巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

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第9章 訓練兵と神隠し

調査開始 ③

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「――といったような具合でして」

 その日の夜半。
 私とアーシアさんとランドルさんとシロンさんの訓練兵4人は、仮住まいの食堂に集まりまして、本日の調査の情報交換をすることになりました。
 就寝時間間際のこの時間帯では、他に利用者もいませんので、勝手ながら食事用の長テーブルを4人で占拠しています。

 私が隊長のレナンくんと同行したように、アーシアさんはアジェンダさん、ランドルさんはリリレアさん、シロンさんは副官のハゼルさんとご一緒されていました。

 まずは私からということで、被害者の方が私以外に過剰反応していたことを説明しますと、皆さんは首を捻るばかりでした。
 どうやら、他の皆さんではそういうことはなかったようですね。やはり、私自身になにか理由でもあるのでしょうか。
 ……高齢者は見向きもされないとかではないですよね?

「……あたしはさ。知っての通り、アジェンダ姐さんに付いて回ったんだけど」

 私に続いて、今度はアーシアさんが口を開きました。

 ずいぶんと真剣な面持ちですので、よもや重大な手がかりでもあったのでしょうか。
 私もついつい力が入り、テーブルに前のめり気味になってしまいます。

「……なんかあの人、妙にエロいのよね。ボディタッチが過敏で、すぐ腰や肩に手を回して自然と抱き付いてくるし。あれって天然なのかなぁ。同性ながら、危うくあたしも変な気になることだったわ。悔しいけど、普段から馬鹿にしてた男どもの気持ちがわかった気がするわね」

 なんの報告ですか、なんの。

「くっそ、羨ましい! 俺なんて、リリレア嬢にずっと引っ張り回された感じでよ。あの人、我が道を行くってタイプで、俺の話なんてほとんど聞きゃしないしよ。あのマイペースな強引さ……実家の姉貴を思い出しちまった。最初はアリかと思ったが、ありゃナシだな、ナシ」

 ランドルさんは貴族の九男坊でしたよね。
 それだけご兄弟が多いと、テレビの大家族密着ではありませんが、いろいろと問題も起こって大変そうではありますよね――ではなく。

 どちらも調査内容とは全然関係ない話じゃないですか。
 おふたりとも、わいわいと四方山話で盛り上がっています。
 強いて言うほどのことがなかったからかもしれませんが。

「シロンさんのほうはどうでしたか?」

 ちょこんと椅子に腰かけ、ちびちびとお茶を啜っているシロンさんに話を振りますと、ややあってから彼(彼女?)は湯呑ごと首を傾げました。

「……普通?」

 ……そうですか。
 なにを基準に普通なのかはわかりませんが、つまりは他のおふたりと同じように、特筆すべきことはなかったということなのでしょう。
 なにせ調査もまだ初日ですから、仕方ないのかもしれませんけれどね。

「ハゼルさんとは、どのような会話をされたのですか?」

「……特に、なにも……」

 ……まあ、そうでしょうね。
 いかにも寡黙そうなハゼルさんと、無口なシロンさんでは会話が弾む姿が想像できません。これは私の失言でしたね。
 現に、この会話も途絶えてしまいましたし。

「それにしても、オリンだけ反応が違うってのも変だよな?」

「たしかに。なにか特別な条件でもあるのかしら?」

 一周回って話題が元に戻ったのか、ランドルさんとアーシアさんの話の矛先がこちらに向きました。
 なんとも自由ですね。若さとはこういうものでしょうか。
 十代の若人たちの織り成す展開の突拍子のなさに、古い世代の私は付いていけそうにもありません。

「なんだろ、なにか匂いでもするとか?」

 アーシアさんが鼻先を私の肩口に触れそうなほどに近づけて、鼻をふんふんと鳴らしています。

「……んー? どことなく柑橘系……かな?」

 犬ですか。なんです、柑橘系の体臭って。

「マタタビみたいな効果があるとかじゃないか?」

 猫ですか。しかも、それじゃあ逆に興奮しそうなものですよ。

「あっ、そうだ! 実際に神隠し経験者のシロンがいるじゃない。どう? オリンとあたしたちを比べて、なんか違いとかあったりする?」

 そう詰め寄るアーシアさんは実に直球です。
 実のところ、私もシロンさんには訊いてみたかった事柄ですが、被害に遭った方に対してさすがにデリカシーがないかと思い、切り出しあぐねていたのですが……年代が近いゆえの気安さといいますか、これも若さでしょうかね。

「……違い?」

 当のシロンさんも、特に気にした様子はないようです。
 せっかくですから、ここは乗っかってしまいましょう。

「どうでしょうか、シロンさん。なにか感じますか?」

 あらためて訊ねますと、シロンさんは若干困惑するように眉根を寄せました。

「……ランドルとアーシアは……普通?」

「普通ね……ま、そんなもんか」

「そっか、普通かぁ。だよね、これまでも嫌がる素振りとかなかったし。でも、シロンと仲良しになったと思ってるあたしにとっては、普通とか言われるとちょっとショックかも」

 アーシアさんが大仰にテーブルに突っ伏します。

「では、私は?」

「オリンは……ん~、好き?」

「「おおっ!?」」

 シロンさんが口にした直後、アーシアさんがテーブルからがばっと跳ね起き、ランドルさんが椅子を蹴って立ち上がりました。

「禁断の愛か!?」

 それはシロンさんが男の子だからでしょうか、それともシロンさんが女の子で私と年が離れているからでしょうか。微妙ですね。
 シロンさんは未だ性別不明ですから、私にとっては、むしろそちらのほうが気にかかります。

「なになに、それ! ライク的な? それともラブ的な? きゃー! 解説、プリーズ!」

 アーシアさんの勢いが五割増しくらいになりました。実にお元気なお嬢さんですね。

「……前に住んでた、ファルティマの都の村……お金くれて、助けてくれようとしてくれた人がいた。でも駄目で……その人、ボクらのために、怒ってくれた。お礼、言えなかったけど……嬉しかった。オリン、その人にそっくり。だから……好き?」

 瞑目したまま、シロンさんがぽつりぽつりと語ってくれました。
 普段から口数の少ないシロンさんにしては長文で大変だったようで、しきりにお茶を飲んで喉を潤わせています。

 それより正直、その話の内容に驚きました。
 それって、思いっ切り私本人のことではないですか。

 ファルティマの都の村といいますと、以前にネネさんに会いに行ったときに立ち寄った、あの集落のことでしょう。
 あの村でのことは、思い出深く記憶に残っています。今しがた語られた一件のことも。
 あのときに金貨を手渡した人々の中に、シロンさんもいたということなのですね。

 聖女であるネネさんは、あの哀れな集落の人々に心を痛めて、変えていこうとしていました。
 その誓いは守られ、見世物のような扱いで集落に縛られていた人々は解放され、シロンさんは自由意思で兵士になろうとこうして軍に志願したと――

「なーんだ。なんかよくわからないけど、ただの他人の空似レベルでの”好き”かぁ。期待して損しちゃった。……って。ど、どうしたの、オリン? いきなり涙ぐんじゃって? シロンの”好き”にそんなに期待しちゃってたとか?」

「お気になさらず」

「気になるよ!?」

 感動で涙がちょちょびれているだけですから。
 あのとき余計なお世話で傷つけてしまったと悔やんでいたことが実は感謝されていて、しかもあんなに無気力で生きる希望を見失っていた集落の出身者が、こんなに前向きで立派になっていようとは……これが感涙せずにはいられますか。少なくとも、私には無理です。よよよ。

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