A.W.O~忘れ去られた幻想世界を最強と最弱で席巻します~

まはぷる

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第1章 アバター:シノヤ

第12話 神人の証

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「ちょ、ちょっとお待ちください。エリシア様!」

 止まる気配を見せないエリシアの長話に、ナコール公爵がさすがに割り込んできた。

「え? あ、なんでしょうか?」

「少し、その方自身とも話をさせていただけませんか?」

 ナコール公爵は笑顔で言ったつもりだろうが、その頬がわずかにひくついている。

「これは気づきませんで、申し訳ありません……」

 エリシアが胸に手を当てて敬礼しながら3歩ほど後ろへ退がり、その分を公爵が詰めて、シノヤの眼前までやってきた。

「そなた、名をシノヤと申したな」

 一見、にこやかにしているが、目が笑っていない。
 機能向上した映像ジェネレーターが、無駄に陰鬱な心情まで伝えてくれる。

「神人らしいが、証明はできるのかね?」

(証明ねえ……)

 ステータスの種族表示でも見せると一発だろうが、残念ながらNPCには見ることができない。
 そもそも、これまでのゲーム経験で、NPCからプレイヤーの証拠を見せろなどと問われたことはない。通常のゲームではまずありえないことだ。

 いざ証明するとなると、手段に困る。
 いっそ、素手でこの部屋を粉砕でもすれば、証明となるのだろうか?

 シノヤが答えに窮していると、ナコール公爵はいやらしく顔を歪めて柏手を打ってきた。

「ではこうしましょう! 神人とは、常人を超越した存在と聞き及びます! これから兵と手合わせしてもらい、その結果をもって証明と代えさせていただくのは?」

「そのような疑いを向ける行為、シノヤ様に不敬ではありませんか!?」

 即座に身を乗り出して咬みつこうとしたエリシアを、シノヤは腕で制した。

「いいよ、別にそれで。俺としても、そのほうが手っ取り早いし」

「う……シノヤ様が、そう仰られるのでしたら……」

「さあさ、合意も得られたことですし、ちゃっちゃと済ませてしまいましょう! 時間は30分後の中庭でよろしいですね? ――衛兵、おふたりがお戻りですよ!」

 言うが早いか、呼ばれた衛兵に部屋から押し出されてしまった。
 ふたりしてぽつんと廊下に佇み、互いに苦笑した顔を見合わせる。

「すみません。神人であるシノヤ様にこのような……」

 そう告げるエリシアは明らかに気落ちしていた。
 きっと自分のときと同じく、歓喜してシノヤが出迎えられると信じて疑わなかったのだろう。

(まあ、他にも理由がありそうだけど)

「盗聴スキル実行」

 シノヤはこっそりと小声で呟いた。

『盗聴スキルを実行します』

 システムナビゲーターの音声の後、室内での話し声がクリアに聞こえてくる。

「神人だと!? この忙しいときに、なにを考えているのだ、あの小娘は!」

 言葉遣いは随分と荒いが、この声はナコール公爵だろう。

「……彼女には彼女なりの考えがあってのことだろう。気を落ち着かれよ」

 となると、こちらがカレッド将軍か。

「兵から姫騎士などと呼ばれて、いい気になりよって! だいたい儂は、なんの役にも立たん女子供が戦場にまででしゃばるのは反対だったのだ! 没落したならそれらしく、兵どもの慰み者にでもなったほうがまだマシというものを!」

(…………)

「ええい、くそ! 腹の立つ無駄飯喰らいが! 公爵であるこの儂が、なぜあのような落ちぶれた小娘に下手に出んとならんのだ! 陛下からくれぐれもという、お言葉さえなければ……!」

 なにかを蹴飛ばす音と、荒い息遣いが聞こえてくる。

(あー……こりゃ酷い)

 シノヤは隣に立つエリシアの様子を窺った。
 エリシアは、俯いたままじっとしている。

 あれだけの大声。今の会話はスキルを使わずとも、エリシアにも聞こえていたはずだ。
 きっと、彼女も以前から、自分がどう思われているかなど心得ていたのだろう。
 それでも、一族の無念を晴らすため、自らも騎士として戦場に立つことに拘っている――そんなところか。
 だからこそ、今度こそ神人を連れてきて役に立てた、そう思って喜んでいたに違いない。それがあの浮かれようだったわけだ。

「……さあ、そろそろ参りましょう、シノヤ様」

 顔を上げたエリシアの目元は赤くなっていた。
 シノヤの手前、必死に涙を我慢したのだろう。

 ふたりして歩を進め、廊下の来た道を戻るが、シノヤにはまだスキル効果で室内の声を捉えていた。

「……落ち着かれたかな?」

「ええ……すみませぬな、カレッド殿。年甲斐もなく取り乱しました。あまりに突拍子もない馬鹿げた話に、ついつい我慢できませんでな」

「神人か。そう思われたのなら、なぜ、あのような機会を与えるようなことを? 証明できぬとして捨て置けばよかったのでは?」

「機会? ふふっ、それは違いますぞ、カレッド殿。せっかく、姫騎士殿が意気揚々と連れてきてくださった馬の骨――いえ、神人殿でしたな。兵たちの前で嬲って無様を晒したほうが、夢見がちなお姫様の目も覚めましょう。大戦を前に、殺気立った兵たちのよい息抜きにもなりますしな」

「……決してよい趣向ではないが、兵たちのことについては一理ある、か」

 その台詞を最後に、スキルの効果が切れた。

(……ふ~ん、なるほどね)

「どうしました、シノヤ様?」

 気づいたら、先行していたはずのエリシアが足を止め、シノヤの顔を下から覗き込んでいた。

「どうしたって、なにが?」

「笑っておられましたよ」

「ん? そう? いや、そうかもねー」

 シノヤはエリシアを追い越しながら、気楽に言って上体で伸びをする。

「なんつーか、『ざまあ』が無性にしたくなった」

「ざまあ……ですか?」

「そそ。ま、見てなって」

「はぁ……?」

 小走りで追い縋ってくるエリシアに、シノヤは朗らかに微笑みかけた。
 その微笑みは、アバターとしての設定もあってか、本人の意図するところと異なり、ちょっと邪まになっていた。

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