巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

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第9章 訓練兵と神隠し

師弟コンビ ④

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 井芹くんとエイキのふたりを担いで通り沿いの軽食店に駆け込みまして、ようやく一息吐きました。

 窓の外では、私たちが来た方向に向かって慌ただしく駆けていく憲兵や救護兵の方々が窺えます。なんだかもう、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
 テロだなんだという声も聞こえてきて耳を塞ぎたくもなりますが、決してテロではないですよ? 目くらましをしただけですので、はい。

 穏便な脱出作戦が失敗し、なにやら大事になってしまったような気がしないでもないですが、あのまま周囲を巻き込んでの流血騒動になるよりはマシというものでしょう。

 ただし、私としては危機回避したつもりでも、強引に連行されたふたりからは非難轟々でして、おかげで事情を洗いざらい話すことに加えて、ここでの会計を奢らされることになってしまいました。
 良かれと思って取った行動でしたが、心情にも懐にもとんだ痛手ですね。

「アンちゃんさぁ、赤の他人の身代わりとか……馬鹿なの?」

 とりあえず、私がこの城砦に来るに至った経緯をふたりに説明したのですが……エイキにばっさりと切り捨てられてしまいました。

 エイキは空になったグラスをテーブルに置き、咥えたストローの先をこちらに向けてぴこぴこ揺らしています。

「普通、だからって国軍に入り込んで訓練までする? しかも何週間も。やっぱ馬鹿でしょ? 馬鹿だよね?」

 二度ならず、なぜか三度も繰り返されました。
 うう、そこまで馬鹿にしなくても。

 その隣では、お茶の湯呑を手にした井芹くんが、うんうんと静かに同意しています。

「そう責めないでくださいよ。そのときには、それが最善かと思ったのですから」

 そもそも発端からして私の勘違いでしたから、強くは否定できないのが辛いところです。

「なんにせよ、今となってはお恥ずかしい限りです。いやはや、我ながらうっかり者であることは否めませんね……ははは」

「ま、斉木らしくてよいのではないか?」

 澄まし顔でしれっと言ってのける井芹くんですが、自分だって隠密行動中にあれだけの騒動を引き起こしかけたのですから、やらかし加減では私とどっこいだと思うのですが。
 どうしてそう清々しいまでに棚に上げてしまっているのでしょうかね。ある意味、すごい胆力です。

「たしかに、アンちゃんはどっか抜けてるから、らしいっつったらそうかもしんないけど。でも、ししょーもウケるよな。俺ら、偵察中よ? 目立つ行動は控えろとか言ってたくせに、あの大勢の前でいきなり刀抜くとかねーわ! わはは!」

「おお……!」

 井芹くんに今さら言っても余計に拗れそうでしたので、わざわざ指摘しなかったことを的確に突いてくるとは……
 さすがはエイキ。場の空気を読まないマイペースな子だけのことはあります。
 意識してのことではなさそうですが、どうしてこう他人の逆鱗を逆撫でするのが得意なのですかね。

 井芹くんと隣り合わせのエイキは気づかずに呑気に笑っていますが、案の定、井芹くんの背後にブリザードが吹き荒れています。
 向かいのこちら側からでは、左右の温度差の対比が凄まじいです。

 椅子にもたれかかりながら大笑いしているエイキをよそに、井芹くんは隣の席からすっと立ち上がり、おもむろに刀を抜いて振り上げ――って。

「エイキ、危ない!」

「んあ? おっと――」

 声をかけたことにより、バランスを崩したエイキが身を仰け反らせたところを――真剣が髪の毛を数束斬り飛ばしながら、額の薄皮一枚のところを通過しました。

「あ、あああああ――あっぶねー! なにしやがんだ、ししょー!?」

「……ちっ」

「舌打ちすんな、殺す気か!?」

 井芹くんの剣の腕ですから、怪我を負わせようと意図していないと思う信じたいのですが、相変わらず容赦なしです。

 また、盛大にどたばたと暴れ始めました。懲りないといいますか……本当にこのふたりが一緒にいると騒々しいですね。”混ぜたら危険!”の化合物かなにかでしょうか。

「ほらほら、ふたりとも。ここは飲食物を扱う店内ですよ? マナー違反ですから、静かにしましょうよ」

 今日は表の通りがお祭り騒ぎなだけに、店内に他のお客さんはいませんが、だからといって騒がしくしていいものでもありませんよね。

 軽く諌めますと、もともとふたりも本気で暴れる気はなかったようで、素直に席に戻りました。
 喧嘩するほどなんとやら、これも仲がいいということでしょうか。不思議と、コンビのお笑い芸人の過激なボケとツッコミに見えなくもありません。

「……斉木。今、なにやら不埒な想像をしなかったか?」

「いいえ、まさか」

 すっ呆けておきます。
 どうしてこう、井芹くんは変なところで鋭いのでしょうかね。

「そんなことより、ずっと気にはなっていたのですが、エイキの言う”ししょー”ってなんです?」

 勘繰られる前に話は逸らしておくに限ります。
 逸らす目的以外にも、気になっていたのは事実ですしね。

「”ししょー”ではなく”師匠”だがな。まったく近頃の若い者は、言葉の発音もまともにできんとみえる」

 ああ、そっちでしたか。
 てっきり、あっちのほうかと。

「ということは、エイキは井芹くんに弟子入りを?」

「したつもりはねーんだけど。そう呼ばないとうっさいんだよ。このチビ太くん」

 即座に飛んできた剣撃を、エイキが冷や汗混じりに首輪の鎖で受け止めていました。

「ほら! すぐに手が――ってか、刀が出るー! 暴力反対ー! パワハラ、DV撲滅ー!」

 いろいろと意味合いが間違っていますが。
 それにしても、懲りない子ですね。井芹くんともそれなりの付き合いでしょうに、こうなることはいい加減にわかりそうなものですが……まあ、この慣れたやり取りからも、常日頃から繰り返していそうですけれど。

「なに、この世間知らずのお子ちゃまに、他人に敬意を持たせる躾の一環だ。暇つぶしがてら、手慰みに剣を指導してやっておるから、あながち間違いでもなかろう。こやつのチャンバラ紛いの我流剣法を見ていると、殊更にいらつくのでな」

 井芹くんにしては珍しく、少し照れ隠し気味なのがなんだか微笑ましいですね。

「うおおぃ! んな生易しいもんでもなかったろーが! 指導って名目で、何度生死の境を彷徨ったことか! 王城に常駐の神官がいなかったら、初日に死んでた自信あんぞ、俺!?」

 ……全然、微笑ましくありませんでしたね。なに、さらっと弟子を殺しかけているんですか。
 井芹くんはもっと手加減という言葉を知ったほうがいいと思います。

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