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第9章 訓練兵と神隠し
新(神)兵、誕生? ①
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あれは3日ほど前になりますか。
王女様たちと別れて、2日ほど経った昼下がりのことでした。
予定通りに予定もなくぶらり旅をしていた私は、とある森の小川の畔にいました。
「やあ~、これはなかなかに落ち着く場所ですねー」
濃い緑の香る中、木立から射し込む日の光が、小さな清流にきらきら反射しています。
大小の丸石で敷き詰められた川原は、まるで玉砂利の和風庭園のようですね。
時折、水面から小魚が跳ねているのが見えます。あれは日本でいうところの鮎や岩魚のような川魚でしょうか。
少し森に入りますと、野獣やはぐれ魔物もいる物騒な場所ではありますが、奥にこのような絶景スポットがあろうとは、たまには当てのない気ままな探索もいいものですね。得しました。
冷たい清水で顔を洗い、近場の岩に座して景観を堪能してから、今度は川原を下流に向けて散策することにしました。
小鳥のせせらぎと、草木の揺らめき――吹き抜ける風と葉擦れの音が、自然のハーモニーを醸し出していますね。
おや、これはちょっとばかり詩的表現がすぎますか。
「異世界や 日本といいとこ 痛み分け」
思わず、一句詠んでしまいました。
どちらの世界も甲乙つけがたい良さがあるので勝負しても引き分けです、という心ですが、出来栄えはどうでしょう?
興が乗ってきましたので、歩を進めがてら、次々と俳句を詠んでいますと――前方の川岸で、大きい水飛沫が上がりました。
大きな黒い影――魔物ですね。
おそらくは蛙っぽい形をした2メートルほどはある魔物が、水辺で暴れていました。
「やれやれ、無粋なものです。せっかくの風流が台無しではないですか……」
足元の小粒の丸石を拾い上げて、蛙魔物に目がけて投げつけます。
石はまっすぐに飛んで魔物を四散させたのち、消えつつある魔物の残骸もろとも、ぽちゃんと川の中に落ちました。
「丸石や 蛙飛び散る 水の音」
かの著名な俳句をもじってみましたが……これでは情緒の欠片もないですね。
どうやら、私に俳句の才能はあまりないようで、がっくしです。
「はて……?」
ひとり反省会をしていますと、蛙魔物がいたすぐ傍の川原に、揺らめく黒い靄のようなものが見えました。
陽光が川面に反射して見辛いですが、どうやら人影のようで、足元には別の人物が倒れているのも窺えます。
もしかして、魔物は単に暴れていたのではなく、人を襲っていたのでしょうか。
「そこのあなた! 大丈夫ですか?」
って、おや?
急いで駆け寄ってみますと、ふたりいたように思えましたが、実際にそこにいたのはひとりだけ……うつぶせに倒れている男性だけでした。
もうひとり誰か佇んでいたような気がしましたが……光の加減で見間違えでもしたのでしょうか。
それはさておき、倒れている方を介抱しないと。
抱き起こして確認しますと、呼吸脈拍ともに正常で、特に目立つ外傷もなく、気を失っているだけのようでした。
察するに、魔物に襲われたショックで気絶したのでしょうか。
よもや、目の前で魔物が飛び散ったショッキング映像が原因とかではないですよね。
必要はなさそうですが、念のためにヒーリングもかけておきましょう。
「う……ん……?」
男性がゆっくりと意識を取り戻します。
頭上からの逆光の中、眩しそうに目を細めていますね。
年の頃は10代後半、せいぜい二十歳かそこらといったところでしょうか。
こちらの異世界ではあまり見かけない、黒髪の青年です。
なにやら、上下ともに赤茶けた制服っぽい身なりをしていますが、こんな森の中に独りでいるにしては、かなりの軽装です。
武器のひとつも携えていないとは、安全面で大丈夫なのでしょうかね。実際、魔物に襲われかけていたようですし。
それにしても、この顔……どこかで見たような?
なんとなく見覚えがあるのは、気のせいでしょうか。しかも、ごく最近に。はて。
「あれ……ここは……そうだ。誰かに背中から声をかけられて……それから、どうしたっけ……?」
「? 声ですか?」
最近の魔物は、襲う前にわざわざ教えてくれるのですかね。
そうだとしたら、なんともご丁寧なことですが、そんなことはないでしょう。
つい今しがた私も人の幻影を見たばかりですので、第三者の存在といわれると少々気がかりではありますが、周囲を再確認しても、それらしき人影は見受けられません。
状況的に、この方が襲われた直後に、偶然にも私が魔物を倒したようです。
川の周辺はこれだけ見晴らしのいい開けっ広げな場所ですから、他に誰かいたらさすがに気づきます。周りの森の中に隠れるには時間的に無理がありますね。そもそも隠れる意味もないでしょうし。
私も見間違いと似たようなもので、おそらくこの方は川の中からいきなり魔物に襲いかかられて、ショックで記憶が曖昧になっているといったところでしょう。
「覚えていませんか? あなたは魔物に襲われていたみたいなのですが」
「ま、魔物だって!?」
途端に青年が取り乱し、怯えた目で周囲を見回しています。
起き抜けに魔物だなどと、それは警戒しますよね。言い方が悪かったでしょうか。
「ご安心を。魔物は私が退治しておきましたから」
「倒したって……あんたが? ……そういや、あんた誰?」
最初は事態が掴めずに興奮冷めやらない様子でしたが、じっくり腰を据えて状況を説明しますと、青年は次第に落ち着きを取り戻していきました。
どうやら、魔物に襲われた自覚もなかったようで、証明には若干苦労しました。
魔物も倒されたらすぐ消えるのではなく、痕跡程度残してもらえるとありがたいのですが。
なんにせよ、気絶した原因が私のせいではなかったようですので、一安心です。
王女様たちと別れて、2日ほど経った昼下がりのことでした。
予定通りに予定もなくぶらり旅をしていた私は、とある森の小川の畔にいました。
「やあ~、これはなかなかに落ち着く場所ですねー」
濃い緑の香る中、木立から射し込む日の光が、小さな清流にきらきら反射しています。
大小の丸石で敷き詰められた川原は、まるで玉砂利の和風庭園のようですね。
時折、水面から小魚が跳ねているのが見えます。あれは日本でいうところの鮎や岩魚のような川魚でしょうか。
少し森に入りますと、野獣やはぐれ魔物もいる物騒な場所ではありますが、奥にこのような絶景スポットがあろうとは、たまには当てのない気ままな探索もいいものですね。得しました。
冷たい清水で顔を洗い、近場の岩に座して景観を堪能してから、今度は川原を下流に向けて散策することにしました。
小鳥のせせらぎと、草木の揺らめき――吹き抜ける風と葉擦れの音が、自然のハーモニーを醸し出していますね。
おや、これはちょっとばかり詩的表現がすぎますか。
「異世界や 日本といいとこ 痛み分け」
思わず、一句詠んでしまいました。
どちらの世界も甲乙つけがたい良さがあるので勝負しても引き分けです、という心ですが、出来栄えはどうでしょう?
興が乗ってきましたので、歩を進めがてら、次々と俳句を詠んでいますと――前方の川岸で、大きい水飛沫が上がりました。
大きな黒い影――魔物ですね。
おそらくは蛙っぽい形をした2メートルほどはある魔物が、水辺で暴れていました。
「やれやれ、無粋なものです。せっかくの風流が台無しではないですか……」
足元の小粒の丸石を拾い上げて、蛙魔物に目がけて投げつけます。
石はまっすぐに飛んで魔物を四散させたのち、消えつつある魔物の残骸もろとも、ぽちゃんと川の中に落ちました。
「丸石や 蛙飛び散る 水の音」
かの著名な俳句をもじってみましたが……これでは情緒の欠片もないですね。
どうやら、私に俳句の才能はあまりないようで、がっくしです。
「はて……?」
ひとり反省会をしていますと、蛙魔物がいたすぐ傍の川原に、揺らめく黒い靄のようなものが見えました。
陽光が川面に反射して見辛いですが、どうやら人影のようで、足元には別の人物が倒れているのも窺えます。
もしかして、魔物は単に暴れていたのではなく、人を襲っていたのでしょうか。
「そこのあなた! 大丈夫ですか?」
って、おや?
急いで駆け寄ってみますと、ふたりいたように思えましたが、実際にそこにいたのはひとりだけ……うつぶせに倒れている男性だけでした。
もうひとり誰か佇んでいたような気がしましたが……光の加減で見間違えでもしたのでしょうか。
それはさておき、倒れている方を介抱しないと。
抱き起こして確認しますと、呼吸脈拍ともに正常で、特に目立つ外傷もなく、気を失っているだけのようでした。
察するに、魔物に襲われたショックで気絶したのでしょうか。
よもや、目の前で魔物が飛び散ったショッキング映像が原因とかではないですよね。
必要はなさそうですが、念のためにヒーリングもかけておきましょう。
「う……ん……?」
男性がゆっくりと意識を取り戻します。
頭上からの逆光の中、眩しそうに目を細めていますね。
年の頃は10代後半、せいぜい二十歳かそこらといったところでしょうか。
こちらの異世界ではあまり見かけない、黒髪の青年です。
なにやら、上下ともに赤茶けた制服っぽい身なりをしていますが、こんな森の中に独りでいるにしては、かなりの軽装です。
武器のひとつも携えていないとは、安全面で大丈夫なのでしょうかね。実際、魔物に襲われかけていたようですし。
それにしても、この顔……どこかで見たような?
なんとなく見覚えがあるのは、気のせいでしょうか。しかも、ごく最近に。はて。
「あれ……ここは……そうだ。誰かに背中から声をかけられて……それから、どうしたっけ……?」
「? 声ですか?」
最近の魔物は、襲う前にわざわざ教えてくれるのですかね。
そうだとしたら、なんともご丁寧なことですが、そんなことはないでしょう。
つい今しがた私も人の幻影を見たばかりですので、第三者の存在といわれると少々気がかりではありますが、周囲を再確認しても、それらしき人影は見受けられません。
状況的に、この方が襲われた直後に、偶然にも私が魔物を倒したようです。
川の周辺はこれだけ見晴らしのいい開けっ広げな場所ですから、他に誰かいたらさすがに気づきます。周りの森の中に隠れるには時間的に無理がありますね。そもそも隠れる意味もないでしょうし。
私も見間違いと似たようなもので、おそらくこの方は川の中からいきなり魔物に襲いかかられて、ショックで記憶が曖昧になっているといったところでしょう。
「覚えていませんか? あなたは魔物に襲われていたみたいなのですが」
「ま、魔物だって!?」
途端に青年が取り乱し、怯えた目で周囲を見回しています。
起き抜けに魔物だなどと、それは警戒しますよね。言い方が悪かったでしょうか。
「ご安心を。魔物は私が退治しておきましたから」
「倒したって……あんたが? ……そういや、あんた誰?」
最初は事態が掴めずに興奮冷めやらない様子でしたが、じっくり腰を据えて状況を説明しますと、青年は次第に落ち着きを取り戻していきました。
どうやら、魔物に襲われた自覚もなかったようで、証明には若干苦労しました。
魔物も倒されたらすぐ消えるのではなく、痕跡程度残してもらえるとありがたいのですが。
なんにせよ、気絶した原因が私のせいではなかったようですので、一安心です。
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