巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

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第9章 訓練兵と神隠し

調査開始 ①

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 ふたり一組ということで、予想通り、予定通りといいますか、私はレナンくんとのペアになりました。
 まずは聞き取りということで、私たちは伴いまして、被害者の方がいるという宿舎へと向かっています。

 渡された資料によりますと、被害者は技術部所属のダンピエールさん32歳。
 時期的には、神隠しが起こり始めた初頭の頃に被害に遭われたみたいですね。現在では体調が芳しくなく、ここ数日は宿舎に割り当てられた自室で静養しているそうです。

「その人、当初はさほど普段と変わりなかったらしいんですけど、最近になって急に症状が顕著になったみたいで。突然、陰鬱になったかと思うと、逆に暴言を吐いて暴れ出したりと、手が付けられなくなったりすることが多くなったそうです。本人はそのことを覚えていないことがほとんどみたいで、外聞的なこともあり、体面上は静養ということになってますけど、実質、軟禁状態になっているようですね」

「そうなのですか」

 案内するレナンくんが、行き道がてら教えてくれました。

 性格が豹変するとは聞きましたが、周囲に迷惑をかけるようになってしまうとは厄介ですね。
 特にここは軍事施設ですから、危険物や武器の類も手近に盛りだくさん、どのような危険があるかもわかりませんから。

 なお厄介なのは、本人に自覚がないことでしょう。
 悪酔いした酔っ払いが泥酔事件を起こすようなものです。散々迷惑かけまくった上、気付いたら留置所でした――みたいな感じでしょうか。
 酔っ払いは自己責任ですが、この場合は病気に近く、本人が注意しようもない不可抗力ですしね。

 現場調査のレナンくんたちとは別口で、専門家がスキルや魔法を用いて原因究明しているそうですが、解決の糸口すら見つけられないのが実情みたいです。

 念のため、私の<森羅万象>スキルを同じ被害者であるシロンさんに試してみましたが駄目でした。
 あれって、漠然としたものを鑑定するのには向いていないのですよね。特にこと生物に関しては、無駄な付加情報が多すぎて、文字通り頭がパンクしそうになるだけでした。
 プライバシーの侵害もありますし、今でもまだ頭に鈍痛が残っています。

 まあ、今回の一件については、私はあくまでお手伝いの立場ですので、責任者であるレナンくんにお任せです。
 差し出がましい真似は控え目で行こうと思っています。

 それはそうと――
 同行する私たちに、軍関係者の方々が道すがら挨拶をしていきます。私たちというか、レナンくんに、ということですが。
 気軽に声をかけてくる下士官さんや士官さんっぽい方、緊張して敬礼してくる一般兵さん。階級も年代も様々ですが、皆さんレナンくんには好意的です。
 アンカーレン城砦で、レナンくんは有名人のようですね。

「あはは……噂が勝手に独り歩きしているみたいで。いろいろな噂に尾ひれが付きまくって、すごいことになってるみたいなんですよ。以前は訂正していたんですけど、今度はやれ謙虚だ、兵士の鑑だと、持て囃されてしまうのでやめました」

 恐縮するように、レナンくんは苦笑いをしています。

「悪い噂ならともかく、いい噂なら構わないのでは?」

 私としては、レナンくんが褒められるのは悪い気はしませんよ。

「とんでもない! 力量以上の過度の期待はプレッシャーですよ。自分のことくらい自分で心得ています。讃えられている功績も、大半は自力ですらありませんからね。実際の僕の力なんて、微々たるものですよ。ただ、こんな時期ですから、軍としてもプロパガンダに利用したい気がありありで……」

「なるほど。民は常に英雄を求めるということですか」

「……ですね。身に余りすぎて弱ってますけど」

 私たちがこの異世界に召喚されたとき、国難を救ったのは三英雄の存在でした。

 次の王都奪還時には、”神の使徒”――ですが、こちらは姿を消してしまい、今となっては虚実すら確かではありません。
 民衆は目に見える希望を欲するものです。そこで、地方の一役人でありながら、王都奪還作戦に電撃参戦し、かの聖女と共に戦い、その窮地を救った英傑――異世界の英雄という遠い存在よりも、身近な者による誰しもわかりやすい英雄譚。低下した国への民意を掻き立てるには最適でしょう。

 実際、あの場にレナンくんがいなければ、聖女のネネさんも、軍の重鎮ケランツウェル将軍も、ギルドマスターのサルリーシェさんも危うかったはずです。
 仮に彼女らが失われたとあっては、各所にどれほどの混乱と失意を招いていたかと思うと、レナンくんへの評価は、さして過剰とも思えないのですが……現場にいなかったはずの私がそれを口にするわけにもいきませんね。

 ですので、私から言えることはこれだけです。

「ご苦労様ですね、レナンくん」

「……思いっ切り他人ごとですね、タクミさんは。そもそも、”ノラードの剣鬼”なんて戯言を最初に言いだしたのは誰でしたっけ? 覚えています?」

 あ~、ありましたね、そんなことも。懐かしい。

 じと目で見上げられましたので、さり気なく明後日の方角を向いておきます。

「まま、それはさておき。レナンくんも今では立派な隊長さんですよね。どうです、こうして部下を持った感想は?」

「……誤魔化し方が下手っぴですよね、タクミさん。……まあいいです。年齢もそうですけど、隊長としてもまだまだ僕は若輩者ですからね。隊員との接し方というか、距離感というか、難しいところですよ。初めてのことばかりで、毎日、頭を悩ませていますね」

 私が知る限りの隊の皆さん――ハゼルさんに、アジェンダさんに、リリレアさん。副官のハゼルさんはともかく、他の女性陣とレナンくんのやり取りの光景が思い出されます。

「……仲良しそうで、よろしいでのはありませんか?」

「ところが、よろしくもないんですよ。僕も公の場以外では、規律でぎすぎすしたくはないと思ってはいるんですが……ちなみに、アジェンダさんは可愛いものには目がなくて、小動物なども大好きらしいです」

「ほお」

「リリレアさんは4男3女の大家族の長女で、幼い頃から弟や妹たちの面倒をよく見ているそうです。それはもう、かいがいしいほどの世話焼きだそうで」

「なるほど」

 つまり、レナンくんは彼女らにとって、上司以上に”可愛いもの”、”守るべき弟妹”という認識に近いようですね。

 ……同意したくなりますが、レナンくんの尊厳もありますし、ここは神妙そうにしておきましょう。

「困ったものですよね」

「……全然、困ったふうに見えないのは気のせいですか?」

 やはりレナンくんに隠し事は無理そうです。

「それもさておき。え~……そ、そうです。レナンくんの隊員は十人なんですよね? 他の方々はどうされているんですか?」

「またそんな露骨に……いいですけど。他にも6人いるんですが、そちらは会ったときにおいおい紹介していきますよ。4人は別経路で今回の事件の調査に当たってもらっています。で、他のひとりはタクミさんが壊した施設の修理に、もうひとりはオリンさんの捜索に出てもらっていますね」

「……そ、そうでしたか……」

 墓穴でした。
 レナンくんと話していますと、どうもこんな格好がつかないことばっかりですね。ふひゅ~ふひゅ~。

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