巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる

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第9章 訓練兵と神隠し

旅のはじめはブートキャンプから

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 こんにちは。
 私は名前を斉木さいき拓未たくみと申します。
 歳は還暦、定年にて職を辞し、これからは新たな趣味でも見つけて余生をのんびり過ごそうかと思っていましたが、今はどういう因果か異世界などという場所で暮らしています。

 波瀾万丈とは無縁だった人生が一変し、マラソンに例えるならばコースも折り返し地点をとうに過ぎ、そろそろゴールも見えてくるかなという地点で、心臓破りの坂の出現どころか先は大海原でした、といった気分です。
 私の人生、いつからトライアスロンになったのでしょう?

 魔王軍と呼ばれる10万以上の魔物の群れと戦争に駆り出され、その後には王様暗殺未遂の濡れ衣で逃亡生活。
 その後も魔窟騒動に巨大イカ騒動、エルフの里騒動に教会騒動、賞金首騒動に腐敗伯爵騒動、王都奪還騒動に勇者捜索騒動と、経験するのは呆れるほどに騒動と名が付くものばかりです。参っちゃいますね。

 これも神の試練かと嘆きたいところですが、驚くべきことの最たるものとして、どうも私がその当人らしく。
 異世界召喚された私は、なぜか『神』でした。
 ただし、『神』とは言いましても、天におわします~ではなく、職業『神』ということですが。

 どちらにせよ、私が『神』であることには間違いないようです。
 神の試練とは神が与えるだけではなく、神が受けることもあるのですかね。とほほ。

 ですが、捨てる神あれば拾う神あり。
 まあ、言葉通りなら捨てるのも拾うのも私自身なわけですが、それは置いておくとしまして。

 それらの不遇を補って余りあるほどの様々な得難い出会いもたくさんありました。
 これについてばかりは、感謝しかありません。

 つい先日などは、私を慕ってくれているアンジーくんことアンジェリーナ・アルクイン侯爵令嬢と、その護衛のダンフィルさん、執事のシレストンさんと再会し、ちょっと面倒なゴーレム騒動を解決したばかりです。

 その後はそのときに知り合った、小人族のチシェルさん、巨人族のリセランくんの姉弟と一緒に旅へ出て、王太女のシシリア王女様、公爵家嫡男のクリスくんと共に、石の都の犯罪者ギルドを壊滅させる騒動もありました。
 なんといっても、私が勝手に孫のように思っているレナンくんとまた会えたのは嬉しかったですね。

 ……返す返すも、私の周りでは騒動ばかり起こってませんかね。
 もう少し平和裏に過ごしたいものではありますが。

 そんなこんなでまた一騒動を終えまして、ここはのんびりとひとり旅に戻ったのですが――

「この○○○○ピーどもが! そんな軟弱な○○ピーで、○○○ピーできると思ってるのか!? もっと、気合いを入れんか、気合いを! この○○○ピー○○○ピー○○○ピーの、○○○○ズキュゥンどもが!」

「「「あいさー!」」」

 冒頭から、伏字ばかりで申し訳ありません。
 なにせどう控え目に訳しても、公序良俗に反してしまいそうですので。

 皆さん一様の訓練服に身を包み、苛烈な軍教官のもとで厳しい訓練に励んでいます。いわゆるブートキャンプというやつですね。
 先ほどの罵倒――もとい指導は、その教官さんによるものでした。

 教官さんの前で、川の字どころかバーコードのように一列に並び、鍛錬という名のしごきを受けているのは、これからの国軍を担う若き新人軍人さんたちです。

 以前の戦争映画で見た鬼軍曹ではありませんが、どこの世界でもこういった訓練ってあるものなのですね。
 こうして罵倒する理由としては、軍教育を受ける上で余計なプライドを壊し、価値観をリセットするため――引いては、環境の変化への耐性と心構えを植え付けるためでしょうが……若い人たちにはきついでしょう。実際、泣いちゃっている子もいますし。

 ですが、かく言う私とて、他人ごとではありません。
 なにせ、居並ぶその中には、私も含まれていたりしますから。
 皆さんと同じように両手を地面に突き、先ほどから延々と腕立て伏せを繰り返している次第です。

 天気は快晴。実に心地よい陽気です。
 運動日和ではありますが、他の方々はそれどころではなく、地獄の釜茹でのごとく尋常ならざる汗をかき、苦悶の表情で続けています。

「くらぁ! どうした、この○○○○ピピーめが! 貴様の○○○ウゥンはそんなに○○ピーしているのか!? ○○○ピー○○○○ピー○○○ファーオしてこい! わかったか!?」

 ちょっとでも遅れると、鬼教官さんの罵声が飛んできます。
 もはや、伏字ばかりでなんと言っているのかわかりません。

「連帯責任! 腕立て追加100回!」

 しかも、限界で誰かが潰れますと、回数が増える素敵仕様です。

「今、不平を漏らした奴がいたな!? さらに追加50回だ!」

 とまあ、キリがありません。

 その日は結局、腕立てだけで二千回を超えました。
 皆さん、すでに満身創痍です。死屍累々とはこのことでしょう。

 最後まで残っていたのは私だけでして、ひとりだけ涼しい顔をしているのが申し訳ありませんね。

 しかし、のんびりひとり旅に出たはずの私が、どうしてこのような軍の新人訓練を受けているかといいますと――
 それを説明するには、数日ばかり刻を遡らないといけませんね。

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