116 / 164
第9章 訓練兵と神隠し
師弟コンビ ③
しおりを挟む
これは困りました。
ランドルさんとアーシアさんコンビのほうが見た目では身長体格ともに上ですが、なにせ相手の沸点低いコンビは見かけにそぐわぬ『勇者』と『剣聖』ですから、身体能力で子供と大人以上の差があります。
真っ向からぶつかってしまっては、ランドルさんたちは大怪我では済まないでしょう。
いっそ、ここで井芹くんたちふたりの正体を明かしてしまうのも手かもしれませんが、女王様の警護の先遣といっていましたし、わざわざ外套で身元を隠していたことからもそれはまずいですよね。
第一、こんな場所で揉めているのが、かの『勇者』と『剣聖』などと知られてしまいますと、今以上の大騒動になるのは目に見えています。
「国軍のお膝元のこんなところで刃物を抜くたあ、いくら子供でも許されることじゃねえぞ!? なんて、非常識なガキどもだ!」
「ほほぅ、まだ言うか。よかろう、その度胸に免じて、苦痛は一瞬で終わらせてやろう」
「おねーさんたちが、きっちりお灸を据えてやるから反省しなさいよね!」
「だーかーらー。なんで上から目線なの? 俺、男女平等でさ。ムカつく奴は女だろーと容赦しねーけど?」
私の心配をよそに、4人ともヒートアップしています。
特に井芹くん、本来は止める立場の最年長のあなたが一番物騒なのですが。殺る気満々ではないですか。
喧嘩は祭りの華とばかりに、集まってきている野次馬の皆さんも無責任に野次を飛ばしては大盛り上がりしていますが、これからここで起こるのは下手しますと血の惨劇ですよ?
私もオリンさんである設定上、気軽に人前でヒーリングを使うわけにもいきませんし。
4人とも、分別の付くいい年をしていながら他人に迷惑をかけるなど、常識外れもいいところです。もっと良識ある行動を心掛けてほしいものですね、まったく。
『”姿なき亡霊”、クリエイトします』
存在認識阻害のスキルが付与された古代遺物を創生しておきます。
人目に付くことは避けたかったのですが、こうなっては仕方ありません。私自身の手でこの場を切り抜けるしか手段はありませんね。
作戦としてはこうです。ここに集まった全員の注意を逸らし、その隙に井芹くんとエイキにコートを被せてしまって隠蔽し、あとは一息にとんずらと――他人に迷惑も被害も出さない、完璧なプランですよね。
ランドルさんたちに嘘を重ねるのは心苦しくはありますが、そこは割り切って後ほどあらためて辻褄を合わせておくといいでしょう。
「さて。それでは始めましょうか……」
一触即発の双方を分かつように、私は両者の中央へと歩み出ました。
「おい、オリン! 昔の知り合いだかなんだかしらないが、今は志を同じくする訓練兵だ。当然、こっちの味方なんだろうな!?」
「はぁ!? アンちゃんはこっちの味方に決まってんだろ!? この勘違いくんたちに言ってやれよ、アンちゃん!」
……できるだけ目立ちたくないというのに、あなた方は。
なにやら私を取り合うような妙な空気にもなっているようです。
お互いに人数でも心的有利に立ちたいのでしょうかね。
「オリン……あたしたち、厳しい訓練で苦楽を共にした仲間だよね?」
アーシアさんが瞳を潤ませ、芝居がかった仕草で両手を組んでいます。
「斉木……儂に同級生を斬らせるなよ……」
だから井芹くん。あなたはすぐに殺傷前提なのを止めてくださいね。
とはいえ、野次馬の皆さん含めて、私に注目が集まっているのは好機ですね。
ふふ、今こそプランを実行するとしましょうか――
「――ああっ!」
私は大声を上げて、空の一点を指差しました。
「あんなところにUFOが!!」
「「…………」」
「「…………」」
「「「「……………………」」」」
……おや? 誰も引っ掛かってくれませんね。
あ。そういえば、こちらにはUFOってあるのですかね。もしかして、意味が通じていないからとか……? 私の完全無欠なプランの唯一の誤算でしたね。しくじりました。
皆さん目を点にして、決めポーズで格好良く斜め上を指差したままの私を不思議そうに見入っています。
……なんだか、恥ずかしくなってきましたね。
「…………ホーリーライト」
私が小声で呟いた途端、通りを中心とした眩い閃光が、周辺すべてを白く塗り潰しました。
「うわっ!?」
「なんだっ!? なにが起こったんだ!?」
「目っ、目が!」
「きゃあー! なにも見えない、真っ白よ!」
「痛っ! 誰だ、私の足を踏んだのはっ!?」
「ヒヒーン!」
「暴れ馬だー!」
突然の事態に、場がにわかに混乱のるつぼと化します。
周囲の皆さんを若干巻き込んでしまったようですが、ここは致し方ありません。
「――今です、緊急脱出! とうっ!」
私は目を眩ませる井芹くんとエイキを両肩に担いで、すたこらさと逃げ出したのでした。
ランドルさんとアーシアさんコンビのほうが見た目では身長体格ともに上ですが、なにせ相手の沸点低いコンビは見かけにそぐわぬ『勇者』と『剣聖』ですから、身体能力で子供と大人以上の差があります。
真っ向からぶつかってしまっては、ランドルさんたちは大怪我では済まないでしょう。
いっそ、ここで井芹くんたちふたりの正体を明かしてしまうのも手かもしれませんが、女王様の警護の先遣といっていましたし、わざわざ外套で身元を隠していたことからもそれはまずいですよね。
第一、こんな場所で揉めているのが、かの『勇者』と『剣聖』などと知られてしまいますと、今以上の大騒動になるのは目に見えています。
「国軍のお膝元のこんなところで刃物を抜くたあ、いくら子供でも許されることじゃねえぞ!? なんて、非常識なガキどもだ!」
「ほほぅ、まだ言うか。よかろう、その度胸に免じて、苦痛は一瞬で終わらせてやろう」
「おねーさんたちが、きっちりお灸を据えてやるから反省しなさいよね!」
「だーかーらー。なんで上から目線なの? 俺、男女平等でさ。ムカつく奴は女だろーと容赦しねーけど?」
私の心配をよそに、4人ともヒートアップしています。
特に井芹くん、本来は止める立場の最年長のあなたが一番物騒なのですが。殺る気満々ではないですか。
喧嘩は祭りの華とばかりに、集まってきている野次馬の皆さんも無責任に野次を飛ばしては大盛り上がりしていますが、これからここで起こるのは下手しますと血の惨劇ですよ?
私もオリンさんである設定上、気軽に人前でヒーリングを使うわけにもいきませんし。
4人とも、分別の付くいい年をしていながら他人に迷惑をかけるなど、常識外れもいいところです。もっと良識ある行動を心掛けてほしいものですね、まったく。
『”姿なき亡霊”、クリエイトします』
存在認識阻害のスキルが付与された古代遺物を創生しておきます。
人目に付くことは避けたかったのですが、こうなっては仕方ありません。私自身の手でこの場を切り抜けるしか手段はありませんね。
作戦としてはこうです。ここに集まった全員の注意を逸らし、その隙に井芹くんとエイキにコートを被せてしまって隠蔽し、あとは一息にとんずらと――他人に迷惑も被害も出さない、完璧なプランですよね。
ランドルさんたちに嘘を重ねるのは心苦しくはありますが、そこは割り切って後ほどあらためて辻褄を合わせておくといいでしょう。
「さて。それでは始めましょうか……」
一触即発の双方を分かつように、私は両者の中央へと歩み出ました。
「おい、オリン! 昔の知り合いだかなんだかしらないが、今は志を同じくする訓練兵だ。当然、こっちの味方なんだろうな!?」
「はぁ!? アンちゃんはこっちの味方に決まってんだろ!? この勘違いくんたちに言ってやれよ、アンちゃん!」
……できるだけ目立ちたくないというのに、あなた方は。
なにやら私を取り合うような妙な空気にもなっているようです。
お互いに人数でも心的有利に立ちたいのでしょうかね。
「オリン……あたしたち、厳しい訓練で苦楽を共にした仲間だよね?」
アーシアさんが瞳を潤ませ、芝居がかった仕草で両手を組んでいます。
「斉木……儂に同級生を斬らせるなよ……」
だから井芹くん。あなたはすぐに殺傷前提なのを止めてくださいね。
とはいえ、野次馬の皆さん含めて、私に注目が集まっているのは好機ですね。
ふふ、今こそプランを実行するとしましょうか――
「――ああっ!」
私は大声を上げて、空の一点を指差しました。
「あんなところにUFOが!!」
「「…………」」
「「…………」」
「「「「……………………」」」」
……おや? 誰も引っ掛かってくれませんね。
あ。そういえば、こちらにはUFOってあるのですかね。もしかして、意味が通じていないからとか……? 私の完全無欠なプランの唯一の誤算でしたね。しくじりました。
皆さん目を点にして、決めポーズで格好良く斜め上を指差したままの私を不思議そうに見入っています。
……なんだか、恥ずかしくなってきましたね。
「…………ホーリーライト」
私が小声で呟いた途端、通りを中心とした眩い閃光が、周辺すべてを白く塗り潰しました。
「うわっ!?」
「なんだっ!? なにが起こったんだ!?」
「目っ、目が!」
「きゃあー! なにも見えない、真っ白よ!」
「痛っ! 誰だ、私の足を踏んだのはっ!?」
「ヒヒーン!」
「暴れ馬だー!」
突然の事態に、場がにわかに混乱のるつぼと化します。
周囲の皆さんを若干巻き込んでしまったようですが、ここは致し方ありません。
「――今です、緊急脱出! とうっ!」
私は目を眩ませる井芹くんとエイキを両肩に担いで、すたこらさと逃げ出したのでした。
38
お気に入りに追加
13,655
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
魔物をお手入れしたら懐かれました -もふプニ大好き異世界スローライフ-
うっちー(羽智 遊紀)
ファンタジー
3巻で完結となっております!
息子から「お父さん。散髪する主人公を書いて」との提案(無茶ぶり)から始まった本作品が書籍化されて嬉しい限りです!
あらすじ:
宝生和也(ほうしょうかずや)はペットショップに居た犬を助けて死んでしまう。そして、創造神であるエイネに特殊能力を与えられ、異世界へと旅立った。
彼に与えられたのは生き物に合わせて性能を変える「万能グルーミング」だった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。