11 / 15
第1章 アバター:シノヤ
第11話 レグランド城塞
しおりを挟む
――3時間後。
シノヤはエリシアに連れられて、レグランド城塞と呼ばれる場所を訪れていた。
ここも千年前には建築されていなかった場所で、シノヤのかつてのA.W.Oの記憶にはない。
エリシアの話によると、ここが現在の人族の最前線であり、最終防衛拠点ということらしい。
この後にはヴィーグリーズル王国の王都しかない。
ヴィーグリーズル王国は、A.W.Oの公式な人族の本拠地で、現在では千年王国と呼ばれているらしい。
ここで魔族陣営を押し返すことができなければ、やがて人族は確実に滅びを迎える。
ただ実際には、人族はあくまで神族の陣営の一角であり、人族が滅亡したとしても、神族の敗北とイコールではない。
魔族側の勝利条件にして神族側の敗北条件とは、神族の神域にいる神王の落命のみ。
魔族にとって人族を滅ぼすのは、通過点のひとつに過ぎないのだ。
シノヤが神族からの援軍はないのかエリシアに訊ねると、答えはNOだった。
少なくとも伝承では、過去、幾度となくあった人族の危機にも、神族が助勢した事例はないらしい。
そして、そのことをエリシア自身も理不尽には思っていないようだった。
ゲームとしてそう決められているため、設定に忠実なのは仕方ないのかもしれないが、神族陣営として身体を張っている人族のピンチのときくらい助けてやれよ、と叫びたくなるのが人情ではある。
とにかく、そんな状況の上、近日中にも人族に向けた魔族の大侵攻が迫っているらしい。
エリシアが神頼みならぬ神人頼みするのも、無理ないことだった。
城内は、戦準備であふれ返るほどの兵士や騎士、そこいらを駆け回る伝令とで、殺伐とした雰囲気となっていた。
そんな者たちの脇をすり抜けていく余所者で不愛想のシノヤの姿に、あからさまに不穏な眼差しを投げかけてくる者も多い。
先導するエリシアの存在がなければ、まず間違いなく揉め事になっていただろう。
ここでのエリシアは有名で人望もあるらしく、行き交う兵たちによく声をかけられている。
それだけに、その後に続くシノヤには、様々な感情交じりの、より鋭い視線が突き刺さる。
レグラントに着くまで同行していた、エリシアの従騎士というファシリア聖騎士のふたりにも、同じような視線を終始向けられていたものだ。
最大の問題は、それにエリシアがまったく気づいてくれていないことだった。
なんというか、傍目にも彼女は浮かれている。ともすれば、鼻歌でも口ずさみそうなくらいには。
気持ちはわからないでもないが、シノヤにとってみれば、居心地悪いことこの上ない。
そんな精神的苦行に耐えつつ、エリシアに案内されたのは、城の最上階だった。
物々しい衛兵が複数人も扉の前を警護している辺り、かなりの要人の執務室といったところか。
「ファシリア聖騎士団のエリシアです。閣下への拝謁を願います」
エリシアが衛兵のひとりに声をかけると、今度はその衛兵が扉越しに室内に問いかけ、すぐに認可は下りた。
閣下と呼ばれるほどの相手が唐突な来訪に即応してくれるとは、やはりエリシアの姫騎士の称号は伊達ではないらしい。
「失礼します」
状況に流されるままにエリシアに倣ってシノヤが入室すると、一見して豪奢な執務室には、ふたりの男性が並び立っていた。
鍛え上げられた恰幅のいい壮年男性と、やたら派手な衣装に身を包んだ小太りの男性という、対照的な相手だった。
「これはこれはエリシア様。そのように慌ててどうなさいましたかな?」
小太りの男性のほうが、両手を掲げてにこやかに歩み寄ってくる。
「突然のご訪問、申し訳ありません。閣下」
そう切り出してからエリシアがふたりを紹介してくれた。
前者が、名前をナコール・アレンドル。
中老に差し掛かった白髪混じりの金髪男性で、身なりがいいと思ったら、公爵位を持つ貴族だった。
人族の中でもかなりの有力者で、国内随一の支援者でもあるとか。
後者が、カレッド・スコルト将軍。
このレグランド城塞の駐留軍の総指揮官ということらしい。
力強い双眸に威圧感のある雰囲気と、指揮官というよりは、名うての戦士の風格が感じられる。
「して、そちらの御仁はどなたですかな?」
「こちらこそ、神人のシノヤ様です!」
ナコール公爵の問いに、待ってましたとばかりにエリシアが間髪入れずに即答する。
答えたのはいいが、直後に室内の空気は一変した。もちろん、悪いほうに。
「……神人、ですか? あの? 伝承にある?」
「そうです!」
エリシアの返事には微塵の揺らぎもない。
矢継ぎ早に出会いの状況を熱く語っているが、シノヤとしては目を覆いたくなるところだった。
エリシアが熱弁を振るえば振るうほど、逆に相手のシノヤに対する視線が冷たくなってゆく。
ナコール公爵は露骨に胡散臭そうな態度をしているし、カレッド将軍は値踏みするように一瞥しただけで、目を閉じて黙してしまった。
(今の俺のこんな姿じゃあ、説得力は皆無ってか……)
わかりやすい格好――それこそ、ログイン時にロストしてしまった装備をしていたのなら、また違っただろう。
あれらはランクAを超えるドロップレアアイテムだった。NPCではお目にかかる機会すらない逸品だ。
しかし、今のシノヤの装備は、ランクG-の初期装備、『ただの服』一枚きり。見た目貧相なのは拭えない。
(これで、伝説の存在とか紹介されても、俺でも困るよな、うん)
シノヤはエリシアに連れられて、レグランド城塞と呼ばれる場所を訪れていた。
ここも千年前には建築されていなかった場所で、シノヤのかつてのA.W.Oの記憶にはない。
エリシアの話によると、ここが現在の人族の最前線であり、最終防衛拠点ということらしい。
この後にはヴィーグリーズル王国の王都しかない。
ヴィーグリーズル王国は、A.W.Oの公式な人族の本拠地で、現在では千年王国と呼ばれているらしい。
ここで魔族陣営を押し返すことができなければ、やがて人族は確実に滅びを迎える。
ただ実際には、人族はあくまで神族の陣営の一角であり、人族が滅亡したとしても、神族の敗北とイコールではない。
魔族側の勝利条件にして神族側の敗北条件とは、神族の神域にいる神王の落命のみ。
魔族にとって人族を滅ぼすのは、通過点のひとつに過ぎないのだ。
シノヤが神族からの援軍はないのかエリシアに訊ねると、答えはNOだった。
少なくとも伝承では、過去、幾度となくあった人族の危機にも、神族が助勢した事例はないらしい。
そして、そのことをエリシア自身も理不尽には思っていないようだった。
ゲームとしてそう決められているため、設定に忠実なのは仕方ないのかもしれないが、神族陣営として身体を張っている人族のピンチのときくらい助けてやれよ、と叫びたくなるのが人情ではある。
とにかく、そんな状況の上、近日中にも人族に向けた魔族の大侵攻が迫っているらしい。
エリシアが神頼みならぬ神人頼みするのも、無理ないことだった。
城内は、戦準備であふれ返るほどの兵士や騎士、そこいらを駆け回る伝令とで、殺伐とした雰囲気となっていた。
そんな者たちの脇をすり抜けていく余所者で不愛想のシノヤの姿に、あからさまに不穏な眼差しを投げかけてくる者も多い。
先導するエリシアの存在がなければ、まず間違いなく揉め事になっていただろう。
ここでのエリシアは有名で人望もあるらしく、行き交う兵たちによく声をかけられている。
それだけに、その後に続くシノヤには、様々な感情交じりの、より鋭い視線が突き刺さる。
レグラントに着くまで同行していた、エリシアの従騎士というファシリア聖騎士のふたりにも、同じような視線を終始向けられていたものだ。
最大の問題は、それにエリシアがまったく気づいてくれていないことだった。
なんというか、傍目にも彼女は浮かれている。ともすれば、鼻歌でも口ずさみそうなくらいには。
気持ちはわからないでもないが、シノヤにとってみれば、居心地悪いことこの上ない。
そんな精神的苦行に耐えつつ、エリシアに案内されたのは、城の最上階だった。
物々しい衛兵が複数人も扉の前を警護している辺り、かなりの要人の執務室といったところか。
「ファシリア聖騎士団のエリシアです。閣下への拝謁を願います」
エリシアが衛兵のひとりに声をかけると、今度はその衛兵が扉越しに室内に問いかけ、すぐに認可は下りた。
閣下と呼ばれるほどの相手が唐突な来訪に即応してくれるとは、やはりエリシアの姫騎士の称号は伊達ではないらしい。
「失礼します」
状況に流されるままにエリシアに倣ってシノヤが入室すると、一見して豪奢な執務室には、ふたりの男性が並び立っていた。
鍛え上げられた恰幅のいい壮年男性と、やたら派手な衣装に身を包んだ小太りの男性という、対照的な相手だった。
「これはこれはエリシア様。そのように慌ててどうなさいましたかな?」
小太りの男性のほうが、両手を掲げてにこやかに歩み寄ってくる。
「突然のご訪問、申し訳ありません。閣下」
そう切り出してからエリシアがふたりを紹介してくれた。
前者が、名前をナコール・アレンドル。
中老に差し掛かった白髪混じりの金髪男性で、身なりがいいと思ったら、公爵位を持つ貴族だった。
人族の中でもかなりの有力者で、国内随一の支援者でもあるとか。
後者が、カレッド・スコルト将軍。
このレグランド城塞の駐留軍の総指揮官ということらしい。
力強い双眸に威圧感のある雰囲気と、指揮官というよりは、名うての戦士の風格が感じられる。
「して、そちらの御仁はどなたですかな?」
「こちらこそ、神人のシノヤ様です!」
ナコール公爵の問いに、待ってましたとばかりにエリシアが間髪入れずに即答する。
答えたのはいいが、直後に室内の空気は一変した。もちろん、悪いほうに。
「……神人、ですか? あの? 伝承にある?」
「そうです!」
エリシアの返事には微塵の揺らぎもない。
矢継ぎ早に出会いの状況を熱く語っているが、シノヤとしては目を覆いたくなるところだった。
エリシアが熱弁を振るえば振るうほど、逆に相手のシノヤに対する視線が冷たくなってゆく。
ナコール公爵は露骨に胡散臭そうな態度をしているし、カレッド将軍は値踏みするように一瞥しただけで、目を閉じて黙してしまった。
(今の俺のこんな姿じゃあ、説得力は皆無ってか……)
わかりやすい格好――それこそ、ログイン時にロストしてしまった装備をしていたのなら、また違っただろう。
あれらはランクAを超えるドロップレアアイテムだった。NPCではお目にかかる機会すらない逸品だ。
しかし、今のシノヤの装備は、ランクG-の初期装備、『ただの服』一枚きり。見た目貧相なのは拭えない。
(これで、伝説の存在とか紹介されても、俺でも困るよな、うん)
0
お気に入りに追加
494
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる