……僕も」

 無理に起き上ろうとするレナンくんですが、途中で膝から崩れて、ぺたんと尻餅を突いてしまいました。

「駄目ですよ、レナンくん。理由はわかりますよね?」

「……こんな有様じゃあ、足手まといですよね。悔しいなぁ」

 民を守る国軍兵士としての義務、敵に尖兵として操られていた責任、他にも諸々あるでしょう。気持ちはわかりますが、きっぱりと突っぱねないことには、責任感の強いレナンくんは間違いなく無理をしてしまいますからね。

「情けないですけど、お願いします。タクミさん、皆を救ってあげてください」

「承りましたよ。任せといてください」

 レナンくんに頷きかけてから、私は手近の建物の屋上に移動しました。

 見渡す城砦内の混迷は、刻一刻と深まっているようです。
 この分では、被害も相当数出ているでしょう。

「エリアヒール!」

 有事に出し惜しみしてはいられませんので、自主規制していたエリアヒールの解禁です。
 足元から展開した光の波動が、さざ波のように四方に拡散していきました。波動の終端は、遠く王都カレドサニアまで届いていることでしょう。
 その意味合いがわかる人にはわかってしまうかもしれませんが、人道優先です。

 これから定期的に使うことで、当面の人的被害は緩和できるでしょうが、魔物堕ちした人々には回復魔法は効かないとされています。
 魔物堕ちして襲いかかる相手が、もとは普通の人間だと知らない兵士さんたちが、これを機と攻勢に転じてしまうのもまずいですから、ここは早急な事態の収拾に努めるべきですね。

 ホーリーライトの神聖魔法で、魔物堕ちから快気させることは証明できました。
 エリアヒールのときのように、一気に広域に効果が及ぶのでしたら手っ取り早いのですが、そうそう都合よくもいかないようです。

 前回の通りでの被害状況、今回の体感からして、おそらく効果範囲はそう広くないはずです。私を中心としたせいぜい50メートル四方ほどでしょうか。

 国軍の兵士さんたちと魔物堕ちした人々との騒乱は、城砦内の至るところで起こっています。
 ここは、地道に各地点を巡ってのローラー作戦しかなさそうです。

 こうなりますと、人手がないことが悔やまれますね。
 せめて私が到着するまで、両者の激突を抑えてくれる者でもいてくれるとありがたいのですが。

「ない物ねだりをしていても栓ないことですね。ここはできるだけ急ぐしか――おや?」

 前方を見据える私の視界に、遠くから建物の屋根伝いに駆けてくる人影が見えました。
 すばしっこい身のこなしで、まるで普通に走るような感覚で建物から建物へと飛び移り、まっしぐらにこちらを目指しているようです。
 あれは――

「エイキじゃないですか?」

 ちょっと待ってくださいよ。
 そういえば、かつてはエイキも敵の術中に落ち、『勇魔』とやらの魔物堕ちになりかけていました。
 もしやここにきて、再びエイキも……?

 レナンくんの次はエイキとは、一難去ってまた一難です。
 しかもエイキは『勇者』。あの<終末決戦>とかいう決戦スキルを持っています。私が決して真っ向勝負してはいけない相手です。

 私が逃げては、ほぼ無防備のレナンくんが人質に取られてしまう恐れもあります。
 それではまた元の木阿弥です。

 ただ、エイキの魔物化に右往左往することしかできなかった前回と違い、今回は魔物堕ちを無効化する確固たる手段があります。
 であるのでしたら、時間もありませんし、ここは迎え撃つべきでしょう。

「先制攻撃あるのみですね」

 最近接距離、最大光量でホーリーライトをぶつける他ありません。

 エイキは建物の屋根を足場に、物凄い速度でこちらに接近しつつあります。
 その距離は、およそ200メートル。接触まで30秒もないでしょう。

 攻撃の前触れか、エイキがにわかに手を振り上げました。
 やはりエイキもまた、魔物化して操られているようですね。

 ここからは、瞬時の判断が結果を左右します。
 私のいる建物と、手前の建物との隙間は10メートルばかり。大ジャンプしなければ飛び移れない距離です。

 回避行動のとれない空中――狙い目は、ジャンプ後の建物から足が離れた瞬間でしょう。
 そこを狙いすまして、ホーリーライトを叩き込みます。

 ホーリーライトの発動は、魔法名を唱えるだけの一瞬だけで事足ります。
 棒立ちの私を無手と侮り、不用意に突っ込んできてくれるのでしたら、しめたものです。

 脇目も振らずに真っ直ぐに駆けてくるエイキは、なまじ身体能力が卓越しているだけに、不安定な足場の屋根でも動きにぶれがありません。
 だからこそ、タイミングも計りやすいというものですね。

(5、4、3、2……)

 エイキの足の運びのみに注視し、カウントダウンします。

 そして今まさに――こちらの建物にジャンプしようとエイキの軸足が、足場から離れました!

(ゼロです!)

「よお、やっほ~。やっぱアンちゃんじゃ――」

「ホーリーライト!」

「――へ? うわ、眩――」

 手を振りつつジャンプした格好そのままに、エイキが純白の光の奔流に包まれ――着地点の目測を誤って、建物の側面の石壁に盛大にめり込みました。

 ……なにやら、物凄い激突音がしましたね。
 う~ん、どういうわけか、光の渦に消えていくエイキの姿は、操られているというより、とても普通っぽい感じだったのですが……黒い靄も出ていなかったような……はて。

「眩しいわっ!」

 鼻頭を赤く腫らしながら、エイキが壁をよじ登ってきました。

「エイキ……正気なのですか?」

「いきなり目潰ししてくるほうの正気を疑うわっ!」

 ふむ、たしかに。
 どうも、今ので魔物化が解けたというよりも、最初から魔物堕ちしてなかったようですね。

 いやはや、焦ったじゃないですか。この緊急時に、人騒がせな子ですね。

しおりを挟む
感想 3,313

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。