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第9章 訓練兵と神隠し

師弟コンビ ③

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 これは困りました。
 ランドルさんとアーシアさんコンビのほうが見た目では身長体格ともに上ですが、なにせ相手の沸点低いコンビは見かけにそぐわぬ『勇者』と『剣聖』ですから、身体能力で子供と大人以上の差があります。
 真っ向からぶつかってしまっては、ランドルさんたちは大怪我では済まないでしょう。

 いっそ、ここで井芹くんたちふたりの正体を明かしてしまうのも手かもしれませんが、女王様の警護の先遣といっていましたし、わざわざ外套で身元を隠していたことからもそれはまずいですよね。
 第一、こんな場所で揉めているのが、かの『勇者』と『剣聖』などと知られてしまいますと、今以上の大騒動になるのは目に見えています。

「国軍のお膝元のこんなところで刃物を抜くたあ、いくら子供でも許されることじゃねえぞ!? なんて、非常識なガキどもだ!」

「ほほぅ、まだ言うか。よかろう、その度胸に免じて、苦痛は一瞬で終わらせてやろう」

「おねーさんたちが、きっちりお灸を据えてやるから反省しなさいよね!」

「だーかーらー。なんで上から目線なの? 俺、男女平等でさ。ムカつく奴は女だろーと容赦しねーけど?」

 私の心配をよそに、4人ともヒートアップしています。
 特に井芹くん、本来は止める立場の最年長のあなたが一番物騒なのですが。殺る気満々ではないですか。

 喧嘩は祭りの華とばかりに、集まってきている野次馬の皆さんも無責任に野次を飛ばしては大盛り上がりしていますが、これからここで起こるのは下手しますと血の惨劇ですよ?
 私もオリンさんである設定上、気軽に人前でヒーリングを使うわけにもいきませんし。

 4人とも、分別の付くいい年をしていながら他人に迷惑をかけるなど、常識外れもいいところです。もっと良識ある行動を心掛けてほしいものですね、まったく。

『”姿なき亡霊インビジブル・コート”、クリエイトします』

 存在認識阻害のスキルが付与された古代遺物アーティファクトを創生しておきます。

 人目に付くことは避けたかったのですが、こうなっては仕方ありません。私自身の手でこの場を切り抜けるしか手段はありませんね。
 作戦としてはこうです。ここに集まった全員の注意を逸らし、その隙に井芹くんとエイキにコートを被せてしまって隠蔽し、あとは一息にとんずらと――他人に迷惑も被害も出さない、完璧なプランですよね。

 ランドルさんたちに嘘を重ねるのは心苦しくはありますが、そこは割り切って後ほどあらためて辻褄を合わせておくといいでしょう。

「さて。それでは始めましょうか……」

 一触即発の双方を分かつように、私は両者の中央へと歩み出ました。

「おい、オリン! 昔の知り合いだかなんだかしらないが、今は志を同じくする訓練兵だ。当然、こっちの味方なんだろうな!?」

「はぁ!? アンちゃんはこっちの味方に決まってんだろ!? この勘違いくんたちに言ってやれよ、アンちゃん!」

 ……できるだけ目立ちたくないというのに、あなた方は。
 なにやら私を取り合うような妙な空気にもなっているようです。
 お互いに人数でも心的有利に立ちたいのでしょうかね。

「オリン……あたしたち、厳しい訓練で苦楽を共にした仲間だよね?」

 アーシアさんが瞳を潤ませ、芝居がかった仕草で両手を組んでいます。

「斉木……儂に同級生を斬らせるなよ……」

 だから井芹くん。あなたはすぐに殺傷前提なのを止めてくださいね。

 とはいえ、野次馬の皆さん含めて、私に注目が集まっているのは好機ですね。

 ふふ、今こそプランを実行するとしましょうか――

「――ああっ!」

 私は大声を上げて、空の一点を指差しました。

「あんなところにUFOが!!」

「「…………」」

「「…………」」

「「「「……………………」」」」

 ……おや? 誰も引っ掛かってくれませんね。
 あ。そういえば、こちらにはUFOってあるのですかね。もしかして、意味が通じていないからとか……? 私の完全無欠なプランの唯一の誤算でしたね。しくじりました。

 皆さん目を点にして、決めポーズで格好良く斜め上を指差したままの私を不思議そうに見入っています。

 ……なんだか、恥ずかしくなってきましたね。

「…………ホーリーライト」

 私が小声で呟いた途端、通りを中心とした眩い閃光が、周辺すべてを白く塗り潰しました。

「うわっ!?」

「なんだっ!? なにが起こったんだ!?」

「目っ、目が!」

「きゃあー! なにも見えない、真っ白よ!」

「痛っ! 誰だ、私の足を踏んだのはっ!?」

「ヒヒーン!」

「暴れ馬だー!」

 突然の事態に、場がにわかに混乱のるつぼと化します。
 周囲の皆さんを若干巻き込んでしまったようですが、ここは致し方ありません。

「――今です、緊急脱出! とうっ!」

 私は目を眩ませる井芹くんとエイキを両肩に担いで、すたこらさと逃げ出したのでした。


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