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第9章 訓練兵と神隠し
十人隊の面々とのご対面 ②
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「冒険者上がり、ですか……自由を尊ぶという冒険者から軍への転向は珍しいですな。隊長と彼とは既知で?」
副官のハゼルさんの言葉に、レナンくんがなにやら決意した表情を見せます。
「ええ、彼は僕のいたノラード近辺では有名な冒険者でした。人呼んで、”匠”のオリン――蝶のように舞い、蜂のように刺す卓越した匠の技巧の前に、立っていられる者はなし!とかなんとか、そんなどことなくすごいっぽい感じで」
まるで、かの伝説のチャンプのようですね。
……つまり、そういった路線で突き進めというわけですか。心得ましたよ、レナンくん。
「まあ……昔は私もヤンチャしましたからね……ふ。Zランクの魔物を倒したのも、懐かしい思い出ですね」
「おお~!」と歓声が上がります。
嘘に誠を加えると真実味が増すといいますから、私からもこれくらいは付け加えておきましょう。
おや、レナンくんがむせていますが、大丈夫ですかね?
実際には私がヤンチャした記憶など、小学生のときにふざけて幽霊自転車で、隣家の盆栽をお亡くなりにしてしまったことくらいですが。
雷親父で有名だったお隣に住むお爺さんが、戦友を看取るように折れた盆栽を抱き抱えて号泣する姿は、幼心に罪悪感を刻まれたものです。
「へぇ~、強いんだ~。すごいのね、キミ?」
アジェンダさんが小首を傾げます。
「そんな有能な新兵が来たからには、我々も軍の先達として、うかうかしていられないっすね!」
リリレアさんからは熱い対抗心を燃やされています。
「……意外。オリンってば、そんなすごい過去持ってたんだ……」
「訓練に身が入っていなかったのも、実はレベルが低すぎたとかかよ……? やるじゃねえか、オリン」
正規兵の手前、アーシアさんとランドルさんが小声で小突いてきます。
「…………はふぅ」
シロンさんは、眠たげに欠伸を噛み締めています。丸っきりの無関心でした。
なんにせよ、どうやら無事に誤魔化せたようですね。
しかしながら、オリンさんの知らぬ場で、オリンさんの評価がうなぎ登りなのですが。
成り行きとはいえ、あなたは著名の凄腕冒険者の過去を持つことになりました。すみません。
「ああ~、それでさっきも隊長、彼を見かけた途端に追いかけていったんですね~」
「そ、そう。懐かしくなっちゃって、つい――って、アジェンダさん! いつも言ってますけど、あんまり不必要に引っつかないでくださいってば!」
「必要ですよ~? 触れ合いは人付き合いの基本ですから~」
「ピピ~! はい、警告っすよ、アジェンダ先輩! 隊長にその無駄乳を乗っけちゃ駄目っす!」
レナンくんの肩にアジェンダさんがしな垂れかかり、それを阻止しようとリリレアさんが奮闘しています。
軍というと堅苦しいイメージでしたが、ここの皆さんは実に和気藹々としていますね。
ちなみに、無骨そうなハゼルさんは、慣れか諦めか姿勢を正したままそんな姦しさにも我関せずです。
たしかに婦女子の織りなす独特な空気に、私たち年配男性が関わりづらい気持ちはよくわかりますよ。
「いいよなぁ。あんな色っぽい巨乳ねーちゃんに抱きつかれて……」
こっそりとランドルさんが囁いてきます。
「ええ、本当に。羨ましいですね……」
私だって、あんなふうにレナンくんに抱きついて仲良くしたいですね。
「俺としちゃあ、あの元気なほうのねーちゃんでも……乳はないけど」
「父もいいですよね……」
レナンくんのような息子でしたら、持ってみたい。
「……サイテーっぽい会話してるみたいだけど……下心丸出しのランドルはともかく、オリンのほうはなんで慈愛に満ちてんの?」
アーシアさん、なんのことでしょう。
「…………くぁ」
そして、シロンさんはやっぱり眠そうです。
「――ほ、本題に入りましょう!」
お嬢さんふたりにもみくちゃにされながらも、なんとか隙を突いてレナンくんが這い出してきました。
肝心のその本題とやらに入る前段階で、すでに疲労困憊です。中間管理職は大変ですね。
「ハゼルさん!」
「はい」
待ち構えていたのか、ハゼルさんはレナンくんの指示に、私たち訓練兵それぞれに手早く冊子を配りました。
渡されたのはリストで、上からあいうえお順にずらっと人の名前が書き連ねてありますね。
「これは例の神隠し事件で被害に遭った方のリストです。噂はすでに皆さん訓練兵の間でも知るところかと思います。今回、ここに集まった訓練兵の皆さんには、我々の隊と協力してその調査に当たってもらいます。正確には僕たちとあなた方でふたり一組になり、まずは被害者への聞き取りです。詳細諸々は、そこの副官のハゼルさんに聞いてください、以上です!」
一息に告げて、言うが早いかレナンくんは部屋から逃げ出していきました。
「隊長~」
「待つっすよ、隊長」
その後ろを、アジェンダさんとリリレアさんのふたりが追いかけていきました。
……人気者ですね、レナンくん。
まだ碌に挨拶くらいしかしてなかったのですが、忙しないことです。
軍隊らしい厳格な空気を感じたのは、入室してから最初のほんの5分ほどでしたね。
ランドルさんとアーシアさんもどうしたものかと唖然としています。
シロンさんは眠そうです。
私はというと……部屋にひとり取り残されたハゼルさんの隣に移動しました。
「……いつもこのような感じなのですか?」
「概ね、な」
「そうですか……」
ハゼルさんの背中に哀愁が漂っています。
苦労されているようですね。
副官のハゼルさんの言葉に、レナンくんがなにやら決意した表情を見せます。
「ええ、彼は僕のいたノラード近辺では有名な冒険者でした。人呼んで、”匠”のオリン――蝶のように舞い、蜂のように刺す卓越した匠の技巧の前に、立っていられる者はなし!とかなんとか、そんなどことなくすごいっぽい感じで」
まるで、かの伝説のチャンプのようですね。
……つまり、そういった路線で突き進めというわけですか。心得ましたよ、レナンくん。
「まあ……昔は私もヤンチャしましたからね……ふ。Zランクの魔物を倒したのも、懐かしい思い出ですね」
「おお~!」と歓声が上がります。
嘘に誠を加えると真実味が増すといいますから、私からもこれくらいは付け加えておきましょう。
おや、レナンくんがむせていますが、大丈夫ですかね?
実際には私がヤンチャした記憶など、小学生のときにふざけて幽霊自転車で、隣家の盆栽をお亡くなりにしてしまったことくらいですが。
雷親父で有名だったお隣に住むお爺さんが、戦友を看取るように折れた盆栽を抱き抱えて号泣する姿は、幼心に罪悪感を刻まれたものです。
「へぇ~、強いんだ~。すごいのね、キミ?」
アジェンダさんが小首を傾げます。
「そんな有能な新兵が来たからには、我々も軍の先達として、うかうかしていられないっすね!」
リリレアさんからは熱い対抗心を燃やされています。
「……意外。オリンってば、そんなすごい過去持ってたんだ……」
「訓練に身が入っていなかったのも、実はレベルが低すぎたとかかよ……? やるじゃねえか、オリン」
正規兵の手前、アーシアさんとランドルさんが小声で小突いてきます。
「…………はふぅ」
シロンさんは、眠たげに欠伸を噛み締めています。丸っきりの無関心でした。
なんにせよ、どうやら無事に誤魔化せたようですね。
しかしながら、オリンさんの知らぬ場で、オリンさんの評価がうなぎ登りなのですが。
成り行きとはいえ、あなたは著名の凄腕冒険者の過去を持つことになりました。すみません。
「ああ~、それでさっきも隊長、彼を見かけた途端に追いかけていったんですね~」
「そ、そう。懐かしくなっちゃって、つい――って、アジェンダさん! いつも言ってますけど、あんまり不必要に引っつかないでくださいってば!」
「必要ですよ~? 触れ合いは人付き合いの基本ですから~」
「ピピ~! はい、警告っすよ、アジェンダ先輩! 隊長にその無駄乳を乗っけちゃ駄目っす!」
レナンくんの肩にアジェンダさんがしな垂れかかり、それを阻止しようとリリレアさんが奮闘しています。
軍というと堅苦しいイメージでしたが、ここの皆さんは実に和気藹々としていますね。
ちなみに、無骨そうなハゼルさんは、慣れか諦めか姿勢を正したままそんな姦しさにも我関せずです。
たしかに婦女子の織りなす独特な空気に、私たち年配男性が関わりづらい気持ちはよくわかりますよ。
「いいよなぁ。あんな色っぽい巨乳ねーちゃんに抱きつかれて……」
こっそりとランドルさんが囁いてきます。
「ええ、本当に。羨ましいですね……」
私だって、あんなふうにレナンくんに抱きついて仲良くしたいですね。
「俺としちゃあ、あの元気なほうのねーちゃんでも……乳はないけど」
「父もいいですよね……」
レナンくんのような息子でしたら、持ってみたい。
「……サイテーっぽい会話してるみたいだけど……下心丸出しのランドルはともかく、オリンのほうはなんで慈愛に満ちてんの?」
アーシアさん、なんのことでしょう。
「…………くぁ」
そして、シロンさんはやっぱり眠そうです。
「――ほ、本題に入りましょう!」
お嬢さんふたりにもみくちゃにされながらも、なんとか隙を突いてレナンくんが這い出してきました。
肝心のその本題とやらに入る前段階で、すでに疲労困憊です。中間管理職は大変ですね。
「ハゼルさん!」
「はい」
待ち構えていたのか、ハゼルさんはレナンくんの指示に、私たち訓練兵それぞれに手早く冊子を配りました。
渡されたのはリストで、上からあいうえお順にずらっと人の名前が書き連ねてありますね。
「これは例の神隠し事件で被害に遭った方のリストです。噂はすでに皆さん訓練兵の間でも知るところかと思います。今回、ここに集まった訓練兵の皆さんには、我々の隊と協力してその調査に当たってもらいます。正確には僕たちとあなた方でふたり一組になり、まずは被害者への聞き取りです。詳細諸々は、そこの副官のハゼルさんに聞いてください、以上です!」
一息に告げて、言うが早いかレナンくんは部屋から逃げ出していきました。
「隊長~」
「待つっすよ、隊長」
その後ろを、アジェンダさんとリリレアさんのふたりが追いかけていきました。
……人気者ですね、レナンくん。
まだ碌に挨拶くらいしかしてなかったのですが、忙しないことです。
軍隊らしい厳格な空気を感じたのは、入室してから最初のほんの5分ほどでしたね。
ランドルさんとアーシアさんもどうしたものかと唖然としています。
シロンさんは眠そうです。
私はというと……部屋にひとり取り残されたハゼルさんの隣に移動しました。
「……いつもこのような感じなのですか?」
「概ね、な」
「そうですか……」
ハゼルさんの背中に哀愁が漂っています。
苦労されているようですね。
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