巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

文字の大きさ
上 下
102 / 164
第9章 訓練兵と神隠し

アンカーレン城砦の訓練兵 ③

しおりを挟む
「にしても、オリンってば昔と比べるとホント雰囲気変わったよねー?」

「え? そ、そうですか?」

 アーシアさんがどきりとすることを言ってきます。

「うん。前は、いっつもビクビクうじうじブツブツって陰気ーな感じだったけど、今はなんか余裕があって堂々としてる。別人みたい」

 実際、別人ですし。

「なに、なんか心境の変化でもあった?」

 心境どころか、外身からして変わっていますからね。
 違って見えるのは当然かもしれません。

「ああ、たしかにそれはあるな。訓練にも積極的で目立ってるし、最近はダラダラもたもたグズグズしてないよな。前はそれでかなりイラッとしたもんだけど」

 ランドルさんが追従します。

「ああ~、わかるわかる!」

 いくら同期で忌憚なくとはいいましても、本人?を前に、おふたりとも開けっ広げすぎますね。
 言葉のチョイスはともかくとして、多感な年ごろですから、他人の機微にも敏感なのでしょうけど。

 しかしながら、オリンさんもこの酷評……ここでどういう生活を送っていたのでしょうね。
 ここはせっかくの機会ですから、少しばかりオリンさんの評価を上げておきますか。

「私も、国に仕える兵士としての自覚が芽生えまして。心機一転しました」

 自信を持って胸を張ります。

「でも、なんか空回りしている感はあるよなー。よくやらかして、鬼教官に雷落とされているし。ランニングに出たまま道間違って帰ってこなかったり、塹壕掘る訓練じゃあひとりだけ落とし穴みたいになってたし。その他もろもろ。この間も訓練用の模擬剣、素振りで何本も圧し折って大目玉喰らってなかったか?」

「そそ。座学の戦術論でも、ドヤ顔で”そこは正面突破です”とか言い張るし。魔物との遭遇戦での対処法は、”殲滅です”とか……あの鬼教官が口開けて固まってたわね。でさ、前に自信満々に言ってた”魔物を纏うと魔物ガードになります”ってなに? いまだに意味不明なんだけど」

 おや。
 私と入れ替わった後も、評価の傾向があまり変わっていないのは気のせいでしょうか。
 もしや”目立っている”や”堂々として”って、そう意味なのですか? がっくしです。

「ま、それでもオリンは前より今のほうが、ずいぶんマシだと思うぜ?」

「あたしもそう思う。実はあのときの実地訓練でオリンが”神隠し”に遭ってて、それで性格変わっちゃったんじゃないかって陰で噂されもしてたけど……こうして話した感じ、普通みたいだね。安心した」

「? その”神隠し”というのは……?」

 聞き慣れない単語に、思わず聞き返していました。

「あれ? 知らない?」

「ええ、とんと」

 そう返しますと、アーシアさんがわずかに走る速度を弛めました。

「あちゃ~。まずったね、こりゃ。訓練兵でまだ知らない人、いたんだ」

 すぐに速度を戻して並走しつつ、アーシアさんは私の鼻先に指を突きつけてきました。

「この際だから、まあいっか。ちなみに、誰に聞かれたか尋ねられたときは、ランドルに聞いたって答えてね?」

「なんでだよっ!?」

「いい? これは誰にも言っちゃ駄目だよ?」

 噂が広まる常套台詞ですね。
 ランドルさんの抗議を完全無視して、アーシアさんが教えてくれました。
 臨場感たっぷりで、まるで夏の恒例番組の怪談話でしたが、それはさて置き。

 このアンカーレン城砦では、近頃、不可解な現象がたびたび起きているそうです。
 なんでも、なんの前触れもなく人が消えてしまい、翌日には何事もなかったようにひょっこりと帰ってくるというものです。

 どこにいたのか、なにをしていたのか。
 体験した人にはその間の記憶がいっさいなく、それどころか性格まで豹変してしまう――付いた呼び名が”神隠し”。『神』にとっての風評被害です。

 士官、下士官、兵士、軍属、果ては通りすがりの旅商人や食堂のおばちゃんと、職種や性別も問わず。
 正確な人数までは把握されてないそうですが、その数は日ごとに増え続けて、今や百人に上るとも囁かれているとか。
 終息を見せない事態に、当初は楽観視していた軍上部もついに重い腰を上げ、調査に乗り出したそうです。

 つまり、私はそんな”神隠し”と勘違いされかけていたわけですね。
 まあ、傍目にはある日突然、オリンさんの性格が変わったように見えたでしょうから、そう疑われるのも仕方のないことでしょう。
 私が事実を隠したので、ある意味”神隠し”ではありますけれどね。

 先ほど、エステラード教官の話にもあった”よからぬ噂”とは、このことでしたか。
 なんのことか、気にはなっていたのですが。

「で、大きな声では言えないが、俺たち訓練兵の中にも被害は出てるんだ」

「ええっ、そうなんですか?」

「あれ見ろよ」

 ランドルさんが、前方を顎でしゃくりました。

 少し前を走る集団からひとり離れて、ぶつぶつ呟きながら走る訓練兵の青年がいます。

「あいつ、うるさいくらいに陽気な奴だったんだがよ。夜中に散歩に出ると言い残したまま、ふらっと姿を消して……翌朝に帰ってきたときには、もうあんな感じだった。意識ははっきりしてたんだけどよ、なにがあったか訊いても要領は得ないし……以来ずっと、あんなでよ。俺とは結構うまの合う奴だったんだ、参るぜ、ったく」

 悔しそうに吐き捨てています。

 身近でそんな由々しき事態が起こっていたとは。
 彼の以前の人柄を知りませんでしたから、ああいう性格の人で照れ屋さんくらいにしか思わずに。

「あと、もうひとりね。こっちは、おそらくそう、くらいしかわからないんだけど……え~っと、いた。あの子ね、シロン」

 シロンさん?

 こちらも周囲から距離を置いて、ひとり寡黙に走っていました。

 名前は初耳でしたが、私も見知っていた人物です。
 体格がとても小さく華奢な子で、余計なお世話でしょうが、これでよく軍の厳しい訓練に付いていけるものだと感心した覚えがあります。
 どうしてこんな子が兵士に、などとそういった逆の意味で、訓練の傍ら目についていました。

 普段から引っ込み思案といいますか、終始顔を伏せがちでもじもじしています。声もぼそぼそとどもりがちです。
 生来の性格でなく、これもまた”神隠し”によるものだったのでしょうか?

「あの子の場合は前から大人しかったから、どうなんだろ。でも、他は一緒。姿を消して、その間のことは覚えてないってさ。微妙だよね?」

 それで、”おそらく”なわけですね。
 軍への入隊は14歳の成人以降。16~7歳と思しきアーシアさんが”この子”扱いしていることからも、年齢は最年少かそれに近いくらいでしょう。
 そんな歳で親元を離れてひとり頑張っているのに、不可解な事件に巻き込まれるとは、哀れでなりませんね。

 シロンさんは、他の方々と走る歩幅も違うためか、懸命に足を踏み出しています。

「…………ふぅむ」

 そんな姿を眺めていますと、ふと以前から抱いていた疑問が頭をもたげてきました。
 この状況ではまったく関係ないのですが、この子はいったい男の子なのでしょうか女の子なのでしょうかね。

 これ以上小さいサイズがなかったのか、だぼだぼの訓練服では外見での判断がつきません。
 表情は幼く、どちらといわれても納得しそうです。
 少年にしては声が甲高いように聞こえましたが、声変わりがまだな可能性もありますよね。
 肩口程度に伸ばしたぼさぼさ髪も、身なりに無頓着だから男というのも暴論でしょうか。

「う~ん、微妙ですよね……」

「そう、微妙なんだよね……」

「は?」

「え?」

 ああ、そうそう、”神隠し”のことでしたね。

しおりを挟む
感想 3,313

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。