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第9章 訓練兵と神隠し
魔物堕ち?
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黒幕を捜すことも大事ですが、まずは城砦内の混乱をどうにかしないといけませんね。
ひとまず、レナンくんとガルフォルンさんのふたりを、近くの物陰へと退避させました。
ガルフォルンさんはまだ意識不明のままですし、目を覚ましたレナンくんも、とても本調子とはいえずにぐったりしています。
「レナンくんはここで待っていてください。私は野暮用を済ませてきますから」
「タクミさん……僕も」
無理に起き上ろうとするレナンくんですが、途中で膝から崩れて、ぺたんと尻餅を突いてしまいました。
「駄目ですよ、レナンくん。理由はわかりますよね?」
「……こんな有様じゃあ、足手まといですよね。悔しいなぁ」
民を守る国軍兵士としての義務、敵に尖兵として操られていた責任、他にも諸々あるでしょう。気持ちはわかりますが、きっぱりと突っぱねないことには、責任感の強いレナンくんは間違いなく無理をしてしまいますからね。
「情けないですけど、お願いします。タクミさん、皆を救ってあげてください」
「承りましたよ。任せといてください」
レナンくんに頷きかけてから、私は手近の建物の屋上に移動しました。
見渡す城砦内の混迷は、刻一刻と深まっているようです。
この分では、被害も相当数出ているでしょう。
「エリアヒール!」
有事に出し惜しみしてはいられませんので、自主規制していたエリアヒールの解禁です。
足元から展開した光の波動が、さざ波のように四方に拡散していきました。波動の終端は、遠く王都カレドサニアまで届いていることでしょう。
その意味合いがわかる人にはわかってしまうかもしれませんが、人道優先です。
これから定期的に使うことで、当面の人的被害は緩和できるでしょうが、魔物堕ちした人々には回復魔法は効かないとされています。
魔物堕ちして襲いかかる相手が、もとは普通の人間だと知らない兵士さんたちが、これを機と攻勢に転じてしまうのもまずいですから、ここは早急な事態の収拾に努めるべきですね。
ホーリーライトの神聖魔法で、魔物堕ちから快気させることは証明できました。
エリアヒールのときのように、一気に広域に効果が及ぶのでしたら手っ取り早いのですが、そうそう都合よくもいかないようです。
前回の通りでの被害状況、今回の体感からして、おそらく効果範囲はそう広くないはずです。私を中心としたせいぜい50メートル四方ほどでしょうか。
国軍の兵士さんたちと魔物堕ちした人々との騒乱は、城砦内の至るところで起こっています。
ここは、地道に各地点を巡ってのローラー作戦しかなさそうです。
こうなりますと、人手がないことが悔やまれますね。
せめて私が到着するまで、両者の激突を抑えてくれる者でもいてくれるとありがたいのですが。
「ない物ねだりをしていても栓ないことですね。ここはできるだけ急ぐしか――おや?」
前方を見据える私の視界に、遠くから建物の屋根伝いに駆けてくる人影が見えました。
すばしっこい身のこなしで、まるで普通に走るような感覚で建物から建物へと飛び移り、まっしぐらにこちらを目指しているようです。
あれは――
「エイキじゃないですか?」
ちょっと待ってくださいよ。
そういえば、かつてはエイキも敵の術中に落ち、『勇魔』とやらの魔物堕ちになりかけていました。
もしやここにきて、再びエイキも……?
レナンくんの次はエイキとは、一難去ってまた一難です。
しかもエイキは『勇者』。あの<終末決戦>とかいう決戦スキルを持っています。私が決して真っ向勝負してはいけない相手です。
私が逃げては、ほぼ無防備のレナンくんが人質に取られてしまう恐れもあります。
それではまた元の木阿弥です。
ただ、エイキの魔物化に右往左往することしかできなかった前回と違い、今回は魔物堕ちを無効化する確固たる手段があります。
であるのでしたら、時間もありませんし、ここは迎え撃つべきでしょう。
「先制攻撃あるのみですね」
最近接距離、最大光量でホーリーライトをぶつける他ありません。
エイキは建物の屋根を足場に、物凄い速度でこちらに接近しつつあります。
その距離は、およそ200メートル。接触まで30秒もないでしょう。
攻撃の前触れか、エイキがにわかに手を振り上げました。
やはりエイキもまた、魔物化して操られているようですね。
ここからは、瞬時の判断が結果を左右します。
私のいる建物と、手前の建物との隙間は10メートルばかり。大ジャンプしなければ飛び移れない距離です。
回避行動のとれない空中――狙い目は、ジャンプ後の建物から足が離れた瞬間でしょう。
そこを狙いすまして、ホーリーライトを叩き込みます。
ホーリーライトの発動は、魔法名を唱えるだけの一瞬だけで事足ります。
棒立ちの私を無手と侮り、不用意に突っ込んできてくれるのでしたら、しめたものです。
脇目も振らずに真っ直ぐに駆けてくるエイキは、なまじ身体能力が卓越しているだけに、不安定な足場の屋根でも動きにぶれがありません。
だからこそ、タイミングも計りやすいというものですね。
(5、4、3、2……)
エイキの足の運びのみに注視し、カウントダウンします。
そして今まさに――こちらの建物にジャンプしようとエイキの軸足が、足場から離れました!
(ゼロです!)
「よお、やっほ~。やっぱアンちゃんじゃ――」
「ホーリーライト!」
「――へ? うわ、眩――」
手を振りつつジャンプした格好そのままに、エイキが純白の光の奔流に包まれ――着地点の目測を誤って、建物の側面の石壁に盛大にめり込みました。
……なにやら、物凄い激突音がしましたね。
う~ん、どういうわけか、光の渦に消えていくエイキの姿は、操られているというより、とても普通っぽい感じだったのですが……黒い靄も出ていなかったような……はて。
「眩しいわっ!」
鼻頭を赤く腫らしながら、エイキが壁をよじ登ってきました。
「エイキ……正気なのですか?」
「いきなり目潰ししてくるほうの正気を疑うわっ!」
ふむ、たしかに。
どうも、今ので魔物化が解けたというよりも、最初から魔物堕ちしてなかったようですね。
いやはや、焦ったじゃないですか。この緊急時に、人騒がせな子ですね。
ひとまず、レナンくんとガルフォルンさんのふたりを、近くの物陰へと退避させました。
ガルフォルンさんはまだ意識不明のままですし、目を覚ましたレナンくんも、とても本調子とはいえずにぐったりしています。
「レナンくんはここで待っていてください。私は野暮用を済ませてきますから」
「タクミさん……僕も」
無理に起き上ろうとするレナンくんですが、途中で膝から崩れて、ぺたんと尻餅を突いてしまいました。
「駄目ですよ、レナンくん。理由はわかりますよね?」
「……こんな有様じゃあ、足手まといですよね。悔しいなぁ」
民を守る国軍兵士としての義務、敵に尖兵として操られていた責任、他にも諸々あるでしょう。気持ちはわかりますが、きっぱりと突っぱねないことには、責任感の強いレナンくんは間違いなく無理をしてしまいますからね。
「情けないですけど、お願いします。タクミさん、皆を救ってあげてください」
「承りましたよ。任せといてください」
レナンくんに頷きかけてから、私は手近の建物の屋上に移動しました。
見渡す城砦内の混迷は、刻一刻と深まっているようです。
この分では、被害も相当数出ているでしょう。
「エリアヒール!」
有事に出し惜しみしてはいられませんので、自主規制していたエリアヒールの解禁です。
足元から展開した光の波動が、さざ波のように四方に拡散していきました。波動の終端は、遠く王都カレドサニアまで届いていることでしょう。
その意味合いがわかる人にはわかってしまうかもしれませんが、人道優先です。
これから定期的に使うことで、当面の人的被害は緩和できるでしょうが、魔物堕ちした人々には回復魔法は効かないとされています。
魔物堕ちして襲いかかる相手が、もとは普通の人間だと知らない兵士さんたちが、これを機と攻勢に転じてしまうのもまずいですから、ここは早急な事態の収拾に努めるべきですね。
ホーリーライトの神聖魔法で、魔物堕ちから快気させることは証明できました。
エリアヒールのときのように、一気に広域に効果が及ぶのでしたら手っ取り早いのですが、そうそう都合よくもいかないようです。
前回の通りでの被害状況、今回の体感からして、おそらく効果範囲はそう広くないはずです。私を中心としたせいぜい50メートル四方ほどでしょうか。
国軍の兵士さんたちと魔物堕ちした人々との騒乱は、城砦内の至るところで起こっています。
ここは、地道に各地点を巡ってのローラー作戦しかなさそうです。
こうなりますと、人手がないことが悔やまれますね。
せめて私が到着するまで、両者の激突を抑えてくれる者でもいてくれるとありがたいのですが。
「ない物ねだりをしていても栓ないことですね。ここはできるだけ急ぐしか――おや?」
前方を見据える私の視界に、遠くから建物の屋根伝いに駆けてくる人影が見えました。
すばしっこい身のこなしで、まるで普通に走るような感覚で建物から建物へと飛び移り、まっしぐらにこちらを目指しているようです。
あれは――
「エイキじゃないですか?」
ちょっと待ってくださいよ。
そういえば、かつてはエイキも敵の術中に落ち、『勇魔』とやらの魔物堕ちになりかけていました。
もしやここにきて、再びエイキも……?
レナンくんの次はエイキとは、一難去ってまた一難です。
しかもエイキは『勇者』。あの<終末決戦>とかいう決戦スキルを持っています。私が決して真っ向勝負してはいけない相手です。
私が逃げては、ほぼ無防備のレナンくんが人質に取られてしまう恐れもあります。
それではまた元の木阿弥です。
ただ、エイキの魔物化に右往左往することしかできなかった前回と違い、今回は魔物堕ちを無効化する確固たる手段があります。
であるのでしたら、時間もありませんし、ここは迎え撃つべきでしょう。
「先制攻撃あるのみですね」
最近接距離、最大光量でホーリーライトをぶつける他ありません。
エイキは建物の屋根を足場に、物凄い速度でこちらに接近しつつあります。
その距離は、およそ200メートル。接触まで30秒もないでしょう。
攻撃の前触れか、エイキがにわかに手を振り上げました。
やはりエイキもまた、魔物化して操られているようですね。
ここからは、瞬時の判断が結果を左右します。
私のいる建物と、手前の建物との隙間は10メートルばかり。大ジャンプしなければ飛び移れない距離です。
回避行動のとれない空中――狙い目は、ジャンプ後の建物から足が離れた瞬間でしょう。
そこを狙いすまして、ホーリーライトを叩き込みます。
ホーリーライトの発動は、魔法名を唱えるだけの一瞬だけで事足ります。
棒立ちの私を無手と侮り、不用意に突っ込んできてくれるのでしたら、しめたものです。
脇目も振らずに真っ直ぐに駆けてくるエイキは、なまじ身体能力が卓越しているだけに、不安定な足場の屋根でも動きにぶれがありません。
だからこそ、タイミングも計りやすいというものですね。
(5、4、3、2……)
エイキの足の運びのみに注視し、カウントダウンします。
そして今まさに――こちらの建物にジャンプしようとエイキの軸足が、足場から離れました!
(ゼロです!)
「よお、やっほ~。やっぱアンちゃんじゃ――」
「ホーリーライト!」
「――へ? うわ、眩――」
手を振りつつジャンプした格好そのままに、エイキが純白の光の奔流に包まれ――着地点の目測を誤って、建物の側面の石壁に盛大にめり込みました。
……なにやら、物凄い激突音がしましたね。
う~ん、どういうわけか、光の渦に消えていくエイキの姿は、操られているというより、とても普通っぽい感じだったのですが……黒い靄も出ていなかったような……はて。
「眩しいわっ!」
鼻頭を赤く腫らしながら、エイキが壁をよじ登ってきました。
「エイキ……正気なのですか?」
「いきなり目潰ししてくるほうの正気を疑うわっ!」
ふむ、たしかに。
どうも、今ので魔物化が解けたというよりも、最初から魔物堕ちしてなかったようですね。
いやはや、焦ったじゃないですか。この緊急時に、人騒がせな子ですね。
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