巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

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第9章 訓練兵と神隠し

十人隊の面々とのご対面 ①

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 結局、その日の午後からの訓練は開始されることはなく――
 グラウンドに集められ、何事かとざわめく私たち訓練兵の前で告げられたのは、訓練課程の中断延期の通達でした。

 宿舎兼学び舎であった施設の突発的な一部崩壊に加えて、担当教官の不在により、訓練の継続が困難になったというのがその理由だそうです。

 施設の崩壊については、表向きには教材として保管されていた戦術魔道具が暴発したことになっていますが、言わずと知れて思いっ切り私が原因だったりします。
 前方不注意は事故のもとですね。反省です。

 教官不在については、私も後で知ったのですが……レナンくんから逃げ惑っていた頃と時を同じくして、我らの鬼教官ことエステラード教官が、不測の事態で救護室送りになってしまったということでした。

 なんでも、全身強打で全治2週間とか。
 怪我の程度は大したことないそうで不幸中の幸いですが、教官にどんな不幸が見舞ったというのでしょう。やはり、世の中なにが起こるかわかりませんね。
 注意一秒怪我一生という言葉もあります。人生一寸先は闇ではありませんが、恐ろしいものです。私も気をつけませんと。

 訓練の再開は教官が復帰する半月後を目処として、それまで訓練兵は個別にグループ分けされて、各所で軍の雑務に従事することになるそうですが……

 私たち訓練兵4人が出頭を命じられた部屋には、同じく4人の国軍の兵士が待ち構えていました。
 同じ4人であっても、私たちが赤茶けた訓練服姿の訓練兵であるのに対して、あちらは漆黒の軍服を着た正規兵です。

「よく来てくれましたね、訓練兵の皆さん。楽にしてください。僕はこの隊で十人長の任に就く隊長のレナンです。よろしくお願いします」

 真っ先に出迎えてくれたのは、正規兵側4人の先頭にいるレナンくんです。

「副官のハゼルだ」

 レナンくんに続いて、一歩後ろに控える壮年の偉丈夫が名乗りました。
 両手を腰の裏で組んで微動だにせず、直立不動の姿勢を取るそのさまは、いかにも”軍人さん”といった堅物そうな風体です。

「隊員のアジェンダよ~」

 20代前半ほどの艶やかなお嬢さんが、首を傾げるように挨拶します。
 こちらの方は逆に軍人像とはかけ離れた、柔らかそうな物腰ですね。

「同じく隊員のリリレアっす!」

 アジェンダさんと同世代ほどのボーイッシュなお嬢さんが、元気溌剌と背を伸ばして敬礼していました。

(おお……この方々が、レナンくんの部下さんなわけですね)

 なんとも皆さん、三者三様に個性豊かそうな方々で。

 こうして連続して名乗りを上げられますと、昔のテレビ番組の秘密戦隊ではありませんが、最後にポーズを取って背後で爆発がどかーん!とかなりそうではありますよね。

 レナンくんの隊は十人隊ですから総勢10名、他にも6人はいるのでしょうが、今は不在のようです。
 それでも、こうして実際にレナンくんが部下を率いているのを見ますと、ちょっとした感動ですね。

「俺――ではなく、失礼いたしました。私は訓練兵のランドルです」

「同じく、訓練兵のアーシアです」

「……訓練兵、の……シロン……です」

 即座に、こちらの訓練兵側も敬礼しつつ、名乗りを返しました。

 そうなんです。実は今、私と一緒にいるのは、ランドルさんにアーシアさんにシロンさんの3人だったりします。
 なぜ、この顔触れが揃っているかといいますと――話は少し遡ります。


「え? 例の”神隠し”ですか?」

 レナンくんが追っている事件とは、私も先日聞かされたばかりのそれでした。
 実害はさほどないにせよ、被害が拡大して、国軍も動かざるを得なくなった事態。その解明に白羽の矢を受けたのが、国軍でも新進気鋭たる若き下士官、レナンくんの率いる十人隊ということでした。

 シロンさんのもとを訪れていたのも、調査の一環だったようですね。
 もちろん、シロンさんだけではなく、アンカーレン城砦内の被害者には、順次聞き込みを行なっていたそうです。結果はあまり芳しくないみたいですが。

 もともとレナンくんには、事件解決のために実務に影響を与えない程度で関係各所から協力を得られる権限は与えられており、今回私はそれを利用してレナンくんの庇護下に置かれることになりました。

 折しも訓練兵は現状、トラブルで訓練が中断していて、身柄が宙に浮いた状態です。
 ならばいっそ名目だけではなく、本当に協力して事件解決に当たればよいのでは、との流れになりまして。

 打ち合わせの段階で、レナンくんから訓練兵の中で適任者を数名ばかり見繕ってほしいという話でしたので、このメンバーを紹介した次第です。

 ランドルさんは貴族出身だけあって顔も広く、教養や見識も深いですから、調査面で心強い味方となってくれるでしょう。
 アーシアさんは生来の人懐こさや竹を割ったような性格で、ランドルさんと違った意味での人望もあり、聞き込みなどで力を発揮してくれそうです。
 シロンさんは”神隠し”を体験した当の本人であり、”神隠し”における性格の変貌といった点をほとんど受けていないようですから、別の観点でなにか気づくことがあるかもしれません。

 ……訓練兵の中で交友に乏しい私が、それ以外の方をよく知らないからではありませんよ、念のため。

 ちなみに、私ことオリンさんを含めてのこのメンバー4人。
 一番役に立たなさそうなのが私なのは間違いないですね。はっはっはっ。


(……ちょっと)

 お隣のアーシアさんから脇腹を肘で突かれました。

 部屋にいる全員の視線が私に注がれています。そういえば、順に自己紹介している途中でしたね。
 どうやら、私の順番待ちのようです。うっかり、思案に耽ってしまっていました。

 私も他の皆さんに倣って敬礼します。

「これは失礼しました。私は訓練兵のタクミです」

「「「……は?」」」

 訓練兵側一同の声なき声がハモりました。
 一様に口を半開きにしたぽかんとしている表情が、こちらに向けられています。なんでしょうね?

 正面にいるレナンくんまで、眉間を押さえて渋い顔です。
 私、なにかまずいことでも……あ。

「……や、やだなー。オリン訓練兵。まだ不慣れなのはわかりますが、それはあなたの冒険者時代のふたつ名でしょう? 冒険者の流儀でしょうが、軍ではこういうときは本名を名乗るものですよ、ほ・ん・みょ・う・を。わかりますね?」

 間髪入れずにフォローを入れてきてくれたレナンくんの口元がひくひくしています。

 そうでした。今の私はオリンさん。
 レナンくんを前にして、ついついいつのも調子で普通に名乗ってしまいましたね。
 危うく、いきなり自分から秘密を暴露してしまうところでした。
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